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見てもいいですか?
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失礼しますとナタリーが執務室へ入ってくると、私をみてムッとした。苦笑いをしておくだけにした。
「……お呼びですか?」
「ナタリー、ごめんね?」
「ごめんで済めばいいですけど……アンナリーゼ様は女性ですよ?きちんとそこを自覚してもらわないと!」
「……反省しています」
「しているように思えないから、いつもこのような話をするはめになるのか」
「まぁまぁ、ナタリーさん。アンナちゃんもこう言っているし、今日は私の顔で許してあげて?」
「サラさん……アンナリーゼ様に甘すぎます」
「そうかしら?アンナちゃんは娘みたいなものだからかしらね?」
ふふっと笑うサラおばさんを見て、ナタリーも仕方がないというふうだ。ここにいる女性たちは私たちの関係を知っているのでいつものことだと流してくれている。
「叱られてばかりいると、公爵としての威厳は全くないわね」
「もう少し、考えて行動をなさったらよろしいだけですよ?」
ナタリーの微笑みにすみませんと俯いた。そんな様子を見て、サラおばさんが豪快に笑った。
「それより、ナタリーさん見てほしいんだよ」
「飾り付けやテーブルクロスが出来上がったんですね?」
「そう。まだこれから他の町や村からも届くけど、とりあえず近隣のものだけ持ってきたんだ」
「見てもいいですか?」
「もちろん!」
一緒に持ってきていた箱の中から出してきたものは見事なレースでできたテーブルクロスだった。少し太めの編み方であった。それがまた素敵である。
「わぁ!ステキね!」
「本当ですね!領地のみなさんがお祝いとしてこんなに手を貸してくださったこと、嬉しいですし、セバスもこの領地で愛されていると実感できそうですね!」
「本当ね!これは絶対に結婚式でいうわ!セバスにも知らせる!」
「アンナリーゼ様も嬉しそうですね?」
「もちろんよ!私たちが強制したわけじゃなくて、領民のほうから何かしたいとこんな素敵なもの……」
「これって、セバスの結婚式のあとにあるお茶会にも使っていいかしら?」
「もちろんだよ!アンナちゃんにも使ってもらえると嬉しいよ!」
ナタリーが頷き、お茶会でどのようにするか話始める。私はまかせっきりだったので、素敵な提案に頷いた。
「お貴族様っていうのは、大変だね?」
「そりゃ、お貴族様だからね……お貴族様じゃなくても大変でしょ?」
「まぁ、それなりに。少し前に比べたら、楽になったけど……」
「アンナちゃんのおかげだよね?」
「うん、うちのもんたちも生き生きしてる」
「農業は順調?」
「去年の秋の収穫は上々だったねぇ?作物がうまくそだつってことほど、私らに嬉しいことはないよ!」
「この領地はどんどん新しいことが進んできてるから、ついていくのも大変だけどねぇ?」
「それ以上にやりがいも喜びも生活が楽にもなったことのほうがずっとかいい!」
農家のご婦人たちは笑いあう。そんな表情を見ていればこちらも自然と笑みが出てくる。
「息子たちも勉強とか言っちゃってさ?」
「あぁ、難しい本を読んでいるね?」
「こんなこと、数年前なら考えられなかった。文字すら読めなかったし」
明るい声が執務室に響けば、他のところでも聞こえているだろう。このご婦人たちの底抜けの笑顔は私にとって宝ものだ。
「そうそう、ナタリーさん」
「なんですか?」
「あんたに頼まれていたレースも出来上がっているよ。見るかい?」
「レース?」
「えぇ、花嫁のベールを編んでもらっていたのです」
「私てっきりナタリーが編むのかと思っていたわ」
「いいえ、私は仕上げをするだけにと。サラさん、本当に早いだけじゃなくてとても綺麗に編まれるので、頼んだのです。アンナリーゼ様の分も一緒に」
サラおばさんが別の箱から出してきたのは2色のレース。ひとつは白でもうひとつが青紫。それぞれに薔薇の地紋が入っている。
「……素敵」
「さすがです!コーコナ領でとも思ったのですが、見事ですね」
「褒めても何もでないよ?」
「じゅうぶんですよ!これは、依頼ですからあとでお支払いしますね?」
「ありがとう。でも、本当によかったのかい?私が編んだもので」
「もちろん!アンナリーゼ様のものは特に。これでお茶会と夜会に使いますから」
「……今年はどんなドレスを流行らそうとしているの?」
「ワンショルダーの左肩に大きなコサージュを作ろうかと」
「このレースで薔薇を作るのかい?それは見ごたえがありそうだ」
「日頃。アンナリーゼ様のドレスを作るさいに皆様にはご協力いただいているのに、見せたことありませんよね?」
「そうね?見ていく?1,2着なら持ってきているから」
メイドに目配せすると、スッと部屋から出て行きわたしの部屋へ向かったのだろう。ラベンダー色のドレスを持ってきているので、それを見せることにした。
「見せていただけるのですか?」
「えぇ、もちろん!」
「領地からでなければ、なかなかお貴族様のドレスなんて見る機会がなくて」
「ドレスに興味が?」
ナタリーの目が獲物を見つけたように光っている。たぶん、こちら側に引き込もうとか考えている気がする。
しばらくしたあと、扉がコンコンとノックされるので入ってと声をかけると、さっき出ていったメイドと他数人が後に続いた。
「……お呼びですか?」
「ナタリー、ごめんね?」
「ごめんで済めばいいですけど……アンナリーゼ様は女性ですよ?きちんとそこを自覚してもらわないと!」
「……反省しています」
「しているように思えないから、いつもこのような話をするはめになるのか」
「まぁまぁ、ナタリーさん。アンナちゃんもこう言っているし、今日は私の顔で許してあげて?」
「サラさん……アンナリーゼ様に甘すぎます」
「そうかしら?アンナちゃんは娘みたいなものだからかしらね?」
ふふっと笑うサラおばさんを見て、ナタリーも仕方がないというふうだ。ここにいる女性たちは私たちの関係を知っているのでいつものことだと流してくれている。
「叱られてばかりいると、公爵としての威厳は全くないわね」
「もう少し、考えて行動をなさったらよろしいだけですよ?」
ナタリーの微笑みにすみませんと俯いた。そんな様子を見て、サラおばさんが豪快に笑った。
「それより、ナタリーさん見てほしいんだよ」
「飾り付けやテーブルクロスが出来上がったんですね?」
「そう。まだこれから他の町や村からも届くけど、とりあえず近隣のものだけ持ってきたんだ」
「見てもいいですか?」
「もちろん!」
一緒に持ってきていた箱の中から出してきたものは見事なレースでできたテーブルクロスだった。少し太めの編み方であった。それがまた素敵である。
「わぁ!ステキね!」
「本当ですね!領地のみなさんがお祝いとしてこんなに手を貸してくださったこと、嬉しいですし、セバスもこの領地で愛されていると実感できそうですね!」
「本当ね!これは絶対に結婚式でいうわ!セバスにも知らせる!」
「アンナリーゼ様も嬉しそうですね?」
「もちろんよ!私たちが強制したわけじゃなくて、領民のほうから何かしたいとこんな素敵なもの……」
「これって、セバスの結婚式のあとにあるお茶会にも使っていいかしら?」
「もちろんだよ!アンナちゃんにも使ってもらえると嬉しいよ!」
ナタリーが頷き、お茶会でどのようにするか話始める。私はまかせっきりだったので、素敵な提案に頷いた。
「お貴族様っていうのは、大変だね?」
「そりゃ、お貴族様だからね……お貴族様じゃなくても大変でしょ?」
「まぁ、それなりに。少し前に比べたら、楽になったけど……」
「アンナちゃんのおかげだよね?」
「うん、うちのもんたちも生き生きしてる」
「農業は順調?」
「去年の秋の収穫は上々だったねぇ?作物がうまくそだつってことほど、私らに嬉しいことはないよ!」
「この領地はどんどん新しいことが進んできてるから、ついていくのも大変だけどねぇ?」
「それ以上にやりがいも喜びも生活が楽にもなったことのほうがずっとかいい!」
農家のご婦人たちは笑いあう。そんな表情を見ていればこちらも自然と笑みが出てくる。
「息子たちも勉強とか言っちゃってさ?」
「あぁ、難しい本を読んでいるね?」
「こんなこと、数年前なら考えられなかった。文字すら読めなかったし」
明るい声が執務室に響けば、他のところでも聞こえているだろう。このご婦人たちの底抜けの笑顔は私にとって宝ものだ。
「そうそう、ナタリーさん」
「なんですか?」
「あんたに頼まれていたレースも出来上がっているよ。見るかい?」
「レース?」
「えぇ、花嫁のベールを編んでもらっていたのです」
「私てっきりナタリーが編むのかと思っていたわ」
「いいえ、私は仕上げをするだけにと。サラさん、本当に早いだけじゃなくてとても綺麗に編まれるので、頼んだのです。アンナリーゼ様の分も一緒に」
サラおばさんが別の箱から出してきたのは2色のレース。ひとつは白でもうひとつが青紫。それぞれに薔薇の地紋が入っている。
「……素敵」
「さすがです!コーコナ領でとも思ったのですが、見事ですね」
「褒めても何もでないよ?」
「じゅうぶんですよ!これは、依頼ですからあとでお支払いしますね?」
「ありがとう。でも、本当によかったのかい?私が編んだもので」
「もちろん!アンナリーゼ様のものは特に。これでお茶会と夜会に使いますから」
「……今年はどんなドレスを流行らそうとしているの?」
「ワンショルダーの左肩に大きなコサージュを作ろうかと」
「このレースで薔薇を作るのかい?それは見ごたえがありそうだ」
「日頃。アンナリーゼ様のドレスを作るさいに皆様にはご協力いただいているのに、見せたことありませんよね?」
「そうね?見ていく?1,2着なら持ってきているから」
メイドに目配せすると、スッと部屋から出て行きわたしの部屋へ向かったのだろう。ラベンダー色のドレスを持ってきているので、それを見せることにした。
「見せていただけるのですか?」
「えぇ、もちろん!」
「領地からでなければ、なかなかお貴族様のドレスなんて見る機会がなくて」
「ドレスに興味が?」
ナタリーの目が獲物を見つけたように光っている。たぶん、こちら側に引き込もうとか考えている気がする。
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