ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,265 / 1,513

領地初の大規模お茶会Ⅴ

しおりを挟む
「アンナリーゼ様、楽しそうでしたわね?」


 ナタリーのいるテーブルに向かうとご婦人たちの熱い歓迎を受ける。どうやら、ハニーアンバー店の話でそうとう盛り上がっているようでナタリーは余すことなく話をしているようだ。


「カラマス令嬢は、アンバー領の方ではないのに、とても勉強されていて、感心しますわ」


 ナタリーがアンバー領に住んでいて、ハニーアンバー店に並ぶドレスを作っていることを知らないご婦人が得意げに褒めたたえている。私に微笑みながらも、ナタリーのほうをみれない。


「何か勘違いされていると思いますが……」
「あら?おかしなことを言ったかしら?カラマス令嬢」


 他のご夫人も公都の夜会で見たことがない人ばかりだ。どうやら、令嬢風情がしゃしゃりでるなと言いたいらしいが、ナタリーがそんなご夫人たちに負けるはずもない。


「始まりの夜会やその他でお見かけしないご夫人ばかりではありませんか?お茶会だからっと言って、クローゼットの奥深くから出してきたようなかび臭いドレスに品のない宝石をなさって。今、この国で1番注目度のあるハニーアンバー店のドレスを1度でも見たことがございますか?」
「……それは、まぁ……ありますわよね?」
「そうよね?奥様方」


 このあたりの小物貴族であろう。子爵家令嬢と言えども、ナタリーは今や公都で名だたる貴族婦人に引っ張りだこ。ドレスひとつ見れば、その夫人がどのような存在なのかわかる。


「見たことがあるというのは、愛妾に……」
「ナタリー、そこまでにしなさい」
「……はい」


 肩を落とすナタリーの代わりに、私はご夫人たち花茶を淹れていく。


「アンナリーゼ様は何故カラマス令嬢を側におくのですか?そんな野蛮な……」
「そうですか?ナタリーは気が強くて押しも強いですけど、彼女ほど有名な女性はいませんよ?」
「それはどういう……?」


 訝しむ女性たちに微笑んだ。本当にナタリーがこの国のドレス事情の最先端にいることをしらないようだ。
 ため息をつきたいのをぐっと我慢して、私はおもむろに立ち上がった。


「もしよろしければ、今日の私のドレスについて話をうかがっても?今回は異国の服を少し取り入れたらしいのですが……」
「そのドレスですよね?お会いしてからずっと素敵だなと思っていましたわ!」
「この国のデザインとは少し違うと思っていましたが、異国の服を取り入れていらっしゃるのですね?」
「フワフワと揺れる軽そうな袖が羽根のようで花のようで」
「「「素敵だと思っていたのですよ!」」」


 うっとりしたようにご夫人たちが私のドレスを褒めたたえるので、ナタリーにニコッと笑いかける。私は我慢したのに、ナタリーは大きなため息をついた。


「素敵ですって、ナタリー」
「当たり前です!アンナリーゼ様のために私が作ったのですから。アンナリーゼ様の着るドレスも普段着も私が全て手がけているからこそ、アンナリーゼ様をより一層美しく魅せることができるのでしょ?」
「……カラマス令嬢が作られて……?」
「えぇ、そうですよ。アンナリーゼ様の着るものはどれもこれも私が作っていますわ。それを元に、アンナリーゼ様の邪魔にならないようにと他のデザインも変えていますの」
「……あの全てをですか?」
「もちろんです。私にとって唯一無二の方ですから、それくらい当然ではありませんか。公爵様でもありますから、そのあたりもきっちり弁えていますわ!」


 勝ち誇ったようなナタリーではあるが、今日はお茶会だ。それぞれの辺境伯の夫人と仲良くならないといけないのだが、大丈夫だろうか。


「そのへんにしておいてくれるかしらナタリー。せっかくのお茶会ですから、ゆっくりと談笑を楽しんでほしいの」
「……わかりました。待機しています」
「それにしても、人は見かけによらないものですね。とても素敵なドレスに感心しましたわ」


 おほほほほと誤魔化すような婦人たちにナタリーのすごさを語り始めると、ジョージアがそろそろこっちにも来てくれと呼ばれ、私は最後のテーブルへと向かった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...