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せっかちな人は嫌われますよ?

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「おはようございます」


 ディルの後ろにいる公に声をかけると、嫌そうな顔をしてくる。何が嫌なのかと視線を辿ると、ジョージアが私の腰を抱いているのがそうい顔にさせたようだ。そんなふうに思うなら、わざわざこんな早朝に公爵の屋敷を尋ねなかったらいいだけのこと。夕方には向かうと連絡をしてあったのにも関わらず、押し掛けてきた人の態度ではないだろう。


「……あぁ、おはよう。その、なんだ……」


 私は端切れの悪い公を見てから、ジョージアを見上げた。ジョージアもこちらを見て首を横に振っている。

 ご学友であるジョージア様にわからないもの、私がわかるはずはないわね。

 公がなかなか言わないことをジッと待つのも考えものだ。体を動かして汗をかいているので、そろそろ冷えてきた。春とはいえ、まだ、肌寒いのだ。ましてや、アンジェラはまだ子どもだ。風邪をひいては困るので、こちらから公に声をかける。


「公、お願いがあります」
「なんだ、言ってみろ」
「私とアンジェラは先程まで体を動かしていて、汗をかきました。冷えてきたので着替えに戻りたいのですが……しばらく続きますか?」


 ぶるっと体を震わせれば、気が付かなかったと屋敷の中へ向かうことになった。ディルに言って公とジョージアを応接室へ向かわせる。私はアンジェラを連れて子ども部屋へ行き、ヒーナに着替えを頼む。エマも同じく体を動かしていたので、着替えるようにいい温かい飲み物を飲むようにとだけ残して、私も私室へと向かった。
 部屋に入れば、デリアが着替えの準備をしてくれている。慌てて入ってきた私にどうかしましたか?とデリアが駆け寄った。


「公が来ているの。着替えるから……」
「わかりました。ドレスの方がいいですか?」


 用意されている服を見れば、私が動きやすいように普段着だ。屋敷の中で豪奢なドレスを着る必要もないので、それで構わないというと、お湯で温めてくれたタオルで体を拭いてくれる。待たせているのが公なので、できるだけ早く準備を整えた。纏めていた髪を下ろしくしづける。
 薄化粧もしたところで、私室の扉がノックされる。どうぞという言葉と共に、その人が入ってくる。


「アンナ様、お久しぶりです」


 振り向くとそこにはより一層逞しくなったエリックと少し背が伸びしっかりした顔つきに変わっているパルマが立っていた。


「二人とも、久しぶりね?今日は、公のお供に?」
「……えぇ、朝から叩き起こされました」
「本当、公自ら宿舎を回って、起こされたのですよ……」


 パルマが大きなあくびをひとつすると、コツンとエリックに頭を叩かれていた。痛いなと抗議している二人を見れば、より一層、仲良くなっているようだ。


「……前より、仲良くなった?」
「仕事柄、顔を合わせることも多いですからね」
「連絡事項の取次もお互いがしているので……もう少し、公にも信頼出来る人がいればいいのでしょうけど……なかなか、まだ、見つからないようです」
「そうなんだ?今年は何人か、そちらに送る予定よ。パルマに育ててほしいの……」
「ゆくゆくは、国の文官にということですか?」
「えぇ、そうね。身分は……」
「平民でしょう?わかっていますよ。考えそうなこと」
「わかっているなら、話が早いわ。文字はかけるようになっているから」


 かしこまりましたとパルマがいうので、おかしくて笑ってしまう。いつの間にか公宮に染まってしまったパルマに少しの寂しさを感じる。


「それより……公の元へ早くいかないと……なんだか、少し、切羽詰まっているのかしら?」
「今から公が言うと思いますが……公世子の件です。年齢的に公妃様のお子が公世子になることは妥当だと思うのですが、後ろがゴールド公爵だということで、なかなか公は結論が出せないでいる……というのが、現状です」
「わからなくもないけど、余程ダメな理由がなければ、公妃の子がなるのが妥当だし、私は、それに反対はしないわよ?」


 二人が驚いた表情でこちらを見てくるが、私はそのことについて、反対するつもりはない。将来、公世子となった第一公子がどのような扱いになるかなんて、わかっていることだ。公妃も第一公子も後ろ盾があるからという貴族も多いが、それだけで、あの広い場所で耐えることは難しい。だからこそ、性格が曲がっていくお子がいるのだから……と思いながら、私は三人を連れてお応接室へ入った。
 さっきはあまり観察していなかった、公の顔がやつれているように見えた。私は、ジョージアの隣に座り、公と向き合った。


「それで、何がったのですか?」
「何がというわけじゃないんだが、その……」
「公世子の話なら夕方に向かうと連絡したと思うのですが?」
「聞いていた。ただ、いてもたってもいられなくて、こうしてきたのだ」
「それはいいですけど……せっかちな人は嫌われますよ?」


 どういうと、公は私を睨んでくる。だが、公から睨まれたとき、すくみ上っているように見えた。こちらから話すのではなく、公が何かを訴えたいと切り出すまでジッと待った。身内の恥を知りながら何もしない公。


「公世子の件なんだが、率直に話を聞きたいと思っている」
「それはいいですけど、高いですよ?」


 クスっと笑うと、ジョージアも公もお互いため息をついて視線を合わせている用だった。
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