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新しいドレス

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 公から外出の許可とステイのおねだりが成功したおかげで、翌日のお昼には公都にあるハニーアンバー店へと一緒に向かう。もちろん、城からステイが迎えに来てくれ、アンバーの屋敷で落ち合った。
 今日はアンジェラも一緒に向かうことを伝えると、ステイも興味が会ったようで喜んだ。


「こちらが、『ハニーローズ』?可愛いわ!」


 馬車に乗ったあと、すぐにアンジェラに挨拶するように促すときちんと教えたとおりにご挨拶している。ステイは座ったままアンジェラに返礼をしている。そのあと私の隣にちょこんと座るアンジェラ。初めて見るステイをジッと見ていた。


「アンジェラ、ステイ様よ。公はわかるわよね?」
「おうちに来る人!」


 先日来ていたのを覚えていたらしい。何度かは会ったことがあるので、わかるようだ。その弟だよと伝えると、ますますステイのことを見ていた。弟がドレスを着ているのが、珍しいのだろう。それも、とびきりの美人だもんだから、言葉にはしなかったが、興味津々で見ているのでわかる。


「私は、気に入ってもらえたのかしら?」
「えぇ、そのようですね。多少、驚きはあるようですけど……私の周りの男性って……」
「体格ね。私はアンナリーゼとそう変わらないから、ドレスを着ていてもそれほど違和感がないはずよ?」


 クスっと笑うステイとやっと落とし込んだのかアンジェラもニッコリ笑う。


「今日は、アンジェラちゃんも一緒ということは、ドレスの新調かしら?」
「いえ、ステイ様のドレス選びを一緒に見せようかと思いまして。目を養うという意味で」
「私の?」
「はい。幼いころから、言われてするのではなく、見たり触れたりと体感しながら、自身の美を磨いてほしいなと考えています。ステイ様はご自身にあう素敵なドレスを選ばれると聞きおよんでいますから」
「なるほど、自分に合うものを選ぶ目を養うってことね。他の令嬢や夫人たちのときも一緒に?」
「友人とは会わせることもあります。ナタリーは領地でいつでも会えますし、礼儀作法の先生ですし、公都に来れば、カレンが屋敷に遊びに。今年はトライド男爵夫人のダリアも側にいてくれましたから」
「なるほど、その三人は耳にしたことがあるわ。確かに自分に合う美しさを身に着けている。幼いころから、そういうものに触れるということはいいことなの?」
「どうでしょう?私の母は、とにかく私の興味があることをさせてくれました。どこに興味が向くのかはわかりませんから、たくさん体験させてくれましたよ」


 私を見てステイは苦笑いをする。私の情報ももちろんステイの耳には入っているはずだ。仮にも異母兄の妃になるかもしれないかもしれなかった私のことは、公宮の中でも一時取りざたされたことだろう。


「アンナリーゼがその性格なのも納得出来るわ」
「性格は元からですよ?母の教育の賜物ではありませんから」


 昔を思い出し、ガキ大将をしていて、兄をいつも連れまわしていたのですと懐かし気に話すと、そんな昔話も聞きたいわとステイは笑う。私の話は、有名なことが多いが、事細かには離宮に籠っていたステイまで届いていないらしい。


「本当、公の妃になってくれなかったことは残念ね。公妃の器だとこの前話しただけでもわかるわ」
「そんなことありませんよ。私なんて……」
「他にも知っているわよ。公の代わりに動き回っていることもね。やはり、今の公妃ではなく、アンナリーゼが相応しかったのよ。そうすれば、もっとこの国もうまくまとまっていたのではなくて?」


 ステイが微笑んでいる。何故、公妃になることを拒んだのかというふうに。


「ステイ様は私を買い被りすぎです。公女であるシルキー様がトワイス国へ嫁いだのとは違いますよ?私は他国の侯爵の娘に過ぎません。公からの特別な引き立てがあって、今、公爵位を得ているだけで、後ろ盾のない公妃ほど危ういものはありませんよ」
「そうかしら?あなたが公妃となるなら、私も迷わず後ろ盾になったし……私も継承権はまだ持っている公子なのだから」
「そういえば……今、継承権は3位になるのですか?」
「そうよ。返上してもいいかなぁ?とは思っていたのだけど、プラムのことがあるから、このまま継承権は持ち続けておくわ。そのほうが、アンナリーゼも何かと頼りやすいでしょ?」


 私の考えていることが透けて見えるのか、先に言われてしまう。もう何年も社交界へ出ていないステイが始まりの夜会に出れば、間違いなく注目されるだろう。その容姿もさることながら、全てにおいて美しいのだ。ジョージアと年が近いということは、まだまだ若い。老若男女問わず、話題になる。夜会だけでなく、茶会にも誘われることになるだろう。


「今日、お店で見せてもらうドレスを見て、いろいろ考えさせてもらうわ!昨日のドレスも、今日のドレスも、アンジェラちゃんのドレスを見ても……どれもこれも素敵だから、広告塔を引き受けることになりそうよね?」


 プラムの教育係だけでなく、こちらの思惑までわかってしまったのかとニッコリ笑って誤魔化しておくが、きっと、今日の来店は気に入るに違いないと確信をもっていた。
 ナタリーもニコライもお店にいるようにしているのだ。大物は逃がさないとほくそ笑むのである。
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