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日長執務Ⅲ
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「……いいんですか?アンナリーゼ様」
セバスが微妙な顔を向けてくると、子どもたちも不安そうにこちらを気にしている。ノーラも同じようにしているが、ニコニコと笑いかけて心配はいらないと言っておく。
「セバスには、他にしてほしいことがあるの。ロイドと協力して、来年の予算を纏めてほしいわ」
「それは構わないけど……これ、僕の仕事だよ?」
「残念。セバスたちの結婚式であってもセバスたちだけの結婚式じゃないのよ」
「……なんとなく、わかった気がするよ。貴族の結婚式は数多くないけど、そこに参入したいってこと?」
「そんなこと……言ってないわよ?」
ニコニコとしている私を怪しんでいるセバスにほら仕事!と背中を押して執務室から追い出した。渋々出ていったセバス。扉を閉め、自身の執務室へと歩いていく足音を聞いて、私はみなのところへ戻った。
「しばらくは、この作業を手伝って欲しいわ。カイル、マリア、シシリーにダン。いいかしら?」
「それは、大丈夫かと。ただ……」
「心配いらないわ。あなたたちの上司には言っておくから大丈夫。それに1日に拘束するのはお昼前の2時間だけよ」
「そんなに短くていいんですか?」
「えぇ、もちろん」
助かるね?とお互いの顔を見ながら喜んでいる。この四人は、今、それぞれが見習いとしてこの屋敷にいたり、公都の屋敷にいたりと動き回っている。アンジェラの侍従となるべく、それぞれが目標をもって勉強をしているのだ。そんな彼彼女を見て、ノーラも他の文官たちも目を疑うように驚いていた。
「そんなに驚くようなことではないでしょ?あなたたちも、初めて文官として城へ入ったとき、先輩文官に教えを乞い日々の成長に喜びを……って、そうでもないことかしら?」
「……大変言いにくいですけど、僕らは貴族ですから、コネですし……そんな時期なんてなかったし、ノーラは逆に平民でしたから、やったこともない仕事をさせられては叱られてたんじゃないですか?」
三人の視線の先のノーラは、どう答えたらいいのかわからず、苦笑いをしていた。きっと、それが、城で働く平民文官の処世術のひとつなのだろう。
「そんなに酷い扱いなんだ?パルマが改革をしてもなお?」
「……パルマ様の改革は、城全体に行き届いています。なので、今は、わりとまともな環境での仕事になっているかと」
文官の一人が私に説明をしてくれるが、本当にそうなのかと言えば、そうではないだろう。下々の意識改革がされていないから、使えない文官がふんぞり返っているのではないか?と疑問に思った。
「パルマには、少し、今のアンバーで起こっていることを話しておくわ。今、あなたが言ったとおりの意識改革まで出来てたとしたら、セバスの業務指示にも何一つ文句なく働けると思うのよね?」
「……それは」
「そうでしょ?セバスは公国の文官であるとともに男爵位を持っているわ。貴族の令息だと胸張って言えるのは、デビュタントまでよ?爵位もある、先輩でもあるセバスに質問することは許されても、与えられた仕事を放棄することはパルマの改革が進んでいないということよね?」
三人を見つめると、項垂れる。自身が今まで文官として振る舞ってきたことは間違いであったと恥じている。ノーラはきょとんとしているが、こちらはこちらで問題がある。貴族の令息だと言われ、反論することをしなかったのだから。
「ノーラにも責任はあるのよ?口がついているのだから、間違っていることを言えばいいのよ?」
「……畏れながら、アンナリーゼ様」
「何かしら?」
「それは、難しいです。平民である私が意見しようものなら、大量の仕事を押し付けられてしまいます」
「……それは、今も変わらないわよね?」
「そうですけど……それより酷い仕打ちが待っていますから」
ときおり右ひじのあたりを庇うような仕草をするノーラ。私は気になって尋ねると、バカな文官の剣の練習台にされ、骨が折れた経歴があるそうだ。
「酷いことをするものね?公城でそんなことがまかり通っているなんて……公の目は節穴よね……本当に、あの人は」
大きなため息をついている九人。私が公の悪口を言ったことに驚いているようだ。末端である、この子たちは知らないのだろう。顔を突き合わせれば、言い合いばかりしていることを。公妃ほどではないにしても、何かしら、呆れられたり叱られたり、文句を言ったりため息をつきあったりと関係は良好とは言い難い。
「驚いているところ悪いんだけど、公と私はだいたい会えば言い合いしているわよ?坊ちゃん育ちの公のお尻を叩かないといけないことがまだまだあるから」
「……そんなこと、知りたくなかったです」
文官たちは項垂れる。そんな大人たちを不思議そうに見ながら、子どもたちは私に話しかけてきた。
「作業に戻りましょうか?テクト、悪いのだけど……」
「任せてください。それじゃあ、始めますよ?実は、あまり時間がないんでね?」
そう言って、お茶会と結婚式の招待状を作り始める。それが終わったら、誕生日会の準備や結婚式、お茶会の準備をしないといけない。領地の屋敷侍従たち総出で誕生日会の準備をするが、毎年のことに、大変である。
今年はさらに準備しないといけないことが増えたので、公都からの応援もくることになっていた。
私は、動き始めた文官や子らを見て、私の執務へと取り掛かったのであった。
セバスが微妙な顔を向けてくると、子どもたちも不安そうにこちらを気にしている。ノーラも同じようにしているが、ニコニコと笑いかけて心配はいらないと言っておく。
「セバスには、他にしてほしいことがあるの。ロイドと協力して、来年の予算を纏めてほしいわ」
「それは構わないけど……これ、僕の仕事だよ?」
「残念。セバスたちの結婚式であってもセバスたちだけの結婚式じゃないのよ」
「……なんとなく、わかった気がするよ。貴族の結婚式は数多くないけど、そこに参入したいってこと?」
「そんなこと……言ってないわよ?」
ニコニコとしている私を怪しんでいるセバスにほら仕事!と背中を押して執務室から追い出した。渋々出ていったセバス。扉を閉め、自身の執務室へと歩いていく足音を聞いて、私はみなのところへ戻った。
「しばらくは、この作業を手伝って欲しいわ。カイル、マリア、シシリーにダン。いいかしら?」
「それは、大丈夫かと。ただ……」
「心配いらないわ。あなたたちの上司には言っておくから大丈夫。それに1日に拘束するのはお昼前の2時間だけよ」
「そんなに短くていいんですか?」
「えぇ、もちろん」
助かるね?とお互いの顔を見ながら喜んでいる。この四人は、今、それぞれが見習いとしてこの屋敷にいたり、公都の屋敷にいたりと動き回っている。アンジェラの侍従となるべく、それぞれが目標をもって勉強をしているのだ。そんな彼彼女を見て、ノーラも他の文官たちも目を疑うように驚いていた。
「そんなに驚くようなことではないでしょ?あなたたちも、初めて文官として城へ入ったとき、先輩文官に教えを乞い日々の成長に喜びを……って、そうでもないことかしら?」
「……大変言いにくいですけど、僕らは貴族ですから、コネですし……そんな時期なんてなかったし、ノーラは逆に平民でしたから、やったこともない仕事をさせられては叱られてたんじゃないですか?」
三人の視線の先のノーラは、どう答えたらいいのかわからず、苦笑いをしていた。きっと、それが、城で働く平民文官の処世術のひとつなのだろう。
「そんなに酷い扱いなんだ?パルマが改革をしてもなお?」
「……パルマ様の改革は、城全体に行き届いています。なので、今は、わりとまともな環境での仕事になっているかと」
文官の一人が私に説明をしてくれるが、本当にそうなのかと言えば、そうではないだろう。下々の意識改革がされていないから、使えない文官がふんぞり返っているのではないか?と疑問に思った。
「パルマには、少し、今のアンバーで起こっていることを話しておくわ。今、あなたが言ったとおりの意識改革まで出来てたとしたら、セバスの業務指示にも何一つ文句なく働けると思うのよね?」
「……それは」
「そうでしょ?セバスは公国の文官であるとともに男爵位を持っているわ。貴族の令息だと胸張って言えるのは、デビュタントまでよ?爵位もある、先輩でもあるセバスに質問することは許されても、与えられた仕事を放棄することはパルマの改革が進んでいないということよね?」
三人を見つめると、項垂れる。自身が今まで文官として振る舞ってきたことは間違いであったと恥じている。ノーラはきょとんとしているが、こちらはこちらで問題がある。貴族の令息だと言われ、反論することをしなかったのだから。
「ノーラにも責任はあるのよ?口がついているのだから、間違っていることを言えばいいのよ?」
「……畏れながら、アンナリーゼ様」
「何かしら?」
「それは、難しいです。平民である私が意見しようものなら、大量の仕事を押し付けられてしまいます」
「……それは、今も変わらないわよね?」
「そうですけど……それより酷い仕打ちが待っていますから」
ときおり右ひじのあたりを庇うような仕草をするノーラ。私は気になって尋ねると、バカな文官の剣の練習台にされ、骨が折れた経歴があるそうだ。
「酷いことをするものね?公城でそんなことがまかり通っているなんて……公の目は節穴よね……本当に、あの人は」
大きなため息をついている九人。私が公の悪口を言ったことに驚いているようだ。末端である、この子たちは知らないのだろう。顔を突き合わせれば、言い合いばかりしていることを。公妃ほどではないにしても、何かしら、呆れられたり叱られたり、文句を言ったりため息をつきあったりと関係は良好とは言い難い。
「驚いているところ悪いんだけど、公と私はだいたい会えば言い合いしているわよ?坊ちゃん育ちの公のお尻を叩かないといけないことがまだまだあるから」
「……そんなこと、知りたくなかったです」
文官たちは項垂れる。そんな大人たちを不思議そうに見ながら、子どもたちは私に話しかけてきた。
「作業に戻りましょうか?テクト、悪いのだけど……」
「任せてください。それじゃあ、始めますよ?実は、あまり時間がないんでね?」
そう言って、お茶会と結婚式の招待状を作り始める。それが終わったら、誕生日会の準備や結婚式、お茶会の準備をしないといけない。領地の屋敷侍従たち総出で誕生日会の準備をするが、毎年のことに、大変である。
今年はさらに準備しないといけないことが増えたので、公都からの応援もくることになっていた。
私は、動き始めた文官や子らを見て、私の執務へと取り掛かったのであった。
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