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ようこそ、離宮へⅢ

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「ステイ様、それなら、ぜひアンバーのお屋敷へ来てください!」
「まぁ、いいの?」
「えぇ、もちろんです」


 ニコリと笑いかけるとステイも笑う。ウィルは若干目を逸らしているが、別に構わない。


「でも、私がアンバーのお屋敷へ行くと、ジョージアが嫌がるのではなくて?」
「ジョージア様がですか?」
「そう。私のことが苦手なのでしょ?公のご学友として公宮に来ていたけど、私はさけられていた気がするわ」
「そうだったのですね?ステイ様は私の友人として屋敷に招くのですから、何も言わないと思いますよ?」
「あら、アンナリーゼには、甘いということかしら?」


 クスっと笑うステイ。ウィルは後ろで頷いていた。よくよく考えてみれば、私がステイを知らなかったように、ステイも私のことをそれほど知らないのではないだろうか。
 中庭を一通り回った後、東屋でお茶をいただくことになった。


「アンナリーゼは、その……私のこと」


 少し口ごもるように、戸惑うように次の言葉をいうことを躊躇っていた。私は微笑みかけ、ステイが言いやすいように待つ。


「……私のこと変だとか思わないの?女装しているわけだし」
「思いませんよ?私の周りにもいますし、私も男装をしてよく出かけます。服装って、他人から見て初めて目に入ってくる情報だと思うんですけど、その方が着たくて似合っているなら私は特に何も思いません。服って、着たいものと着れるものが違うじゃないですか?」
「えぇ、そうね?」
「私はお店を経営している関係で広告塔として、最新のドレスを着て社交界に出なければいけません。私のドレスを作ってくれる友人が私に似合ったドレスを作ってくれ、かつ、流行にもなるようなものを発信してくれるおかげで、貴族の御婦人方にはとても需要がありますよ」
「確かに、アンナリーゼが着ている今日のドレスはとても素敵ね」
「聞いてもいいですか?」


 ステイはもちろんと言ってくれるので、ナタリーの分析した話をする。このドレスを着ていくように勧めてくれたのはナタリーなので、ステイの好みの真相を知りたかった。


「その友人はとても優秀なデザイナーのようね。もう何年も社交界へは足を運んでいないのに、私の好みを言い当てるとは……」
「それじゃあ、今日のドレスはステイ様のお好みにあいますか?」
「もちろんよ!一目見たときから、私はそのドレスの虜だわ!」
「よかった!実は、今年の新作だそうです」
「そうなの?確かに見たことのないドレスだとは思っていたけど……なるほど」


 私を見て、ステイは頷いた。私の着るドレスをまじまじと見て納得したと頷く。私は、そのステイの考えを見抜くことは出来なかったので、ただ見つめ返すだけだった。


「私が思うに、そのデザイナーは策士だわ」
「そのお心は?」
「この時期、みなが一同に会す始まりの夜会」
「始まりの夜会ですか?」
「私にも出てこいという意味なのね。アンナリーゼは、始まりの夜会では違うドレスを着るのでしょ?」
「えぇ、そうですけど……」
「お店の名前を聞いても?」


 私はよくわからずに、ハニーアンバー店を教える。デザイナーの名もと言われるのでナタリーの名も伝えておく。ステイに聞かれて、ぼんやり考えたのは、始まりの夜会にステイが参加することだ。今まで出ていなかったのに、このタイミングで夜会へ参加し、表舞台へ戻るということは、プラムのことも頼みやすい。初めて会ったときから感じていたが、やはり公族だけあって、所作がどれもこれも綺麗だ。女性の礼儀作法だけでなく、観察している限り、男性のほうも完璧にこなせるのだろう。


「ずっと気になっていたのだけど」
「なんでしょうか?」
「アンナリーゼは、私の所作をずっと気にしているわね?」
「バレていましたか?」
「もちろんよ。見られることには、アンナリーゼも慣れているでしょうけど、あなたも社交界ではお手本にされるほど、所作の綺麗な女性でしょう?」
「お手本とまではいきませんが、褒められることは多いです。ただ、やはりステイ様はとても自然で綺麗だなと見惚れていました」


 ふふっと笑うステイも照れ隠しなのだろう。社交界から離れて長いのに、この仕草は体に染みついているものだろう。気品に満ちたその作法は、たとえ路上でボロを着ていても失われない。私とは全くの別物だ。


「そんなに褒めても何もないわよ?」
「わかりませんよ?もしかしたら……お願いを叶えてくださるかもしれません」
「あら、本音がやっと出ましたわね?」


 私の魂胆を見抜いていたのか、公から先に話があったからなのか、ステイはおもしろそうに笑う。


「本音というほどのものではありません。公からお聞きになっているかもしれませんが……」
「プラム公子のことね。受けてもいいわよ?」
「本当ですか?」
「もちろん!公からも一応は頼まれましたから。後ろ盾にもなりましょう。同じ公子としてね。ただ……」


 少し困ったような表情をするステイには、交換条件があるようだ。公ではなく、私にいうのは、きっと、私にしか出来ないからだろう。


「何かあるのですね?交換条件が」
「えぇ、話が早くて助かるわ!」


 満面の笑みで笑いかけるステイのお願い事に私はダメだと言えそうにない。無茶なことも覚悟して、私はステイの話を促した。
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