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帰る道Ⅱ
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「いい身なりのおねぇさん、こんばんは!」
「今宵はいい星空ですね?」
「そうなんですよ。お声がけするにはぴったりの夜です」
盗賊は優しく笑うので私も微笑んでおく。月がない夜はいつもより暗い上に、勝手知ったるアンバー領ではないので、分が悪いと言えばそうだろう。
「どうせなら、日の当たるところで、その男前なお顔を見てみたかったわ」
「いえいえ、おねぇさんに見せられるほどのもんじゃないですよ」
「本当?私の知っている中で5本の指に入るほど男前だと思うわ」
剣を背中に隠したまま、私は盗賊の男と会話を楽しむ。そんな二人の会話に思わず笑いや声、何かしら音を立てているので確認をしていく。視線は前の男をとらえたまま、耳だけで拾う。
……七人かしら?
後ろ手でアデルに人数を知らせる。わかってくれたかの確認は取れなかったが、大丈夫だろう。もし、見逃していたなら、領地に帰ってからお説教だ。
「おねぇさんの周りにはそんなに色男がいなかったのか?」
「失礼ね!この世で1番美しい男性と結婚したわよ?」
「この世で1番美しいって、アンバー公爵のことか?そんな冗談言っちゃダメだろ?アンバー公爵の妻と言えば、恐妻だと聞く。悪い虫がつこうものなら、片っ端から懲らしめているとか」
どっとその場に笑いが溢れた。どこもかかぁが1番こえぇーって?なんて、言い始める盗賊にふっと笑いが出てしまう。
「おねぇーさん、何笑っているんだ?」
「いや、さっきの話がおもしろくって。アンバー公爵のご夫人は恐妻ですって?」
「そうみんなが言っている。第二夫人を殺したんだろう?」
「あぁ、そういうこと。ソフィアは公開処刑はされなかったのに、よく私が殺したって巷の人は知っているのね?」
「あぁ、そりゃ、公都での話を聞けばわかるだろう?」
「そう。そうよね。公は高い場所から一部始終を見ていただけで、ダドリー男爵へ毒を渡したのも私だったもの」
「そう、わた……く……し?」
「えぇ、私。アンバー公爵夫人の顔も知らずに、よくも言えたものね?」
店先でのことだったので扉が開いたとき、中の明かりが私の顔を照らす。ニッコリ笑いかけると、みるみるうちに目が見開いていく。その驚きようったらおもしろくて仕方がない。
「自己紹介をした方がいいかしら?それとも……痛い目を見てみる?」
「……あぁ、いえ。自己紹介もいいです」
「それじゃあ、痛い目をみる?」
「……それは、もっと遠慮させてください。俺らも生活がかかっているので」
「そう。それは残念。今、あなたたちって盗賊なの?」
私が投げかけた質問に答えられずにいる。盗賊というのは、何個かなる道がある。1番多いのは、食扶持を確保するためというのが多いのだが……どうなんだろうか?
「……盗賊です。警備隊に突き出しますか?」
「急にしおらしくなったわね?」
「……そりゃ、生活苦からなったもんで、突き出されると困るから」
「食べるものがないの?」
「……」
「昔のアンバー領ほどではないでしょ?」
返答のない沈黙のあいだ、私はナイトたち兄弟のことを思い浮かべた。
確か食うに困ってた話しをしていたわ。受け入れるとしても、何人いる?本当に受け入れてもいい人物たちかしら?
頭の中で南の領地でのことを思い出した。彼らの受け入れの話もあったのだと。農業に街道整備に新しい町造りにと人手は足りなかったので受け入れるつもりであった。その連絡もそろそろだろう。南もだいぶ落ち着いたころだろうから。
「それはそうですけど……」
「わかったわ。今日はもう帰りなさい。明日……は忙しいから、明後日!日のあるうちに会いましょう。真っ暗な時間の出会いって本当の心までは読み取れないかもしれないから。お昼にこの場所で。どうかしら?」
「……明後日。俺らを警備隊に突き出すつもりじゃないだろうな?」
「ことと次第ではってこともあり得るわ。あなたたち次第ってところよ」
話は終わりと私は抜いた剣を鞘に戻す。一瞬相手側からは剣が光ったのが見えたことだろう。正直、私の見える範囲で剣を持っているの一人。あとは見覚えある農具や包丁だった。そんなので盗賊をして、どれほどの成果があったのか……はかり知れる。素人らしい動きにも罪というほどの罪を犯しているようには見えなかった。
「……本当に明後日、ここへ来たらその……」
「それはわからないわ。あなたたち次第だって言っているの。私はあなたたちの話をまずは聞きたいし、それからどうするか考えるって言っているの。アンバー領のこと、あまり知らないような感じだけど……、暇なら明日、来てみたらいいわ。アデル」
「はい、アンナ様」
「仮の通行証あったでしょ?」
「はい、それを渡すので?」
「えぇ、1つしかないから、誰か取りに来て。男前さんじゃなくて、そっちの荷物の後ろに隠れている子がいいかな?何もしないから来てちょうだい」
その場にいた他の誰かに相談して通行証を取りに来た。アデルから差し出されたそれをひったくるように持って男前の元へ駆けて行った。それを見届け、レナンテに跨る。行くよとアデルに声をかけて、私たちはその場を早々に離れた。
「今宵はいい星空ですね?」
「そうなんですよ。お声がけするにはぴったりの夜です」
盗賊は優しく笑うので私も微笑んでおく。月がない夜はいつもより暗い上に、勝手知ったるアンバー領ではないので、分が悪いと言えばそうだろう。
「どうせなら、日の当たるところで、その男前なお顔を見てみたかったわ」
「いえいえ、おねぇさんに見せられるほどのもんじゃないですよ」
「本当?私の知っている中で5本の指に入るほど男前だと思うわ」
剣を背中に隠したまま、私は盗賊の男と会話を楽しむ。そんな二人の会話に思わず笑いや声、何かしら音を立てているので確認をしていく。視線は前の男をとらえたまま、耳だけで拾う。
……七人かしら?
後ろ手でアデルに人数を知らせる。わかってくれたかの確認は取れなかったが、大丈夫だろう。もし、見逃していたなら、領地に帰ってからお説教だ。
「おねぇさんの周りにはそんなに色男がいなかったのか?」
「失礼ね!この世で1番美しい男性と結婚したわよ?」
「この世で1番美しいって、アンバー公爵のことか?そんな冗談言っちゃダメだろ?アンバー公爵の妻と言えば、恐妻だと聞く。悪い虫がつこうものなら、片っ端から懲らしめているとか」
どっとその場に笑いが溢れた。どこもかかぁが1番こえぇーって?なんて、言い始める盗賊にふっと笑いが出てしまう。
「おねぇーさん、何笑っているんだ?」
「いや、さっきの話がおもしろくって。アンバー公爵のご夫人は恐妻ですって?」
「そうみんなが言っている。第二夫人を殺したんだろう?」
「あぁ、そういうこと。ソフィアは公開処刑はされなかったのに、よく私が殺したって巷の人は知っているのね?」
「あぁ、そりゃ、公都での話を聞けばわかるだろう?」
「そう。そうよね。公は高い場所から一部始終を見ていただけで、ダドリー男爵へ毒を渡したのも私だったもの」
「そう、わた……く……し?」
「えぇ、私。アンバー公爵夫人の顔も知らずに、よくも言えたものね?」
店先でのことだったので扉が開いたとき、中の明かりが私の顔を照らす。ニッコリ笑いかけると、みるみるうちに目が見開いていく。その驚きようったらおもしろくて仕方がない。
「自己紹介をした方がいいかしら?それとも……痛い目を見てみる?」
「……あぁ、いえ。自己紹介もいいです」
「それじゃあ、痛い目をみる?」
「……それは、もっと遠慮させてください。俺らも生活がかかっているので」
「そう。それは残念。今、あなたたちって盗賊なの?」
私が投げかけた質問に答えられずにいる。盗賊というのは、何個かなる道がある。1番多いのは、食扶持を確保するためというのが多いのだが……どうなんだろうか?
「……盗賊です。警備隊に突き出しますか?」
「急にしおらしくなったわね?」
「……そりゃ、生活苦からなったもんで、突き出されると困るから」
「食べるものがないの?」
「……」
「昔のアンバー領ほどではないでしょ?」
返答のない沈黙のあいだ、私はナイトたち兄弟のことを思い浮かべた。
確か食うに困ってた話しをしていたわ。受け入れるとしても、何人いる?本当に受け入れてもいい人物たちかしら?
頭の中で南の領地でのことを思い出した。彼らの受け入れの話もあったのだと。農業に街道整備に新しい町造りにと人手は足りなかったので受け入れるつもりであった。その連絡もそろそろだろう。南もだいぶ落ち着いたころだろうから。
「それはそうですけど……」
「わかったわ。今日はもう帰りなさい。明日……は忙しいから、明後日!日のあるうちに会いましょう。真っ暗な時間の出会いって本当の心までは読み取れないかもしれないから。お昼にこの場所で。どうかしら?」
「……明後日。俺らを警備隊に突き出すつもりじゃないだろうな?」
「ことと次第ではってこともあり得るわ。あなたたち次第ってところよ」
話は終わりと私は抜いた剣を鞘に戻す。一瞬相手側からは剣が光ったのが見えたことだろう。正直、私の見える範囲で剣を持っているの一人。あとは見覚えある農具や包丁だった。そんなので盗賊をして、どれほどの成果があったのか……はかり知れる。素人らしい動きにも罪というほどの罪を犯しているようには見えなかった。
「……本当に明後日、ここへ来たらその……」
「それはわからないわ。あなたたち次第だって言っているの。私はあなたたちの話をまずは聞きたいし、それからどうするか考えるって言っているの。アンバー領のこと、あまり知らないような感じだけど……、暇なら明日、来てみたらいいわ。アデル」
「はい、アンナ様」
「仮の通行証あったでしょ?」
「はい、それを渡すので?」
「えぇ、1つしかないから、誰か取りに来て。男前さんじゃなくて、そっちの荷物の後ろに隠れている子がいいかな?何もしないから来てちょうだい」
その場にいた他の誰かに相談して通行証を取りに来た。アデルから差し出されたそれをひったくるように持って男前の元へ駆けて行った。それを見届け、レナンテに跨る。行くよとアデルに声をかけて、私たちはその場を早々に離れた。
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