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葡萄酒試飲のこと

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 昼食を食べ終わったあと、ジョージアとウィル、セバスを執務室へと呼び寄せた。執務室にはすでにノーラたちが作業を始めていた。余った椅子だけを持って、執務机の周りに集まってもらう。


「今日の相談は何?」


 ウィルが軽い調子で言ってくる。普段は、こういった話にはあまり関わらないようにしている節があるのだが、呼べば必ず来てくれるので、疑問に思ったのだろう。


「今日は葡萄酒の話をしようと思って」
「あぁ、そろそろ『赤い涙』が無くなるころ?」
「まだ、あるよ?1年2年は大丈夫なはず」
「……酒蔵を辞めていたのが、もったいなかったな?」
「貴重なアンバーの収入源だからなぁ」


 それぞれお酒好きが、ぶつぶつと言い合っていた。酒の飲めない私にとって、葡萄酒は収入としては魅力的ではあっても、飲み物としての魅力がわからなかった。


「……どのみち、南の領地の復興が終わるまでは、オークションも開けないので、高値で売り捌くことは難しいですよ?」
「それじゃあ、どうするんだい?」


 ジョージアの意見はもっともだ。いままで、通常価格の何十倍もの高値で取引されていたものが、一気に値が下がる。定価で売るとなると暴利が無くなるのだ。


「……そうですね。裸体のおねぇさんシリーズは、本当に高値過ぎるほどの収入になっていましたからね。今年は売り出さないことにします。こちらのいい値で買ってくれる人に密かに売りましょう」
「……あくどいな」
「何とでもおっしゃい、ウィル。領地を運営するには、1に金、2に人、3に流通、4に宣伝、5に……」
「あぁ、はいはい。わかっていますよ?領主様。お金がなければ、したいこともできないってことも。じゃあ、そのために……」
「売る先は選ばざるをえないでしょ?まずは、公にお手紙書いておきましょう。今年は、市場には出さないむねを。それでもほしいなら、要相談でと書いておきましょう」
「カレン様には送らないので?」
「もちろん送るわ。こちらは友人価格でって話だけど」
「……公にはふっかけるのか」


 少し遠いところを見ているジョージアとウィルは放っておいて、具体的な話をセバスがしてくる。


「そろそろ、新しい『赤い涙』が出来上がってくるってことなんだよね?」
「そう。3年だからね。熟成すればするほど、いい葡萄酒になる品種らしいんだけど、この年のものは、期待しないでくれって、サムが言っていたから……味をみて、どうするか決めてほしいの。私じゃ味はわからないから」
「酒が飲めないって、不思議だよねぇ?姫さん下戸って」


 笑うウィルを睨み、飲めないものは仕方がないと言い放った。


「そこで、三人にというわけじゃないけど、誕生日会に試飲会をしようと思うの」
「その仕切りをするってことかい?」
「そうです、ジョージア様。任せたいのですけど、いいですか?」


 ジョージアは頷き、まずは、こちらで試飲できるよう取り寄せるようにする。それによって、売り出す値段等を決めないといけない。


「葡萄酒って、アンバー領主を引き継いだときは、全然知らなかったけど、国内だけでなく、広く飲まれるようになったものだよね?」
「そうですね?聞いたところによると、インゼロでも一部流通し始めたそうですよ?」
「えっ?そうなの?」
「えぇ、闇オークションでインゼロに流れていたそうです。その一部が皇帝に献上されたと聞いています」
「……それって、まずいんじゃないの?」
「そう思う?」
「欲しいものは、力づくで手に入れる。それが、インゼロ帝国の皇帝のやり方だろう?」
「血塗られた玉座って話よね。そうでもないらしいわ。気に入っているけど、流通するのであれば、必ずしも手に入れたいというわけでもないらしいの。葡萄酒くらいでって話よね。未だ、アンバー領の噂は、世間ではひっくり返っていないのですもの」
「……それは、アンバー公としては、嬉しくない情報だね?インゼロに目をつけられないことは喜ばしいけど、複雑だよ?」
「いいではないですか。少しずつ、力をつけていく……それが、私の計画です。ゆっくりゆっくり、国内でアンバー領の名をあげていく。不名誉は返上するには時間がかかるのですから」


 国内の評価は、アンバー領の内部のように劇的に変わらない。それどころか、未だに、昔のままの評価をしている貴族は少なくない。
 その中で、評価を変えているものたちがいる。それが、商人たち。利に聡い彼らは、ハニーアンバー店を通し、利益に繋がる産業が育っていることに気が付き、足しげく通っているものたちが多くいるのだ。


「それに、認めてくれている人も増えてきているのですよ?」
 。「商人や貴族婦人……とりわけ令嬢たちは、アンバー領の評価をずっといいものにしています。アンバー公爵、青紫薔薇のとアンナリーゼ様が地道に活動してくれているおかげです」
「確かに、夜会や茶会にいけば、ハニーアンバー店で売られているドレスを来ている貴婦人たちが多いこと」
「最近では、そのドレスをマネする服飾がいるとか……」
「ナタリーもうかうかしてられないって?」
「私は、アンナリーゼ様が着て美しいものを作りたいだけですから」


 扉の前にたち、ニコリと笑うナタリー。他の服飾になんて負けるはずはありませんわ!と強気の言葉ではあるが、それもそうだろう。私が着るドレスは、ナタリーが作ってくれたもの以外をきることはないのだからとナタリーに向かって微笑んだ。
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