ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
1,208 / 1,513

ジョージとお出かけ

しおりを挟む
「明日の午前中は少し出かけようと思っています」
「どこにだい?」
「特には何も。ただ、明日はジョージ」


 急に名を呼ばれたのできょとんとしてこちらを見ている。黒曜石のようなその瞳に私が映っている。そっと頭を撫で微笑むとニッコリ笑ってくれた。


「一緒にお出かけしましょうか?」
「ママとおでかけ?アンじゃなくてもいいの?」
「もちろん!一緒に出かけましょう」


 約束ね?と小指を立てると、ジョージも倣って小指をたてた。そこに絡ませれば頬が緩んでいる。


「よかったな?ジョージ」
「うん!ママとおでかけ出来る!」
「本当、ジョージはアンナのことが好きだなぁ」
「ママ大好き!」
「私もよ!」


 ギュっとジョージを抱きしめると、アンも!とアンジェラが私の背中から抱きしめてくる。遅れてソワソワしながら、ネイトが参戦した。おんぶにだっこの状態の私を見てジョージアが笑っている。


「アンナはここでもモテモテだなぁ?」
「ジョージア様、笑っていないでくだい!」
「ふふっ、笑うだなんて……」


 やきもちを妬いているんだよ?と子どもたちと同じように私を子どもたちごと抱きしめる。ギューッとなったらしく、アンジェラが苦しいと訴えたのでジョージアは離れていった。調子に乗ったアンジェラは今晩一緒に寝ると言い始めた。慌ててジョージアが止めに入ったが、子どもたちの勢いは止まらない。


「エマ、子どもたちの寝る準備をしてちょうだい。準備が終わったら、私の部屋に」
「かしこまりました。さぁ、着替えてきましょう」


 エマが子どもたちに声をかけると、渋々私から離れる三人にまた後でね?と声をかける。こんな私でも、求められていることが嬉しくて、見送りながらニヤニヤしていた。


「早く執務が終わったんだったら、俺も構って欲しかったかな」
「ジョージア様は執務で顔を合わせているからいいではないですか?私にだって、子どもとの時間が欲しいです」
「……じゃあ、俺は今日も一人寂しく私室?」
「嫌なら一緒に寝ますか?」
「アンジェラに蹴り飛ばされながら眠るのも一興か」
「そんなに寝相は悪くないと思いますけど?」


 お昼寝のことを思い出していると、ジョージアが苦笑いをする。そこそこ蹴り飛ばされているらしい。

 ……嫌われているから、ではないよね?

 ジョージアのほうを見てニコリと笑っておいた。


「ところで、珍しいね?」
「何がですか?」
「明日の視察にジョージを連れていくのは」
「リアンにまた叱られたので……子どもたちとの時間ももっと作ってくださいと。わかってはいるのですが、」
「優先順位か。効率的に動きたいアンナにとって順位が低い?」
「そんなことはないですよ!もちろん、子どもたちは可愛いですもの」
「領主だからって理由じゃないの?」
「違います。私にだって母親としてあの子たちへの愛情はありますよ。振り回されている時間も多くて、構えないだけで……私の知らない間に、ずいぶん大きくなっていてビックリしているくらいです」
「これから、ますます大きくもなるからね。目を離したら一瞬だよ」
「……私は、その一瞬一瞬に立ち会えない気がします。ジョージア様がしっかりあの子たちの成長を見てあげてくださいね?」
「アンナもだよ。出来る限りでいいから、一緒に見守っていこう」


 コクンと頷くと、部屋がノックされる。エマが寝る準備を終えた子らを連れて入ってきた。


「では、ジョージア様、お休みなさい」
「あぁ、お休み」


 私は子ども部屋を後にしてネイトとジョージと手を握る。ネイトのもうひとつの手はアンジェラが握っていた。

 ……お姉ちゃんしているんだね。ネイトが転ばないように見てるわ。


 アンジェラが気をつけながら歩いているのを見て感動した。もっと前から二人の関係はこうだったのかもしれないが、私が今日知ったのだ。成長するアンジェラを見逃してしまわないでよかったと胸の内はホッとしている。


「えらいね?アンジェラは」
「えらい?」
「うん、とっても。ちゃんとお姉ちゃんしているから」


 自身が妹で兄に甘えて生きてきたからこそ、ネイトに差し伸べられた手に感動したのだ。レオとミアの兄妹がいい手本になっているのだろう。
 ニシシと笑うアンジェラはどこか誇らし気だった。
 今度は、反対側にいるジョージに話しかける。


「明日はどこか行きたい場所があるかしら?」
「水車が見たいです!」


 先日の視察で領地にも水車がたくさん出来ていることをアンジェラから聞いたらしい。それを見てみたいというので行先は決まった。


「それじゃあ、明日は馬で移動だから、温かい服装で出かけましょう。エマ」
「ご用意いたします」


 アンジェラの準備をしているので、どんなものが必要かは心得ているというふうだ。


「明日はママとジョージでおでかけ?」
「そうよ。アンジェラは先日出かけたからね。今度はジョージ。そのたとはネイトよだよ?」


 ネイトに話しかけると、よくわからないというふうである。お出かけ好きのアンジェラは羨ましそうにしている。馬にも乗れるから、羨ましいのだろう。


「ママ、今度はみんなでお出かけしたいね?」
「みんなで?」
「ママ、パパ、アン、ジョー、ネイト、ウィル、セバス、ナタリー、アデル、リアン」


 指折り数えながら名を言っていく。続きがあるようで、そこにはあの孤児たちの名も入っていた。
 この春はとても忙しいが、どこかで時間を作って、ピクニックへ行かないといけないかもとぼんやり考えていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

処理中です...