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出かけたお茶会
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「アンナ、どこへ行くの?」
ナタリーが私のために新作ドレスに身を包み玄関を出ようとしたところで、ジョージアに呼び止められた。振り返り招待状を見せる。公から送られたお茶会の招待状だ。公の異母弟であるステイと面会するために用意してくれた会だ。
ジョージアは苦い表情でそれを見ていた。いつもなら快く送り出してくれるか、ついてくるのだが、今日はそうしないらしい。
「行ってまいりますね?」
「うん、気を付けて行ってきて。今日は荷物の整理をしておくよ」
「お願いしますね!」
私は馬車へ乗り込み、デリアも後からついてくる。
春の陽気とは関係なく、紺のドレスには金糸が使われているので、太陽に光る。珍しく首回りから腕回りをレースにしてあるドレスはいつもと違って上品な出来上がりだった。公からの招待状をもらってすぐにナタリーにドレスの相談をしたら、このドレスを持ってきてくれたのだ。
「ドレス、素敵ですね?ナタリー様はどうやってこんな素敵なドレスを思いつくのでしょう?」
「愛ゆえに?」
私が冗談ぽく笑うと付き添いのデリアが苦笑いする。でも、ナタリーがいつも私にいうことだ。私への愛が形になったと。どれもこれも私のためのドレスで、ナタリーが私に着てもらいたいと願いながらひと針ずつ縫うのだ。その気持ちを私は大切にしていた。
「ナタリーは本当によく私のことを見てくれているわ。今日はステイ様との面会だと言ったから、少し大人びているのよね」
「アンナ様は色が薄いドレスを好みますからね。そういう濃い色味も似合いますけど、ナタリー様はステイ様の好みも考えていらっしゃるのですか?」
「そうじゃないかしら?面識があるかはわからないけど、そういうところまで気を使ってくれるわ」
ドレスだけの見立てだけでなく、宝飾品までどれがいいかと支持をしてくれる。目新しいものをと考えていたが、それよりと提案してきたのはアンバーの宝飾品だ。本来、アンバー公爵夫人として義母から受け継いだものだったが、今日のドレスにはよく似合っていた。
「まさか、アンバーの宝飾品とは……考えもしませんでした。アンナ様はたしかにアンバー公爵でもありますが、公爵夫人でもありますもの。公族の一人であるステイ様に会うなら……と考えが及ぶとは、ナタリー様はさすがですね」
馬車に揺られて城の正門を通る。いつものように門番にお菓子を渡し、いつもとは逆方向にある離宮へと向かう。途中、ウィルを馬車に拾う。
「姫さんが離宮へ行くのは初めて?」
「そうね。初めてだわ。公子は外に居を構えるのだと思っていたけど……違うのね?」
「ステイ様だけはなぁ……外に出せない理由があるんだよ。見ればわかると思うけど……」
馬車が停まったので、着いたのだろう。ウィルが先に降りて私をエスコートしてくれる。デリアもお菓子をもってウィルの手を借りている。
「姫さんもお菓子を用意してるの?」
「えぇ、一応。ナタリーが教えてくれたステイ様お気に入りのお菓子よ!」
「何が入っている?」
「蜂蜜パイ!」
「……また、甘そうなものを」
「好物だって聞けば、用意するわよ?キティのお菓子は世界で1番美味しいんだから」
「俺もおこぼれある?」
「うーん、屋敷にきたらあると思うよ?うちのお嬢様が食べてなければ」
少し考えたあと、「あぁ」と諦めたような表情をしている。私もその意味がわかるので、ウィルの背中をぽんぽんと叩く。
「お嬢さ、お腹をぽんぽんとしてさすっているよな?」
「……想像出来てしまうから、何とも言えないわ」
「だよな。どこかのお嬢様も甘いものをたらふく食べていたし」
「それって私のこと?」
覗き込むようにウィルを見上げると「そう」と肯定する。付き合いの長いウィルは私の好みをよく知っている。
「ステイ様のことはどこまで知っている?」
「女装男子?」
「あぁ、そんな感じ?」
「まだ、何か他にもあるの?」
「うーん、あってみればわかるから言わないけど、ビックリすると思うよ。本当に」
ウィルに言われたことを考えながら、正面の扉をノックする。しばらくすると、扉が開いた。この離宮の執事なのだろうか。
「これはこれは……お待ちしておりました、アンバー公爵。どうぞ、お入りください」
私の訪れの準備をしてくれていたらしく、部屋に通してくれる。歩いた廊下のあちこちを見てしまった。公宮の中にある離宮ではあるのだから、綺麗な絵画や豪奢な置物はわかる。そのどれもが嫌味なものではなく、とても調和がとれていて美しい。通された部屋はサロンでガラス張りであった。ここからは中庭がよく見え、春咲きの花が少しずつ蕾を開き始めている。
「綺麗なお庭ね!素敵だわ!」
中庭を見ていると「お褒めの言葉、嬉しいわ」と女性にしては少し低めの、でも、優しいい声が後ろからかかった。振り返ると、私も見たことがないほどの美姫が微笑んでいる。ウィルをみて「久しぶりね?」と声をかけ、ウィルが敬礼をしていた。
この人が公の異母弟のステイなのだろう。とても綺麗な彼に見惚れてしまった。
ナタリーが私のために新作ドレスに身を包み玄関を出ようとしたところで、ジョージアに呼び止められた。振り返り招待状を見せる。公から送られたお茶会の招待状だ。公の異母弟であるステイと面会するために用意してくれた会だ。
ジョージアは苦い表情でそれを見ていた。いつもなら快く送り出してくれるか、ついてくるのだが、今日はそうしないらしい。
「行ってまいりますね?」
「うん、気を付けて行ってきて。今日は荷物の整理をしておくよ」
「お願いしますね!」
私は馬車へ乗り込み、デリアも後からついてくる。
春の陽気とは関係なく、紺のドレスには金糸が使われているので、太陽に光る。珍しく首回りから腕回りをレースにしてあるドレスはいつもと違って上品な出来上がりだった。公からの招待状をもらってすぐにナタリーにドレスの相談をしたら、このドレスを持ってきてくれたのだ。
「ドレス、素敵ですね?ナタリー様はどうやってこんな素敵なドレスを思いつくのでしょう?」
「愛ゆえに?」
私が冗談ぽく笑うと付き添いのデリアが苦笑いする。でも、ナタリーがいつも私にいうことだ。私への愛が形になったと。どれもこれも私のためのドレスで、ナタリーが私に着てもらいたいと願いながらひと針ずつ縫うのだ。その気持ちを私は大切にしていた。
「ナタリーは本当によく私のことを見てくれているわ。今日はステイ様との面会だと言ったから、少し大人びているのよね」
「アンナ様は色が薄いドレスを好みますからね。そういう濃い色味も似合いますけど、ナタリー様はステイ様の好みも考えていらっしゃるのですか?」
「そうじゃないかしら?面識があるかはわからないけど、そういうところまで気を使ってくれるわ」
ドレスだけの見立てだけでなく、宝飾品までどれがいいかと支持をしてくれる。目新しいものをと考えていたが、それよりと提案してきたのはアンバーの宝飾品だ。本来、アンバー公爵夫人として義母から受け継いだものだったが、今日のドレスにはよく似合っていた。
「まさか、アンバーの宝飾品とは……考えもしませんでした。アンナ様はたしかにアンバー公爵でもありますが、公爵夫人でもありますもの。公族の一人であるステイ様に会うなら……と考えが及ぶとは、ナタリー様はさすがですね」
馬車に揺られて城の正門を通る。いつものように門番にお菓子を渡し、いつもとは逆方向にある離宮へと向かう。途中、ウィルを馬車に拾う。
「姫さんが離宮へ行くのは初めて?」
「そうね。初めてだわ。公子は外に居を構えるのだと思っていたけど……違うのね?」
「ステイ様だけはなぁ……外に出せない理由があるんだよ。見ればわかると思うけど……」
馬車が停まったので、着いたのだろう。ウィルが先に降りて私をエスコートしてくれる。デリアもお菓子をもってウィルの手を借りている。
「姫さんもお菓子を用意してるの?」
「えぇ、一応。ナタリーが教えてくれたステイ様お気に入りのお菓子よ!」
「何が入っている?」
「蜂蜜パイ!」
「……また、甘そうなものを」
「好物だって聞けば、用意するわよ?キティのお菓子は世界で1番美味しいんだから」
「俺もおこぼれある?」
「うーん、屋敷にきたらあると思うよ?うちのお嬢様が食べてなければ」
少し考えたあと、「あぁ」と諦めたような表情をしている。私もその意味がわかるので、ウィルの背中をぽんぽんと叩く。
「お嬢さ、お腹をぽんぽんとしてさすっているよな?」
「……想像出来てしまうから、何とも言えないわ」
「だよな。どこかのお嬢様も甘いものをたらふく食べていたし」
「それって私のこと?」
覗き込むようにウィルを見上げると「そう」と肯定する。付き合いの長いウィルは私の好みをよく知っている。
「ステイ様のことはどこまで知っている?」
「女装男子?」
「あぁ、そんな感じ?」
「まだ、何か他にもあるの?」
「うーん、あってみればわかるから言わないけど、ビックリすると思うよ。本当に」
ウィルに言われたことを考えながら、正面の扉をノックする。しばらくすると、扉が開いた。この離宮の執事なのだろうか。
「これはこれは……お待ちしておりました、アンバー公爵。どうぞ、お入りください」
私の訪れの準備をしてくれていたらしく、部屋に通してくれる。歩いた廊下のあちこちを見てしまった。公宮の中にある離宮ではあるのだから、綺麗な絵画や豪奢な置物はわかる。そのどれもが嫌味なものではなく、とても調和がとれていて美しい。通された部屋はサロンでガラス張りであった。ここからは中庭がよく見え、春咲きの花が少しずつ蕾を開き始めている。
「綺麗なお庭ね!素敵だわ!」
中庭を見ていると「お褒めの言葉、嬉しいわ」と女性にしては少し低めの、でも、優しいい声が後ろからかかった。振り返ると、私も見たことがないほどの美姫が微笑んでいる。ウィルをみて「久しぶりね?」と声をかけ、ウィルが敬礼をしていた。
この人が公の異母弟のステイなのだろう。とても綺麗な彼に見惚れてしまった。
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