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私たちもそろそろ帰りましょう。

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 カレンを見送ったあと、ステイが選んだドレスを包装してもらう。私はカレンといたため、どんなドレスを選んだのか知らないので、聞いてみることにした。


「1着は昨日、アンナリーゼが着ていたドレスと色違いよ?」
「どんな色にされたのですか?」
「深緑にしたわ。とても色が気に入ったの。聞くところによると、これもアンナリーゼが管理している領地で作られた絹から作られているとか」
「えぇ、元々ダドリー男爵家の領地だったところを賜りましたので、そこで綿花と養蚕を中心にした領地としています。とても景色のいい場所ですから、ぜひ一度足を運んでいただきたいですわ!」
「なるほど……アンナリーゼはそうやって、お客を虜にして離さないのね。困った子だこと」
「どういう意味ですか?」


 ニコッと笑うステイ。何を意味しているのかわからず、小首を傾げると、簡単なことよと言われてしまう。私には到底思いつかなくて、眉を八の字にして苦笑いした。
 そんな様子にステイの方が困った表情をしている。


「百聞は一見に如かずというでしょ?旅のついでにでも、領地を見て行ってと言われたら、少し足を伸ばしたくなるじゃない?」
「そうですね……でも、コーコナには大規模なお店は用意していませんよ?ハニーアンバー店が直営店となるので、工場と直接やり取りですから」
「そうなの?」
「えぇ、領地には3件ほど、ハニーアンバー店の小さな支店があるくらいですよ?」


 驚いた表情のステイ。意外と領地で大きな店を構えていると思われることが多いが、小さな支店があるくらいでちょうどいい。アンバー領にもコーコナ領にも貴族がいないので、値の張るドレスや貴金属を買ってくれるような客は少ない。それよりかは、安価で使いやすい服や肌触りのいい肌着を売る方が、領地では喜ばれるのだ。他領でも支店はあるが、極力貴族の着るようなドレス類は控えている。もし、欲しいという連絡があれば、ニコライが希望にあったドレスや宝飾品などを持って貴族の屋敷を訪れている。そのおかげで、ニコライの商売での顔は広すぎるほど広くなった。たぶん、私より貴族の客との繋がりは多い。夜会に出れば、よく知らない人に声をかけられるのは、そういう繋がりだろう。


「アンナリーゼもいろいろと考えているのね?」
「私だけではありませんよ。お店のことはほとんどをニコライに任せているので……」
「さっきから、ナタリーやニコライと話をしていたらわかるわ。その紫の薔薇は信頼の証だったわね。私もそのうちの一人になりたいくらいよ」
「……ステイ様がそんな、滅相もないです」
「でも、聞いたところ……私の妹ももらっているのでしょ?」
「薔薇ではありませんよ?シルキー様には友情の証として贈らせていただきました。少しナタリーたちとは意味合いが違います」


 そうでしょうねと少し寂しそうに笑うステイ。出会って2日しか経っていない人に、信頼はあるのか……とも考えた。権力で欲しいと言われればそれまでだがと考えていたが、ステイはそんな人ではない。すぐに、忘れてちょうだいという。


「……いつか、その日がくれば、友人への贈り物として受取っていただけますか?」
「もちろんよ。あって2日そこらの人間を信用しろって言う方が難しいもの。私なら、断るわ。私は私の役目をしっかり果たしましょう。プラムの後ろ盾。そして、……」
「私の後ろ盾ですね」
「アンナリーゼ様の後ろ盾ですか?」


 ナタリーが驚き、思わず口を挟んでしまった。私は公の後ろ盾になってはいるが、公が私の後ろ盾にはならない。政策こそ、私と共にしているところもあり、協力関係ではあっても、後ろ盾という面では違うのだ。表面上は、公妃がゴールド公爵の娘である以上、公を後ろ盾とするのゴールド公爵なのだ。
 私は、この国の筆頭公爵として公の後ろ盾となり、協力関係を結んでいるだけなのだ。公族から手を差し伸べられているわけではない。ジョージア自身は、アンバー公爵として、その地位を確立しているし、ゴールド公爵も同じ。この2家に関しては血筋故に後ろ盾は必要ないだろう。ただ、私は一代限りの公爵位だ。本来、与えられる爵位ではないからこそ、今までも危うい立場ではあった。


「そう、公族からの後ろ盾が私にはないの。ジョージア様もゴールド公爵も血筋という後ろ盾があるにも関わらずね。それを今回ステイ様が社交界へ復帰することで、私の後ろ盾になってくださるの。その流れで、プラム殿下の教育係も受けてくださるということよ」
「政務には復職されないのですか?」
「しないわ。したっていいことがないですし、気ままな生活を長くしていた私には務まらないもの。そうは思わなくて?」
「私は十分こなせると思いますが、それよりも……プラム殿下をあちこちに連れ出していただきたいですね。大事に公宮で育っているようなので、国民の暮らしを見てほしいです」
「なかなかおもしろいことを言うわよね?」


 クスクス笑うと、ステイは私の旅行に着いてこさせましょうと呟いた。


「1年もすれば、坊ちゃん気質も多少は治るんじゃないかしら?」
「それは楽しみです」


 ニコリと笑いかければ、ステイもおもしろうに頷いた。買った商品を馬車に積み終わったと店員から声がかかったので、そろそろお別れの時間のようだ。


「楽しかったわ!荷物が多いから送れないけど……」
「ナタリーの馬車で送ってもらいますから大丈夫ですわ!」
「では、始まりの夜会で会いましょう!」


 馬車に乗り込むステイを見送る。深々と頭を下げ、馬車が去っていくのを見送った。
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