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アンナがダメなら

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「それを突き詰めていくと……」
「いくと?」
「アンナがダメなら、誰も敵わないってことじゃないの?」
「確かにそうですわね?」
「姫さんは鍛えているとはいえ、全盛期といえる10代に比べれば、筋力も落ちているし、事務仕事ばかりだからねぇ?」
「……返す言葉もありません」


 ジョージアがこちらを見て、どういうことか?と問いかけている。


「いつもウィルと勝負をするとき、手を抜いているわけじゃないんだけど、毎日剣を振っていた……」
「振り回してたの間違いでしょ?」
「……振り回していた頃に比べると、さすがに、弱くなったかなって」
「でも、毎朝レオに稽古をつけているんじゃないの?」
「ジョージア様、稽古は稽古ですよ。指導のほうを優先にしているから、姫さんのほうにはそれほどの効力はない」
「……そんなものなの?ウィル」
「あぁ、そうだ。全く握らないよりかはいいけど、姫さんの求める強さからは程遠い」
「求める強さ……」
「理想の強さがそれぞれにあるんだ。俺は、姫さんを越えるっていうのが追い求めているもので、姫さんは侯爵夫人だろ?」


 ウィルに言われ頷く。母の年でも私以上に輝いているのだ。子育てや社交のあいだにも研鑽を積んで今でも強い母は私の追い求めるものだった。


「お義母様か。確かにお強いと聞いたことがあるが……」
「ウィルなら瞬殺だよね?今でも」
「確かに……俺、一度も戦ったことはないけど」


 笑っているが、私の叔父とは戦ったことがある。それを考えれば、どれほどの強さなのかはわかっただろう。


「アンナの叔父も強いのか……そうすると、俺は……」
「大丈夫ですよ。何かあれば、私が守りますから。それが私の役割で、ジョージア様はジョージア様の役割がありますから」
「姫さんにずっと聞こうと思っていたんだけど……」
「何?」


 ウィルが真剣な目を私に向けてくるので聞き返した。セバスやナタリーも同様に見つめてくる。


「もし、今、何かが起こったとしたら……公爵であるお二人のどちらかが戦線に出ることになるけど、どちらが行くの?」


 私はジョージアを見た。ジョージアも私を見ている。


「考えたこともなかったわ。辺鄙なアンバー領には、そういう兵役のようなものは課せられないから。でも、そうね……アンバー領も栄えてきた今、私とジョージア様のどちらかは戦線に向かうことになるわね」
「そう。その場合」
「迷うことなく、私でしょう?ジョージア様は、アンバー領のあるべき領主だもの。本来は、ジョージア様が向かわないといけないのだろうけど、私の首の方が価値があるってなれば、自ずと決まっているものよ。ゴールド公爵あたりも、今度ローズディアに何かあれば、迷うことなく私を指名するでしょう。侯爵家の小娘ごとき、ゴールド公爵にどうにか出来ないものではないわ」
「後ろ盾に公がいても、公爵家として責務を渡されるのですか?」


 表情が強張ったナタリーに優しく微笑む。貴族は領民の税でいい暮らしをしている。だからこそ、何かあれば体をはるのは当然のことで、同じ爵位持ちなら、仮初の私が適任なのだ。


「もちろんよ!むしろ、公からそんな話をされることになるわ。戦線へ向かえば、何があるかわからない。それこそ死んで帰ってくることもあるだろうし、私の身は女であるから、何をされるかわかったものではないけど……勝てば莫大な富と名誉が手に入るから、向かわせないわけにはいかないのよ。公の後ろ盾であればあるほど、それからは逃げ出せないっていうのが本当のところ。小競り合いくらいなら、私たち貴族が出ていくこともないけど、そうも言ってられない本格的な戦争となれば、話は別なのよね」
「……そんな、アンナリーゼ様」
「ナタリーのお兄様も同じでしょ?私だけ免除されることはない。もし、そんなことがあれば、ジョージア様は見送ってくださいますか?」


 ジョージアのほうをみれば、視線を合わせようとしない。頭で理解をしていても、感情が追いつかないのだろう。


「もしもの話ですから。それを回避することが、何より重要なのです。戦争なんて、おこさないほうがいいに決まっていますから」
「戦争でもらえるのは、戦場となった激戦区の土地や捕虜、賠償金があるけど、それより、誰かの大切な人をそんな場所に送りたくない……アンナリーゼ様と僕は常々考えているんだよ」
「セバスって、頼りなさそうに見えて、実は結構な働きをしていることがあるわよね?」


 ナタリーにからかわれているが、情報戦の要はやはりセバスなのだ。今度は補佐的にダリアも少しずつそういったことにその才能を生かすことになるとは想うが……まだ、先の話だろう。


「さて……私も本格的に鍛えるほうこうに考えないといけませんね」
「俺がつきあうよ?」
「ウィルは遠慮しておくわ!」


 ニコニコと申し出を断り、私たちの今後を考える時間として夜が深くなるまで議論を続けたのであった。
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