上 下
1,176 / 1,480

ジョージは初ダンス?

しおりを挟む
 呼ぶと、ジョージはこちらに近寄ってくる。嬉しそうにしているので、まずは頭を撫でる。


「ジョージは初めてダンスするのかしら?」
「うん、初めて」
「じゃあ、お辞儀をするところからね?」


 私はスカートをつまみ、頭を下げる。最近、アンジェラがマイブームにしているので、ジョージも同じようにぺこりと挨拶をした。このあたりは、ナタリーから習ったようで、きちんとした挨拶をする。


「すごいわね?ジョージも挨拶ができるのね?」


 えらいわ!と褒めると、頬をほんのり紅潮させる。では……と、ジョージに近寄ってその小さな手を取る。レオよりも小さなその手は、アンジェラよりかは大きい。男の子だな?と思わせる手もなんだか愛おしい。自分の子どもではなくても、私なりの愛情をかけてきたつもりだ。ずっと、私に懐いてくれていたからか、感慨深くなる。


「ママにゆっくり合わせてみて」


 腰あたりまでしかない子を大人が躍らせるのは難しい。屈むことも出来ないので、ゆっくりステップだけ教える。アンジェラが成長をすれば、練習相手にもなるのだろうが、もう少し先だろう。それに、ダンスの相手にはレオもいるから、ミアにも練習はつきあってもらうことになるだろう。


「うまいわね?さすがね?」
「上手?」
「えぇ、初めて踊るんですもの。上手よ!」


 嬉しそうに笑うジョージに笑いかければ、また、真剣な顔をしてゆっくりステップを覚えていた。そんな一生懸命な姿も愛おしく感じる。


「ジョージは、確かにうまいな」
「ジョージア様もそう思いますか?」


 私たちの練習を見ながら、ジョージアが頷く。公爵令息だったジョージアも誰かとこうしてダンスの練習をしたことだろう。数多の女性と踊っているのを見れば、嫌でも目を引く。女性に合わせたダンスが出来るうえに、この容姿なのだから、一度でいいから踊りたいという御婦人方が絶えない。


「アンナが相手だと、自分がうまくなったような気になるんだよな」
「ジョージア様でもそう思いますか?」
「アデルは、そう思っていたんだ?」
「もちろんです。アンナリーゼ様と踊ると、いつもの5割増しくらいうまくなったと思います。リードをされているんでしょうが……それすら感じさせないのが、また、なんとも」
「あはは、アデルはそっちか」
「……ジョージア様と一緒にしないでください。アンナ様と対等に踊れるのはジョージア様くらいですから」


 ふっと笑うジョージアを私は見た。何を考えているのだろうか、その笑顔は少し緊張しているようだった。


「アデルにはそう見えるのかな?」
「えぇ、もちろんですけど……何かあるのですか?」
「あぁ、アンナの本当のパートナーとのダンスは絵にかいたようで、本当に素晴らしいんだ。僕も1度しか見たことがないんだから、アデルも見たことはないだろうけどね?」
「そんなに素晴らしいのですか?」
「言葉にならないほどだね?もう一度見てみたい気もするけど、そうすると、妬いてしまいそう」


 それほどですか……とアデルは呟く。ジョージアが言っている人物は、金の髪を揺らして微笑む。緑色の瞳は優しく語り掛けてくるようで、私の王子様のことだ。


「もう二度とハリーと踊ることはありませんよ?」
「それはもったいない。二度とないだなんて……俺は、見てみたいけどね。大人になったアンナとヘンリー殿のダンスを」
「ハリーとは、もう会うこともありませんから……」


 ジョージのほうに俯きながら呟いた。心配するように見上げてくるが、大丈夫だよと微笑む。そにジョージアが来た。


「そろそろ俺の奥さんを返してもらおうかな?ジョージ」
「……ママを?」
「うん。返してくれる」


 私とジョージアを交互に見ながら、ジョージは渋々私の手を離した。その手をすぐさま握ろうとしたので、手で制して待ってジョージアを止める。


「ジョージ、お辞儀を忘れているわ。ダンスをしたら、相手にありがとうというお礼をしないといけないわ。ジョージと踊れて、嬉しかった。一緒に踊ってくれてありがとう」


 お辞儀をすると、慌ててジョージもお辞儀をする。それが終われば、ジョージはアンジェラたちがいる脇へ駆けて行った。頃合いを見計らって、今度はジョージを呼ぶ。


「よく見ていて。女性をダンスに誘う方法」
「……それは、ジョージア様だから成功するやつですからね?」
「アデルもしてみればいいだろう?」
「……成功しませんから。いいですか?あれは、お手本というより、みんな王子様だからできる力技ですからね!」


 アデルが若干拗ねたように子どもたちに教えているが、三人ともジョージアのように誘ったとしても、誰も拒まないだろう。容姿端麗であり、将来有望で、みなが憧れる王子様にお姫様と言っても過言ではない。


「そんなことないと思うけど?ねぇ、アンナ?」
「……私はアデルのいうことに賛成ですけどね?あの子たちには、アデルの意見の方が向かないことだけはわかります」
「……アンナ様まで。確かに、三人とも優良物件過ぎますけど、辛いです」


 ぐすんと泣くマネをしたので、アンジェラがご愁傷様とでも言いたいのか、太腿をぽんぽんと叩いていた。何か伝わったのか、苦笑いをするアデルを横に、ジョージアから誘われたので、私はジョージアと1曲分ほど、踊って束の間の休憩を楽しんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...