ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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さてさて、それで

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「さてさて、それで……公世子の話ですよね?」
「あぁ、そんな軽い感じで始まるのか?」
「軽い感じ?」


 私は小首を傾げながら公を見ると、眉根を寄せている。困惑しているという表情を私に見せてくるが、知ったことではない。だいたい、夕方には向かうと言っているのに、何が軽い感じだ。重くしたいなら、夕方まで待てば良かったのだ。


「アンナリーゼよ」
「何でしょうか?」
「一国の次期公を選ぶという話だぞ?」
「それがどうしたのです?公にはそれ相応の年の子なんて、二人しかいないじゃないですか?どちらかしか選べないのであれば決まっていますし、今更です」
「……投げやりだなぁ?そうは思わないか?ジョージア」
「アンナの言うことは私は頷けますよ。身分の低い第2妃の子を擁立するより、身分も後ろ盾もしっかりしている第1公子が公世子としてなるのが普通でしょう?」


 私はジョージアの説明に大きく何度も何度も頷いた。まさにそうなのだ。公がどれだけ第2妃の子であるプラムを公世子に推したところで、誰もついては行かない。私やジョージアが後ろ盾となったとしても、姻戚関係になれない薄い縁になるアンバー公爵家なんて、ゴールド公爵家にしてみれば対した敵ではない。


「そこは、その……アンジェラをのちの公妃として擁立すればいいのではないか?」
「本気で言ってますか?」


 私は公を睨むと、言ってみただけだと呟いたあと黙った。公が言ったとおり、アンジェラと婚約か姻戚を結べばプラムにも公世子になれるだろう。ただ、それが叶わないことは、公が誰よりも知っている。アンジェラは『ハニーローズ』なのだ。アンジェラと婚姻となれば、プラムは公爵家の婿養子となるのだ。それがわからぬ公ではないだろう。口惜し気にこちらを見て、口走った言葉にこちらが驚ろかされた。


「アンナリーゼ、もう一人、子を産まないのか?」
「なっ」
「何を言っているんですか?公」
「いや、ジョージアとの仲は良好だと聞いている。もう一人くらい、いけるかと思って」
「……私をなんだと思っているのですか?」
「アンナリーゼだろう?稀代の策士だ」
「私にはそんな策士だなんて似合いませんよ。ただのアンナリーゼですから。それに、私は、今、領地のことで忙しいのです。子ができれば、それはそれで嬉しいですが、みなに負担をかけることにもなる。協力してくれといえば、もちろんしてくれるでしょう」
「それなら、いいではないか」
「そういう問題じゃありません!それに女の子が生まれる確証はありませんよ?」
「……確かに。うちも男が生まれたわけじゃないしな」


 第2妃とのあいだに子が生まれたが、その子は女の子だった。今の法律では、女の子は公世子にはなれない。それに、第2妃の子だと言いうのも問題なのだ。爵位や後ろ盾の問題が大きすぎる。公に釣り合う年の子がいる貴族や隣国の王家などを考えて見ても、それほど多くはなく、何よりそういったところには必ずと言っていいほど、ゴールド公爵家が関わってくる。迂闊に爵位や後ろ盾のしっかりした第3妃を迎えることも出来ずにいた。


「何故、アンバー公爵家には女の子が生まれにくいんだろうな?」
「『ハニーローズ』との関係があるんじゃないですか?」
「そこに落ち着くのか?」
「そうでしょうね。原初の女王の血を色濃く残すのは、アンバー公爵家だけですから」
「確かにな。他の王家にも『ハニーローズ』のような能力がある子が生まれたことがない。アンジェラと婚姻関係が難しいとプラムが公世子になることはない。あぁ、どうしたものか」


 頭を抱えるようにしている公が不思議に思えた。何故、公世子を第一公子ではダメなのか。勢力的にといえば、確かに私たちは不利な立場にはなる。でも、それだけなのだ。全てに置いて、不利になるかといえば、そうではないと私は考えていた。そう……、未来で起こる内乱で、公世子であった第1公子は死ぬことになるのだから。


「どうしてダメなのですか?」
「どうしてって……ゴールド公爵が、出てくるだろう?公世子になったのだから、もっと情報を流せと言ってくるかもしれない」
「そんなせこいことゴールド公爵はしないと思いますけどね」
「その心は?」
「神のみぞ知る?」
「なんだ、あてずっぽうか」
「公は何を畏れているのですか?インゼロ帝国の属国になることですか?」


 私はインゼロ帝国を言葉にすれば、俯いて髪をくしゃくしゃいしていた公と目が合った。


「……わかっているなら、何故簡単に公世子を決められる?」
「公が死なない限り、何とでもなるからですよ。だから、長生きしてくださいね?」
「意味がわからぬ」
「公世子って……変えることが出来るんですよ?相応しくないと判断すれば、公が動けばいいだけです。まぁ、ただ……第1公子は相当賢いんじゃないですか?」
「何故それを?」
「チラッと公宮で見かけたことがありますが、私に向かって頭を下げたのですよね。公爵である私に下げる必要はないのに」
「……初めて聞いたが、それにどんな意味があるのか」


 公は黙ってそのまま考えている。私はその答えを聞きたくて黙った。ジョージアも考えているのか静かになったので、隣を見ると微笑んでいた。ジョージアはすでに意味がわかったのだろう。この国で起こっていることを知ったのだ。
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