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忙しくなりそうね?

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「あぁあ、頷いちゃった」
「えっ?ダメだったのですか?」
「……ダメじゃないけど……その、大変になるかな?って」
「それは、どういうことかな?」


 ウィルをじろりとナタリーは睨み、何でもありませんと小声で言っているウィルの様子を見てクスっと笑うダリア。私たちを見回している。


「どうかして?」
「いえ、アンナ様たちはとても仲がいいのだと思って。みなさん、それぞれ立場があるでしょうに」
「たしかに、俺らって爵位も立場も違うよな」
「学園は同級生ですけどね?」
「セバス様もですよね?みなさんと、同級生だって」
「そう、セバスも同じ。俺とナタリーとセバスは学園に入る前から知り合いだったんだよ」
「そうなのですか?」
「国が同じなら、デビュタントも同じだろ?顔見知りくらいにはなるんだよ」


 なるほどと頷いているダリアに視線が集まる。


「ダリアは王宮で働いていたから、学園にも行っていないし、デビュタントもしていないのじゃないの?」
「そう、ですね。私は、もう、その頃には城で働いていました」
「エルドアには学園はないの?」
「ありますが、私が行くようなところではありませんでした。貴族の……それも爵位を継げるような子息や令嬢ばかりだったのです」
「そうなんだ?私たちはみんな爵位を継げるものはいなかったわ」
「俺も三男だし、セバスも五男だろ?」
「私は政略結婚の駒でしたわ」
「姫さんは?」


 私に向けられた視線にニコッと笑いかける。私はフレイゼン侯爵の第二子だ。爵位を直接継ぐことはなくても、侯爵家に残ることは許されている立場ではあった。


「私は家を出るつもりだったわ。私にフレイゼン領が継げるとも思わなかったし、お兄様もエリザベスもいたから、お役御免でしょ?」
「そういう考えもあるのか」
「そうよ?それに将来、クリスやフランがお兄様たちを支えてくれるはずだもの。私は私の好きなように生きるほうが、家族は喜んでくれるもの」
「……フレイゼン侯爵は、ずいぶん柔軟な考えの持ち主なのですね?」


 とても驚いた表情のダリアにそうねと答えた。私の実家であるフレイゼン侯爵家は、昔からの伝統を重んじる貴族ではあったが、父が爵位を継いだあとはずいぶんとその雰囲気も変わってしまったようだ。


「私の父はありとあらゆる学問を勉強したいそうよ?そのためには、侯爵家を運営できる資金も人手も必要だということに気が付いたそうね。目的を果たすには、優秀な人材が多くいる。結構なお金を使ってフレイゼン侯爵家の今の形にしたと聞いているわ」
「すごいですね?」
「そうね。古い体制を壊して新しいことをしようとすれば反発もあるだろうけど、古くからの貴族と言うことと、母方の祖父も協力してうまくまとめ上げたようね?」
「そんな歴史があったんだ?」
「そうよ?フレイゼン侯爵家は学都が有名だけど、それは、歴史の中で見てみれば、すごく短い期間なのよね。たくさんの人の支援から、たくさんの人への支援を形に、大きく領地の形を変えているの」


 あまり聞いていないウィルが熱心に聞いていることを少し不気味に思いながら、説明を続けた。


「あまり知らないことだな。セバスが聞いたら興味を持つ話じゃないの?」
「セバスなら知っているでしょ?よくお兄様たちと朝まで話をしていたこともあったくらいだし」
「サシャ様と?」


 初めて聞いたとウィルは驚き、兄に会ったことがないダリアは首を傾げている。


「私の兄はセバスも一目おくほどの知識の宝庫なのよ」
「セバス様よりですか?」
「うん、すごいのよ。私は全然だけどね……」
「アンナリーゼ様も相当な知識量だと思いますけどね?」
「姫さんが認識していないだけで、セバスがいうにはサシャ様と変わらないほどだって聞いてるけど?」
「そんなことないよ?私なんて全然」
「……謙遜は、辞めた方がいいぞ?実際問題、俺らよりその知識量は多いのは、十分領地運営でわかっているかわ」


 大きなため息とともにこれまでの話をされた。俺には思いつかないことばっかりだと、苦笑いのウィルにそんなことないと思うけど……と反論しかけてやめた。ダリアが、口をポカンとあけて固まっているのだ。


「大丈夫?」
「いえ、私……驚きまして。アンナ様は、それほどのことをこの領地に来てからされていたのですか?」
「私だけの力じゃないし、みんなが……とくに、ウィルやナタリー、セバスがいてくれたおかげで、出来た改革よ?私だけじゃここまで早くことをなせなかったと思うの」
「人手は確かにいったよな?俺なんて、ほとんど力仕事だったし」
「それなら、私は女性たちの生活基盤を作るところしていたわ」
「ほら、私がしたいことをみんなが進めてくれたおかげで、私はあれがしたいこれもしたいって言っていただけだもの。特にセバスは大変だったと思うわ」
「……確かに。姫さんの要望、すごい高いからなぁ」
「そうですよ!だから、ダリア」
「はい!」
「これから、セバスのことを公私ともに支えてあげて。仕事ではアンナリーゼ様の無茶振りに応えて奔走しているのだから!」


 ナタリーからの言われように、肩をおとしたが、言っていることは正しいので反論ができない。よろしくね?というと、わかりましたと不安そうな表情でダイアは私を見つめてきたのである。
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