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十分なお金と新しい住民Ⅴ
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レンジと名乗るその男は、どうやらこの集団の頭のような存在らしい。一度戻ると連れてきた人の中へ戻っていくのを見つめていた。
「不思議な人ですね?」
「そうね。セバスから見てどう?」
「そうだな……ウィルやリリーに近いのかなぁって思うよ。アンナリーゼ様ほどではなくても、人を引き寄せるし、頼りにされる。それに端々まで目が行き届いている感じ?」
「なるほど」
「セバスからは俺もそんなふうに見られていたわけか」
ウィルが近寄ってきて話の輪に入った。どうやら、少し離れた場所からレンジを観察していたようだ。
「確かに、姫さんほどの統率力はなさそうだけど、周りを守っているやつらは、部下だろうな」
「部下ね」
「姫さんたちを襲おうとしたときの連中とは練度が違うと思うけど?」
「わかっているなら、ジョージア様から離れないで?」
「普通、私から離れないで!ウィル様ってなるのが、ご夫人だと思うけど?」
ウィルが冗談まじりにため息をつけると、セバスがその冗談に乗るようだ。
「ウィル様、どうか僕を見捨てないで!ずっとずっと守ってください!」
「……セバス、大丈夫か?仕事、しすぎてないか?熱は……」
「ないよ。失礼な。本気で言っているのに。どう考えたって、僕が1番弱いし、足手まといだし、狙われやすいことはわかっているだろう?」
「まぁな。爵位を持っているけど、帯剣してないのセバスだけだもんな」
「僕には必要ないからね。護身用はあっても、運動音痴の僕に剣が使えると思っている?」
私とウィルは顔を見合わせ、ある出来事を思い出した。忘れもしない学生だったころ。護身用にと貴族は一通りの剣術は習う。
あれは、ナタリーとセバスが対峙したときのこと。一瞬で片が付いたことを思い出した。
「ペンは剣より強しともいうし、僕はこっちでしか役に立たないから」
頭を人差し指でトントンと叩くと頷くしかない。セバスに剣術や馬術を求めるほうがおかしいのだ。妻のダリアもイチアも、両方出来ることは黙っておいた方が、セバスの平和は保たれるだろう。
「期待してるわ」
「私もいざとなったら守って差し上げますわ!」
「……ナタリー、頼むよ」
「本当に姫さんの周りは強いヤツばっかりだな」
「どういうことかしら?ウィル」
「そういうこと。あっちの話は終わったみたいだな。アデルこっちに」
アデルとジョージアを呼び寄せ、ウィルが視線をレンジたちに向けたまま話を続ける。口元はなるべく動かさずにだ。
「一応、姫さんの万能解毒薬はみな持っておいてくれ。何があるかわからない。あと、緊急の場合、俺はジョージア様に、アデルはセバスに、姫さんはナタリーとアイツら頼めるか?」
「任せておいて!」
「アンナリーゼ様だけに負担はさせませんわ!」
「何かあった場合だけだ。ゴールド公爵が刺客を送ってくるとは考えにくいし、インゼロの方もだが、これだけの人数を受け入れるから、万が一もな。子どもだからって気を抜かない。ヒーナのこともあるから」
「……ヒーナは、ヘタしたら子どもですものね。あれで暗殺者……で戦争屋だったなんて」
ウィルがこくっと頷く。この中で1番狙われるのは私だが、私の変わりに狙われやすいのはジョージアの方だ。
「ジョージア様は少し離れていてください。文官の中には、ディルの子猫もいますが」
「わかっている。アンナたちの邪魔にはならないよ」
そういって、アデルと一緒に馬車に向かってくれた。馬車にも子猫が配置されているので大丈夫だろう。
「物騒な世の中になってきたな?」
「まだまだ、平和な方でしょ?」
「確かに。姫さんもジョージア様ものんきにこんな場所にいるくらいだからな」
「それでも、エルドアの一件から、少しずつ何かが崩れていっている気がするのは私だけなのかしら?」
「いや、その勘は間違ってはいないと思う」
ウィルの声音に、私は不安を感じた。こんなチャラけたウィルでも近衛の大隊長なのだ。何か掴んでいることもあるのだろう。
「さぁ、受け入れ準備だ。慎重に頼むよ?みんな」
ウィルの掛け声に頷き、私たちはアンバー領への受け入れの準備を始めた。住民票には隠された理由がもうひとつある。
有事の事態になったときの活用方法があるのだ。例え偽名でも、把握しておくことが大事だ。小鳥の囁きのための資料としても活用する。
「ようこそ、アンバー領へ。こちらから手続きをしてください。一人ずつ、家族単位で。慌てなくていいわ。空いている文官に手続きをしてちょうだい」
声をかけていけば、それぞれ散って手続きをしてくれている。私はその間を行ったり来たりしながら、手続きを見守っていく。順調に進んでいるようで、文官見習いの成長も同時に褒めるべきだと、私は微笑んだ。
「不思議な人ですね?」
「そうね。セバスから見てどう?」
「そうだな……ウィルやリリーに近いのかなぁって思うよ。アンナリーゼ様ほどではなくても、人を引き寄せるし、頼りにされる。それに端々まで目が行き届いている感じ?」
「なるほど」
「セバスからは俺もそんなふうに見られていたわけか」
ウィルが近寄ってきて話の輪に入った。どうやら、少し離れた場所からレンジを観察していたようだ。
「確かに、姫さんほどの統率力はなさそうだけど、周りを守っているやつらは、部下だろうな」
「部下ね」
「姫さんたちを襲おうとしたときの連中とは練度が違うと思うけど?」
「わかっているなら、ジョージア様から離れないで?」
「普通、私から離れないで!ウィル様ってなるのが、ご夫人だと思うけど?」
ウィルが冗談まじりにため息をつけると、セバスがその冗談に乗るようだ。
「ウィル様、どうか僕を見捨てないで!ずっとずっと守ってください!」
「……セバス、大丈夫か?仕事、しすぎてないか?熱は……」
「ないよ。失礼な。本気で言っているのに。どう考えたって、僕が1番弱いし、足手まといだし、狙われやすいことはわかっているだろう?」
「まぁな。爵位を持っているけど、帯剣してないのセバスだけだもんな」
「僕には必要ないからね。護身用はあっても、運動音痴の僕に剣が使えると思っている?」
私とウィルは顔を見合わせ、ある出来事を思い出した。忘れもしない学生だったころ。護身用にと貴族は一通りの剣術は習う。
あれは、ナタリーとセバスが対峙したときのこと。一瞬で片が付いたことを思い出した。
「ペンは剣より強しともいうし、僕はこっちでしか役に立たないから」
頭を人差し指でトントンと叩くと頷くしかない。セバスに剣術や馬術を求めるほうがおかしいのだ。妻のダリアもイチアも、両方出来ることは黙っておいた方が、セバスの平和は保たれるだろう。
「期待してるわ」
「私もいざとなったら守って差し上げますわ!」
「……ナタリー、頼むよ」
「本当に姫さんの周りは強いヤツばっかりだな」
「どういうことかしら?ウィル」
「そういうこと。あっちの話は終わったみたいだな。アデルこっちに」
アデルとジョージアを呼び寄せ、ウィルが視線をレンジたちに向けたまま話を続ける。口元はなるべく動かさずにだ。
「一応、姫さんの万能解毒薬はみな持っておいてくれ。何があるかわからない。あと、緊急の場合、俺はジョージア様に、アデルはセバスに、姫さんはナタリーとアイツら頼めるか?」
「任せておいて!」
「アンナリーゼ様だけに負担はさせませんわ!」
「何かあった場合だけだ。ゴールド公爵が刺客を送ってくるとは考えにくいし、インゼロの方もだが、これだけの人数を受け入れるから、万が一もな。子どもだからって気を抜かない。ヒーナのこともあるから」
「……ヒーナは、ヘタしたら子どもですものね。あれで暗殺者……で戦争屋だったなんて」
ウィルがこくっと頷く。この中で1番狙われるのは私だが、私の変わりに狙われやすいのはジョージアの方だ。
「ジョージア様は少し離れていてください。文官の中には、ディルの子猫もいますが」
「わかっている。アンナたちの邪魔にはならないよ」
そういって、アデルと一緒に馬車に向かってくれた。馬車にも子猫が配置されているので大丈夫だろう。
「物騒な世の中になってきたな?」
「まだまだ、平和な方でしょ?」
「確かに。姫さんもジョージア様ものんきにこんな場所にいるくらいだからな」
「それでも、エルドアの一件から、少しずつ何かが崩れていっている気がするのは私だけなのかしら?」
「いや、その勘は間違ってはいないと思う」
ウィルの声音に、私は不安を感じた。こんなチャラけたウィルでも近衛の大隊長なのだ。何か掴んでいることもあるのだろう。
「さぁ、受け入れ準備だ。慎重に頼むよ?みんな」
ウィルの掛け声に頷き、私たちはアンバー領への受け入れの準備を始めた。住民票には隠された理由がもうひとつある。
有事の事態になったときの活用方法があるのだ。例え偽名でも、把握しておくことが大事だ。小鳥の囁きのための資料としても活用する。
「ようこそ、アンバー領へ。こちらから手続きをしてください。一人ずつ、家族単位で。慌てなくていいわ。空いている文官に手続きをしてちょうだい」
声をかけていけば、それぞれ散って手続きをしてくれている。私はその間を行ったり来たりしながら、手続きを見守っていく。順調に進んでいるようで、文官見習いの成長も同時に褒めるべきだと、私は微笑んだ。
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