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始まりの夜会はいつも騒がしいⅡ

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「ジョージア様とは良かったのですか?」
「知っていて誘うのはどうかと思うけど?」
「それはお互いさまではありませんか?」


 優しく微笑むその笑顔に騙されるご婦人がどれほどいるだろうか。ジョージアとはまた違うモテ方をする黒の貴族の隣に並ぶ。領地での茶会ぶりだというのに、もう、甘い香りがエールからする。


「ミネルバは諦めているとは言っていたけど、私なら旦那様には選びたくないわ」
「火遊びなら、許される……という意味で?」
「ジョージア様の前で言ってごらんなさい」
「サーラー様に首を落とすよう、命令しそうですね?」
「ふふっ、ウィルは残念ながら、ジョージア様の命令は聞けないわ」
「命令できる立場ではないのですね。勉強になります」
「まぁ、今のところはね?私に何かあれば、ジョージア様にもその命令権はあるわよ?」
「……ややこしい領地だ」


 ため息をつくエールを見上げると、何ですか?と少し不服そうにこちらを見てくるので、終わったわよ?と告げる。誰もが、次のホールに立つのは私とジョージアだと思っていたらしく、黒と青紫の組み合わせが、我が物顔でダンスホールへと向かっていくことに驚いていた。すれ違った公など、一度、私の腕を掴んだので「放してください」とにこやかに語気を強める。


「あ、アンナリーゼ?」
「今から、踊るのですから邪魔をしないでくださいますか?」
「いや、だって……そいつは黒の貴族だぞ?」
「エールですね?それが、何か?」
「何かって、その、あれだ!その……」
「端切れが悪いですね!はっきり言ったらいいじゃないですか?昔の公と一緒だって」
「こ、こら!アンナリーゼ!」
「……少し矯正したくらいでなんですか?若気の至りですますと思っていますか?」


 ダンスホールから出て行こうとしない公と呆れたように見ているステイ。ジョージアは騒ぎに気が付いているが、父親を伴った令嬢たちに囲まれているので、こちらに来たくても来れない。護衛にはヒーナがついているので、私は何の心配もせず、エールの手を取って音楽隊へと視線をやる。


「いや、まてまて……、アンナリーゼ!黒の貴族と踊るくらいなら、俺と踊ればいいじゃないか」
「公はあっちで開会宣言してきてください。ほら、早く!」


 握っていた手を離し、私は公を捻り上げて背中を押し出した。痛い痛いと騒いでいた公をステイが見て笑っている。人前でこんなに自由に笑う人はそう相違ない。それも公族でだ。「ステイ様」と呼びかけると心得たとダンスホールの外へ公を連れ出してくれた。


「とんだ邪魔が入ったわね?」
「よかったのです?私たちの組み合わせに驚いて、他の人たちが入ってきませんけど?」
「じゃあ、せっかくですから……ホール全部を使いましょう。そんな踊り方、したことあるかしら?」
「アンナリーゼ様じゃあろうまいし、ないですよ。初体験です!」
「それはそれは……黒の貴族ともあろう人が私に初めてをくださいますの?」


 クスクスと笑うと、「そんなこともありますよ」と微笑んでいる。エール・バニッシュと言えば、隣国の貴族で黒の貴族と言われる遊び人だ。私とは茶飲み友達であると同時に領地が隣り合っているので、協力関係でもある。そんな私たちが踊るのはよくあることなのだが、今日は注目を浴びている。ホールの真ん中へ音楽と共に手を繋いで歩いていく。どんなふうに見えているのか……それは、人それぞれ違うのだろうが、今はダンスを楽しめばいいだけだ。


「やはり、アンナリーゼ様と一緒は飽きませんね?」
「それは、いい意味で?」
「もちろん!あなたがいるから、この国はおもしろい。そうだ!海の話を今しても?」
「いいけど……ここが1番怪しまれないわね」


 私たちは、広いホールを二人で使いながら、バニッシュ領の海の話をした。インゼロ帝国が戦争を起こそうとしているのでは?という状況下、アンバー領やバニッシュ領はインゼロ帝国から遠い位置にあるからと考えてはいなかった。水路でも戦えるインゼロ帝国を警戒して、海からの上陸を阻む計画を話していく。きっと、ミネルバが私に話したいことをそのまま伝書鳩のような役割でエールが使わされたのだ。女性に近づくのは朝飯前のエールにとって、私に声をかけ、ダンスに持ち込む。その開放的なわりに、二人きりの世界で話ができる。仲睦まじく踊っているように見えて、その実、湖にいる前に進むために足をバタつかせている白鳥のようだった。


「それで、どうなの?」
「ミネルバが整えてくれた。アンナリーゼ様のところの軍師は本当にすごいねぇ?人を滅多に褒めないミネルバ終始ずっと褒めていたよ」
「……ミネルバに褒められないのはエールだけではなくて?私も褒めてもらえるわ?」
「アンナリーゼ様は才能の塊だから、当たり前でしょうに」
「そうかしら?」


 ぽーんと放り出されたと思ったら引き寄せられる。本当、どうしてこうも距離を詰めてこられるのか……と思うほど近くなったところで、息を切らしたジョージアが「そろそろ交替の時間だ」と割って入ってくる。
 エールと顔を見合わせ、また明日と手を離した。
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