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十分なお金と新しい住人

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 初めての領地でのお茶会はつつがなく終了した。新しく公都の店で出すお菓子や花茶、私のドレスについては概ね好評だった。私はお茶とお菓子の話をキティに聞かせ、これからの喫茶に向けて打ち合わせをする。


「誕生日会もありましたし、セバス様の結婚式にお茶会とたくさんの試食会が出来てよかったです」
「そうね。ただ、公都に出ていないご婦人たちも中にはいたから……」
「わかっています。どれもが見たこともない珍しいお菓子だったと思います。それでも、おいしいかどうかはわかりますから」
「やっぱり、こっちでは素朴な味が好まれるわね?」
「材料が限られますからね。複雑な味は好まないのかもしれません。このチョコレートなどは中にオレンジ酒が入っていますから」


 レシピを広げて指を添わせている。お菓子のこととなると、雰囲気が変わるキティにありがとうとお礼と謝礼を渡す。ズシリとあるその袋の中身に驚いている。


「新しいお菓子を作るのに使ってちょうだい。楽しみにしているわ!」
「……ありがとうございます。必ず!」


 ニッコリ笑って執務室から出ていくキティを見送ったあと、ジョージアとウィル、アデルが部屋に入ってくる。


「準備は出来たけど、本当にこんなに払うの?」


 執務机に置かれた革袋はさっきキティに渡した謝礼の比ではない。その革袋を見ながら三者三様の表情をこちらに向けてくる。ジョージアは心配そうに、ウィルは苦笑い、アデルはその額に驚いている。


「えぇ、これでおつりはないはずですよ。私の見立てでは、大人子ども合わせて百人規模だと思っていますから」
「……そんなに?このまえの襲撃はそれほどの人数はいなかったんだろう?」
「えぇ、そうですね。でも、それって氷山の一角ですから。釣り合うと思いますよ。その金額で。予定の時間もありますから行きましょうか?」


 ジョージアはお金を持って馬車に乗り、私とアデルは馬にまたがる。馬車のゆっくり走る速度に合わせて歩いた。
 それで、どうするわけ?と聞きたそうにしているウィルにどうとでもなるわよ?と笑い返しておいた。


「無計画ってやつね?」
「失礼ね!お金を用意しているから無計画ではないわよ?」


 返事が返ってくることはなかったが、代わりにアデルが待ち合わせ場所に佇んでいる男性を見つけた。今日はさすがに剣を持っていなかった。緊張した表情をしているということは、答えを持ってきたのだろう。


「ウィルは、ジョージア様の護衛。危なくなったら知らせて!ここはまだ、アンバー領の外れだから、逆らうことができるわ」
「……わかったよ、気を付けてな?」


 行ってきますと声をかけ、馬から降りる。私とアデルが近づいたら驚いた顔をしいる。


「……どこかの貴族なのですか?その服装を見る限り」
「そうね。私を信じてきれくれてありがとう」
「礼なら後だ。話をしたい」
「どれくらいの人がいるの?」
「ざっと百人ほど。俺たちに従うと言っている」
「そっか。わかったわ。ジョージア様に子爵領へ出向いて話をしてきてほしいって伝えてきてくれるかしら?」


 わかりましたとアデルがジョージアたちのいる方へ駆けて行った。仕方がないので、次の私たちはその場でさらに深い話をすることになった。


「今のは?」
「あなたたちの移動資金。移動許可を領主にもらわないと、罰を受けるわ」
「……百任ほどいると言ったよな?そんなお金……俺たちにはない!」
「いらないわ。あれは私の私財だもの。いつかあなたたちが税として返してくれたいいの」
「……税として。やっぱり、そっちでもあるのか?」
「もちろんよ?どの領地でもあるでしょ?多かれ少なかれ」
「……その税が払えなくて逃げようとしているのに」
「逃れられないわ。あなたたちの義務だもの。あの馬車が領主の屋敷についたら、後戻りは出来ないけど、どうする?今なら辞めることもできるわよ?」
「……いあや、このまま行く。でも……」
「心配しなくても、労働の対価で十分税は払える額になっているわ。アンバー領は他より税は安いの」
「……安い?」
「そう。ただ、稼いだものから、稼ぎに応じて税の支払い義務が生じるから、手続きを覚えないといけないど、それはおいおい覚えればいいわ。飢えているのよね?」


 私は男を見据えると悔しそうに唇を噛んだあと頷く。辺境と言えば辺境ではあるが、潤っているはずの領地でも潤っていない領民がいるのだ。当たり前だが、多少なりの貧富の差はあるだろうが、食べられないのは不作が続いているからだそうだ。


「まずは、移動ね。今、ジョージア様が領主に話をつけに行っているから、アンバー領の前まで移動できるかしら?そのあと、大人には何が出来るか聞き取りをするわ。それによって住む場所を言い渡す。同じ土地では暮らせないこともあるということは覚えておいて」
「適材適所ってやつですか?」
「そういうこと。農耕が得意な人を石切りにするのはもったいないし、石切りが出来る人をお店に立たせるのはもったいない。言っておくけど、女性も働いてもらうわよ?」
「そんな……」
「内職程度よ。私のドレスの一部を作るとか、ハニーアンバー店に卸す服の仮縫いをしたりとか。領地ではみんなしていることだから大丈夫よ?領地をひとつの大きな家と考えてほしいの」


 私が笑いかけると、驚いたようにただ見つめるだけの男にしっかりしなさい?と激を飛ばした。
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