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期待の眼差し

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「なんか、残念そう?」
「あっ、いえ……俺……その、よく警備隊の訓練所へ行くので……」
「あぁ、俺の話をよく聞く感じ?」
「……はい。そのウィル様がアンナ様のことを『姫さん』って呼んだり、アンナ様がウィル様を側におくのは、その……なんていうか」
「特別な人!」
「そう!そう言われているとかなんとか……って聞いて」


 領地内で私の護衛をしてくれているのは主にアデルではあるのだが、最初にウィルを連れまわしていたことを知っている領民からはそう見えていたらしい。私とウィルは特別な関係と。


「……間違っちゃいないよな?」
「確かに、間違ってはいませんね?」


 ウィルとナタリーが口を揃えて自分たちは『特別』だと言うことを含んだように言葉を選んでいる。わざとというより、心の底からそう思っているのだろう。


「えっ?そうだったんですか?私、てっきり、ジョージア様ととても仲が良いので……」
「ダリアは何を勘違いしているのかわかりませんけど?」


 じろりとダリアの方へ視線を向けるナタリー。その薬指に光るアメジストの指環をそっと撫でた。ウィルもちょっと気恥ずかしそうに片耳にあるアメジストのピアスを触っている。


「私の想像していることではないのですか?」
「もちろんです!ダリアはまだ、セバスから聞いていませんか?」
「何をです?」
「アメジストの薔薇の話だよ」
「アメジストの薔薇?」


 子どもたちも興味があるようで聞いていた。少し大人などきどきするような話になるのかと、じゃっかんマリアの顔が赤いような気がする。
 私とウィルの間にみなが想像するようなことは、おこらない。私がジョージアを愛しているから。別居生活をしているときもあったし、実際、執務の関係上、離れ離れの期間の方が多いのは否定できないし、ウィルと一緒に出回っていることが多いことも周知の事実ではあった。


「青紫の薔薇は姫さんの称号だろ?」
「確かに、そのように伺いました。それと関係が?」
「元々、ウィル、セバス、私の三人がアメジストの宝飾品をいただいたことが始まりです。あなたを信頼していますという意味で贈られました」


 ……実際は、お礼だったはず。エレーナの実家へ一緒に行ってくれた。いつの間にか、美談に変わっているし、これからも、この話は貴族の中で語り継がれることになるのだろうな。


「セバス様もですか?」
「えぇ、そうです。セバスはたしかネックレスだったわね?」
「そうそう。俺は、剣を握るから元々ピアスだったし」
「セバス様は、今、アメジストのカフスボタンを毎日されています。違うのにはしないのですか?と聞いたことがあったのですけど、このカフスじゃないとダメだって言っていました。そういう意味があったんですね?」
「俺ら三人は2つ目だからな。新しくノクトやイチアにもそれぞれ配ったよな?」
「……不本意ながら、トワイス国の王太子夫妻にも渡してあるわ」


 ポカンとしているのは、何もダリアだけではない。まさか王太子夫妻なんて言葉が出てくるとは思っていなかったようで、驚いている。


「アンナ様って……何者?」
「私はただの公爵よ?」
「ただのではないけどなぁ……」
「そうなんですか?貴族のことには詳しくなくて……今、まさに勉強中で」


 子どもたちは、今、アンバー領のことこの公国のことなどを勉強しているところだ。貴族階級も詳しくないようだ。


「姫さんは、筆頭公爵。公族を除けば、貴族で1番位の高い爵位。そのすぐ下にジョージア様な」
「……アンバー公爵家は、この国で1番2番の貴族称号を持っていると言うことですか?」
「おぉーシシリーはさすがだな。レオも同じような勉強しているところだけど……ところどころあやしかったりするんだよね?」
「切磋琢磨できる存在が側にいれば、きっと大丈夫よ。カイルも勉強頑張っているんでしょ?」


 そういうと、カイルは若干視線を逸らしているし、ダンやマリアは頷き、シシリーは自前のメモに書いているようだ。
 私も勉強は得意ではなかったから、カイルのことは理解できた。


「まぁ、勉強はしておいて損はないよ。アンバー領から出て護衛をすることもこれからは増えるだろうしね。お嬢が大きくなれば、君らもずっとアンバー領ってわけにはいかないから」
「……そうなんですか?」
「そのために、礼儀作法も練習しているのよ?」


 ナタリーの優しい声音に一瞬緊張が走ったのは気のせいであってほしい。確かに……厳しそうだとは思うが、社会に出たとき、感謝することになるので、是非とも身に着けておいてほしいものではあった。


「その第三位にゴールド公爵。公爵家は公族の親戚に当たるからな。その下に侯爵、伯爵、子爵、男爵とまぁ、続くわけ。俺は武の功績によって、伯爵位。セバスは男爵位。ナタリーは子爵令嬢だから、覚えておいて」
「なんだか……ややこしいです」


 カイルが頭を抱えている。爵位と同時に下賜されたものが、ウィルの剣だと再度説明をすれば、納得がいったらしい。


「……俺、あの、」
「ん?何?」
「アンナ様からその……欲しいです!武器が」
「なるほど。下賜ね?前も言ったかもしれないけど……アンジェラが与えるものになるから……私ではないわよ。それまで、それぞれの長所を磨いて短所を補えるように頑張ってちょうだい」


 ニコリと笑いかけると、納得のいかないような表情の子どもたち。私が慕われているという意味なら、すごくうれしいなと頬を緩めた。
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