1,321 / 1,480
始まりの夜会はいつも騒がしいⅡ
しおりを挟む
「ジョージア様とは良かったのですか?」
「知っていて誘うのはどうかと思うけど?」
「それはお互いさまではありませんか?」
優しく微笑むその笑顔に騙されるご婦人がどれほどいるだろうか。ジョージアとはまた違うモテ方をする黒の貴族の隣に並ぶ。領地での茶会ぶりだというのに、もう、甘い香りがエールからする。
「ミネルバは諦めているとは言っていたけど、私なら旦那様には選びたくないわ」
「火遊びなら、許される……という意味で?」
「ジョージア様の前で言ってごらんなさい」
「サーラー様に首を落とすよう、命令しそうですね?」
「ふふっ、ウィルは残念ながら、ジョージア様の命令は聞けないわ」
「命令できる立場ではないのですね。勉強になります」
「まぁ、今のところはね?私に何かあれば、ジョージア様にもその命令権はあるわよ?」
「……ややこしい領地だ」
ため息をつくエールを見上げると、何ですか?と少し不服そうにこちらを見てくるので、終わったわよ?と告げる。誰もが、次のホールに立つのは私とジョージアだと思っていたらしく、黒と青紫の組み合わせが、我が物顔でダンスホールへと向かっていくことに驚いていた。すれ違った公など、一度、私の腕を掴んだので「放してください」とにこやかに語気を強める。
「あ、アンナリーゼ?」
「今から、踊るのですから邪魔をしないでくださいますか?」
「いや、だって……そいつは黒の貴族だぞ?」
「エールですね?それが、何か?」
「何かって、その、あれだ!その……」
「端切れが悪いですね!はっきり言ったらいいじゃないですか?昔の公と一緒だって」
「こ、こら!アンナリーゼ!」
「……少し矯正したくらいでなんですか?若気の至りですますと思っていますか?」
ダンスホールから出て行こうとしない公と呆れたように見ているステイ。ジョージアは騒ぎに気が付いているが、父親を伴った令嬢たちに囲まれているので、こちらに来たくても来れない。護衛にはヒーナがついているので、私は何の心配もせず、エールの手を取って音楽隊へと視線をやる。
「いや、まてまて……、アンナリーゼ!黒の貴族と踊るくらいなら、俺と踊ればいいじゃないか」
「公はあっちで開会宣言してきてください。ほら、早く!」
握っていた手を離し、私は公を捻り上げて背中を押し出した。痛い痛いと騒いでいた公をステイが見て笑っている。人前でこんなに自由に笑う人はそう相違ない。それも公族でだ。「ステイ様」と呼びかけると心得たとダンスホールの外へ公を連れ出してくれた。
「とんだ邪魔が入ったわね?」
「よかったのです?私たちの組み合わせに驚いて、他の人たちが入ってきませんけど?」
「じゃあ、せっかくですから……ホール全部を使いましょう。そんな踊り方、したことあるかしら?」
「アンナリーゼ様じゃあろうまいし、ないですよ。初体験です!」
「それはそれは……黒の貴族ともあろう人が私に初めてをくださいますの?」
クスクスと笑うと、「そんなこともありますよ」と微笑んでいる。エール・バニッシュと言えば、隣国の貴族で黒の貴族と言われる遊び人だ。私とは茶飲み友達であると同時に領地が隣り合っているので、協力関係でもある。そんな私たちが踊るのはよくあることなのだが、今日は注目を浴びている。ホールの真ん中へ音楽と共に手を繋いで歩いていく。どんなふうに見えているのか……それは、人それぞれ違うのだろうが、今はダンスを楽しめばいいだけだ。
「やはり、アンナリーゼ様と一緒は飽きませんね?」
「それは、いい意味で?」
「もちろん!あなたがいるから、この国はおもしろい。そうだ!海の話を今しても?」
「いいけど……ここが1番怪しまれないわね」
私たちは、広いホールを二人で使いながら、バニッシュ領の海の話をした。インゼロ帝国が戦争を起こそうとしているのでは?という状況下、アンバー領やバニッシュ領はインゼロ帝国から遠い位置にあるからと考えてはいなかった。水路でも戦えるインゼロ帝国を警戒して、海からの上陸を阻む計画を話していく。きっと、ミネルバが私に話したいことをそのまま伝書鳩のような役割でエールが使わされたのだ。女性に近づくのは朝飯前のエールにとって、私に声をかけ、ダンスに持ち込む。その開放的なわりに、二人きりの世界で話ができる。仲睦まじく踊っているように見えて、その実、湖にいる前に進むために足をバタつかせている白鳥のようだった。
「それで、どうなの?」
「ミネルバが整えてくれた。アンナリーゼ様のところの軍師は本当にすごいねぇ?人を滅多に褒めないミネルバ終始ずっと褒めていたよ」
「……ミネルバに褒められないのはエールだけではなくて?私も褒めてもらえるわ?」
「アンナリーゼ様は才能の塊だから、当たり前でしょうに」
「そうかしら?」
ぽーんと放り出されたと思ったら引き寄せられる。本当、どうしてこうも距離を詰めてこられるのか……と思うほど近くなったところで、息を切らしたジョージアが「そろそろ交替の時間だ」と割って入ってくる。
エールと顔を見合わせ、また明日と手を離した。
「知っていて誘うのはどうかと思うけど?」
「それはお互いさまではありませんか?」
優しく微笑むその笑顔に騙されるご婦人がどれほどいるだろうか。ジョージアとはまた違うモテ方をする黒の貴族の隣に並ぶ。領地での茶会ぶりだというのに、もう、甘い香りがエールからする。
「ミネルバは諦めているとは言っていたけど、私なら旦那様には選びたくないわ」
「火遊びなら、許される……という意味で?」
「ジョージア様の前で言ってごらんなさい」
「サーラー様に首を落とすよう、命令しそうですね?」
「ふふっ、ウィルは残念ながら、ジョージア様の命令は聞けないわ」
「命令できる立場ではないのですね。勉強になります」
「まぁ、今のところはね?私に何かあれば、ジョージア様にもその命令権はあるわよ?」
「……ややこしい領地だ」
ため息をつくエールを見上げると、何ですか?と少し不服そうにこちらを見てくるので、終わったわよ?と告げる。誰もが、次のホールに立つのは私とジョージアだと思っていたらしく、黒と青紫の組み合わせが、我が物顔でダンスホールへと向かっていくことに驚いていた。すれ違った公など、一度、私の腕を掴んだので「放してください」とにこやかに語気を強める。
「あ、アンナリーゼ?」
「今から、踊るのですから邪魔をしないでくださいますか?」
「いや、だって……そいつは黒の貴族だぞ?」
「エールですね?それが、何か?」
「何かって、その、あれだ!その……」
「端切れが悪いですね!はっきり言ったらいいじゃないですか?昔の公と一緒だって」
「こ、こら!アンナリーゼ!」
「……少し矯正したくらいでなんですか?若気の至りですますと思っていますか?」
ダンスホールから出て行こうとしない公と呆れたように見ているステイ。ジョージアは騒ぎに気が付いているが、父親を伴った令嬢たちに囲まれているので、こちらに来たくても来れない。護衛にはヒーナがついているので、私は何の心配もせず、エールの手を取って音楽隊へと視線をやる。
「いや、まてまて……、アンナリーゼ!黒の貴族と踊るくらいなら、俺と踊ればいいじゃないか」
「公はあっちで開会宣言してきてください。ほら、早く!」
握っていた手を離し、私は公を捻り上げて背中を押し出した。痛い痛いと騒いでいた公をステイが見て笑っている。人前でこんなに自由に笑う人はそう相違ない。それも公族でだ。「ステイ様」と呼びかけると心得たとダンスホールの外へ公を連れ出してくれた。
「とんだ邪魔が入ったわね?」
「よかったのです?私たちの組み合わせに驚いて、他の人たちが入ってきませんけど?」
「じゃあ、せっかくですから……ホール全部を使いましょう。そんな踊り方、したことあるかしら?」
「アンナリーゼ様じゃあろうまいし、ないですよ。初体験です!」
「それはそれは……黒の貴族ともあろう人が私に初めてをくださいますの?」
クスクスと笑うと、「そんなこともありますよ」と微笑んでいる。エール・バニッシュと言えば、隣国の貴族で黒の貴族と言われる遊び人だ。私とは茶飲み友達であると同時に領地が隣り合っているので、協力関係でもある。そんな私たちが踊るのはよくあることなのだが、今日は注目を浴びている。ホールの真ん中へ音楽と共に手を繋いで歩いていく。どんなふうに見えているのか……それは、人それぞれ違うのだろうが、今はダンスを楽しめばいいだけだ。
「やはり、アンナリーゼ様と一緒は飽きませんね?」
「それは、いい意味で?」
「もちろん!あなたがいるから、この国はおもしろい。そうだ!海の話を今しても?」
「いいけど……ここが1番怪しまれないわね」
私たちは、広いホールを二人で使いながら、バニッシュ領の海の話をした。インゼロ帝国が戦争を起こそうとしているのでは?という状況下、アンバー領やバニッシュ領はインゼロ帝国から遠い位置にあるからと考えてはいなかった。水路でも戦えるインゼロ帝国を警戒して、海からの上陸を阻む計画を話していく。きっと、ミネルバが私に話したいことをそのまま伝書鳩のような役割でエールが使わされたのだ。女性に近づくのは朝飯前のエールにとって、私に声をかけ、ダンスに持ち込む。その開放的なわりに、二人きりの世界で話ができる。仲睦まじく踊っているように見えて、その実、湖にいる前に進むために足をバタつかせている白鳥のようだった。
「それで、どうなの?」
「ミネルバが整えてくれた。アンナリーゼ様のところの軍師は本当にすごいねぇ?人を滅多に褒めないミネルバ終始ずっと褒めていたよ」
「……ミネルバに褒められないのはエールだけではなくて?私も褒めてもらえるわ?」
「アンナリーゼ様は才能の塊だから、当たり前でしょうに」
「そうかしら?」
ぽーんと放り出されたと思ったら引き寄せられる。本当、どうしてこうも距離を詰めてこられるのか……と思うほど近くなったところで、息を切らしたジョージアが「そろそろ交替の時間だ」と割って入ってくる。
エールと顔を見合わせ、また明日と手を離した。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる