ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,279 / 1,513

腕は優秀だけど使えないヤツって感じ

しおりを挟む
 私は少し距離を取って地べたに座るようにレンジにいうと、素直に従ってくれる。座る位置を確認してニッコリ笑った。


「この距離は、私を殺せる距離?それとも守れる距離?」
「……殺すだなんて、心外ですよ?」
「でも、無意識に数歩下がって座ったその位置が、どういう間合いなのかはわかるわ。私の間合いでよりさすがに男性だけあって広いわね?」
「そんなことないですよ?アンナリーゼ様の間合いって、実際はもっと広いでしょ?知っているんですよ?仕込んでいるものも」
「……隠せないのは不便ね?」


 渋い顔をすると、逆に微笑んでくるレンジが憎たらしい。一応の距離を考えて油断はしないで置いた方がいい。相手はその道でも手練れなのだから。


「アンナリーゼ様が手元に置いているヒーナというインゼロ帝国の戦争屋は素晴らしいナイフ投げをするとか」
「私はそのヒーナに買ったけどね?ナイフ投げで」
「それは素晴らしい!今後、主と呼ぶに相応しい人ですね!」
「私、あなたに主なんて呼ばれたくないけど?」


 小首を傾げて拒否をして見たら、眉根を寄せている。きっと、公から張り付いておけとかなんとか言われているのだろう。


「あなたはどこの手先?公かなって思っているけど……」
「誰だと思いますか?」
「公でも宰相でもないとなると……前公か、お義父様ね!」


 私の答えには返事もせず、笑っているだけ。それだけでも、父親のどちらかが動いていることがわかった。癖のようなものはないのかとジッと見ていると、なんとなくわかって気がする。


「お義父様かしら?要望として前公に申し出た。そのあと前公はディルの父に命令して今回の運びとなった?」
「御明察と言いたいですけど……一応、これなんで」


 人差し指を唇に持ってきて、しーっとする。どうやら、先日のジョージの事件が義両親にも伝わったらしい。それで、手配をしてくれた……というわけだ。
 いろいろと気を回してもらって嬉しいことだ。ただ、ジョージのことは義両親はあまり良く思っていないことを知っている。私はレンジの何かを見落としていないか探っていく。こういう人間は、見せないかわざと見せるかどっちかなのだが……後者なのだろうか。


「レンジって、ディルの父様の子飼いの中では、腕は優秀だけど使えないヤツって感じだった?」
「……なんでです?」
「そんな雰囲気がビシバシこちらに伝わってくるから」
「そうですか?こんなに口が堅いのに」
「……堅いとはいわないわね?レンジが話しているだけで、なんとなく察しがついていくもの。それって……やっぱり優秀とは言わないと思うのよね?」
「そういうものなのですか?腕は1番なんですけど……追い出されたのは、そういうことだったんですね」
「……わかってなかったの?」
「まぁ……その内、任務をこなしていけば、帰れるかなってくらいにしか考えていなかったです」


 なるほどと頷けば、納得がいかないと呟いていた。私は、そんなことより、レンジに質問をしないといけない。何をと言わなくてお、気が付いているだろう。


「ジョージを殺すつもりでいるの?」
「……それは言えませんけど、先日の事件もありますから、処分も念頭にという話ではありますよ?」
「レンジって口が軽すぎるわ」
「ここにはアンナリーゼ様と二人だからいいではないですか」
「……いいけど、話しているのはアンバー公爵実子の話よ?あまりおおっぴろには聞かれたくない話しなはずだけど」


 そうですねと暢気なものだ。話しているこっちのほうが気が抜けてしまいそうで、ダメだと思い頬をパンパンと叩く。それに驚いたようにこちらをみている。


「何をしているんですか?」
「レンジの話を聞いているとこちらが気を抜いてしまいそうで……ダメだと思ったの。それで、これからどうするの?アンバー領には入ったけど」
「そうですね……とりあえず、サクッと息子さんを殺してしまう……そんな方法もひとつだとは思うんですけど、主が望まないのであれば……見守る?ですか。そうなると……」
「私の一存でどうこうなるもんだいではないわ。うちには、子猫たちもいるし」
「子猫ね……狼1匹で良くないですか?この際」
「自分を狼と称するのね?すごい自信。私に勝てたら、それもいいかもしれないけど……」


 私の足元にナイフが落ちる。私が持っていた剣で防いだのだが、動きが早くて、目で追っては間に合っていなかっただろう。


「どうやって躱したのですか?」
「見たままだけど……何か不満が?」
「ありません。さすがとしか。それで、子猫たちの案件、一人だけお護衛というのは望ましくないので?」
「そうね。せめて同等の力がある人をあと一人必要だわ。あと、ディルにも相談しないと。子猫と鉢合わせしてケガしたら……」
「あっ、子猫の心配?」
「レンジの心配よ。子猫と呼ぶ中には、あなた以上のものもいるのよ」


 ニコッと笑ったとき、レンジの後ろにぴったりとくっついている影があった。メイド服を着た彼女を見るのは初めてだが、子猫たちを束ねているうちの一人だということは、雰囲気でわかった。
 参ったなぁ……と弱音を吐いているレンジだが、全くそんなふうには見えず、むしろ喜んでいるようで……えらいものを押し付けられたなと睨むしかなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

わがままな妹が何もかも奪って行きます

拓海のり
恋愛
妹に何でもかんでも持って行かれるヘレナは、妹が結婚してくれてやっと解放されたと思ったのだが金持ちの結婚相手を押し付けられて。7000字くらいのショートショートです。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...