上 下
1,276 / 1,474

なんだかんだと

しおりを挟む
「任せない?後ろにいるヨハン教授に」


 振り返ると、後ろにヨハンがいた。私とは対照的に白衣を着ており、暗闇でもわかりやすい。


「……何を任せられるのかは知らないが、お断りだ!」
「だそうよ?ウィル。どうする?」
「とかいって、なんだかんだと面倒見がいいから大丈夫」
「ヨハンが?」
「教授の助手が」


 あぁと返事をすれば、勝手にしろと言わんばかりだ。これで……この子たちは、何とかなるのだろうか?と少しだけ罪悪感が減る。そうはいっても、公には報告がいるので……年長者のこの少年を公都に連れていかなければならないだろう。


「ところで、何をしているの?」
「何って……定期健診だ。このあたりの村や町の」
「なるほど。いつもありがとう」
「それはいい。それより、そこの!こっちにこい」


 レンジがヨハンに呼ばれて少し離れた場所からこちらに来る。先程までは月明かりの下にいたのに、暗闇になっている。
 のそのそと歩いてくるのを見て、変だと思った。かすり傷はあるが、それ以外のケガはない。


「毒?」
「御明察。どの武器かに塗られていたんだろう?その傷口から毒が回っている。あれだけ切り合っていれば、回りも早いだろう」


 そういって、万能解毒薬をレンジに二本渡すとそれを飲んでいた。余程辛い状況だったのだろう。疑いもせずに飲むなんてありえない。


「……すごい、な。もう、回っていなかった口が」
「麻痺毒だったの?」
「いや、見立てでは、混合だな。麻痺も確かにあるが……」
「トリカブト?」
「よく知っていたな。こちらでは珍しい毒だが?」
「うん、知ってる。ウィル、そのナイフを取って」


 子どもたちが持っていた刃物のうち1つを渡してもらうと、そこに例の花紋が彫られている。


「なるほど。そういうことか。それって、この前壊滅にしたんじゃなかったのか?」
「だからこそ、捨て駒にされたんじゃないの?」
「……頭がいなければ、使うものがいないか。わかりやすい社会だな。で、こいつらの面倒を見るのか?」


 しゃがみ込み、起きている少年の健康状態を見るらしい。ヨハンがペタペタと触っている。何か感じたのか、首を傾げていた。


「お嬢様」
「何?」
「明るい部屋を用意してくれ。少し気になることがある」
「わかったわ!ウィル」
「あぁ、任せておけ。レンジと姫さんは子どもたちを連れてきてくれ。ヨハン教授もか噤んだぞ?」
「……はいはい。任せておけ」


 そういって、ウィルとレンジは二人をずつ、ヨハンが一人、私が少年を歩かせる。一部屋会議室のような場所に入り、燭台に火をともすと明るくなった。夜目で歩いていたので、少々蝋燭の明かりが明るすぎるように感じた。


「……それで?何かあるの?」
「もう一度触診するから、ここに座らせて」


 連れてきた少年を指定視された場所へ座らせる。不安そうにしているが、ヨハンは名医だ。何か体に異変を感じているのだろう。


「ここを触ると痛くないか?」
「……痛い」
「ここは?」
「……そこも」
「他の子らも連れてきてくれ」


 ヨハンに言われ他の子らを机に並べる。ヨハンがあちらこちら触診をしていき、最後の子が終わったあと、首を横に振る。私はその様子に違和感を感じ、どうしたの?と問うた。


「……みな、死期が近いものばかりだ。子どもでも、気が付いているんじゃないか?痛みがあるから」
「どういうこと?」
「こっちにきて、ここを触ってみてくれ」
「何これ!膨らんでいるわ。でも、他は……細い」
「病名まではわからないが、病に侵されている。それも、みなだ。正直、立っていることも不思議だし、ましてやさっきまで戦っていたこと自体が変なんだ」
「……そんな!なんとかできないの?」


 ヨハンならなんとか出来るだろう。まだ、ほんの子どもなのだから。ヨハンは私を見下ろし、首を横に振るだけで何も答えてはくれなかった。


「この子らは、インゼロ帝国のさらに向こうの南の方の住人だな?」
「そう!そうなの。そうなんだけど……」
「その土地固有の病気だ。土地を離れ、環境の違う場所に身をおいたせいで、体が蝕われているんだ。余生を考えて、長くて1年。短くて……明日をもしれぬ。何か痛みを誤魔化すための薬が使われていたはずだ。ここまで、膨らんだ幹部があるなら、激痛だろう?」


 コクと頷く少年に何が処方されているのかとヨハンが尋ねた。すると胸のポケットに入っているというので、漁っている。


「……これって、麻薬?」
「あぁ、コーコナでも使われていたやつだな」
「使用方法によっては、痛みを消すことができるということ?」
「……神経系に作用するものだから、痛いを痛くないと錯覚させるだけだ。使い続ければ幻覚幻聴廃人に。ただ、これを使うということは……助かる見込みは全くないということ。それほどまでに病は進行している」


 ヨハンが下した診断に呆然とした。命を狙ってきたものではあったが、まだ、子どもだ。やり直せる機会もあるだろうと思っていたときだったのだ。


「この状態なら、こちらで預かろう。幸い、薬はある。子らが生きたいと願えば、多少なら寿命は伸びることもある」
「……そう。あなたの名前は?」
「ジミー」
「ジミー、公都への輸送はしない。ヨハンのところで養生しなさい。他の子らの面倒も
 みて、自分ができることを」
「わかっています。この痛みが普通の何かではないとも、他の子らも何かしら異変があったことも。どうせ捨てないといけない命だったから、ここまで来ただけです。どうか、静かに最後を迎えさせてください」
「……わかっていたの?」


 ジミーは頷き、他の子らを見る。年長者らしく、下の子らを心配している様子ではあった。このまま、私には何もしてあげられない。任せたわとヨハンにいえば、わかりましたと返事をしてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

二の舞なんてごめんですわ!

一色ほのか
ファンタジー
その日、一人の少女が断頭台に消えた。少女の名はアリルシェーラ・シュベーフェル。準王族である光属性の大貴族・シュベーフェル家唯一の跡取り娘――だった。異母妹を名乗る、敬愛する父そっくりの容姿をした少女・イヴリンが現れるまでは。――何故。何故なの。何故あの女は私から全てを奪っていくの。父の興味も父が与えてくれた婚約者であるこの国の第二王子も。許せるわけがないじゃない!――そうしてイヴリンを排除しようと動いた結果が、イヴリンに篭絡された第二王子との婚約破棄の上の処刑だった。――あの女さえいなければ。アリルシェーラはイヴリンを憎みながら暗闇へと落ちていく。しかしその最中に不思議な再会をし、目覚めると何故か6歳の頃まで時間が巻き戻っていた!――自らの矛盾と変わっていく流れ。やがて彼女は自分に課せられた役目を知ることとなる。

処理中です...