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春に向けての準備Ⅶ
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決裁にサインをしながら、その中にノーラが作った決裁を見つける。さっきは、困っていたようだが、迷い悩みながらでも前に進んでいるのだろう。セバスから労いの言葉つきのメモがついていたので、私もそこに書き足すことにした。
「あなたの成長を嬉しく思います。一歩ずつ確実に」
「嬉しそうだね?」
「ジョージア様」
ノックしたけど返事がなかったからと入ってきたらしい。夜も更けてきたのに、私室に戻ってこない私を心配してくれたらしい。
「温かい飲み物を持ってきたけど、飲むかい?」
手元にあったカップを触れば、もう冷たくなっており、いただきますとジョージアの方へカップをあげる。
新しいカップにキッチンでもらってきてくれたのであろう温かいミルクティーを注いでくれた。ミルクの甘さが疲れた体をホッとさせてくれる。
「仕事、頑張りすぎじゃない?」
「そんなことないですよ?これでも、私の分は減らして貰っていたので。新しい事業が増えると、その分人手もいりますから」
「アンバー領にはまだ、担い手がいないんだよね?」
「手伝うくらいなら数名はいるかと思います。ただ、本格的に領地運営の中に入るとなれば、経験が少なすぎます。ビルやユービスがそのあたりをなんとかしようと動いてくれていますが、肝心の公から借りた文官が全く使い物にならなかったのがなんとも」
「育ちそうだって言ってなかった?」
「……だと思っていたんですけどね?見込み違いでした。貴族主義っていうか……私が、そういう人とあまり仲良くできないことを知っていて、公は人選したのですかね?」
そんなことないと思うけど?とジョージアはいうけど、城で手に負えないものを送ってきているのは感じていた。イチアには本当に迷惑をかけたなぁ……と反省しつつも、人材確保はやはり早急に話合わないといけないだろう。
「俺も手伝うからさ、今日はそのあたりにしておいて」
「そうします。領地にいるのに、あまり子どもたちとの時間も作れていないことも少し気がかりなのです」
「明日1日頑張ったら、少し休めない?ジョージもネイトもアンナと一緒の時間が欲しいみたいだし」
「アンジェラとは出かけることがありますけど、二人とは全然ですものね。公都に帰れば、また、私は出歩いていることが多いですから……明日、セバスに時間がとれるか確認してみます」
「そいうしてあげて」
私が片付けるまでジョージアは見張っているようだ。放っておくと、また、仕事に戻る……見抜かれている。
「片付け終わりました。明かりを消すので……」
「アンナが先に部屋から出て。俺が消すから」
「……信用ないですね?」
「しかたないさ。執務が好きだし、アンバー領も好きなアンナは、俺の言うことなんてききやしないだろ?」
ほらっと促されて私は執務室を出る。部屋の中は暖炉があって温かいが、廊下は身が竦むほど寒い。
「ほら、上着を忘れてる。風邪なんて引いていられないだろ?」
「ありがとうございます」
肩にかけてくれた上着の前を掛け合わせ、ジョージアと並んで廊下を歩く。何年も連れ添っているのに、意外と一緒に廊下を歩いたことがないなと考えていた。ジョージアも何事かを考えていたらしく、クスクス笑う。
「どうかしましたか?」
「アンナの夫となっても、なかなか隣を歩く機会が少ないなって思って」
「そんなこと……」
「あるだろう?ウィルやアデルは護衛としていつも近くにいたり、隣で歩いているし、セバスも書類を持ってアンナと打ち合わせをしながら歩き回っている。ナタリーもニコライも似たような場面を数えきれないほど見ているのに、俺はアンナの隣を歩いていることは、本当に少ない。夜会くらいなものかな?」
「では、もっと増やしましょう。ジョージア様の隣を歩くのは、私だけなのですから」
「もちろんだよ」
微笑むジョージアの腕に私の腕を絡ませた。さっきの茶器を持っているので、危ないよと叱られるが、ごめんなさいと謝ればあ許してくれる。怒っているわけではないので、甘えても何も言わない。気分をよくした私は歌を歌う。
「ご機嫌だね?」
「ジョージア様がお迎えにきてくれましたからね?」
「そういうことなら、毎晩迎えにいくとしよう。執務のし過ぎは体にも悪いし、朝型のアンナは夜遅くまで執務室に籠っているのはよくないから」
「本当ですか?嬉しいな」
学生に戻ったみたいだ。ジョージアと学園でこんなふうに過ごしたことはなかったけれど、もし、あのとき、ジョージアのほうに何もなければ、私のほうにも何もなければ……二人は恋人として楽しい時間をもっと過ごせたのではないか……そんなことを思う。
「私にもジョージア様にもなんの柵もなければ、学園でもこうしていられましたかね?」
「なんにもなくても、アンナと王子様は、俺らのことをよしとはしなかったんじゃないか?」
「ハリーはそんな小さな男ではありませんよ?」
「だから、アンナも好きだったんだよね?」
「今夜のジョージア様は甘やかし上手なのに意地悪ですね?」
クスクスと笑うと、アンナはいつもそうだよと返された。じゃあ、今日はもっと甘えることにしようと耳元で囁くと、いい提案だね?と笑っていた。
「あなたの成長を嬉しく思います。一歩ずつ確実に」
「嬉しそうだね?」
「ジョージア様」
ノックしたけど返事がなかったからと入ってきたらしい。夜も更けてきたのに、私室に戻ってこない私を心配してくれたらしい。
「温かい飲み物を持ってきたけど、飲むかい?」
手元にあったカップを触れば、もう冷たくなっており、いただきますとジョージアの方へカップをあげる。
新しいカップにキッチンでもらってきてくれたのであろう温かいミルクティーを注いでくれた。ミルクの甘さが疲れた体をホッとさせてくれる。
「仕事、頑張りすぎじゃない?」
「そんなことないですよ?これでも、私の分は減らして貰っていたので。新しい事業が増えると、その分人手もいりますから」
「アンバー領にはまだ、担い手がいないんだよね?」
「手伝うくらいなら数名はいるかと思います。ただ、本格的に領地運営の中に入るとなれば、経験が少なすぎます。ビルやユービスがそのあたりをなんとかしようと動いてくれていますが、肝心の公から借りた文官が全く使い物にならなかったのがなんとも」
「育ちそうだって言ってなかった?」
「……だと思っていたんですけどね?見込み違いでした。貴族主義っていうか……私が、そういう人とあまり仲良くできないことを知っていて、公は人選したのですかね?」
そんなことないと思うけど?とジョージアはいうけど、城で手に負えないものを送ってきているのは感じていた。イチアには本当に迷惑をかけたなぁ……と反省しつつも、人材確保はやはり早急に話合わないといけないだろう。
「俺も手伝うからさ、今日はそのあたりにしておいて」
「そうします。領地にいるのに、あまり子どもたちとの時間も作れていないことも少し気がかりなのです」
「明日1日頑張ったら、少し休めない?ジョージもネイトもアンナと一緒の時間が欲しいみたいだし」
「アンジェラとは出かけることがありますけど、二人とは全然ですものね。公都に帰れば、また、私は出歩いていることが多いですから……明日、セバスに時間がとれるか確認してみます」
「そいうしてあげて」
私が片付けるまでジョージアは見張っているようだ。放っておくと、また、仕事に戻る……見抜かれている。
「片付け終わりました。明かりを消すので……」
「アンナが先に部屋から出て。俺が消すから」
「……信用ないですね?」
「しかたないさ。執務が好きだし、アンバー領も好きなアンナは、俺の言うことなんてききやしないだろ?」
ほらっと促されて私は執務室を出る。部屋の中は暖炉があって温かいが、廊下は身が竦むほど寒い。
「ほら、上着を忘れてる。風邪なんて引いていられないだろ?」
「ありがとうございます」
肩にかけてくれた上着の前を掛け合わせ、ジョージアと並んで廊下を歩く。何年も連れ添っているのに、意外と一緒に廊下を歩いたことがないなと考えていた。ジョージアも何事かを考えていたらしく、クスクス笑う。
「どうかしましたか?」
「アンナの夫となっても、なかなか隣を歩く機会が少ないなって思って」
「そんなこと……」
「あるだろう?ウィルやアデルは護衛としていつも近くにいたり、隣で歩いているし、セバスも書類を持ってアンナと打ち合わせをしながら歩き回っている。ナタリーもニコライも似たような場面を数えきれないほど見ているのに、俺はアンナの隣を歩いていることは、本当に少ない。夜会くらいなものかな?」
「では、もっと増やしましょう。ジョージア様の隣を歩くのは、私だけなのですから」
「もちろんだよ」
微笑むジョージアの腕に私の腕を絡ませた。さっきの茶器を持っているので、危ないよと叱られるが、ごめんなさいと謝ればあ許してくれる。怒っているわけではないので、甘えても何も言わない。気分をよくした私は歌を歌う。
「ご機嫌だね?」
「ジョージア様がお迎えにきてくれましたからね?」
「そういうことなら、毎晩迎えにいくとしよう。執務のし過ぎは体にも悪いし、朝型のアンナは夜遅くまで執務室に籠っているのはよくないから」
「本当ですか?嬉しいな」
学生に戻ったみたいだ。ジョージアと学園でこんなふうに過ごしたことはなかったけれど、もし、あのとき、ジョージアのほうに何もなければ、私のほうにも何もなければ……二人は恋人として楽しい時間をもっと過ごせたのではないか……そんなことを思う。
「私にもジョージア様にもなんの柵もなければ、学園でもこうしていられましたかね?」
「なんにもなくても、アンナと王子様は、俺らのことをよしとはしなかったんじゃないか?」
「ハリーはそんな小さな男ではありませんよ?」
「だから、アンナも好きだったんだよね?」
「今夜のジョージア様は甘やかし上手なのに意地悪ですね?」
クスクスと笑うと、アンナはいつもそうだよと返された。じゃあ、今日はもっと甘えることにしようと耳元で囁くと、いい提案だね?と笑っていた。
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