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腕は優秀だけど使えないヤツって感じ
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私は少し距離を取って地べたに座るようにレンジにいうと、素直に従ってくれる。座る位置を確認してニッコリ笑った。
「この距離は、私を殺せる距離?それとも守れる距離?」
「……殺すだなんて、心外ですよ?」
「でも、無意識に数歩下がって座ったその位置が、どういう間合いなのかはわかるわ。私の間合いでよりさすがに男性だけあって広いわね?」
「そんなことないですよ?アンナリーゼ様の間合いって、実際はもっと広いでしょ?知っているんですよ?仕込んでいるものも」
「……隠せないのは不便ね?」
渋い顔をすると、逆に微笑んでくるレンジが憎たらしい。一応の距離を考えて油断はしないで置いた方がいい。相手はその道でも手練れなのだから。
「アンナリーゼ様が手元に置いているヒーナというインゼロ帝国の戦争屋は素晴らしいナイフ投げをするとか」
「私はそのヒーナに買ったけどね?ナイフ投げで」
「それは素晴らしい!今後、主と呼ぶに相応しい人ですね!」
「私、あなたに主なんて呼ばれたくないけど?」
小首を傾げて拒否をして見たら、眉根を寄せている。きっと、公から張り付いておけとかなんとか言われているのだろう。
「あなたはどこの手先?公かなって思っているけど……」
「誰だと思いますか?」
「公でも宰相でもないとなると……前公か、お義父様ね!」
私の答えには返事もせず、笑っているだけ。それだけでも、父親のどちらかが動いていることがわかった。癖のようなものはないのかとジッと見ていると、なんとなくわかって気がする。
「お義父様かしら?要望として前公に申し出た。そのあと前公はディルの父に命令して今回の運びとなった?」
「御明察と言いたいですけど……一応、これなんで」
人差し指を唇に持ってきて、しーっとする。どうやら、先日のジョージの事件が義両親にも伝わったらしい。それで、手配をしてくれた……というわけだ。
いろいろと気を回してもらって嬉しいことだ。ただ、ジョージのことは義両親はあまり良く思っていないことを知っている。私はレンジの何かを見落としていないか探っていく。こういう人間は、見せないかわざと見せるかどっちかなのだが……後者なのだろうか。
「レンジって、ディルの父様の子飼いの中では、腕は優秀だけど使えないヤツって感じだった?」
「……なんでです?」
「そんな雰囲気がビシバシこちらに伝わってくるから」
「そうですか?こんなに口が堅いのに」
「……堅いとはいわないわね?レンジが話しているだけで、なんとなく察しがついていくもの。それって……やっぱり優秀とは言わないと思うのよね?」
「そういうものなのですか?腕は1番なんですけど……追い出されたのは、そういうことだったんですね」
「……わかってなかったの?」
「まぁ……その内、任務をこなしていけば、帰れるかなってくらいにしか考えていなかったです」
なるほどと頷けば、納得がいかないと呟いていた。私は、そんなことより、レンジに質問をしないといけない。何をと言わなくてお、気が付いているだろう。
「ジョージを殺すつもりでいるの?」
「……それは言えませんけど、先日の事件もありますから、処分も念頭にという話ではありますよ?」
「レンジって口が軽すぎるわ」
「ここにはアンナリーゼ様と二人だからいいではないですか」
「……いいけど、話しているのはアンバー公爵実子の話よ?あまりおおっぴろには聞かれたくない話しなはずだけど」
そうですねと暢気なものだ。話しているこっちのほうが気が抜けてしまいそうで、ダメだと思い頬をパンパンと叩く。それに驚いたようにこちらをみている。
「何をしているんですか?」
「レンジの話を聞いているとこちらが気を抜いてしまいそうで……ダメだと思ったの。それで、これからどうするの?アンバー領には入ったけど」
「そうですね……とりあえず、サクッと息子さんを殺してしまう……そんな方法もひとつだとは思うんですけど、主が望まないのであれば……見守る?ですか。そうなると……」
「私の一存でどうこうなるもんだいではないわ。うちには、子猫たちもいるし」
「子猫ね……狼1匹で良くないですか?この際」
「自分を狼と称するのね?すごい自信。私に勝てたら、それもいいかもしれないけど……」
私の足元にナイフが落ちる。私が持っていた剣で防いだのだが、動きが早くて、目で追っては間に合っていなかっただろう。
「どうやって躱したのですか?」
「見たままだけど……何か不満が?」
「ありません。さすがとしか。それで、子猫たちの案件、一人だけお護衛というのは望ましくないので?」
「そうね。せめて同等の力がある人をあと一人必要だわ。あと、ディルにも相談しないと。子猫と鉢合わせしてケガしたら……」
「あっ、子猫の心配?」
「レンジの心配よ。子猫と呼ぶ中には、あなた以上のものもいるのよ」
ニコッと笑ったとき、レンジの後ろにぴったりとくっついている影があった。メイド服を着た彼女を見るのは初めてだが、子猫たちを束ねているうちの一人だということは、雰囲気でわかった。
参ったなぁ……と弱音を吐いているレンジだが、全くそんなふうには見えず、むしろ喜んでいるようで……えらいものを押し付けられたなと睨むしかなかった。
「この距離は、私を殺せる距離?それとも守れる距離?」
「……殺すだなんて、心外ですよ?」
「でも、無意識に数歩下がって座ったその位置が、どういう間合いなのかはわかるわ。私の間合いでよりさすがに男性だけあって広いわね?」
「そんなことないですよ?アンナリーゼ様の間合いって、実際はもっと広いでしょ?知っているんですよ?仕込んでいるものも」
「……隠せないのは不便ね?」
渋い顔をすると、逆に微笑んでくるレンジが憎たらしい。一応の距離を考えて油断はしないで置いた方がいい。相手はその道でも手練れなのだから。
「アンナリーゼ様が手元に置いているヒーナというインゼロ帝国の戦争屋は素晴らしいナイフ投げをするとか」
「私はそのヒーナに買ったけどね?ナイフ投げで」
「それは素晴らしい!今後、主と呼ぶに相応しい人ですね!」
「私、あなたに主なんて呼ばれたくないけど?」
小首を傾げて拒否をして見たら、眉根を寄せている。きっと、公から張り付いておけとかなんとか言われているのだろう。
「あなたはどこの手先?公かなって思っているけど……」
「誰だと思いますか?」
「公でも宰相でもないとなると……前公か、お義父様ね!」
私の答えには返事もせず、笑っているだけ。それだけでも、父親のどちらかが動いていることがわかった。癖のようなものはないのかとジッと見ていると、なんとなくわかって気がする。
「お義父様かしら?要望として前公に申し出た。そのあと前公はディルの父に命令して今回の運びとなった?」
「御明察と言いたいですけど……一応、これなんで」
人差し指を唇に持ってきて、しーっとする。どうやら、先日のジョージの事件が義両親にも伝わったらしい。それで、手配をしてくれた……というわけだ。
いろいろと気を回してもらって嬉しいことだ。ただ、ジョージのことは義両親はあまり良く思っていないことを知っている。私はレンジの何かを見落としていないか探っていく。こういう人間は、見せないかわざと見せるかどっちかなのだが……後者なのだろうか。
「レンジって、ディルの父様の子飼いの中では、腕は優秀だけど使えないヤツって感じだった?」
「……なんでです?」
「そんな雰囲気がビシバシこちらに伝わってくるから」
「そうですか?こんなに口が堅いのに」
「……堅いとはいわないわね?レンジが話しているだけで、なんとなく察しがついていくもの。それって……やっぱり優秀とは言わないと思うのよね?」
「そういうものなのですか?腕は1番なんですけど……追い出されたのは、そういうことだったんですね」
「……わかってなかったの?」
「まぁ……その内、任務をこなしていけば、帰れるかなってくらいにしか考えていなかったです」
なるほどと頷けば、納得がいかないと呟いていた。私は、そんなことより、レンジに質問をしないといけない。何をと言わなくてお、気が付いているだろう。
「ジョージを殺すつもりでいるの?」
「……それは言えませんけど、先日の事件もありますから、処分も念頭にという話ではありますよ?」
「レンジって口が軽すぎるわ」
「ここにはアンナリーゼ様と二人だからいいではないですか」
「……いいけど、話しているのはアンバー公爵実子の話よ?あまりおおっぴろには聞かれたくない話しなはずだけど」
そうですねと暢気なものだ。話しているこっちのほうが気が抜けてしまいそうで、ダメだと思い頬をパンパンと叩く。それに驚いたようにこちらをみている。
「何をしているんですか?」
「レンジの話を聞いているとこちらが気を抜いてしまいそうで……ダメだと思ったの。それで、これからどうするの?アンバー領には入ったけど」
「そうですね……とりあえず、サクッと息子さんを殺してしまう……そんな方法もひとつだとは思うんですけど、主が望まないのであれば……見守る?ですか。そうなると……」
「私の一存でどうこうなるもんだいではないわ。うちには、子猫たちもいるし」
「子猫ね……狼1匹で良くないですか?この際」
「自分を狼と称するのね?すごい自信。私に勝てたら、それもいいかもしれないけど……」
私の足元にナイフが落ちる。私が持っていた剣で防いだのだが、動きが早くて、目で追っては間に合っていなかっただろう。
「どうやって躱したのですか?」
「見たままだけど……何か不満が?」
「ありません。さすがとしか。それで、子猫たちの案件、一人だけお護衛というのは望ましくないので?」
「そうね。せめて同等の力がある人をあと一人必要だわ。あと、ディルにも相談しないと。子猫と鉢合わせしてケガしたら……」
「あっ、子猫の心配?」
「レンジの心配よ。子猫と呼ぶ中には、あなた以上のものもいるのよ」
ニコッと笑ったとき、レンジの後ろにぴったりとくっついている影があった。メイド服を着た彼女を見るのは初めてだが、子猫たちを束ねているうちの一人だということは、雰囲気でわかった。
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