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彼女はご満悦
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「アンナ様!もう少し行ったら領地の境になりますよ!」
「そうね。ジョージア様には内緒にしておいて。もう少し先まで行くわ!」
私とアンジェラはレナンテの背で風で髪を靡かせて駆けている。といっても、レナンテが本気を出して走ってしまうと、アデルの馬がついてこれなくなるので抑えてはいた。
「いいですけど、いいんですか?明日はお茶会があるって」
「そうね。敵情視察と洒落こみましょう。たぶん、領主たちは境の町で泊っているはずだから」
「はず……でいくのですか?」
「えぇ、ちらっと見たいのよ」
領地の境に来たので、「ちょっと出てくるね!」と警備隊に声をかけると、まさか私がこんな時間に来るとは思っていなかった警備隊員たちが、ざわついた。
「えっ?アンナリーゼ様ですか?」
「うん、少しだけ隣の領地に行きたいの。通してくれる?」
「もちろんです!」
「お気をつけて!」と見送ってくれる警備隊員にアンジェラが手を振ったものだから、数人の警備隊員が直角に頭を下げていた。
「街道整備も終わっていることだし、きっと明日は驚く領主たちも多いはず」
「そうでしょうね。私ですら驚いてますから……アンナ様に付いて領地を離れた隙に、領地がドンドン変わっていくことを密かに楽しみにしていたりします」
「そうなの?」
「えぇ、そうですよ。いきなり水車を作り始めたときなんて、驚きすぎてイチアさんに何度も何を作っているかと聞いてしまったり……実物を見ていたとしても、新しいことを受け入れていく領地はすごいなと思います。領主一人で、これほど領地が変わるとは思いもしていませんでした」
「アデル、それは違うわ。私が変えたんじゃないの。みんなが領地を変えたい、変わりたいって願ったから、アンバー領は劇的に変わった。私はただの発起人ってだけよ」
「さぁ、町に着いたわ!」
アンバー領から出れば、そこはまだ舗装のされていない道だ。土埃をかぶりながらも隣の領地の町へと辿り着いた。
「アンジェラはここに来たのは初めてかしら?」
「初めて!暗いね?」
「町の明かりが少ないからね」
「そういえば、アンバー領は明るいですよね?」
「えぇ、防犯も兼ねて、外灯を設置しているから。お店の明かりもあるし……公都にも負けないくらい明るいはず」
「確かに。それが普通に思っていたので、この暗さには驚きました」
「夕暮れ時に出かけることもほとんどないものね。他領での活動なんて、アデルはもう何年もしていないのではなくて?」
私の問いかけに、空を見て考えていた。アンバー領に来て、2年ほど経つだろう。私の護衛も兼ねているのでコーコナに行くこともあるが、基本的に移動は昼間。夜は宿屋の中で過ごすことが多いので、アデルにとってアンバー領が当たり前になっているようだ。
「そうですね。アンバー領へ来る前は、公都の警備をしていましたし、地方へ出たのは演習のときくらいになりますね。いつの間にか、アンバー領が私の住み家として定住地になっているようです。アンバー領の当たり前は、この国ではまだ当たり前ではないのですね。どれほど恵まれているのか……実感しました」
「恵まれているかどうかは、アデルの心が感じるところだからわかないけど……、領地改革を進めてきて、こうして他領と比べられるものがあれば、目に見えてわかるからいいわね」
「ママ、あのお店……」
暗くなった道で明かりがついている店があった。私はアデルに視線を送ってその店へ向かうことにした。
「食事処ですね?この時間でも賑わっている」
「ちょうど、時間的には食事の時間ですもの。確かに賑わっているようにこちらから見れば見えるけど、奥のほうは空席が目立つわね」
「食事は家でという人が多いのではないですか?」
「たしかに。家族で食卓を囲んで食べるご飯は美味しいもの」
「アンナ様は、なるべく朝と夕は食事の時間を揃えるようにしていますものね」
「よく見ているわね?」
クスクスと笑うと、アンジェラが私の服を引っ張った。男装しているとはいえ、狩りに向かう予定だけしか考えていなかったので、少し考えた。
「何か飲み物だけ買ってきますから、ここで待っていてくれますか?」
「えぇ、お酒以外でお願いね!」
わかっていますとだけ残して馬からするりと降りて行ってしまった。私も馬から降りて、アデルの馬の手綱も持つ。アンジェラと二人で暗い路地で待っていると、アンジェラがbぽつりと暗いねという。
子どもながらにアンバー領との違いに驚いているようだ。心細かったのか、私の手をギュっと握ってくるので、大丈夫だよと微笑む。
こちらをじっと見つめてくるアンジェラの瞳は、今夜の満月のような色をしており優しい。
私はジョージアと同じその瞳を見つめ、不安そうにしているアンジェラに大丈夫だよと呟き、安心させた。アデルが戻ってきたときには、アンジェラもいつものように笑い、飲み物を手にする。アンバー領へ帰る前にその場で少し休憩をとることにした。
「そうね。ジョージア様には内緒にしておいて。もう少し先まで行くわ!」
私とアンジェラはレナンテの背で風で髪を靡かせて駆けている。といっても、レナンテが本気を出して走ってしまうと、アデルの馬がついてこれなくなるので抑えてはいた。
「いいですけど、いいんですか?明日はお茶会があるって」
「そうね。敵情視察と洒落こみましょう。たぶん、領主たちは境の町で泊っているはずだから」
「はず……でいくのですか?」
「えぇ、ちらっと見たいのよ」
領地の境に来たので、「ちょっと出てくるね!」と警備隊に声をかけると、まさか私がこんな時間に来るとは思っていなかった警備隊員たちが、ざわついた。
「えっ?アンナリーゼ様ですか?」
「うん、少しだけ隣の領地に行きたいの。通してくれる?」
「もちろんです!」
「お気をつけて!」と見送ってくれる警備隊員にアンジェラが手を振ったものだから、数人の警備隊員が直角に頭を下げていた。
「街道整備も終わっていることだし、きっと明日は驚く領主たちも多いはず」
「そうでしょうね。私ですら驚いてますから……アンナ様に付いて領地を離れた隙に、領地がドンドン変わっていくことを密かに楽しみにしていたりします」
「そうなの?」
「えぇ、そうですよ。いきなり水車を作り始めたときなんて、驚きすぎてイチアさんに何度も何を作っているかと聞いてしまったり……実物を見ていたとしても、新しいことを受け入れていく領地はすごいなと思います。領主一人で、これほど領地が変わるとは思いもしていませんでした」
「アデル、それは違うわ。私が変えたんじゃないの。みんなが領地を変えたい、変わりたいって願ったから、アンバー領は劇的に変わった。私はただの発起人ってだけよ」
「さぁ、町に着いたわ!」
アンバー領から出れば、そこはまだ舗装のされていない道だ。土埃をかぶりながらも隣の領地の町へと辿り着いた。
「アンジェラはここに来たのは初めてかしら?」
「初めて!暗いね?」
「町の明かりが少ないからね」
「そういえば、アンバー領は明るいですよね?」
「えぇ、防犯も兼ねて、外灯を設置しているから。お店の明かりもあるし……公都にも負けないくらい明るいはず」
「確かに。それが普通に思っていたので、この暗さには驚きました」
「夕暮れ時に出かけることもほとんどないものね。他領での活動なんて、アデルはもう何年もしていないのではなくて?」
私の問いかけに、空を見て考えていた。アンバー領に来て、2年ほど経つだろう。私の護衛も兼ねているのでコーコナに行くこともあるが、基本的に移動は昼間。夜は宿屋の中で過ごすことが多いので、アデルにとってアンバー領が当たり前になっているようだ。
「そうですね。アンバー領へ来る前は、公都の警備をしていましたし、地方へ出たのは演習のときくらいになりますね。いつの間にか、アンバー領が私の住み家として定住地になっているようです。アンバー領の当たり前は、この国ではまだ当たり前ではないのですね。どれほど恵まれているのか……実感しました」
「恵まれているかどうかは、アデルの心が感じるところだからわかないけど……、領地改革を進めてきて、こうして他領と比べられるものがあれば、目に見えてわかるからいいわね」
「ママ、あのお店……」
暗くなった道で明かりがついている店があった。私はアデルに視線を送ってその店へ向かうことにした。
「食事処ですね?この時間でも賑わっている」
「ちょうど、時間的には食事の時間ですもの。確かに賑わっているようにこちらから見れば見えるけど、奥のほうは空席が目立つわね」
「食事は家でという人が多いのではないですか?」
「たしかに。家族で食卓を囲んで食べるご飯は美味しいもの」
「アンナ様は、なるべく朝と夕は食事の時間を揃えるようにしていますものね」
「よく見ているわね?」
クスクスと笑うと、アンジェラが私の服を引っ張った。男装しているとはいえ、狩りに向かう予定だけしか考えていなかったので、少し考えた。
「何か飲み物だけ買ってきますから、ここで待っていてくれますか?」
「えぇ、お酒以外でお願いね!」
わかっていますとだけ残して馬からするりと降りて行ってしまった。私も馬から降りて、アデルの馬の手綱も持つ。アンジェラと二人で暗い路地で待っていると、アンジェラがbぽつりと暗いねという。
子どもながらにアンバー領との違いに驚いているようだ。心細かったのか、私の手をギュっと握ってくるので、大丈夫だよと微笑む。
こちらをじっと見つめてくるアンジェラの瞳は、今夜の満月のような色をしており優しい。
私はジョージアと同じその瞳を見つめ、不安そうにしているアンジェラに大丈夫だよと呟き、安心させた。アデルが戻ってきたときには、アンジェラもいつものように笑い、飲み物を手にする。アンバー領へ帰る前にその場で少し休憩をとることにした。
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