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十分なお金と新しい住民Ⅲ
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「お待たせしました」
馬で颯爽と現れたナタリーに、まだ大丈夫よと伝えるとホッとした様子で降りた。馬車の馬と同じところに馬を繋ぎ、私たちの方へ合流する。
「ナタリー様ってすごいですよね?女性で馬を乗りこなすなんて」
アデルが私に耳打ちをしてくるが、それがウィルに聞こえたらしく笑っている。
「何を笑っているの?」
「いや、姫さんは婦女子に含まれないのかと思って。まぁ、俺は含まなくてもいいと思っているけど」
「どういう意味よ?」
「そういう意味?」
クツクツ笑うので睨んでおいたが、それ以上は何も言わないでおいた。私とウィルのやり取りを聞いて、申し訳なさそうにしている人物がいるからだ。
「あの、余計なことを言ってしまったようで……すみません」
謝るアデルに苦笑いしておく。ウィルのいつもの軽口にわざわざ謝る必要もないだろう。
「気にしなくていいわ。言いたいように言わせておいて。友人としての軽口だから、アデルが気にすることもないから」
「そうそう。ナタリーができることなら、たいてい姫さんもできるし。刺繍以外なら!」
「失礼ね!私だってできるわよ!」
「本当に?そんな話聞いたことないけど?」
ニヤニヤしているのが腹立たしい。
そんなにいうなら……作るわ!ビックリするくらいのものを!
私はウィルと名を呼び、笑いかける。良からぬことを考えているとでも思っている表情だが、そういう顔をさせるのは悪い気がしない。だいたい、そんな表情をしたあとは、面倒ごとがウィルにうつるから。
「そんなにいうなら、わかったわ。ウィルに刺繍を渡すわ。そうね……期限は始まりの夜会。どうかしら?」
「いいけど……ナタリーやデリアに手伝ってもらうのはなしだからな?」
「もちろんよ!驚かせてやるんだから!」
得意ではないのは自分でも十分承知しているが、引けない戦いもある。まさに今がそうで、必ずや勝利をものにしなくては、ずっと言われるだろう。私は覚悟を決めた。
「アンナリーゼ様は、存在だけで特別なのですから、ウィルの言うことなんて聞かなくてもいいのですよ?」
「いいえ、売られた喧嘩は買うわ!そして、勝利をこの手に!」
「姫さんって、本当……そういうとこあるよね?」
「……煩いわよ?絶対驚かせてあげるから!」
私は負け犬のようにその場から立ち去る。ナタリーを連れて、ジョージアたちの元へ向かった。きっと、ウィルはニヤついていることだろう。
「あぁ、ナタリー来たのか」
「遅くなりました。話は進んでいるのですか?」
「まだ、肝心の人たちが来ていないから」
「そうでしたか。では、私も話に入りますね」
「ナタリーは工房を作りたいのだったね?」
「そうです。こちらでも作業できるようにと。アンナリーゼ様からいただいたお給金でひとつ工房を建てようかと思っています。今は、領地の新事業として新しいオリーブの町を作っているところですから、そちらに人員が流れていますし、他にも農耕の季節ですから、急ぎませんわ」
ナタリーがしれっと家を建てるというので、ジョージアは驚いている。元々、ウィルやセバスは落ち着いたらアンバー領で屋敷を構えるという話をしてくれていた。ナタリーも言ってはいたが、ジョージアは本気にしていなかったようだ。
「本当に建てるのか?」
「えぇ、いつまでも領地の屋敷で居候というわけにもいきませんし、私にも拠点となる場所は欲しいのです」
「コーコナに作ったんじゃ……」
「あれはあれ、これはこれです。ふたつの領地で作業をしているのです。活動の拠点となるものは二ヵ所に必要ではありませんか?私は、アンナリーゼ様のお側を離れるつもりはありませんよ?」
ナタリーは挑戦的に笑むと、ジョージアのほうがたじろぐ。
「ジョージア様はナタリーが屋敷を持ちたいと考えていたことを本気にされていなかったのですね?困りますよ。ゆくゆくは、ナタリーもアンバー領の住人となってくれるのだから、大切にしないと」
「……ナタリーがか?」
「えぇ、爵位が必要なら、私が用意しましょう。公爵である私は男爵位を渡すことは出来ますから」
「そうすれば……あとは、ナタリーの活躍いかんで爵位があがる……か。どこまで先を呼んでいる?」
「全然、何も。ただ、もっと女性が活躍する国になってほしいと常々思っていますよ?私はたまたま爵位を得られましたが、もっと、いるはずです。ナタリーなら、貴族令嬢ですから、その資格も責務も十分に把握しているでしょう。この国で男性にも負けないほど輝かしい功績を残してほしい……私の願いでもあります。それがきっと、この国の行く先のどこかで花開くと思います」
「アンナリーゼ様が考えていることは私も考えていました。男性優位のこの国で、一人でも多く活躍する女性を応援したいと事業展開しているのです。いつの日か、アンナリーゼ様を旗印にもっと活躍する女性たちが出てきたらいいなと思っていますよ」
誇らし気なナタリーの考えに頷くセバスと戸惑うジョージア。柔軟な考えを言えるナタリーとセバスに旧体制のままで止まっているジョージアに私は伝える。
「公も私を後ろ盾としたのには、そういう思惑があったのではないですか?文官たちの登用も女性は少ないですから」
公が今、どんな考えを持っているかはわからないが、優秀な人材がたくさんいるのだということは気が付いているだろう。私の周りにはそういう人物が多いのだから。この先、どうするかは公次第だが、きっと何かを考えていてくれるのではないかと思っている。
「姫さーんっ!来たぞ!」
ウィルに呼ばれて指さすほうを見ると、約束の彼らがぞろぞろとやってくる。言っていた人数より多く見えるのは子どもが大勢いるからなのだろうかとデコボコの集団を見つめた。
馬で颯爽と現れたナタリーに、まだ大丈夫よと伝えるとホッとした様子で降りた。馬車の馬と同じところに馬を繋ぎ、私たちの方へ合流する。
「ナタリー様ってすごいですよね?女性で馬を乗りこなすなんて」
アデルが私に耳打ちをしてくるが、それがウィルに聞こえたらしく笑っている。
「何を笑っているの?」
「いや、姫さんは婦女子に含まれないのかと思って。まぁ、俺は含まなくてもいいと思っているけど」
「どういう意味よ?」
「そういう意味?」
クツクツ笑うので睨んでおいたが、それ以上は何も言わないでおいた。私とウィルのやり取りを聞いて、申し訳なさそうにしている人物がいるからだ。
「あの、余計なことを言ってしまったようで……すみません」
謝るアデルに苦笑いしておく。ウィルのいつもの軽口にわざわざ謝る必要もないだろう。
「気にしなくていいわ。言いたいように言わせておいて。友人としての軽口だから、アデルが気にすることもないから」
「そうそう。ナタリーができることなら、たいてい姫さんもできるし。刺繍以外なら!」
「失礼ね!私だってできるわよ!」
「本当に?そんな話聞いたことないけど?」
ニヤニヤしているのが腹立たしい。
そんなにいうなら……作るわ!ビックリするくらいのものを!
私はウィルと名を呼び、笑いかける。良からぬことを考えているとでも思っている表情だが、そういう顔をさせるのは悪い気がしない。だいたい、そんな表情をしたあとは、面倒ごとがウィルにうつるから。
「そんなにいうなら、わかったわ。ウィルに刺繍を渡すわ。そうね……期限は始まりの夜会。どうかしら?」
「いいけど……ナタリーやデリアに手伝ってもらうのはなしだからな?」
「もちろんよ!驚かせてやるんだから!」
得意ではないのは自分でも十分承知しているが、引けない戦いもある。まさに今がそうで、必ずや勝利をものにしなくては、ずっと言われるだろう。私は覚悟を決めた。
「アンナリーゼ様は、存在だけで特別なのですから、ウィルの言うことなんて聞かなくてもいいのですよ?」
「いいえ、売られた喧嘩は買うわ!そして、勝利をこの手に!」
「姫さんって、本当……そういうとこあるよね?」
「……煩いわよ?絶対驚かせてあげるから!」
私は負け犬のようにその場から立ち去る。ナタリーを連れて、ジョージアたちの元へ向かった。きっと、ウィルはニヤついていることだろう。
「あぁ、ナタリー来たのか」
「遅くなりました。話は進んでいるのですか?」
「まだ、肝心の人たちが来ていないから」
「そうでしたか。では、私も話に入りますね」
「ナタリーは工房を作りたいのだったね?」
「そうです。こちらでも作業できるようにと。アンナリーゼ様からいただいたお給金でひとつ工房を建てようかと思っています。今は、領地の新事業として新しいオリーブの町を作っているところですから、そちらに人員が流れていますし、他にも農耕の季節ですから、急ぎませんわ」
ナタリーがしれっと家を建てるというので、ジョージアは驚いている。元々、ウィルやセバスは落ち着いたらアンバー領で屋敷を構えるという話をしてくれていた。ナタリーも言ってはいたが、ジョージアは本気にしていなかったようだ。
「本当に建てるのか?」
「えぇ、いつまでも領地の屋敷で居候というわけにもいきませんし、私にも拠点となる場所は欲しいのです」
「コーコナに作ったんじゃ……」
「あれはあれ、これはこれです。ふたつの領地で作業をしているのです。活動の拠点となるものは二ヵ所に必要ではありませんか?私は、アンナリーゼ様のお側を離れるつもりはありませんよ?」
ナタリーは挑戦的に笑むと、ジョージアのほうがたじろぐ。
「ジョージア様はナタリーが屋敷を持ちたいと考えていたことを本気にされていなかったのですね?困りますよ。ゆくゆくは、ナタリーもアンバー領の住人となってくれるのだから、大切にしないと」
「……ナタリーがか?」
「えぇ、爵位が必要なら、私が用意しましょう。公爵である私は男爵位を渡すことは出来ますから」
「そうすれば……あとは、ナタリーの活躍いかんで爵位があがる……か。どこまで先を呼んでいる?」
「全然、何も。ただ、もっと女性が活躍する国になってほしいと常々思っていますよ?私はたまたま爵位を得られましたが、もっと、いるはずです。ナタリーなら、貴族令嬢ですから、その資格も責務も十分に把握しているでしょう。この国で男性にも負けないほど輝かしい功績を残してほしい……私の願いでもあります。それがきっと、この国の行く先のどこかで花開くと思います」
「アンナリーゼ様が考えていることは私も考えていました。男性優位のこの国で、一人でも多く活躍する女性を応援したいと事業展開しているのです。いつの日か、アンナリーゼ様を旗印にもっと活躍する女性たちが出てきたらいいなと思っていますよ」
誇らし気なナタリーの考えに頷くセバスと戸惑うジョージア。柔軟な考えを言えるナタリーとセバスに旧体制のままで止まっているジョージアに私は伝える。
「公も私を後ろ盾としたのには、そういう思惑があったのではないですか?文官たちの登用も女性は少ないですから」
公が今、どんな考えを持っているかはわからないが、優秀な人材がたくさんいるのだということは気が付いているだろう。私の周りにはそういう人物が多いのだから。この先、どうするかは公次第だが、きっと何かを考えていてくれるのではないかと思っている。
「姫さーんっ!来たぞ!」
ウィルに呼ばれて指さすほうを見ると、約束の彼らがぞろぞろとやってくる。言っていた人数より多く見えるのは子どもが大勢いるからなのだろうかとデコボコの集団を見つめた。
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