1,319 / 1,518
私たちもそろそろ帰りましょう。
しおりを挟む
カレンを見送ったあと、ステイが選んだドレスを包装してもらう。私はカレンといたため、どんなドレスを選んだのか知らないので、聞いてみることにした。
「1着は昨日、アンナリーゼが着ていたドレスと色違いよ?」
「どんな色にされたのですか?」
「深緑にしたわ。とても色が気に入ったの。聞くところによると、これもアンナリーゼが管理している領地で作られた絹から作られているとか」
「えぇ、元々ダドリー男爵家の領地だったところを賜りましたので、そこで綿花と養蚕を中心にした領地としています。とても景色のいい場所ですから、ぜひ一度足を運んでいただきたいですわ!」
「なるほど……アンナリーゼはそうやって、お客を虜にして離さないのね。困った子だこと」
「どういう意味ですか?」
ニコッと笑うステイ。何を意味しているのかわからず、小首を傾げると、簡単なことよと言われてしまう。私には到底思いつかなくて、眉を八の字にして苦笑いした。
そんな様子にステイの方が困った表情をしている。
「百聞は一見に如かずというでしょ?旅のついでにでも、領地を見て行ってと言われたら、少し足を伸ばしたくなるじゃない?」
「そうですね……でも、コーコナには大規模なお店は用意していませんよ?ハニーアンバー店が直営店となるので、工場と直接やり取りですから」
「そうなの?」
「えぇ、領地には3件ほど、ハニーアンバー店の小さな支店があるくらいですよ?」
驚いた表情のステイ。意外と領地で大きな店を構えていると思われることが多いが、小さな支店があるくらいでちょうどいい。アンバー領にもコーコナ領にも貴族がいないので、値の張るドレスや貴金属を買ってくれるような客は少ない。それよりかは、安価で使いやすい服や肌触りのいい肌着を売る方が、領地では喜ばれるのだ。他領でも支店はあるが、極力貴族の着るようなドレス類は控えている。もし、欲しいという連絡があれば、ニコライが希望にあったドレスや宝飾品などを持って貴族の屋敷を訪れている。そのおかげで、ニコライの商売での顔は広すぎるほど広くなった。たぶん、私より貴族の客との繋がりは多い。夜会に出れば、よく知らない人に声をかけられるのは、そういう繋がりだろう。
「アンナリーゼもいろいろと考えているのね?」
「私だけではありませんよ。お店のことはほとんどをニコライに任せているので……」
「さっきから、ナタリーやニコライと話をしていたらわかるわ。その紫の薔薇は信頼の証だったわね。私もそのうちの一人になりたいくらいよ」
「……ステイ様がそんな、滅相もないです」
「でも、聞いたところ……私の妹ももらっているのでしょ?」
「薔薇ではありませんよ?シルキー様には友情の証として贈らせていただきました。少しナタリーたちとは意味合いが違います」
そうでしょうねと少し寂しそうに笑うステイ。出会って2日しか経っていない人に、信頼はあるのか……とも考えた。権力で欲しいと言われればそれまでだがと考えていたが、ステイはそんな人ではない。すぐに、忘れてちょうだいという。
「……いつか、その日がくれば、友人への贈り物として受取っていただけますか?」
「もちろんよ。あって2日そこらの人間を信用しろって言う方が難しいもの。私なら、断るわ。私は私の役目をしっかり果たしましょう。プラムの後ろ盾。そして、……」
「私の後ろ盾ですね」
「アンナリーゼ様の後ろ盾ですか?」
ナタリーが驚き、思わず口を挟んでしまった。私は公の後ろ盾になってはいるが、公が私の後ろ盾にはならない。政策こそ、私と共にしているところもあり、協力関係ではあっても、後ろ盾という面では違うのだ。表面上は、公妃がゴールド公爵の娘である以上、公を後ろ盾とするのゴールド公爵なのだ。
私は、この国の筆頭公爵として公の後ろ盾となり、協力関係を結んでいるだけなのだ。公族から手を差し伸べられているわけではない。ジョージア自身は、アンバー公爵として、その地位を確立しているし、ゴールド公爵も同じ。この2家に関しては血筋故に後ろ盾は必要ないだろう。ただ、私は一代限りの公爵位だ。本来、与えられる爵位ではないからこそ、今までも危うい立場ではあった。
「そう、公族からの後ろ盾が私にはないの。ジョージア様もゴールド公爵も血筋という後ろ盾があるにも関わらずね。それを今回ステイ様が社交界へ復帰することで、私の後ろ盾になってくださるの。その流れで、プラム殿下の教育係も受けてくださるということよ」
「政務には復職されないのですか?」
「しないわ。したっていいことがないですし、気ままな生活を長くしていた私には務まらないもの。そうは思わなくて?」
「私は十分こなせると思いますが、それよりも……プラム殿下をあちこちに連れ出していただきたいですね。大事に公宮で育っているようなので、国民の暮らしを見てほしいです」
「なかなかおもしろいことを言うわよね?」
クスクス笑うと、ステイは私の旅行に着いてこさせましょうと呟いた。
「1年もすれば、坊ちゃん気質も多少は治るんじゃないかしら?」
「それは楽しみです」
ニコリと笑いかければ、ステイもおもしろうに頷いた。買った商品を馬車に積み終わったと店員から声がかかったので、そろそろお別れの時間のようだ。
「楽しかったわ!荷物が多いから送れないけど……」
「ナタリーの馬車で送ってもらいますから大丈夫ですわ!」
「では、始まりの夜会で会いましょう!」
馬車に乗り込むステイを見送る。深々と頭を下げ、馬車が去っていくのを見送った。
「1着は昨日、アンナリーゼが着ていたドレスと色違いよ?」
「どんな色にされたのですか?」
「深緑にしたわ。とても色が気に入ったの。聞くところによると、これもアンナリーゼが管理している領地で作られた絹から作られているとか」
「えぇ、元々ダドリー男爵家の領地だったところを賜りましたので、そこで綿花と養蚕を中心にした領地としています。とても景色のいい場所ですから、ぜひ一度足を運んでいただきたいですわ!」
「なるほど……アンナリーゼはそうやって、お客を虜にして離さないのね。困った子だこと」
「どういう意味ですか?」
ニコッと笑うステイ。何を意味しているのかわからず、小首を傾げると、簡単なことよと言われてしまう。私には到底思いつかなくて、眉を八の字にして苦笑いした。
そんな様子にステイの方が困った表情をしている。
「百聞は一見に如かずというでしょ?旅のついでにでも、領地を見て行ってと言われたら、少し足を伸ばしたくなるじゃない?」
「そうですね……でも、コーコナには大規模なお店は用意していませんよ?ハニーアンバー店が直営店となるので、工場と直接やり取りですから」
「そうなの?」
「えぇ、領地には3件ほど、ハニーアンバー店の小さな支店があるくらいですよ?」
驚いた表情のステイ。意外と領地で大きな店を構えていると思われることが多いが、小さな支店があるくらいでちょうどいい。アンバー領にもコーコナ領にも貴族がいないので、値の張るドレスや貴金属を買ってくれるような客は少ない。それよりかは、安価で使いやすい服や肌触りのいい肌着を売る方が、領地では喜ばれるのだ。他領でも支店はあるが、極力貴族の着るようなドレス類は控えている。もし、欲しいという連絡があれば、ニコライが希望にあったドレスや宝飾品などを持って貴族の屋敷を訪れている。そのおかげで、ニコライの商売での顔は広すぎるほど広くなった。たぶん、私より貴族の客との繋がりは多い。夜会に出れば、よく知らない人に声をかけられるのは、そういう繋がりだろう。
「アンナリーゼもいろいろと考えているのね?」
「私だけではありませんよ。お店のことはほとんどをニコライに任せているので……」
「さっきから、ナタリーやニコライと話をしていたらわかるわ。その紫の薔薇は信頼の証だったわね。私もそのうちの一人になりたいくらいよ」
「……ステイ様がそんな、滅相もないです」
「でも、聞いたところ……私の妹ももらっているのでしょ?」
「薔薇ではありませんよ?シルキー様には友情の証として贈らせていただきました。少しナタリーたちとは意味合いが違います」
そうでしょうねと少し寂しそうに笑うステイ。出会って2日しか経っていない人に、信頼はあるのか……とも考えた。権力で欲しいと言われればそれまでだがと考えていたが、ステイはそんな人ではない。すぐに、忘れてちょうだいという。
「……いつか、その日がくれば、友人への贈り物として受取っていただけますか?」
「もちろんよ。あって2日そこらの人間を信用しろって言う方が難しいもの。私なら、断るわ。私は私の役目をしっかり果たしましょう。プラムの後ろ盾。そして、……」
「私の後ろ盾ですね」
「アンナリーゼ様の後ろ盾ですか?」
ナタリーが驚き、思わず口を挟んでしまった。私は公の後ろ盾になってはいるが、公が私の後ろ盾にはならない。政策こそ、私と共にしているところもあり、協力関係ではあっても、後ろ盾という面では違うのだ。表面上は、公妃がゴールド公爵の娘である以上、公を後ろ盾とするのゴールド公爵なのだ。
私は、この国の筆頭公爵として公の後ろ盾となり、協力関係を結んでいるだけなのだ。公族から手を差し伸べられているわけではない。ジョージア自身は、アンバー公爵として、その地位を確立しているし、ゴールド公爵も同じ。この2家に関しては血筋故に後ろ盾は必要ないだろう。ただ、私は一代限りの公爵位だ。本来、与えられる爵位ではないからこそ、今までも危うい立場ではあった。
「そう、公族からの後ろ盾が私にはないの。ジョージア様もゴールド公爵も血筋という後ろ盾があるにも関わらずね。それを今回ステイ様が社交界へ復帰することで、私の後ろ盾になってくださるの。その流れで、プラム殿下の教育係も受けてくださるということよ」
「政務には復職されないのですか?」
「しないわ。したっていいことがないですし、気ままな生活を長くしていた私には務まらないもの。そうは思わなくて?」
「私は十分こなせると思いますが、それよりも……プラム殿下をあちこちに連れ出していただきたいですね。大事に公宮で育っているようなので、国民の暮らしを見てほしいです」
「なかなかおもしろいことを言うわよね?」
クスクス笑うと、ステイは私の旅行に着いてこさせましょうと呟いた。
「1年もすれば、坊ちゃん気質も多少は治るんじゃないかしら?」
「それは楽しみです」
ニコリと笑いかければ、ステイもおもしろうに頷いた。買った商品を馬車に積み終わったと店員から声がかかったので、そろそろお別れの時間のようだ。
「楽しかったわ!荷物が多いから送れないけど……」
「ナタリーの馬車で送ってもらいますから大丈夫ですわ!」
「では、始まりの夜会で会いましょう!」
馬車に乗り込むステイを見送る。深々と頭を下げ、馬車が去っていくのを見送った。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す
冬
ファンタジー
口が悪く男勝りで見た目は美青年な不良、神田シズ(女)は誕生日の前日に、漆黒の軍服に身を包んだ自分とそっくりの男にキスをされ神様のいない異世界へ飛ばされる。元の世界に帰る方法を捜していると男が着ていた軍服が、城で働く者、城人(じょうにん)だけが着ることを許させる制服だと知る。シズは「君はここじゃないと生きれない」と吐き捨て姿を消した謎の力を持つ男の行方と、自分とそっくりの男の手がかりをつかむために城人になろうとするがそのためには試験に合格し、城人になるための学校に通わなければならず……。癖の強い同期達と敵か味方か分からない教官、上司、王族の中で成長しながら、帰還という希望と真実に近づくにつれて、シズは渦巻く陰謀に引きずり込まれてゆく。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる