上 下
1,195 / 1,480

春に向けての準備Ⅸ

しおりを挟む
 今日はゆっくりめの朝を迎える。子どもたちとご飯を一緒に取れば、アンジェラが話しかけてくる。話し上手になったアンジェラ。ちょっと引っ込み思案のジョージ。黙々と好きなものを口に運んでいるネイトを見ると、三者三様に育っている。エマを始め、侍女やメイドが後ろに控え、目を光らせていた。ジョージアもその様子を微笑ましく見ている。


「そういえば、この後は執務室へ集合なんだよね?」
「そうです。昨日イチアが戻ってきたので報告を」
「領地全土とバニッシュ領を見てきたのか」
「そうなんですよ!バニッシュ領は私もまだ行ったことがないので、ぜひ、足を運びたいところです!」
「……その調子だと、この夏は逆にイチアに任せて、アンナがバニッシュ領へ飛んでいきそうだね?」
「そうかもしれませんね……バニッシュ領は、それほど遠くはありませんし、隣国とはいえ、アンバー領とは身近な関係ですからね」


 ジョージアに見抜かれていたのか、私の考えが筒抜けのようだ。このあと、イチアの報告を聞くことになっているのだが、もう、夏の予定が1つ決まりそうだった。ただし、今年はエリーゼのところから双子を預かる予定もあるので、実際はどうなるかわからない。兄からも視察に行きたいと連絡も来ているし、今年も慌ただしくなりそうだ。


「まぁ、隣の領地と仲良くすることは悪いことではないからね。公国内であれば、公もなお喜ぶだろうけど……」
「隣国ですからね。エールとは、いろいろな縁もありますし」
「……いらない縁だと思うけど」


 ムスッとしたジョージアに苦笑いをし、先に執務室へ向かうと伝える。さすがに、執務室の主がいないのはダメだろう。帰ってきたものたちへの労いも、昨日はしたが改めてするべきだと、執務室へと急いだ。


「早いですね?」


 執務室へ入れば、すでにイチアとセバスが席についている。何事か話合っているようで、机の上には書類が広がっていた。


「もう仕事?これでも、急いできたのに早すぎるわ……」
「仕事をしていないと、何もありませんから」
「僕も同じだよ」
「セバスは違うだろう?」
「そうよ!これからはダリアがいるんだから、程々にして部屋に戻ってくれないと、私がそのうちダリアに叱られるわ!」
「本当だよ。底は自覚しないと……」


 私とイチアに指摘をされ、今までどおりではダメなんだと落ち込んだ表情を見せる。


「僕も出来れば早く帰りたいとは思っているんですけどね?ダリアの顔を見るとホッするんだ」
「ほら、仕事は程々に」
「そんなのは、独身の私に任せてくれたらいいんだから!」
「イチアもそんなこと言わないで、休みはちゃんととってよ!」


 やいのやいのと言っているうちに、ウィルがやってきた。そのあとを追うようにビルたち商人が入ってきて一番最後に大あくびのノクトとジョージアが注意している。



「ノクト……お酒飲みすぎなんじゃないの?」
「そんなことはないぞ?俺は適量しか飲んでない!」
「その適量は本当の適量の約10倍ですよね?」


 ニコニコとしているイチアが怖い。ノクトの妻である夫人は夫の葬式をすでに済ませてはあるが、イチアには逐一報告をさせ、健康に気を付けるようにと口酸っぱくいうように指示が来ているそうだ。
 なんだかんだと屋敷を空けることの多かった常勝将軍も夫人には頭があがらなかったり、とても愛されていることがわかる。


「その点、うちのアンナはお酒が全くダメだからいいけど……」
「「「「「どこに飛んでいくかわからない!」」」」」


 ジョージアの心配している言葉に続くであろうものは、この部屋のみなが口を揃えて言ってくる。私を見ながらだったので、苦笑いだけしておいた。


「公爵様だって自覚はあんまりありませんよね?」
「あぁ、確かに……人に任せるより自分が動いちゃうって感じ?」
「私たちを信用していないというわけではないのでしょうが、」
「「「「「自分が動きたい!」」」」」


 私の性格を正しく知っているので、みなも声も揃えやすいのだろう。心配してくれるのは嬉しいが、ちょっとした嫌がらせではないだろうか?


「それより……イチアの報告を」
「そうですね。こうして無事にみなさまに再び会えたこと嬉しく思います。また、何日も領地を空けてしまい、みなにご迷惑をおかけしました」
「楽しかった?」
「えぇ、とっても。こちらに来てから、駆け足で領地を見て回りましたが……やはり、私の知るアンバー領とは異なり、随分と様変わりしたことに驚きました」
「それはよかったです。私も日に日に変わりゆく故郷をとても好ましく思っていたので」


 ビルもイチアに同行をしていたのだが、ここまでの本音は話していなかったようで、イチアの話で嬉しそうにしている。


「まぁ、酷かったときも見てほしかった気もしますけど」
「あぁ、ユービスもかい?」
「もちろんさ!変わったあとだけでなく、前を知っているからこそ、この劇的な変化を感じて欲しい」
「故郷のこととなると、熱く語ってしまいそうです。私たちアンバー領に生まれ育ったところですから」
「それも本にすると良いかもしれないね?後世に、こんな酷い領地があたんだけど、みなで力を合わせればこんなに素晴らしい領地に生まれ変わったという」
「それなら俺が書こう。おもしろそうだ」


 ビルとユービスに話をしていれば、ジョージアが割って入る。おもしろそうだと言っているので、本当に書くかもしれない。
『アンナの功績』という題名で褒めたたえるようなことだけはやめてくれと先に釘をさせば、ニコニコとしていたジョージアとビルとユービスがダメ?と視線で訴えてくるので、首だけ横に振っておく。きっと、止めたって、書くに違いないと思うと、恥ずかしくてもう表を歩けなくなるんじゃないだろうか?と焦る気持ちが湧いてきた。ウィルとセバスは、協力しますと半笑いなので、友人の裏切りにあったと半泣きで訴えてみたが、楽しみにしています!とニコライが指で硬貨の形をとってニッコリ笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...