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前も言いませんでしたか?

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 ジョージアと公が視線で何やら話している。ご学友である二人にとって、そういったことはできるらしく、そこは私の入れるところではない。それを黙って見ていると話はついたようだ。どのみち、私の意見を聞くために公は屋敷へ来たのだから、大きなため息をついて二人の視線を集めた。

 ディルがお茶を用意してくれたので、カップに手を伸ばす。朝食も食べる前に公が来てしまったので、お腹もペコペコだ。「こちらを」とスコーンを置いてくれたデリアにニコリと微笑み、温かいスコーンに手を伸ばした。


「そなたは……。今、大事な話をしているところではないか?」
「……スコーンのひとつ食べるくらいの時間を待ってくれてもいいのではないですか?」
「そんな時間は」
「あるではありませんか!今日の夕方に約束をしたにも関わらず、約束もなく突然現れた公が失礼ではありませんか?」
「それは……」
「私は公爵です。それなりの仕事がありますから、本当は今すぐお引き取り願いたいくらいなのですけど!」


 少し強めに言えば、言葉にならなかったようで、スコーンを口に運ぶのをジッと見ていた。思いたったように私の元へきたのだろう。仕方がないので、デリアに言い、公の前にもスコーンを置いてもらう。ほわっと甘い香りと湯気に職をそそられたのか、公も手を伸ばしている。もちろんジョージアの前にも置かれており、当然のように口に運んでいる。


「ん?これはうまいな」
「当たり前です!アンバー領のもので作られているのですから」
「アンバー領はこれ程のものか。穀物は味にもこだわっていると聞いたことがあるが……うまいな」
「もちろん、材料の良し悪しもありますが、料理人たちのうでもいいのです。美味しいスコーンを作ってくれてありがとうと公からも感謝するといいですよ?」


 ニコニコとすると、生意気なことをいうと睨まれたが、スコーンを運ぶ口元は喜んでいるのがわかる。アンバー領の麦に関して言えば、領地以外にも美味しいと公都にあるハニーアンバー店では品薄になったり、売り切れることもあるのだ。口に入れたときにはすでに虜になるだろう。


「もうひとつもらうぞ」


 そういって私のお皿のうえに置いてあった物を持っていく。目の前に2つずつ置かれていたスコーンはあっという間に食べてしまったらしい。


「私の……」


 思わず手を伸ばしてしまったので、ジョージアが隣から食べていいよと自分の分を差し出してくれた。


「ありがとうございます。でも、半分にしましょう。ジョージア様もお腹空いているでしょうし」
「いや、大丈夫だよ。また、あとで何かつまむから」
「しばらくは、公が帰ってくれないと思いますよ?」


 差し出されたスコーンを半分に割り、ジョージアに手渡すと素直に受取ってくれた。目の前の暴君は私の分までしっかり食べ終え、紅茶を飲んでいた。恨めしそうに睨んだあと、ジョージアにもらったスコーンを齧る。その様子を紅茶を絶賛しながらこちらを見てくるが、食べ物の恨みは深い。そんな私にやっと気が付いたのか苦笑いをしていた。


「あのスコーンなら、いくらでも食べられそうだ」
「公に出すなんて一言も言ってませんからね。おみやげなんてないですからね!」
「アンナリーゼが用意してくれずとも……ディル」
「はい、公。何の御用でしょうか?」
「先程のスコーンが美味しかった。帰りに持たせてくれ。冷えていても構わない」
「……かしこまりました」
「ディル!」
「アンナ、仕方がないよ。ここは従って……」
「ジョージア様まで!そんなのだから、公一人にいいようにされるのですよ?いいですか?ジョージア様とディル!」


 二人の名を呼べば、はい!と背筋を伸ばしている。その様子をおもしろそうに公が見ていた。本人の目の前でいうのだから、構わないだろう。不敬罪にするならしてもらっても構わない。そのときは、公もこの国も道連れだ。
 アンジェラが幼い内に私に何かあれば、私の両親が引き取る手筈となっているので、ハニーローズは安泰だが、この国はあやしくなる。


「まず、公の要望は聞いてはいけません。図に乗るから」
「おいっ、アンナリーゼ!」
「あと、面倒なことが起これば、すぐに相談しようとしてきますが、特段困った案件は極めて低く、私の知恵でなくても、たいてい何とかなってしまうものばかりです」
「それはないぞ?アンナリーゼがいないと困るぞ?」
「それははったりなので、口車に乗せられないように。図に乗ると相手が面倒になるので。わかりましたか?」
「……ひどい扱いじゃないか?これでも1国の主なんだがな!」


 私に軽く見られていると怒る公は無視をし、他の三人……私とジョージアとディルが机の上に頭を寄せて、地図を見ている。公都の地図は比較的わかりやすい。いつの間にか出来たスラム街の中でさえ地図がきちんと取られている。善良な市民がいることに私は感心したものだ。


「公は何なら出来ますか?」


 指折り考える公に、今、必要な知識がどれほど含まれているかを、どうやら考えているらしい。


「近いうちに挨拶に向かうことになるが、次も期待したくなる」
「しないでください」


 公を軽くあしらた。いつものことではあるので、漫才でも聞いているかのようでも、お互いの手の内はよく知っているので、苦笑いをお互いして、本題に入ることにした。
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