上 下
1,208 / 1,480

ジョージとお出かけ

しおりを挟む
「明日の午前中は少し出かけようと思っています」
「どこにだい?」
「特には何も。ただ、明日はジョージ」


 急に名を呼ばれたのできょとんとしてこちらを見ている。黒曜石のようなその瞳に私が映っている。そっと頭を撫で微笑むとニッコリ笑ってくれた。


「一緒にお出かけしましょうか?」
「ママとおでかけ?アンじゃなくてもいいの?」
「もちろん!一緒に出かけましょう」


 約束ね?と小指を立てると、ジョージも倣って小指をたてた。そこに絡ませれば頬が緩んでいる。


「よかったな?ジョージ」
「うん!ママとおでかけ出来る!」
「本当、ジョージはアンナのことが好きだなぁ」
「ママ大好き!」
「私もよ!」


 ギュっとジョージを抱きしめると、アンも!とアンジェラが私の背中から抱きしめてくる。遅れてソワソワしながら、ネイトが参戦した。おんぶにだっこの状態の私を見てジョージアが笑っている。


「アンナはここでもモテモテだなぁ?」
「ジョージア様、笑っていないでくだい!」
「ふふっ、笑うだなんて……」


 やきもちを妬いているんだよ?と子どもたちと同じように私を子どもたちごと抱きしめる。ギューッとなったらしく、アンジェラが苦しいと訴えたのでジョージアは離れていった。調子に乗ったアンジェラは今晩一緒に寝ると言い始めた。慌ててジョージアが止めに入ったが、子どもたちの勢いは止まらない。


「エマ、子どもたちの寝る準備をしてちょうだい。準備が終わったら、私の部屋に」
「かしこまりました。さぁ、着替えてきましょう」


 エマが子どもたちに声をかけると、渋々私から離れる三人にまた後でね?と声をかける。こんな私でも、求められていることが嬉しくて、見送りながらニヤニヤしていた。


「早く執務が終わったんだったら、俺も構って欲しかったかな」
「ジョージア様は執務で顔を合わせているからいいではないですか?私にだって、子どもとの時間が欲しいです」
「……じゃあ、俺は今日も一人寂しく私室?」
「嫌なら一緒に寝ますか?」
「アンジェラに蹴り飛ばされながら眠るのも一興か」
「そんなに寝相は悪くないと思いますけど?」


 お昼寝のことを思い出していると、ジョージアが苦笑いをする。そこそこ蹴り飛ばされているらしい。

 ……嫌われているから、ではないよね?

 ジョージアのほうを見てニコリと笑っておいた。


「ところで、珍しいね?」
「何がですか?」
「明日の視察にジョージを連れていくのは」
「リアンにまた叱られたので……子どもたちとの時間ももっと作ってくださいと。わかってはいるのですが、」
「優先順位か。効率的に動きたいアンナにとって順位が低い?」
「そんなことはないですよ!もちろん、子どもたちは可愛いですもの」
「領主だからって理由じゃないの?」
「違います。私にだって母親としてあの子たちへの愛情はありますよ。振り回されている時間も多くて、構えないだけで……私の知らない間に、ずいぶん大きくなっていてビックリしているくらいです」
「これから、ますます大きくもなるからね。目を離したら一瞬だよ」
「……私は、その一瞬一瞬に立ち会えない気がします。ジョージア様がしっかりあの子たちの成長を見てあげてくださいね?」
「アンナもだよ。出来る限りでいいから、一緒に見守っていこう」


 コクンと頷くと、部屋がノックされる。エマが寝る準備を終えた子らを連れて入ってきた。


「では、ジョージア様、お休みなさい」
「あぁ、お休み」


 私は子ども部屋を後にしてネイトとジョージと手を握る。ネイトのもうひとつの手はアンジェラが握っていた。

 ……お姉ちゃんしているんだね。ネイトが転ばないように見てるわ。


 アンジェラが気をつけながら歩いているのを見て感動した。もっと前から二人の関係はこうだったのかもしれないが、私が今日知ったのだ。成長するアンジェラを見逃してしまわないでよかったと胸の内はホッとしている。


「えらいね?アンジェラは」
「えらい?」
「うん、とっても。ちゃんとお姉ちゃんしているから」


 自身が妹で兄に甘えて生きてきたからこそ、ネイトに差し伸べられた手に感動したのだ。レオとミアの兄妹がいい手本になっているのだろう。
 ニシシと笑うアンジェラはどこか誇らし気だった。
 今度は、反対側にいるジョージに話しかける。


「明日はどこか行きたい場所があるかしら?」
「水車が見たいです!」


 先日の視察で領地にも水車がたくさん出来ていることをアンジェラから聞いたらしい。それを見てみたいというので行先は決まった。


「それじゃあ、明日は馬で移動だから、温かい服装で出かけましょう。エマ」
「ご用意いたします」


 アンジェラの準備をしているので、どんなものが必要かは心得ているというふうだ。


「明日はママとジョージでおでかけ?」
「そうよ。アンジェラは先日出かけたからね。今度はジョージ。そのたとはネイトよだよ?」


 ネイトに話しかけると、よくわからないというふうである。お出かけ好きのアンジェラは羨ましそうにしている。馬にも乗れるから、羨ましいのだろう。


「ママ、今度はみんなでお出かけしたいね?」
「みんなで?」
「ママ、パパ、アン、ジョー、ネイト、ウィル、セバス、ナタリー、アデル、リアン」


 指折り数えながら名を言っていく。続きがあるようで、そこにはあの孤児たちの名も入っていた。
 この春はとても忙しいが、どこかで時間を作って、ピクニックへ行かないといけないかもとぼんやり考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...