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新しいドレスⅢ
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「どうぞ、中へ」とニコライが扉を開ける。私が先に入り、ステイとナタリーが続く。公都とお店はどこも同じような商品の並べ方をしているが、うちは違う。入ってすぐ、目につくのは、新作のドレスだろう。
「素敵なドレス!」
私たちが何も言わずとも、ステイはそのドレスに吸い寄せられるように歩いていく。マネキンに飾られたドレスは、人が着ているような立体的であるので、思わず近寄りたくなるだろう。この店に初めて訪れた人が必ず通る道だ。
「アンナリーゼ」
「どうかなされましたか?」
「このドレス、とても素敵だわ!それと、ドレスが美しく見えるように……工夫されている。とっても画期的な見せ方ね?」
「お褒めに預かりありがとうございます。当店だけですよ。こんなふうにドレスを見せているのは」
「確かに、見たことがないわ!ハンガーにかけているだけですもの」
ドレスをうっとり見ているステイの隣に並ぶ。久方ぶりに外へ出たこともあり、楽しそうである。
「他にもありますから、どうぞ奥へ」
「お店に入ってすぐから、こんな仕掛けがあるなんて……貴族たちがこぞってハニーアンバー店へ足を運びたい気持ちがわかるわ!」
「知っていたのですか?」
「もちろん!」
私はステイを奥へと案内する。入口は同じでも、貴族婦人たちが訪れる方へと案内する。中へ入った瞬間、私が去年の始まりの夜会で着ていたドレスに目が行くだろう。そのあと、あちこちに飾られたドレス、綺麗に並べられた宝飾品など、品よく飾られている。
「衣裳部屋へ来たみたい。とても美しいわ……あの一番目立つところにあるドレスは何かしら?」
「去年の始まりの夜会で着たドレスですよ」
「アンナリーゼの?」
「はい。あぁして飾ることで、ご令嬢があのドレスのようなものをと選んでくれるらしいです」
「確かに、目につくし、一度は着てみたいとなるわね!」
「えぇ、そういう狙いがあるんです。公の戴冠式のときに着たドレスもしばらくは飾ってあったのですよ」
「なるほど……戴冠式の様子は絵姿になったと聞いているわ!取り寄せようとしたけど、人気過ぎて、手に入らなかったのよね」
ニコライが割って入りたそうにしているので、ステイ様と声をかけ、二人のかけ橋になる。ニコライが何を考えているのか……たぶん、わかったのだろう。確かめるように、どうかして?と答える。
「ステイ殿下、お話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ!何かおもしろい商品が?」
「えぇ、先程言っていらした姿絵ですけど……」
「ここにあるの?」
「はい、ご用意できます」
「……手に入らなかったのに。どうして?」
「ここは、アンバー領地直営の店ですので、領主であるアンナリーゼ様のものについては管理しています。何点かお持ちしましょうか?」
「えぇ、見せて!」
私はニコライの話を着て驚いた。今まで、そんな者を隠し持っていたなんて知らなかったから。確か、あれは、貴族の誰だったかが描いた絵が元で何種類か描かれたのだ。描かれた本人の許可もなく、売買されているのだから、怖い世の中だ。
後ろに控えていた女性に声をかけているニコライ。私そっちのけで、話始めた。よほど、あの戴冠式のことについて語りたかったようだ。よくよく考えると……ニコライは参加していないはずなのだが。
「私もあの戴冠式には出ていないのだけど、ナタリーは出てたのかしら?」
「もちろんです。アンナリーゼ様のお側に」
「伝説の戴冠式だった……ですよね?アンナリーゼ様」
ナタリーもニコライも私に期待を向けてくるが、あの日は……ナタリーの愛の告白から始まり……わりと大変だった。ウィルやセバスも私の後ろをついて歩いたものだから、どちらが戴冠式の主役なのかわからないことになったのだ。
「だいたいは、公や侍従たちからも聞いているわ。私のところの侍従も借りだされていたから。とても素敵だったとは聞いているのよ。戴冠式の前も!」
「……それは、私の告白の話でしょうか?」
恥ずかしそうにしているナタリーにあなただったの?と驚いた表情のステイ。戴冠式の話をするときは、必ず一緒に語られるナタリーの愛の告白。そして、私は側にいることを許したという話もだ。
……あれはとても目立ったわ。でも、ナタリーがいないなんて考えられなかったのよね。
当時を思い出せば、懐かしさが胸にくる。ナタリーも思い出しているのか、少し遠いところを見ていた。
「お待たせしました」とさっきの女性が別の店員も連れて、三つの絵画を持ってきた。私も見たことがない姿絵を初めて目にする。
「……本当に、私?」
「素敵ね……」
ステイとナタリーは三枚の絵を見てため息をついている。私は、それを見て恥ずかしくなったが、他の三人は違う思惑があるようだ。ステイはもちろん、欲しいと願っているようだ。ナタリーも狙っているように見える。ニコライは売りたいようだ。
私は、絵のところにあるサインを見て、あっと驚いた。
「どうかして?」
「……これって」
「えぇ、ティアが描いたものです」
「ティア?」
「私の友人で、ニコライの妻で、ハニーアンバー店の専属宝飾品職人です」
「そんな人がいるの?アンナリーゼの周りには、本当にたくさんの才能が集まっているのね!」
ステイはますますその絵を気にったようで、ニコライと値段交渉を始めるようだった。
「素敵なドレス!」
私たちが何も言わずとも、ステイはそのドレスに吸い寄せられるように歩いていく。マネキンに飾られたドレスは、人が着ているような立体的であるので、思わず近寄りたくなるだろう。この店に初めて訪れた人が必ず通る道だ。
「アンナリーゼ」
「どうかなされましたか?」
「このドレス、とても素敵だわ!それと、ドレスが美しく見えるように……工夫されている。とっても画期的な見せ方ね?」
「お褒めに預かりありがとうございます。当店だけですよ。こんなふうにドレスを見せているのは」
「確かに、見たことがないわ!ハンガーにかけているだけですもの」
ドレスをうっとり見ているステイの隣に並ぶ。久方ぶりに外へ出たこともあり、楽しそうである。
「他にもありますから、どうぞ奥へ」
「お店に入ってすぐから、こんな仕掛けがあるなんて……貴族たちがこぞってハニーアンバー店へ足を運びたい気持ちがわかるわ!」
「知っていたのですか?」
「もちろん!」
私はステイを奥へと案内する。入口は同じでも、貴族婦人たちが訪れる方へと案内する。中へ入った瞬間、私が去年の始まりの夜会で着ていたドレスに目が行くだろう。そのあと、あちこちに飾られたドレス、綺麗に並べられた宝飾品など、品よく飾られている。
「衣裳部屋へ来たみたい。とても美しいわ……あの一番目立つところにあるドレスは何かしら?」
「去年の始まりの夜会で着たドレスですよ」
「アンナリーゼの?」
「はい。あぁして飾ることで、ご令嬢があのドレスのようなものをと選んでくれるらしいです」
「確かに、目につくし、一度は着てみたいとなるわね!」
「えぇ、そういう狙いがあるんです。公の戴冠式のときに着たドレスもしばらくは飾ってあったのですよ」
「なるほど……戴冠式の様子は絵姿になったと聞いているわ!取り寄せようとしたけど、人気過ぎて、手に入らなかったのよね」
ニコライが割って入りたそうにしているので、ステイ様と声をかけ、二人のかけ橋になる。ニコライが何を考えているのか……たぶん、わかったのだろう。確かめるように、どうかして?と答える。
「ステイ殿下、お話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ!何かおもしろい商品が?」
「えぇ、先程言っていらした姿絵ですけど……」
「ここにあるの?」
「はい、ご用意できます」
「……手に入らなかったのに。どうして?」
「ここは、アンバー領地直営の店ですので、領主であるアンナリーゼ様のものについては管理しています。何点かお持ちしましょうか?」
「えぇ、見せて!」
私はニコライの話を着て驚いた。今まで、そんな者を隠し持っていたなんて知らなかったから。確か、あれは、貴族の誰だったかが描いた絵が元で何種類か描かれたのだ。描かれた本人の許可もなく、売買されているのだから、怖い世の中だ。
後ろに控えていた女性に声をかけているニコライ。私そっちのけで、話始めた。よほど、あの戴冠式のことについて語りたかったようだ。よくよく考えると……ニコライは参加していないはずなのだが。
「私もあの戴冠式には出ていないのだけど、ナタリーは出てたのかしら?」
「もちろんです。アンナリーゼ様のお側に」
「伝説の戴冠式だった……ですよね?アンナリーゼ様」
ナタリーもニコライも私に期待を向けてくるが、あの日は……ナタリーの愛の告白から始まり……わりと大変だった。ウィルやセバスも私の後ろをついて歩いたものだから、どちらが戴冠式の主役なのかわからないことになったのだ。
「だいたいは、公や侍従たちからも聞いているわ。私のところの侍従も借りだされていたから。とても素敵だったとは聞いているのよ。戴冠式の前も!」
「……それは、私の告白の話でしょうか?」
恥ずかしそうにしているナタリーにあなただったの?と驚いた表情のステイ。戴冠式の話をするときは、必ず一緒に語られるナタリーの愛の告白。そして、私は側にいることを許したという話もだ。
……あれはとても目立ったわ。でも、ナタリーがいないなんて考えられなかったのよね。
当時を思い出せば、懐かしさが胸にくる。ナタリーも思い出しているのか、少し遠いところを見ていた。
「お待たせしました」とさっきの女性が別の店員も連れて、三つの絵画を持ってきた。私も見たことがない姿絵を初めて目にする。
「……本当に、私?」
「素敵ね……」
ステイとナタリーは三枚の絵を見てため息をついている。私は、それを見て恥ずかしくなったが、他の三人は違う思惑があるようだ。ステイはもちろん、欲しいと願っているようだ。ナタリーも狙っているように見える。ニコライは売りたいようだ。
私は、絵のところにあるサインを見て、あっと驚いた。
「どうかして?」
「……これって」
「えぇ、ティアが描いたものです」
「ティア?」
「私の友人で、ニコライの妻で、ハニーアンバー店の専属宝飾品職人です」
「そんな人がいるの?アンナリーゼの周りには、本当にたくさんの才能が集まっているのね!」
ステイはますますその絵を気にったようで、ニコライと値段交渉を始めるようだった。
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