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春に向けての準備Ⅴ
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「レオ、俺の方を見ても出来ないからな?」
「父様は苦手?」
「苦手っていうか……頼めば、誰かしてくれるからしないだけ」
ウィルを見た後に私のほうを見上げてくる。アンバー領の香り高い高級茶葉を使った紅茶は、部屋全体をホッとするような香りを広げていった。
「いい香り」
「こんないい香りの紅茶なんて飲んだことありません!」
レオは大きく息を吸っていた。ノーラは、机に並べたカップを手に取り香りを楽しんでいるようだ。
「そりゃそうだろ?この紅茶はアンバー領で採れる中でも最高級。ノーラが手に入れようとしたら、姫さんに今のうちにお願いをしておかなきゃ手に入らないぞ?」
「……そんなにですか?」
「そこまでの値はしないわ。少量でもハニーアンバー店で売っているし、ノーラのお給金で買えるわよ?」
「……でも、高いのですよね?」
「多少はね?採れる量も多くないから。その分、小分けして売っているのよ。もちろん、カレンやナタリーのように大口取引もあるけど、ほとんどが、数回分を楽しめる量を求めているわね」
「あの農場は、姫さんの個人農場だからな。アンバー領であってアンバー領じゃないんだよ」
ウィルも行ったことがあるので、説明を加えてくれる。小さな村を丸ごと買ったことを聞けば、ノーラは卒倒しそうであった。レオはイマイチ想像がつかないのか、そんなこともあるのですね?程度で聞いている。
「アンナリーゼ様、この茶葉を少し分けていただくことできますか?」
「えぇ、そうね……10回分くらいならいいかしら?」
「ありがとうございます!お代は払いますので」
その瞬間、あぁとウィルが声をあげた。付き合いが長いので私の考えていることを先に感じたのだろう。
私より先にノーラに教えようとするが、私の方が早かった。
「お代はいらないから、課題を1つこなしてほしいの」
「課題ですか?」
えぇと頷くとろくでもないことを考えているというのがバレているような気がした。それでも、私は知らんぷりをして、説明をする。
「それって、セバス様の下にもうひとつ組織を作って、そこの管理者にということでいいのですか?」
今まで日の目をみなかったノーラには城に帰ってからの役目もある。その中には、アンバー領への研修を終えて帰っていくのだから、今度は人を育てる側になるのだ。今の時点で、どれほどその任に適しているのかみたい。
「あっているわ。見ての通り、セバスの業務が増えてきているの。任せられるところは任せてもいいと言っているのだけど」
「セバス自身が、人に教えるのがうまくないから、どうしても頼れなくて抱え込んじゃうんだよな」
「この際いい機会だからセバスにも人を育ててほしいって思っているわ。そこで、ノーラの出番」
「……そんな、できません!」
「私は、出来る出来ないを問うつもりはないの。アンバー領の領主と命令よ?」
私をの方をジッと見返してくる。そうだとしても、私も譲る気にはなれない。セバスだって、社交の季節になったら公都に戻らないといけない。その間、イチアが面倒を見てくれるはずだが、それだけではダメだ。時間をかかっても、人を育てたい。それと、ノーラの成長も見込めるだろうと考えていた。
城では冷遇されていたのなら、なおのこと。戻ったときにどうどうと自分の意見をいえるよう。まずは部下を持ち、仕事への理解を深めたうえで、教えるという行為をしてほしいのだ。
「そんな!無謀です」
「無謀かどうかは、ノーラの頑張り次第ね?アンバー領で習ったことを国へ提案することになるから、業務自体への理解と知識が必要なのよ。今ならセバスもいるし、もう少ししたらイチアも戻ってくるから勉強しておいて損はないと思うけど」
「……興味はありますが、務まると思いますか?」
「どうだろうね?」
「そこは務まると言ってほしかったです!」
クスクス笑うと肩を落としているノーラ。自身がないのはわかっている。それは、ノーラ自身が乗り越えるべきものでもあるので、何かの手助けになるなら……そんな気持ちも混ざってはいた。
「大丈夫よ!優秀だもの」
「そんなことはありません!」
「あるある。私がお願いした結婚式やお茶会の招待状、いくら手伝いがいたとは言え、もう少しかかると思っていたのよね?」
「それは……僕も思いました。たくさんありましたから、終わりが見えなくて。最後の1つを書き終えたときホッとしました」
「人の使い方がうまかったってことでしょ?目に見えないそういうところも評価しているのよ?」
驚いた表情をしているので、ノーラにうけてくれるかしら?と再度確認をする。そうすると、不安そうに言葉を選んで話そうとしない。
「この領地のために力を使える人が、もっと他にいるのでは?」
「そうね。私もそう思う。でも、私は、今、ノーラに機会を与えたいの。うまくやれなくてもいいの。そのためにセバスがいるのだから、フォローしてくれるわよ?」
「足手まといなんじゃ……?」
「大丈夫。人を育てるっていうことには、ときに我慢も忍耐も必要なのは知っているから。今のうちに失敗しておきなさい。育ててくれようとする人が側にいないなら、国に戻ったときは失敗出来ないんだから」
「人を育てる」
「そう。ノーラにもこの領民の部下を数名育ててもらうけど、セバスもあなたを育てるの。そんな機会、あなたもセバスも多くはないはずよ」
ノーラは俯いて考えいるようだ。どのような結果を出すにしろ、ノーラにとって悪い経験ではない。この経験が次に繋がるようセバスにも指導をお願いするつもりなのだから。セバスの手から仕事が減り、ノーラへ移す。ノーラはその業務の割り振りを考え部下に割り振る。教えるという行為が遠回りに感じるかもしれないが、ノーラもいつまでも領地にはいない。セバスだって年に数ヶ月は社交界へ足を運ばなくてはならない。その間の業務を任せられる人材を作るなら、領地にとっても悪い話ではないのだ。
「わかりました。アンナリーゼ様のいうとおり、ご指導願えますか?」
「えぇ、もちろんよ。セバスには私から言っておくから、ノーラは引継ぎを受けたあと、採用試験をしなさい。あなたの部下になる人だから、読み書き計算は最低限にできて、勤勉な子がいいわね。ノーラが公都に帰ったあと、その子たちが引き継ぐことになるから、よくよく考えて選んでみて。セバスにも一緒に採用試験に出てもらったらいいわ」
「こちらも時間がありませんね?アンジェラ様のお誕生日会がくれば、そのあと怒涛の結婚式やお茶会がありますからね」
「そうね。そのあとすぐに始まりの夜会もあるから、公都に向かわないといけないし、早い目に済ませておいて」
頷くノーラに期待しているわと告げれば、少し頬を赤らめ、頑張ると意気込んでいる。ノーラがどんな子を選ぶのか、とても楽しみだった。
「父様は苦手?」
「苦手っていうか……頼めば、誰かしてくれるからしないだけ」
ウィルを見た後に私のほうを見上げてくる。アンバー領の香り高い高級茶葉を使った紅茶は、部屋全体をホッとするような香りを広げていった。
「いい香り」
「こんないい香りの紅茶なんて飲んだことありません!」
レオは大きく息を吸っていた。ノーラは、机に並べたカップを手に取り香りを楽しんでいるようだ。
「そりゃそうだろ?この紅茶はアンバー領で採れる中でも最高級。ノーラが手に入れようとしたら、姫さんに今のうちにお願いをしておかなきゃ手に入らないぞ?」
「……そんなにですか?」
「そこまでの値はしないわ。少量でもハニーアンバー店で売っているし、ノーラのお給金で買えるわよ?」
「……でも、高いのですよね?」
「多少はね?採れる量も多くないから。その分、小分けして売っているのよ。もちろん、カレンやナタリーのように大口取引もあるけど、ほとんどが、数回分を楽しめる量を求めているわね」
「あの農場は、姫さんの個人農場だからな。アンバー領であってアンバー領じゃないんだよ」
ウィルも行ったことがあるので、説明を加えてくれる。小さな村を丸ごと買ったことを聞けば、ノーラは卒倒しそうであった。レオはイマイチ想像がつかないのか、そんなこともあるのですね?程度で聞いている。
「アンナリーゼ様、この茶葉を少し分けていただくことできますか?」
「えぇ、そうね……10回分くらいならいいかしら?」
「ありがとうございます!お代は払いますので」
その瞬間、あぁとウィルが声をあげた。付き合いが長いので私の考えていることを先に感じたのだろう。
私より先にノーラに教えようとするが、私の方が早かった。
「お代はいらないから、課題を1つこなしてほしいの」
「課題ですか?」
えぇと頷くとろくでもないことを考えているというのがバレているような気がした。それでも、私は知らんぷりをして、説明をする。
「それって、セバス様の下にもうひとつ組織を作って、そこの管理者にということでいいのですか?」
今まで日の目をみなかったノーラには城に帰ってからの役目もある。その中には、アンバー領への研修を終えて帰っていくのだから、今度は人を育てる側になるのだ。今の時点で、どれほどその任に適しているのかみたい。
「あっているわ。見ての通り、セバスの業務が増えてきているの。任せられるところは任せてもいいと言っているのだけど」
「セバス自身が、人に教えるのがうまくないから、どうしても頼れなくて抱え込んじゃうんだよな」
「この際いい機会だからセバスにも人を育ててほしいって思っているわ。そこで、ノーラの出番」
「……そんな、できません!」
「私は、出来る出来ないを問うつもりはないの。アンバー領の領主と命令よ?」
私をの方をジッと見返してくる。そうだとしても、私も譲る気にはなれない。セバスだって、社交の季節になったら公都に戻らないといけない。その間、イチアが面倒を見てくれるはずだが、それだけではダメだ。時間をかかっても、人を育てたい。それと、ノーラの成長も見込めるだろうと考えていた。
城では冷遇されていたのなら、なおのこと。戻ったときにどうどうと自分の意見をいえるよう。まずは部下を持ち、仕事への理解を深めたうえで、教えるという行為をしてほしいのだ。
「そんな!無謀です」
「無謀かどうかは、ノーラの頑張り次第ね?アンバー領で習ったことを国へ提案することになるから、業務自体への理解と知識が必要なのよ。今ならセバスもいるし、もう少ししたらイチアも戻ってくるから勉強しておいて損はないと思うけど」
「……興味はありますが、務まると思いますか?」
「どうだろうね?」
「そこは務まると言ってほしかったです!」
クスクス笑うと肩を落としているノーラ。自身がないのはわかっている。それは、ノーラ自身が乗り越えるべきものでもあるので、何かの手助けになるなら……そんな気持ちも混ざってはいた。
「大丈夫よ!優秀だもの」
「そんなことはありません!」
「あるある。私がお願いした結婚式やお茶会の招待状、いくら手伝いがいたとは言え、もう少しかかると思っていたのよね?」
「それは……僕も思いました。たくさんありましたから、終わりが見えなくて。最後の1つを書き終えたときホッとしました」
「人の使い方がうまかったってことでしょ?目に見えないそういうところも評価しているのよ?」
驚いた表情をしているので、ノーラにうけてくれるかしら?と再度確認をする。そうすると、不安そうに言葉を選んで話そうとしない。
「この領地のために力を使える人が、もっと他にいるのでは?」
「そうね。私もそう思う。でも、私は、今、ノーラに機会を与えたいの。うまくやれなくてもいいの。そのためにセバスがいるのだから、フォローしてくれるわよ?」
「足手まといなんじゃ……?」
「大丈夫。人を育てるっていうことには、ときに我慢も忍耐も必要なのは知っているから。今のうちに失敗しておきなさい。育ててくれようとする人が側にいないなら、国に戻ったときは失敗出来ないんだから」
「人を育てる」
「そう。ノーラにもこの領民の部下を数名育ててもらうけど、セバスもあなたを育てるの。そんな機会、あなたもセバスも多くはないはずよ」
ノーラは俯いて考えいるようだ。どのような結果を出すにしろ、ノーラにとって悪い経験ではない。この経験が次に繋がるようセバスにも指導をお願いするつもりなのだから。セバスの手から仕事が減り、ノーラへ移す。ノーラはその業務の割り振りを考え部下に割り振る。教えるという行為が遠回りに感じるかもしれないが、ノーラもいつまでも領地にはいない。セバスだって年に数ヶ月は社交界へ足を運ばなくてはならない。その間の業務を任せられる人材を作るなら、領地にとっても悪い話ではないのだ。
「わかりました。アンナリーゼ様のいうとおり、ご指導願えますか?」
「えぇ、もちろんよ。セバスには私から言っておくから、ノーラは引継ぎを受けたあと、採用試験をしなさい。あなたの部下になる人だから、読み書き計算は最低限にできて、勤勉な子がいいわね。ノーラが公都に帰ったあと、その子たちが引き継ぐことになるから、よくよく考えて選んでみて。セバスにも一緒に採用試験に出てもらったらいいわ」
「こちらも時間がありませんね?アンジェラ様のお誕生日会がくれば、そのあと怒涛の結婚式やお茶会がありますからね」
「そうね。そのあとすぐに始まりの夜会もあるから、公都に向かわないといけないし、早い目に済ませておいて」
頷くノーラに期待しているわと告げれば、少し頬を赤らめ、頑張ると意気込んでいる。ノーラがどんな子を選ぶのか、とても楽しみだった。
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