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美しい絵画を
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「この絵は、実際に見て描いているの?」
「いえ、違いますよ。アンナリーゼ様の戴冠式のドレスや宝飾品、あと貴族の方が描かれた絵を元に創作されています」
「そうなのね。私は見ていないけど……これは、戴冠式に行った二人からしてどうなの?」
「このままですわ!ティアが描いたものは再現率が素晴らしいです」
「ナタリー様にそう言っていただけると、ティアも喜びます」
「ティアには、アンナリーゼ様の戴冠式の話を何度も聞かれたけど……もしかして、このためだったのかしら?」
ナタリーの口ぶりから、戴冠式の話をティアに聞かせていたらしい。私は知らなかったことだが、きっとティアなら……これくらいは描けてしまうだろう。宝飾品職人であるティアの絵はとても細部まで描く傾向がある。デザイン画を見せてもらったときのことが思い浮かんだ。
「ティアって、私とジョージア様の絵も描いていたわよね?」
「卒業式のでしたね。『赤薔薇』の称号をもらったときだった気がしますが……」
「私は2度もらっているから」
「ジョージア様とでしたわね!1度目はジョージア様の卒業式。私は在校生だったので、卒業式には行っていませんでしたが、噂を聞いてあれには……驚きました」
「どうしたの?アンナリーゼが何か?」
興味が出たようで、ステイがナタリーに聞いている。ジョージアの卒業式のときに私がパートナーとして選ばれ、『赤薔薇』の称号をもらった話をしている。学園の卒業式で『赤薔薇』の称号は特別なもので、ジンクスがある。それをステイも知っているようで頷いた。
「まぁ、『赤薔薇』を?」
「そうなのです。それも、ジョージア様の卒業式のときのパートナーは秘密にされていて、アンナリーゼ様がと聞いたときは驚きました」
「二人とも並んだ姿は絵になるわね!」
「……まさに絵になっているのですけどね」
苦笑いをしながら、学園の玄関に飾られている話をするとステイは驚いていた。
「すごいところに飾られているのね!余程、素晴らしい絵なのでしょう。見たいわ!公にお願いして、見に行ってもいいか聞いてみようかしら?」
ニコニコと笑いながら、私を見ているステイ。案内をしてほしいと言われているようで、断れそうにない。「それでしたら!」とナタリーが話に入ってくる。どうやら、ここは……ナタリーに任せるのがいいようだ。
「ナタリーが一緒に行ってくれる?」
「ステイ殿下が私でよければですけど」
「もちろんよ!出かけるには、保護者が必要だから、助かるわ!それに……」
私の方をチラリと見るステイと視線に誘われるようにナタリーもこちらを見たので微笑んだ。
……道中、私の話で盛り上がることでしょうね。困ったことにならないといいけど。
「学園に行くのなら、中庭にも是非行ってみてください。庭師の方から、便りが来ていて、新種の花が咲き始めたらしいので」
「それはいいわ!私、花も好きなの。ナタリーはどう?」
「もちろんですわ!学園にいた頃は、よく中庭へも行きましたもの」
そのあとに……私のお茶会のためにと続くことは黙っておこう。私のお茶会は、中庭を抜けた先の庭師の庭でおこなわれていたので、知る人ぞ知る秘密のお茶会であった。
「アンナリーゼのあれこれを教えてくださいませ」
「それはこまります!あれこれはないと思いますけど!」
焦る私にステイは笑って誤魔化した。そのまま、ティアが描いた戴冠式での絵に視線を移していく。1枚目が公への口上を言っているときだ。本当に良く描けている。まるで、見て描いたかのようだ。
「ニコライ、こちらをまずは頂くわ」
「ありがとうございます。他はどうですか?」
「二枚目は……どういう状況?」
「……これは、あれですね……席に着くまでに歩いていたときの絵です」
「アンナリーゼの周りにいるのは、ジョージアはもちろんだけど、ウィル・サーラーとセバスチャン・トライド……そして、ナタリーかしら?」
「えぇ、そうです。私たちはアンナリーゼ様に忠誠を誓っていますから!」
「ナタリー!」
「あぁ、そうですわね。ウィルとセバスは国のものでしたわ」
「うっかりでした」と笑うが、本音は笑っていない。ステイの方は、特に咎める気もないのだろう。主が二人いたとしても、何も言わない。
「アンナリーゼ」
「はい、何でしょうか?」
「さっきの話だけど……」
「ナタリーの言ったことなら、その……」
「いいのよ、私に咎める気はないし、知っているのよ。あなたがサーラー大隊長やセバスチャン男爵を大切にしていることも彼らがあなたを特別に思っていることも」
「それは……」
「公も知っていることよね。あなたが望んだことだって聞いたことがあるもの。確か剣術大会か何かで優勝して」
「……お恥ずかしい話ですが、二人とも私とアンバー領には必要な人材です」
「わかっているわ。私、ずっと、気になっていたのだけど……そのアメジストの薔薇には何か意味があるのかしら?」
私は一瞬、何のことだかわからずに、見つめ返していると、ステイがナタリーの左薬指を指さした。そこには、確かにアメジストの薔薇の指環があった。それとニコライの指も指す。そこにも、ティアとお揃いの結婚指環がある。
「……ステイ様は、よく観察されていますね」
「人の観察って、好きなのよ。サーラー大隊長のピアスもアメジストの薔薇だったわ。繋がりがあるようね。その薔薇には」
クスっと笑うステイに私はうそなんてつけない。なので、それは、私からの信頼の証だというとなるほどと頷く。欲しいと言われないようにしないと……と心の中で静かに祈った。
「いえ、違いますよ。アンナリーゼ様の戴冠式のドレスや宝飾品、あと貴族の方が描かれた絵を元に創作されています」
「そうなのね。私は見ていないけど……これは、戴冠式に行った二人からしてどうなの?」
「このままですわ!ティアが描いたものは再現率が素晴らしいです」
「ナタリー様にそう言っていただけると、ティアも喜びます」
「ティアには、アンナリーゼ様の戴冠式の話を何度も聞かれたけど……もしかして、このためだったのかしら?」
ナタリーの口ぶりから、戴冠式の話をティアに聞かせていたらしい。私は知らなかったことだが、きっとティアなら……これくらいは描けてしまうだろう。宝飾品職人であるティアの絵はとても細部まで描く傾向がある。デザイン画を見せてもらったときのことが思い浮かんだ。
「ティアって、私とジョージア様の絵も描いていたわよね?」
「卒業式のでしたね。『赤薔薇』の称号をもらったときだった気がしますが……」
「私は2度もらっているから」
「ジョージア様とでしたわね!1度目はジョージア様の卒業式。私は在校生だったので、卒業式には行っていませんでしたが、噂を聞いてあれには……驚きました」
「どうしたの?アンナリーゼが何か?」
興味が出たようで、ステイがナタリーに聞いている。ジョージアの卒業式のときに私がパートナーとして選ばれ、『赤薔薇』の称号をもらった話をしている。学園の卒業式で『赤薔薇』の称号は特別なもので、ジンクスがある。それをステイも知っているようで頷いた。
「まぁ、『赤薔薇』を?」
「そうなのです。それも、ジョージア様の卒業式のときのパートナーは秘密にされていて、アンナリーゼ様がと聞いたときは驚きました」
「二人とも並んだ姿は絵になるわね!」
「……まさに絵になっているのですけどね」
苦笑いをしながら、学園の玄関に飾られている話をするとステイは驚いていた。
「すごいところに飾られているのね!余程、素晴らしい絵なのでしょう。見たいわ!公にお願いして、見に行ってもいいか聞いてみようかしら?」
ニコニコと笑いながら、私を見ているステイ。案内をしてほしいと言われているようで、断れそうにない。「それでしたら!」とナタリーが話に入ってくる。どうやら、ここは……ナタリーに任せるのがいいようだ。
「ナタリーが一緒に行ってくれる?」
「ステイ殿下が私でよければですけど」
「もちろんよ!出かけるには、保護者が必要だから、助かるわ!それに……」
私の方をチラリと見るステイと視線に誘われるようにナタリーもこちらを見たので微笑んだ。
……道中、私の話で盛り上がることでしょうね。困ったことにならないといいけど。
「学園に行くのなら、中庭にも是非行ってみてください。庭師の方から、便りが来ていて、新種の花が咲き始めたらしいので」
「それはいいわ!私、花も好きなの。ナタリーはどう?」
「もちろんですわ!学園にいた頃は、よく中庭へも行きましたもの」
そのあとに……私のお茶会のためにと続くことは黙っておこう。私のお茶会は、中庭を抜けた先の庭師の庭でおこなわれていたので、知る人ぞ知る秘密のお茶会であった。
「アンナリーゼのあれこれを教えてくださいませ」
「それはこまります!あれこれはないと思いますけど!」
焦る私にステイは笑って誤魔化した。そのまま、ティアが描いた戴冠式での絵に視線を移していく。1枚目が公への口上を言っているときだ。本当に良く描けている。まるで、見て描いたかのようだ。
「ニコライ、こちらをまずは頂くわ」
「ありがとうございます。他はどうですか?」
「二枚目は……どういう状況?」
「……これは、あれですね……席に着くまでに歩いていたときの絵です」
「アンナリーゼの周りにいるのは、ジョージアはもちろんだけど、ウィル・サーラーとセバスチャン・トライド……そして、ナタリーかしら?」
「えぇ、そうです。私たちはアンナリーゼ様に忠誠を誓っていますから!」
「ナタリー!」
「あぁ、そうですわね。ウィルとセバスは国のものでしたわ」
「うっかりでした」と笑うが、本音は笑っていない。ステイの方は、特に咎める気もないのだろう。主が二人いたとしても、何も言わない。
「アンナリーゼ」
「はい、何でしょうか?」
「さっきの話だけど……」
「ナタリーの言ったことなら、その……」
「いいのよ、私に咎める気はないし、知っているのよ。あなたがサーラー大隊長やセバスチャン男爵を大切にしていることも彼らがあなたを特別に思っていることも」
「それは……」
「公も知っていることよね。あなたが望んだことだって聞いたことがあるもの。確か剣術大会か何かで優勝して」
「……お恥ずかしい話ですが、二人とも私とアンバー領には必要な人材です」
「わかっているわ。私、ずっと、気になっていたのだけど……そのアメジストの薔薇には何か意味があるのかしら?」
私は一瞬、何のことだかわからずに、見つめ返していると、ステイがナタリーの左薬指を指さした。そこには、確かにアメジストの薔薇の指環があった。それとニコライの指も指す。そこにも、ティアとお揃いの結婚指環がある。
「……ステイ様は、よく観察されていますね」
「人の観察って、好きなのよ。サーラー大隊長のピアスもアメジストの薔薇だったわ。繋がりがあるようね。その薔薇には」
クスっと笑うステイに私はうそなんてつけない。なので、それは、私からの信頼の証だというとなるほどと頷く。欲しいと言われないようにしないと……と心の中で静かに祈った。
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