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仁王立ちの彼女

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 話をしながら岐路につく。結局、レオに獲物はなし、ウィルははなから狩りの気もなかったので、獲物は私が最初に狩った鹿だけだった。レオに獲物を狩る行為より、捌く方を教えたかったので、実際はよかったのかもしれない。余った肉はデリアがきちんと管理してくれているので、屋敷に戻ってからも食べられるだろう。

 馬の背に揺られていると、ここ数日の忙しさを忘れそうだった。明日はお茶会があるし、もう少ししたら公都へ帰る日も迫ってはいた。アンバー領の長閑な風景の中、地面に4つの影があり、それを目で追いかけた。


「そういや、なんで今日は狩りだったんだ?」
「……私の息抜き」
「私のって、姫さん?」
「ここ数日立て込んでたでしょ?レナンテに揺られて現実逃避をしたかったの」
「わからなくもないけど、ジョージア様もセバスやナタリー、その他の侍従たちは動き回っているんだぞ?」


 ウィルの言いたいことはわかる。ただ、少し人のいないところへ逃げたかった。『社交界の華となれ!』とそだった私ですら、緊張の糸が途切れてしまったのだ。ジョージアには明日のお茶会で頑張ることを条件に今日は時間をもらった。狙われているであろう子どもたちは連れていけなかったので、代わりにレオを誘ったのだ。


「知っているし、許可は取ってあるわ。少しだけ、休ませてほしかったの」


 ウィルの声は子どもを叱るようで逃げた私を多少なりと責めていた。それでも、今日だけはともう一度呟いた。


「姫さんが、そんななっているのは、先日の襲撃の件?」
「……ウィルは何でもお見通し?」
「そういうわけじゃないけど、あの襲撃がソフィアの執事だと言うなら、わからなくもないんだ。あれから3年か?」
「……もう、それくらいになるのかしら。男爵家を潰してから」
「あれは、間違っていなかったし、今、命を狙われているのは姫さんなんだよ?自覚はある?」


 ウィルのほうは見ずに静かに頷く誕生日会での襲撃は、ジョージを誘拐する目的と私の目に触れるために来たのだと予測した。

 ……私の命は、まだ、先のはず。『予知夢』が見れなくなった今、この手の対策は正直難しいわ。アンジェラがもう少し大きければ聞けるのだど、まだ、状況の理解も把握したことの言語化が難しいのよね。


「俺らは姫さんを奪われるわけにはいかないんだ。この前の武人は俺より出来る。暗殺者たちの中で姫さんの命を狙うことについての協定があったとしても、強い念を持った執事には関係のないこと。こんな人気のない場所は、本来避けてほしい」
「……わかった。控えるわ」
「それなら、もう少し、護衛の数を増やしたらどう?」
「……それは無理。私を守るより、優先されるべき人がいるから」
「ジョージア様とお嬢なのはわかるけど、姫さんももっと自分を大事にして」
「いつも聞いているわ。ウィルからだけでなく、たくさんの人から」


 それならとウィルが珍しく感情的で、レオもデリアも驚いている。


「ウィル様、それくらいになさってください。アンナ様が考えていないわけではありませんから」
「……わかってる。わかったうえで、今の自分だから。屋敷に戻るまでのあいだ、少しだけね?」


 説得のかいがあってか、ウィルは折れてくれた。逃げても戻ってくるとみんなは考えてくれているようだ。


 私たちが話し込んでいるあいだに領地の屋敷へついたようだった。正面玄関に小さな影と大きな影があるのを見つけた。
 小さな影は私を睨んでる。


「ただいま!」

 仁王立ちしたそれに苦笑いをする。ずっと、私の帰りを待っていたようだ。


「お帰り、ママ」
「あら、アンジェラはご機嫌斜め?」


 後ろにいるアデルが困った表情をしている。「あまり目立たないようにしてください!」子猫たちに言われているのだろう。
 アンジェラのご機嫌を取るのはひとつしかないのだが、チラリとウィルを見た。

 また、よからぬことを考えていてるとウィルに責められた。が、いつものことだ。アンジェラのご機嫌斜めのまま屋敷で寛ぐことは出来ないので私は手招きをしたのである。
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