1,167 / 1,480
日長執務Ⅲ
しおりを挟む
「……いいんですか?アンナリーゼ様」
セバスが微妙な顔を向けてくると、子どもたちも不安そうにこちらを気にしている。ノーラも同じようにしているが、ニコニコと笑いかけて心配はいらないと言っておく。
「セバスには、他にしてほしいことがあるの。ロイドと協力して、来年の予算を纏めてほしいわ」
「それは構わないけど……これ、僕の仕事だよ?」
「残念。セバスたちの結婚式であってもセバスたちだけの結婚式じゃないのよ」
「……なんとなく、わかった気がするよ。貴族の結婚式は数多くないけど、そこに参入したいってこと?」
「そんなこと……言ってないわよ?」
ニコニコとしている私を怪しんでいるセバスにほら仕事!と背中を押して執務室から追い出した。渋々出ていったセバス。扉を閉め、自身の執務室へと歩いていく足音を聞いて、私はみなのところへ戻った。
「しばらくは、この作業を手伝って欲しいわ。カイル、マリア、シシリーにダン。いいかしら?」
「それは、大丈夫かと。ただ……」
「心配いらないわ。あなたたちの上司には言っておくから大丈夫。それに1日に拘束するのはお昼前の2時間だけよ」
「そんなに短くていいんですか?」
「えぇ、もちろん」
助かるね?とお互いの顔を見ながら喜んでいる。この四人は、今、それぞれが見習いとしてこの屋敷にいたり、公都の屋敷にいたりと動き回っている。アンジェラの侍従となるべく、それぞれが目標をもって勉強をしているのだ。そんな彼彼女を見て、ノーラも他の文官たちも目を疑うように驚いていた。
「そんなに驚くようなことではないでしょ?あなたたちも、初めて文官として城へ入ったとき、先輩文官に教えを乞い日々の成長に喜びを……って、そうでもないことかしら?」
「……大変言いにくいですけど、僕らは貴族ですから、コネですし……そんな時期なんてなかったし、ノーラは逆に平民でしたから、やったこともない仕事をさせられては叱られてたんじゃないですか?」
三人の視線の先のノーラは、どう答えたらいいのかわからず、苦笑いをしていた。きっと、それが、城で働く平民文官の処世術のひとつなのだろう。
「そんなに酷い扱いなんだ?パルマが改革をしてもなお?」
「……パルマ様の改革は、城全体に行き届いています。なので、今は、わりとまともな環境での仕事になっているかと」
文官の一人が私に説明をしてくれるが、本当にそうなのかと言えば、そうではないだろう。下々の意識改革がされていないから、使えない文官がふんぞり返っているのではないか?と疑問に思った。
「パルマには、少し、今のアンバーで起こっていることを話しておくわ。今、あなたが言ったとおりの意識改革まで出来てたとしたら、セバスの業務指示にも何一つ文句なく働けると思うのよね?」
「……それは」
「そうでしょ?セバスは公国の文官であるとともに男爵位を持っているわ。貴族の令息だと胸張って言えるのは、デビュタントまでよ?爵位もある、先輩でもあるセバスに質問することは許されても、与えられた仕事を放棄することはパルマの改革が進んでいないということよね?」
三人を見つめると、項垂れる。自身が今まで文官として振る舞ってきたことは間違いであったと恥じている。ノーラはきょとんとしているが、こちらはこちらで問題がある。貴族の令息だと言われ、反論することをしなかったのだから。
「ノーラにも責任はあるのよ?口がついているのだから、間違っていることを言えばいいのよ?」
「……畏れながら、アンナリーゼ様」
「何かしら?」
「それは、難しいです。平民である私が意見しようものなら、大量の仕事を押し付けられてしまいます」
「……それは、今も変わらないわよね?」
「そうですけど……それより酷い仕打ちが待っていますから」
ときおり右ひじのあたりを庇うような仕草をするノーラ。私は気になって尋ねると、バカな文官の剣の練習台にされ、骨が折れた経歴があるそうだ。
「酷いことをするものね?公城でそんなことがまかり通っているなんて……公の目は節穴よね……本当に、あの人は」
大きなため息をついている九人。私が公の悪口を言ったことに驚いているようだ。末端である、この子たちは知らないのだろう。顔を突き合わせれば、言い合いばかりしていることを。公妃ほどではないにしても、何かしら、呆れられたり叱られたり、文句を言ったりため息をつきあったりと関係は良好とは言い難い。
「驚いているところ悪いんだけど、公と私はだいたい会えば言い合いしているわよ?坊ちゃん育ちの公のお尻を叩かないといけないことがまだまだあるから」
「……そんなこと、知りたくなかったです」
文官たちは項垂れる。そんな大人たちを不思議そうに見ながら、子どもたちは私に話しかけてきた。
「作業に戻りましょうか?テクト、悪いのだけど……」
「任せてください。それじゃあ、始めますよ?実は、あまり時間がないんでね?」
そう言って、お茶会と結婚式の招待状を作り始める。それが終わったら、誕生日会の準備や結婚式、お茶会の準備をしないといけない。領地の屋敷侍従たち総出で誕生日会の準備をするが、毎年のことに、大変である。
今年はさらに準備しないといけないことが増えたので、公都からの応援もくることになっていた。
私は、動き始めた文官や子らを見て、私の執務へと取り掛かったのであった。
セバスが微妙な顔を向けてくると、子どもたちも不安そうにこちらを気にしている。ノーラも同じようにしているが、ニコニコと笑いかけて心配はいらないと言っておく。
「セバスには、他にしてほしいことがあるの。ロイドと協力して、来年の予算を纏めてほしいわ」
「それは構わないけど……これ、僕の仕事だよ?」
「残念。セバスたちの結婚式であってもセバスたちだけの結婚式じゃないのよ」
「……なんとなく、わかった気がするよ。貴族の結婚式は数多くないけど、そこに参入したいってこと?」
「そんなこと……言ってないわよ?」
ニコニコとしている私を怪しんでいるセバスにほら仕事!と背中を押して執務室から追い出した。渋々出ていったセバス。扉を閉め、自身の執務室へと歩いていく足音を聞いて、私はみなのところへ戻った。
「しばらくは、この作業を手伝って欲しいわ。カイル、マリア、シシリーにダン。いいかしら?」
「それは、大丈夫かと。ただ……」
「心配いらないわ。あなたたちの上司には言っておくから大丈夫。それに1日に拘束するのはお昼前の2時間だけよ」
「そんなに短くていいんですか?」
「えぇ、もちろん」
助かるね?とお互いの顔を見ながら喜んでいる。この四人は、今、それぞれが見習いとしてこの屋敷にいたり、公都の屋敷にいたりと動き回っている。アンジェラの侍従となるべく、それぞれが目標をもって勉強をしているのだ。そんな彼彼女を見て、ノーラも他の文官たちも目を疑うように驚いていた。
「そんなに驚くようなことではないでしょ?あなたたちも、初めて文官として城へ入ったとき、先輩文官に教えを乞い日々の成長に喜びを……って、そうでもないことかしら?」
「……大変言いにくいですけど、僕らは貴族ですから、コネですし……そんな時期なんてなかったし、ノーラは逆に平民でしたから、やったこともない仕事をさせられては叱られてたんじゃないですか?」
三人の視線の先のノーラは、どう答えたらいいのかわからず、苦笑いをしていた。きっと、それが、城で働く平民文官の処世術のひとつなのだろう。
「そんなに酷い扱いなんだ?パルマが改革をしてもなお?」
「……パルマ様の改革は、城全体に行き届いています。なので、今は、わりとまともな環境での仕事になっているかと」
文官の一人が私に説明をしてくれるが、本当にそうなのかと言えば、そうではないだろう。下々の意識改革がされていないから、使えない文官がふんぞり返っているのではないか?と疑問に思った。
「パルマには、少し、今のアンバーで起こっていることを話しておくわ。今、あなたが言ったとおりの意識改革まで出来てたとしたら、セバスの業務指示にも何一つ文句なく働けると思うのよね?」
「……それは」
「そうでしょ?セバスは公国の文官であるとともに男爵位を持っているわ。貴族の令息だと胸張って言えるのは、デビュタントまでよ?爵位もある、先輩でもあるセバスに質問することは許されても、与えられた仕事を放棄することはパルマの改革が進んでいないということよね?」
三人を見つめると、項垂れる。自身が今まで文官として振る舞ってきたことは間違いであったと恥じている。ノーラはきょとんとしているが、こちらはこちらで問題がある。貴族の令息だと言われ、反論することをしなかったのだから。
「ノーラにも責任はあるのよ?口がついているのだから、間違っていることを言えばいいのよ?」
「……畏れながら、アンナリーゼ様」
「何かしら?」
「それは、難しいです。平民である私が意見しようものなら、大量の仕事を押し付けられてしまいます」
「……それは、今も変わらないわよね?」
「そうですけど……それより酷い仕打ちが待っていますから」
ときおり右ひじのあたりを庇うような仕草をするノーラ。私は気になって尋ねると、バカな文官の剣の練習台にされ、骨が折れた経歴があるそうだ。
「酷いことをするものね?公城でそんなことがまかり通っているなんて……公の目は節穴よね……本当に、あの人は」
大きなため息をついている九人。私が公の悪口を言ったことに驚いているようだ。末端である、この子たちは知らないのだろう。顔を突き合わせれば、言い合いばかりしていることを。公妃ほどではないにしても、何かしら、呆れられたり叱られたり、文句を言ったりため息をつきあったりと関係は良好とは言い難い。
「驚いているところ悪いんだけど、公と私はだいたい会えば言い合いしているわよ?坊ちゃん育ちの公のお尻を叩かないといけないことがまだまだあるから」
「……そんなこと、知りたくなかったです」
文官たちは項垂れる。そんな大人たちを不思議そうに見ながら、子どもたちは私に話しかけてきた。
「作業に戻りましょうか?テクト、悪いのだけど……」
「任せてください。それじゃあ、始めますよ?実は、あまり時間がないんでね?」
そう言って、お茶会と結婚式の招待状を作り始める。それが終わったら、誕生日会の準備や結婚式、お茶会の準備をしないといけない。領地の屋敷侍従たち総出で誕生日会の準備をするが、毎年のことに、大変である。
今年はさらに準備しないといけないことが増えたので、公都からの応援もくることになっていた。
私は、動き始めた文官や子らを見て、私の執務へと取り掛かったのであった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる