1,295 / 1,515
前も言いませんでしたか?
しおりを挟む
ジョージアと公が視線で何やら話している。ご学友である二人にとって、そういったことはできるらしく、そこは私の入れるところではない。それを黙って見ていると話はついたようだ。どのみち、私の意見を聞くために公は屋敷へ来たのだから、大きなため息をついて二人の視線を集めた。
ディルがお茶を用意してくれたので、カップに手を伸ばす。朝食も食べる前に公が来てしまったので、お腹もペコペコだ。「こちらを」とスコーンを置いてくれたデリアにニコリと微笑み、温かいスコーンに手を伸ばした。
「そなたは……。今、大事な話をしているところではないか?」
「……スコーンのひとつ食べるくらいの時間を待ってくれてもいいのではないですか?」
「そんな時間は」
「あるではありませんか!今日の夕方に約束をしたにも関わらず、約束もなく突然現れた公が失礼ではありませんか?」
「それは……」
「私は公爵です。それなりの仕事がありますから、本当は今すぐお引き取り願いたいくらいなのですけど!」
少し強めに言えば、言葉にならなかったようで、スコーンを口に運ぶのをジッと見ていた。思いたったように私の元へきたのだろう。仕方がないので、デリアに言い、公の前にもスコーンを置いてもらう。ほわっと甘い香りと湯気に職をそそられたのか、公も手を伸ばしている。もちろんジョージアの前にも置かれており、当然のように口に運んでいる。
「ん?これはうまいな」
「当たり前です!アンバー領のもので作られているのですから」
「アンバー領はこれ程のものか。穀物は味にもこだわっていると聞いたことがあるが……うまいな」
「もちろん、材料の良し悪しもありますが、料理人たちのうでもいいのです。美味しいスコーンを作ってくれてありがとうと公からも感謝するといいですよ?」
ニコニコとすると、生意気なことをいうと睨まれたが、スコーンを運ぶ口元は喜んでいるのがわかる。アンバー領の麦に関して言えば、領地以外にも美味しいと公都にあるハニーアンバー店では品薄になったり、売り切れることもあるのだ。口に入れたときにはすでに虜になるだろう。
「もうひとつもらうぞ」
そういって私のお皿のうえに置いてあった物を持っていく。目の前に2つずつ置かれていたスコーンはあっという間に食べてしまったらしい。
「私の……」
思わず手を伸ばしてしまったので、ジョージアが隣から食べていいよと自分の分を差し出してくれた。
「ありがとうございます。でも、半分にしましょう。ジョージア様もお腹空いているでしょうし」
「いや、大丈夫だよ。また、あとで何かつまむから」
「しばらくは、公が帰ってくれないと思いますよ?」
差し出されたスコーンを半分に割り、ジョージアに手渡すと素直に受取ってくれた。目の前の暴君は私の分までしっかり食べ終え、紅茶を飲んでいた。恨めしそうに睨んだあと、ジョージアにもらったスコーンを齧る。その様子を紅茶を絶賛しながらこちらを見てくるが、食べ物の恨みは深い。そんな私にやっと気が付いたのか苦笑いをしていた。
「あのスコーンなら、いくらでも食べられそうだ」
「公に出すなんて一言も言ってませんからね。おみやげなんてないですからね!」
「アンナリーゼが用意してくれずとも……ディル」
「はい、公。何の御用でしょうか?」
「先程のスコーンが美味しかった。帰りに持たせてくれ。冷えていても構わない」
「……かしこまりました」
「ディル!」
「アンナ、仕方がないよ。ここは従って……」
「ジョージア様まで!そんなのだから、公一人にいいようにされるのですよ?いいですか?ジョージア様とディル!」
二人の名を呼べば、はい!と背筋を伸ばしている。その様子をおもしろそうに公が見ていた。本人の目の前でいうのだから、構わないだろう。不敬罪にするならしてもらっても構わない。そのときは、公もこの国も道連れだ。
アンジェラが幼い内に私に何かあれば、私の両親が引き取る手筈となっているので、ハニーローズは安泰だが、この国はあやしくなる。
「まず、公の要望は聞いてはいけません。図に乗るから」
「おいっ、アンナリーゼ!」
「あと、面倒なことが起これば、すぐに相談しようとしてきますが、特段困った案件は極めて低く、私の知恵でなくても、たいてい何とかなってしまうものばかりです」
「それはないぞ?アンナリーゼがいないと困るぞ?」
「それははったりなので、口車に乗せられないように。図に乗ると相手が面倒になるので。わかりましたか?」
「……ひどい扱いじゃないか?これでも1国の主なんだがな!」
私に軽く見られていると怒る公は無視をし、他の三人……私とジョージアとディルが机の上に頭を寄せて、地図を見ている。公都の地図は比較的わかりやすい。いつの間にか出来たスラム街の中でさえ地図がきちんと取られている。善良な市民がいることに私は感心したものだ。
「公は何なら出来ますか?」
指折り考える公に、今、必要な知識がどれほど含まれているかを、どうやら考えているらしい。
「近いうちに挨拶に向かうことになるが、次も期待したくなる」
「しないでください」
公を軽くあしらた。いつものことではあるので、漫才でも聞いているかのようでも、お互いの手の内はよく知っているので、苦笑いをお互いして、本題に入ることにした。
ディルがお茶を用意してくれたので、カップに手を伸ばす。朝食も食べる前に公が来てしまったので、お腹もペコペコだ。「こちらを」とスコーンを置いてくれたデリアにニコリと微笑み、温かいスコーンに手を伸ばした。
「そなたは……。今、大事な話をしているところではないか?」
「……スコーンのひとつ食べるくらいの時間を待ってくれてもいいのではないですか?」
「そんな時間は」
「あるではありませんか!今日の夕方に約束をしたにも関わらず、約束もなく突然現れた公が失礼ではありませんか?」
「それは……」
「私は公爵です。それなりの仕事がありますから、本当は今すぐお引き取り願いたいくらいなのですけど!」
少し強めに言えば、言葉にならなかったようで、スコーンを口に運ぶのをジッと見ていた。思いたったように私の元へきたのだろう。仕方がないので、デリアに言い、公の前にもスコーンを置いてもらう。ほわっと甘い香りと湯気に職をそそられたのか、公も手を伸ばしている。もちろんジョージアの前にも置かれており、当然のように口に運んでいる。
「ん?これはうまいな」
「当たり前です!アンバー領のもので作られているのですから」
「アンバー領はこれ程のものか。穀物は味にもこだわっていると聞いたことがあるが……うまいな」
「もちろん、材料の良し悪しもありますが、料理人たちのうでもいいのです。美味しいスコーンを作ってくれてありがとうと公からも感謝するといいですよ?」
ニコニコとすると、生意気なことをいうと睨まれたが、スコーンを運ぶ口元は喜んでいるのがわかる。アンバー領の麦に関して言えば、領地以外にも美味しいと公都にあるハニーアンバー店では品薄になったり、売り切れることもあるのだ。口に入れたときにはすでに虜になるだろう。
「もうひとつもらうぞ」
そういって私のお皿のうえに置いてあった物を持っていく。目の前に2つずつ置かれていたスコーンはあっという間に食べてしまったらしい。
「私の……」
思わず手を伸ばしてしまったので、ジョージアが隣から食べていいよと自分の分を差し出してくれた。
「ありがとうございます。でも、半分にしましょう。ジョージア様もお腹空いているでしょうし」
「いや、大丈夫だよ。また、あとで何かつまむから」
「しばらくは、公が帰ってくれないと思いますよ?」
差し出されたスコーンを半分に割り、ジョージアに手渡すと素直に受取ってくれた。目の前の暴君は私の分までしっかり食べ終え、紅茶を飲んでいた。恨めしそうに睨んだあと、ジョージアにもらったスコーンを齧る。その様子を紅茶を絶賛しながらこちらを見てくるが、食べ物の恨みは深い。そんな私にやっと気が付いたのか苦笑いをしていた。
「あのスコーンなら、いくらでも食べられそうだ」
「公に出すなんて一言も言ってませんからね。おみやげなんてないですからね!」
「アンナリーゼが用意してくれずとも……ディル」
「はい、公。何の御用でしょうか?」
「先程のスコーンが美味しかった。帰りに持たせてくれ。冷えていても構わない」
「……かしこまりました」
「ディル!」
「アンナ、仕方がないよ。ここは従って……」
「ジョージア様まで!そんなのだから、公一人にいいようにされるのですよ?いいですか?ジョージア様とディル!」
二人の名を呼べば、はい!と背筋を伸ばしている。その様子をおもしろそうに公が見ていた。本人の目の前でいうのだから、構わないだろう。不敬罪にするならしてもらっても構わない。そのときは、公もこの国も道連れだ。
アンジェラが幼い内に私に何かあれば、私の両親が引き取る手筈となっているので、ハニーローズは安泰だが、この国はあやしくなる。
「まず、公の要望は聞いてはいけません。図に乗るから」
「おいっ、アンナリーゼ!」
「あと、面倒なことが起これば、すぐに相談しようとしてきますが、特段困った案件は極めて低く、私の知恵でなくても、たいてい何とかなってしまうものばかりです」
「それはないぞ?アンナリーゼがいないと困るぞ?」
「それははったりなので、口車に乗せられないように。図に乗ると相手が面倒になるので。わかりましたか?」
「……ひどい扱いじゃないか?これでも1国の主なんだがな!」
私に軽く見られていると怒る公は無視をし、他の三人……私とジョージアとディルが机の上に頭を寄せて、地図を見ている。公都の地図は比較的わかりやすい。いつの間にか出来たスラム街の中でさえ地図がきちんと取られている。善良な市民がいることに私は感心したものだ。
「公は何なら出来ますか?」
指折り考える公に、今、必要な知識がどれほど含まれているかを、どうやら考えているらしい。
「近いうちに挨拶に向かうことになるが、次も期待したくなる」
「しないでください」
公を軽くあしらた。いつものことではあるので、漫才でも聞いているかのようでも、お互いの手の内はよく知っているので、苦笑いをお互いして、本題に入ることにした。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる