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始まりの夜会はいつも騒がしいⅢ
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「そろそろ変わってもらおうか?」
エールと繋いでいた手をわざわざ取るようにジョージアが繋ぎ直す。私とエールはそれを見てなんとも言えない気持ちなる。もちろん、エールは少しの不満と呆きれた表情をこちらに向け、「取ったりしませんよ?」と笑う。私はジョージアに手を握られ、ご満悦であった。
「アンナリーゼ様は信用がないのですか?」
「アンナの信用がないんじゃなくて、あなたに信用がないだけですよ?」
「ひどいな。これでも、アンバー領とは協力関係なのに」
二人とも大きな声ではなく、小声で話す。そう、協力関係になる領主同士が争うところなんて、おもしろい噂話の種になるだけで、実利がない。
私は二人の間に入ってこれ以上は揉めないで欲しいと伝えると、ジョージアの怒りの矛先が私にむいた。心配してくれるのは嬉しいが、私は小さなアンジェラではない。無鉄砲なのは重々承知した上でいえば、よっぽどジョージアの方がと思える。知らない香水を何種類も纏って……、毎年のことながら、そろそろ私の自由も認めてもいいだろう。
「私はただ、エールと情報交換しただけですよ?ミネルバからの話を聞いて」
「それなら別に踊らなくても良くないかい?こんな日に」
「お言葉を返すようですが、ジョージア様はこんなにたくさんの花の香りをつけて、良く私の前にこれましたね?」
ニコリと笑いながらも目だけは笑っていない。それを見たジョージアは黙ってしまった。繋いだままの手が冷たい。
「せっかく、誰もいないホールですし、踊りますか?それとも、他の……」
「他はいらない!」
珍しく私の手を強く引きながらホールの真ん中へと向かった。対となった衣装が、花開くときだ。私もジョージアも内心は笑っているどころではない。でも、ここは夜会のダンスホールの真ん中。私たちしかいない広い広いホールで、不仲を見せるわけにもいかず、ジョージアに向き直り微笑んだ。
ハッとしたような表情をするジョージアは、自分がどんな風なのかわかったのだろう。私たちはいつだって注目されているのだということを忘れないで欲しい。
「……アンナ、その」
「今話すと、舌を噛みますよ?ダンスが終わった後ならいくらでも聞きますし、不満なんてジョージア様だけではないですから。独占欲はほどほどに。ここは、敵の目のある戦場ですよ?」
ふっと笑い私は、少しリードを変わってくれと合図すると素直に譲ってくれる。兄のダンスの練習をしていたおかげで、女性リードもちゃんとできる。身を任せたままは信頼の証がないと無理だ。今の私たちはチグハグなので踊りにくい。
「リード、うまいんだね?」
「私を誰の妹だと思っているんですか?」
「あぁ、サシャか。確かに……運動音痴で有名だったね?」
「真似しましょうか?真っ赤に足の甲が腫れ上がって、翌日、歩くのも大変ですよ?私が踏んだくらいでは難しいかもしれませんがね?」
クスクス笑うと、ジョージアの表情もやっと柔らかくなる。ダンスのリズムも揃ってきたので、ジョージアへリードを戻すと私はゆらゆら海を漂うクラゲのようになる。
「アンナ?」
「なんですか?」
「アンナの思う夜会は、情報収集の場だよね?」
「そうですね。ほら、ゴールド公爵の口角が私たちをみて上がっているではないですか?」
クリッと体を入れ替えて、ジョージアにも見えるようにするとなんと言ったものかという表情を固めている。
「社交場では情報収集をしているのは私たちだけではないことを覚えておいてください。上位貴族は虎視眈々と狙っていますよ?公の後ろ盾になりたいと。私たちがいる立ち位置は案外危ういんです。お義父様は、のらりくらりと交わしていらったしゃったみたいですけど、ジョージア様はどうですか?」
曲がなり終わるので、私たちはダンスホールから出ていくと、今度こそ我先にと貴族たちが踊り出す。色とりどりの衣装が花開く。その様子を横目に、少し離れた場所へ歩いていく。中庭を散策しながら、微かに聞こえてくる音楽を聴きながら、ベンチに座った。
「見られている意識はなかった……ごめん」
「ジョージアの周りにお花をたくさん送り込んだ人物は検討がついていますわ。今度、お手合わせがあれば、わざと足を踏んで差し上げますわ!
同時に言葉を発したが、ジョージアは謝罪で私は怒りを露わにする。私の方をキョトンと見たあと、しばらくしてから笑い始めた。
思ってもみなかったのだろう。私が怒っているだなんて。驚いたジョージアに優しく微笑んだ。
「そうそう、新しいスプレーを開発したのですよ?」
私はポケットから小さなスプレーを取り出し、ニコニコとしていた。まさかね?と思っていそうなジョージアに笑いかけたのが最後。
見るも無惨に、そのスプレー。ジョージアは餌食なる。
「な、何これ?」
「消臭効果があるスプレーです!」
しゅっしゅっ!とかけて追いかける。子どものようにはしゃいでいるのは、二人だけの秘密。
「香りが取れたら、戻りましょう」
「アンナの香りだけつけていくよ!」
そう言って、ジョージアは私の手首をもって、自分の頬を撫でる。ほんのり香る私の香水に満足げに笑い合った。
エールと繋いでいた手をわざわざ取るようにジョージアが繋ぎ直す。私とエールはそれを見てなんとも言えない気持ちなる。もちろん、エールは少しの不満と呆きれた表情をこちらに向け、「取ったりしませんよ?」と笑う。私はジョージアに手を握られ、ご満悦であった。
「アンナリーゼ様は信用がないのですか?」
「アンナの信用がないんじゃなくて、あなたに信用がないだけですよ?」
「ひどいな。これでも、アンバー領とは協力関係なのに」
二人とも大きな声ではなく、小声で話す。そう、協力関係になる領主同士が争うところなんて、おもしろい噂話の種になるだけで、実利がない。
私は二人の間に入ってこれ以上は揉めないで欲しいと伝えると、ジョージアの怒りの矛先が私にむいた。心配してくれるのは嬉しいが、私は小さなアンジェラではない。無鉄砲なのは重々承知した上でいえば、よっぽどジョージアの方がと思える。知らない香水を何種類も纏って……、毎年のことながら、そろそろ私の自由も認めてもいいだろう。
「私はただ、エールと情報交換しただけですよ?ミネルバからの話を聞いて」
「それなら別に踊らなくても良くないかい?こんな日に」
「お言葉を返すようですが、ジョージア様はこんなにたくさんの花の香りをつけて、良く私の前にこれましたね?」
ニコリと笑いながらも目だけは笑っていない。それを見たジョージアは黙ってしまった。繋いだままの手が冷たい。
「せっかく、誰もいないホールですし、踊りますか?それとも、他の……」
「他はいらない!」
珍しく私の手を強く引きながらホールの真ん中へと向かった。対となった衣装が、花開くときだ。私もジョージアも内心は笑っているどころではない。でも、ここは夜会のダンスホールの真ん中。私たちしかいない広い広いホールで、不仲を見せるわけにもいかず、ジョージアに向き直り微笑んだ。
ハッとしたような表情をするジョージアは、自分がどんな風なのかわかったのだろう。私たちはいつだって注目されているのだということを忘れないで欲しい。
「……アンナ、その」
「今話すと、舌を噛みますよ?ダンスが終わった後ならいくらでも聞きますし、不満なんてジョージア様だけではないですから。独占欲はほどほどに。ここは、敵の目のある戦場ですよ?」
ふっと笑い私は、少しリードを変わってくれと合図すると素直に譲ってくれる。兄のダンスの練習をしていたおかげで、女性リードもちゃんとできる。身を任せたままは信頼の証がないと無理だ。今の私たちはチグハグなので踊りにくい。
「リード、うまいんだね?」
「私を誰の妹だと思っているんですか?」
「あぁ、サシャか。確かに……運動音痴で有名だったね?」
「真似しましょうか?真っ赤に足の甲が腫れ上がって、翌日、歩くのも大変ですよ?私が踏んだくらいでは難しいかもしれませんがね?」
クスクス笑うと、ジョージアの表情もやっと柔らかくなる。ダンスのリズムも揃ってきたので、ジョージアへリードを戻すと私はゆらゆら海を漂うクラゲのようになる。
「アンナ?」
「なんですか?」
「アンナの思う夜会は、情報収集の場だよね?」
「そうですね。ほら、ゴールド公爵の口角が私たちをみて上がっているではないですか?」
クリッと体を入れ替えて、ジョージアにも見えるようにするとなんと言ったものかという表情を固めている。
「社交場では情報収集をしているのは私たちだけではないことを覚えておいてください。上位貴族は虎視眈々と狙っていますよ?公の後ろ盾になりたいと。私たちがいる立ち位置は案外危ういんです。お義父様は、のらりくらりと交わしていらったしゃったみたいですけど、ジョージア様はどうですか?」
曲がなり終わるので、私たちはダンスホールから出ていくと、今度こそ我先にと貴族たちが踊り出す。色とりどりの衣装が花開く。その様子を横目に、少し離れた場所へ歩いていく。中庭を散策しながら、微かに聞こえてくる音楽を聴きながら、ベンチに座った。
「見られている意識はなかった……ごめん」
「ジョージアの周りにお花をたくさん送り込んだ人物は検討がついていますわ。今度、お手合わせがあれば、わざと足を踏んで差し上げますわ!
同時に言葉を発したが、ジョージアは謝罪で私は怒りを露わにする。私の方をキョトンと見たあと、しばらくしてから笑い始めた。
思ってもみなかったのだろう。私が怒っているだなんて。驚いたジョージアに優しく微笑んだ。
「そうそう、新しいスプレーを開発したのですよ?」
私はポケットから小さなスプレーを取り出し、ニコニコとしていた。まさかね?と思っていそうなジョージアに笑いかけたのが最後。
見るも無惨に、そのスプレー。ジョージアは餌食なる。
「な、何これ?」
「消臭効果があるスプレーです!」
しゅっしゅっ!とかけて追いかける。子どものようにはしゃいでいるのは、二人だけの秘密。
「香りが取れたら、戻りましょう」
「アンナの香りだけつけていくよ!」
そう言って、ジョージアは私の手首をもって、自分の頬を撫でる。ほんのり香る私の香水に満足げに笑い合った。
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