1,219 / 1,480
お誕生日会の目玉
しおりを挟む
農家からの一報が来れば、春の種まきの季節になる。今年は少し早い時期に麦を蒔くことになったと連絡がきた。
「何かあるのかしら?」
私はその一報を読みながら、知らせを持ってきてくれたリリーに尋ねる。リリーもオリーブの町を作るのに忙しいはずなのに、こちらへの定期連絡にも足しげく通ってくれている。
「何って、アンジェラお嬢様の誕生日会とセバスチャンさんの結婚式があるじゃないですか?」
「えっ?でも……」
「アンジェラお嬢様の誕生日会はどの地域でもお祭りですからね。みんな気合を入れて準備しています」
「いつもそうだよね。領地のみんなに祝われて幸せだよね」
「一部商魂たくましいものもいますけどね?」
私の方を見て苦笑いしているので、私のことを指しているのだろう。領地は1つのお店なのだから、売上に貢献してもらいたい。他の領地から来るものには多少の場所代も多く貰っていることをリリーは知っているのだろう。
「領地が潤えばいいのよ。お祭りには、そういう打算も必要なの」
「確かに。お祝いだからと領主様ばかりの負担では領地が傾きますからね!」
「……ほとんど、私のポケットから出てたけどね?領主主催のぶんについては」
「なるほど……守銭奴のように取り立てないと割に合わないですね?」
ニコニコとお互い笑顔をぶつけて笑いあった。
「今年は何か目玉になるものをするのですか?」
「そうね。セバスの結婚式もあるから、貴族が来る予定なのよ。あえて誕生日会は領民が娘を祝ってくれるものだからと通達はしてあるけど……」
「何かあっては困るということですね?」
「そう。近衛の制服を着てウィルには歩いてもらう予定だけど、警備隊のほうもお願いしたいわ」
「わかりました。少し多めに検討するよう声をかけておきます」
「ありがとう。そうそう、目玉にするものはね……甘いものの食べ比べをしようかと思っているの!」
「甘いものですか?」
「えぇ。うちにはキティというお菓子職人がいるのだけど、他にデリアとリアンが出してくれる予定になっているのよ!」
「……アデルが張り切りそうですね?」
「あっ、わかる?」
当日のアデル様子をそれぞれが想像してクスクス笑ったり呆れたりしている。
「そういえば、デリアというと……アンナ様の専属侍女ですか?」
「そうよ!育児で休んでいたんだけど復帰したわ」
「復帰早々、大任ですね?その……どうですか?首尾は」
「ふふっ、これを食べてみて!」
差し出したお菓子を口に入れるリリー。甘いのは苦手だったはずだと記憶していたので、控えた焼き菓子をおくと、少し困った表情をしたのち、パッとはじけたような表情をする。
「どう?おいしいでしょ?」
「本当ですね。甘すぎず……ちょうどいい。これは、旦那様向けのお菓子ですか?」
「そうね。うちのこたちは甘すぎるくらいのほうが好きだから……」
「確かに、少し大人な味がします。それにしても、見事なものですね……。侍女ってお菓子も焼けるのですか?」
「デリアが特殊なだけだと思うわ。リアンもある意味特殊ね」
「……アンナ様の周りには、普通の人がいないのですか?私みたいな」
「……リリーも十分特殊だと思うよ?」
心外です!とでも言いたげな表情にニコッと笑いかけ、思い出してごらん?というと、何も思い足りませんとピシャリと言われてしまった。
「……リリーは、人に好かれるでしょ?気難しそうな人でもすぐに打ち解ける。それも才能だし、なんでも器用にこなせるところとか素敵だと思うわ!」
「ただの器用貧乏です」
「ただのじゃないから特殊なのよ。なんたって、私が認める以上、特殊な人間なのよ」
複雑そうな表情をするリリーを睨むとと、そういうことにしておきますと不服そうに言っている。本当のことなのだから、自覚してくれてもいいだろう。
「デリアは今後専属侍女として復帰するけど、私の周りが少しばかり変わっていることもあるから、その都度、教えを乞うこともあると思うの。よろしくお願いできるかしら?」
「そんなこと、頼まれなくてもですけど、私なんて頼ってくるとは思いませんよ?」
「そんなことないわよ。リアンがいなくなって、私には専属侍女がいなくなったおかげで、ルールも変わっているみたいなの。今はそれを勉強し直しているって感じらしいわ」
「それじゃあ、いつも侍る形になるのですか?」
「そうね、そうなるわ。私にとってはいつもの光景。でも、新しく領地からも拾い上げているから、そのあたりは難しそうね」
「なるほど……ところで、デリアはどこに?」
「今はお菓子を作っているわ。さっきも言ったでしょ?誕生日会の目玉に甘いものの食べ比べように厨房に籠っているわ」
「なるほど……もう、すぐですもんね」
リリーは納得したと頷き、私は手前にあるお菓子をハンカチに包んだ。不思議そうに見ていたのだが、リリーに手を出すようにいい、手の上におく。とても驚いていた。
「少ないけど……みんなで食べて!味は保証するから」
「さっきいただきましたから大丈夫ですよ!」
報告をしに来てくれたリリーはハンカチにくるんだ焼き菓子を持って執務室から出ていく。チラリと見えたが少し口角があがっていたので、焼き菓子を気に入ってくれたのだろう。嬉しそうに持って帰ったリリーを見送った。
「何かあるのかしら?」
私はその一報を読みながら、知らせを持ってきてくれたリリーに尋ねる。リリーもオリーブの町を作るのに忙しいはずなのに、こちらへの定期連絡にも足しげく通ってくれている。
「何って、アンジェラお嬢様の誕生日会とセバスチャンさんの結婚式があるじゃないですか?」
「えっ?でも……」
「アンジェラお嬢様の誕生日会はどの地域でもお祭りですからね。みんな気合を入れて準備しています」
「いつもそうだよね。領地のみんなに祝われて幸せだよね」
「一部商魂たくましいものもいますけどね?」
私の方を見て苦笑いしているので、私のことを指しているのだろう。領地は1つのお店なのだから、売上に貢献してもらいたい。他の領地から来るものには多少の場所代も多く貰っていることをリリーは知っているのだろう。
「領地が潤えばいいのよ。お祭りには、そういう打算も必要なの」
「確かに。お祝いだからと領主様ばかりの負担では領地が傾きますからね!」
「……ほとんど、私のポケットから出てたけどね?領主主催のぶんについては」
「なるほど……守銭奴のように取り立てないと割に合わないですね?」
ニコニコとお互い笑顔をぶつけて笑いあった。
「今年は何か目玉になるものをするのですか?」
「そうね。セバスの結婚式もあるから、貴族が来る予定なのよ。あえて誕生日会は領民が娘を祝ってくれるものだからと通達はしてあるけど……」
「何かあっては困るということですね?」
「そう。近衛の制服を着てウィルには歩いてもらう予定だけど、警備隊のほうもお願いしたいわ」
「わかりました。少し多めに検討するよう声をかけておきます」
「ありがとう。そうそう、目玉にするものはね……甘いものの食べ比べをしようかと思っているの!」
「甘いものですか?」
「えぇ。うちにはキティというお菓子職人がいるのだけど、他にデリアとリアンが出してくれる予定になっているのよ!」
「……アデルが張り切りそうですね?」
「あっ、わかる?」
当日のアデル様子をそれぞれが想像してクスクス笑ったり呆れたりしている。
「そういえば、デリアというと……アンナ様の専属侍女ですか?」
「そうよ!育児で休んでいたんだけど復帰したわ」
「復帰早々、大任ですね?その……どうですか?首尾は」
「ふふっ、これを食べてみて!」
差し出したお菓子を口に入れるリリー。甘いのは苦手だったはずだと記憶していたので、控えた焼き菓子をおくと、少し困った表情をしたのち、パッとはじけたような表情をする。
「どう?おいしいでしょ?」
「本当ですね。甘すぎず……ちょうどいい。これは、旦那様向けのお菓子ですか?」
「そうね。うちのこたちは甘すぎるくらいのほうが好きだから……」
「確かに、少し大人な味がします。それにしても、見事なものですね……。侍女ってお菓子も焼けるのですか?」
「デリアが特殊なだけだと思うわ。リアンもある意味特殊ね」
「……アンナ様の周りには、普通の人がいないのですか?私みたいな」
「……リリーも十分特殊だと思うよ?」
心外です!とでも言いたげな表情にニコッと笑いかけ、思い出してごらん?というと、何も思い足りませんとピシャリと言われてしまった。
「……リリーは、人に好かれるでしょ?気難しそうな人でもすぐに打ち解ける。それも才能だし、なんでも器用にこなせるところとか素敵だと思うわ!」
「ただの器用貧乏です」
「ただのじゃないから特殊なのよ。なんたって、私が認める以上、特殊な人間なのよ」
複雑そうな表情をするリリーを睨むとと、そういうことにしておきますと不服そうに言っている。本当のことなのだから、自覚してくれてもいいだろう。
「デリアは今後専属侍女として復帰するけど、私の周りが少しばかり変わっていることもあるから、その都度、教えを乞うこともあると思うの。よろしくお願いできるかしら?」
「そんなこと、頼まれなくてもですけど、私なんて頼ってくるとは思いませんよ?」
「そんなことないわよ。リアンがいなくなって、私には専属侍女がいなくなったおかげで、ルールも変わっているみたいなの。今はそれを勉強し直しているって感じらしいわ」
「それじゃあ、いつも侍る形になるのですか?」
「そうね、そうなるわ。私にとってはいつもの光景。でも、新しく領地からも拾い上げているから、そのあたりは難しそうね」
「なるほど……ところで、デリアはどこに?」
「今はお菓子を作っているわ。さっきも言ったでしょ?誕生日会の目玉に甘いものの食べ比べように厨房に籠っているわ」
「なるほど……もう、すぐですもんね」
リリーは納得したと頷き、私は手前にあるお菓子をハンカチに包んだ。不思議そうに見ていたのだが、リリーに手を出すようにいい、手の上におく。とても驚いていた。
「少ないけど……みんなで食べて!味は保証するから」
「さっきいただきましたから大丈夫ですよ!」
報告をしに来てくれたリリーはハンカチにくるんだ焼き菓子を持って執務室から出ていく。チラリと見えたが少し口角があがっていたので、焼き菓子を気に入ってくれたのだろう。嬉しそうに持って帰ったリリーを見送った。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる