ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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ジョージア様は本当に

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「ジョージア、そんなに怒るようなことではないだろう?いつもの軽口じゃないか」
「公はそうおっしゃいますけど?アンナって変に行動力があるから、俺を捨てて離婚するとトワイスへ帰ることなんて簡単にしてしまいますよ?」
「……簡単ではありませんけどね?」
「アンナは黙っていてくれる?」


 珍しく睨むジョージアは相当御立腹らしい。私は、ジョージアに対して愛情がないわけではない。むしろ、心を傾けている方だと思う。ただ、幼いころに見た『予知夢』のせいか、どこか、自分でもわかっていない部分で一線を引いているのではないかと感じていた。
 いつさよならを言われてもいいように、いつ離婚届を渡されてもいいようにと……心は準備を怠っていない。そんな準備が必要だと、今の私は微塵も思っていないはずなのに、ふとしたときに、冗談でも出てきてしまう。深層心理に刷り込まれた私の『予知夢』だ。


「私が黙ってしまうと、お二人で喧嘩でもされるのではないかと、気が気じゃなくなるので口を閉ざすつもりはありませんよ」
「アンナ!」
「言わせていただきますけど、ジョージア様はすでに前科持ちですからね?出産をした私を1年も放置したのは、どこの誰ですか?」
「……それは」
「それに、心変わりをしないという保証はどこにありますか?私だけがジョージア様を想っている期間があったのですよ?」


 言葉につまるジョージア。確かにソフィアと別宅に住んでいた1年は、別に心変わりをしたわけでもなければ、本宅へ戻ってこれなかった理由があった。
 心の中ではちゃんと整理もついているし、ジョージアからの気持ちもあの日ちゃんと受取った。
 それでも、辛かったことに変わりはない。覚悟を決めて嫁いだとしても、未来を知っていたとしても、そのときになって思い知った絶望的な気持ちは、忘れてはいない。
 ジョージアを選ばない未来もあったのだ。ハリーとの温かな生活も。それを手放してまで、私は何を望んだのかと悩んだ日もあった。アンジェラがいなかったら、それこそ、私は何も言わずにトワイスの家族の元へ帰っていただろう。


「……アンナ、それは違うよ。アンナのことを想わない日は一日もなかった」
「そうですか?会いに行った日、すげなくされましたけど?」


 思い出したように笑う。あの日、ジョージアと決別をするために別宅に行ったのだから。意外と、そうならずに私の元へ戻ってきたことに、安堵したことも覚えている。


「アンナリーゼ、それくらいにしてやってくれ。男女のそれは、簡単ではないことを知っているだろう?」
「えぇ、そうですね。ただ、言いたくなっただけです」
「……身に覚えがありすぎるから、俺はジョージアの味方になるぞ?」
「公に味方されても……あちこちで遊び歩いていた人ですし、それこそ……心変わりや一晩の遊びも多かったじゃないですか?」
「味方になってやると言って、それはないだろう?どう思う?アンナリーゼ」
「私も何度も公妃にと口説かれた方ですから……なんとも?」
「あぁ、そういうのもあったね。今は、うちのアンナを口説いていないのですか?」


 どうやら矛先が今度は公へ向いたらしい。ジョージアと別居しているあいだの話なので、どうこう言える立場ではないだろうとジョージアを見上げた。
 それより、話を戻そう。私も公も忙しい身であるのだから。


「話を戻しますけど、公世子の件は、公がなさりたいようにされればいいと思いますし、第1公子がデビュタントを迎えるのであれば、それに合わせて発表でもいいのではないですか?」
「アンナリーゼはあくまでも第1公子でよいんだな?」
「こちらの体制が整うまでとは思うところではありますが、いいと思いますよ。公より、頭のキレはありますから、そのあたり、公として……父親として……どう向き合っていくかは考えないといけないと思いますけど」
「……やはり、俺よりも格上か」
「公妃はそうでもないですけど、やはり、ゴールド公爵の影響は大きいでしょうね?」


 なるほどと頷く公。自身は放蕩息子だったので、第1公子を公世子にすることを躊躇う理由のひとつでもあるだろう。
 出来の違う息子に抜かれているということは、よくあることだ。そうなったとき、公世子という立場は公にとって自身の座る椅子が危ぶまれる。譲ってしまうことは別に構わないと思っているだろうが、椅子に座らされたまま傀儡になる可能性もあることを危惧しているのだろう。


「それほど脅威に思うなら、プラム殿下を対抗として育てればいいではないですか?」
「対抗としてか」
「そうです。どちらの公子に民がついていくかですよ。結局のところ」
「インゼロは弟に従ったな。皇太子を廃嫡にさせて」
「あれは稀です。父親を殺して玉座を奪ったのですから」
「そういえば、皇太子は生きているのか?ずっと考えたこともなかったが、監禁されているとか……?」


 私はある人物を思い出しながら、監禁とは程遠い生活をしているなぁ?とため息をついた。そのことが、どう取られたのかわからないが、公が眉根を寄せた。


「心配しなくても、皇太子は監禁はされていませんよ。私の知る限り、好きな人の側でのびのびと生活をしています。どちらかというと、玉座には向かなかったのだと、私は思います」
「優しすぎるからか?」
「一国の主の器ではないのでしょう。まぁ、私が思うに、それも傍らにいるものがあれば、器として相応しくなると思います。プラム殿下もそういう感じではないですか?」
「守るべきものがいればというやつか……」


 腕組みをして考える公の次の言葉はわかる。アンジェラとの婚約をやはり言ってくることだろう。でも、私はそれを許可するつもりはない。噂程度に流すなら……考えなくもないが、未来であの子が望んだのは、プラムではないのだから……私はアンジェラの恋を応援してあげたいと思っている。
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