上 下
1,268 / 1,480

十分なお金と新しい住民Ⅱ

しおりを挟む
「ジョージア様、どうでしたか?」
「あぁ、あの額の金だ。何も言われなかった」
「そうですか。それはいいことなのか悪いことなのか……私からすれば働き手や納税者がいなくなるほうが困ると思うんですけどね?」
「目先にぶら下がった人参の魅力には敵わないということだろう?わかっていってるんだから、うちの奥様のことを何もわかっていない」


 ふふっと笑うと、怖い怖いとアデルに同意を求めているジョージアにどういう意味ですか?と微笑むと何でもないと答えた。私はさっき話したことをジョージアにも報告をする。


「百人か。随分な人数を受け入れるな。大丈夫なのか?」
「えぇ、全然大丈夫ですよ!まだ、南の領地の大集団も受け入れるつもりですから……」
「食糧は足りる?今年はエルドアや南の領地への援助や近隣にも売りさばくんだろう?」
「そうですね」
「他にも、アンナとバニッシュ領との契約もある」
「農作物……麦を言えば、多少余剰になっているのです。まずは、その分の流通から始めるつもりですよ。春の種まきもそろそろ終わりますから」
「農作物は天候やその他にも左右される。そのあたりも……」
「それも踏まえての余剰分です。こうなることは……」


 申し訳なさそうにすると、ジョージアはため息をついた。二期作、多いところで三期作をした昨年の麦の収穫量は通常年の3倍。昔見た『予知夢』の書置きを見て、思い出したのだ。領地改革に踏み出して数年は自領より他領のほうが荒れると言うことをわかっていたから、借りだしている近衛たちまでも使って農耕を手広くしていた。
 それは誰にも言っていなかったが、セバスとイチアには、多すぎると指摘されたいたことを思い出す。


「もしかしなくても、領地の頭脳は気が付いていた?」
「もちろんですよ。種をまくのだって、畑を耕すにも、肥料もいりますし、人もいるから何よりお金がたくさんいるのです。やりくりしている中での出費に気が付かない二人ではありませんよ?」
「……さすyが、アンナの眼鏡にかなう人物は違うな。今の今まで気が付かなかった」
「お金の管理はされてませんから、知らなくて当然ですよ。予算を組んで、どれくらいの規模でどれくらい確保するのか、天候、害獣、災害……いろいろなことを想定して準備しています。南の領地の件は、公も知っているので、備蓄を出してくれるとも言っていましたし」
「国に備蓄など……ないはずだけど?まさか、それも関わっていたりするわけ?」
「もちろんです!公と対等に話せるようになったあたりから備蓄についてはきちんと公と宰相二人に指導しておきましたからね!パルマも進言しているはずですし」
「……どこまで見えているのか」


 ジョージアが頭を軽く振るので苦笑いをする。エルドアや南の領地への支援は数年続く。他にも近隣領地や懇意にしている領主からは穀物の買い取りの話をたくさん受けている。他の領地へ送ってばかりではなく、もちろん、自領も潤っているうえでの政策でなければ、領地は納得いかないだろう。そのあたりは抜かりなく動いている。


「蚊帳の外とはこういうことか」
「ジョージア様がまだ領地のことに関わっていなかったときのことですし……それほど落ち込むことではありませんよ。実際、私だって何もしていないのと同じですから。領地で出来ることをして、私たち以外も幸せになれるなら、これに越したことはないじゃないですか?幸い、作物も育ちやすいわけですし」
「土壌改良を相当しているのは聞いているけど?」
「それだけじゃなく、品種改良もしていますよ?そのための教授ですからね。それぞれの得意分野を集めたのはそれでですから」
「何から何まで……どこまで見えているの?」
「……今は、未来をみることは出来ませんよ。過去の書置きから、予測も含めて考えているだけですから」
「不思議な力だな。何回聞いても」


 そうですねと笑うとちょうど領地の境目に来た。アンバー領の方にはセバスを始めとする領地で教育している学校の生徒を連れてきている。聞き取りをさせるのだろう。


「何から何まで用意周到」
「私だけの力ではないですから。セバス、百人ほどの移動になりそうよ。受け入れはどう?」
「大隊の受け入れ人数の割り振りは考えてあるけど……どの仕事にどれだけの人がいるのかわからないから」
「そういえば、ナタリーは?」
「少し遅れているようですね。そちらは、どうするのですか?」
「もちろん働いてもらうわ!」


 胸を張って言うと、ジョージアもセバスも同時にため息をつく。私は二人に酷くない?と聞いたが答えはあるはずもなく、黙々と仕事の話を始めてしまう。ナタリーのほうでもアンバー領に少し大きめの工房を作りたいと聞いていたので、そちらの話もあるのだろうと考えた。


「私の方がよっぽど蚊帳の外のようよ?」
「姫さんは、デーンと執務室の机に齧りついていたらいいと思うよ?」
「ウィルまで!私だって、やれば出来るのに……どうして昔からいいように言ってくれないのかしらね?」


 ウィルはその場で腕を組んで壁に持たれながら「多くを望みすぎなんじゃない?」と言ってくるが、私の手で守れるだけ守るだけよと入れない和を外から見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...