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何もできない1週間
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始まりました、何もできない1週間。
私室に戻り、ヨハンの検診を受ければ、やはり、もう少し休養が必要だと言われた。これ見よがしにナタリーが睨んでくるが、愛ゆえにと思うととてもありがたい。
「お時間があるのが嫌なのですか?」
「……体を動かせないのが、嫌かな?子どもたちもここへ呼んだらダメ?」
「ダメではないですけど、あまり長くはダメです」
「話し相手が欲しいけど……みんな忙しいものね。大人しくしているわ」
部屋を出ていくナタリーを見送り、ウィルが部屋に入って来た。検診があったので、部屋から出ていてくれたのだ。
「何?姫さん、暇なの?」
「……暇なの。何かない?」
「まぁ、何もないなぁ?俺もだいたい姫さんにくっついて出かけてるから、話せる内容も限られるし……子守歌でも歌うか?」
「……やだ!寝たくないわ。そうだ。ウィルの小さいころの話を聞かせてよ?」
「いいけど、前話さなかったか?」
「いいでしょ?人の幼少期の話なんて、滅多にきけないし、貴族なんて、本当……」
「あぁ、はいはい。話すよ。前聞いたのがあっても、気にせず聞いてくれ」
「そうする!」
ベッドに座れば、ウィルが近くまで椅子を持ってきて腰掛ける。何から話すかなぁ?と考えているのだが、家族の話をしてくれるようだ。
「俺は、姫さんも知ってのとおり、サーラー子爵家の三男で上の兄とは年が離れている」
「そうだったわね?どれくらい?」
「うーん、どうだろ?結構だよ。一緒に育ってないから、実は兄のことは知らないことが多いんだ」
「そうなの?」
「そう。それに俺は、貴族として扱われることがない三男。予備と言えば予備だけど、何かしら身を立てるものを見つけないといけなかったから、そこらあたりは兄たちとは相いれないものがあったかな?」
「幼少期から体が大きくて、粗野だったって聞いていたけど」
「そうそう。ケンカばかりしてた。俺の聞いた話、どこかのおてんば娘もそう変わらない気がしたけど……」
私のこと?と睨むと、ケラケラと笑っている。私の話は、学園でも有名だった。王都で私のことを知らない人はいなかったし、貴族でももちろん有名だ。
「でも、姫さんと明らかに違うのは、政略結婚はしなくていいけど、食扶持確保だな。幸い、早い段階で、近衛になるって決めていたすんなり、この道を選べたけどさ」
「どれくらいには決めていたの?」
「デビュタントの前には、もう、決めてた。領地に残って警備隊に入ることも考えたけど、規模がなぁ……国と子爵領とでは違うだろ?」
「そうね?まだ、アンバー領の方が大きいわ!まぁ、大きいだけで、ウィルの育つまで何もなかった土地ではあるんだけど」
「そうそう、それ。サーラー子爵領って交通の要所って言われるくらい、あちこちに道が伸びているからさ、警備隊もそこそこ強いんだよ」
「強いの?」
「そう、まぁ、姫さん基準だと、全然だけどなぁ。おもしろい人材も多いと思うし、俺もそこで剣の扱いは習ったんだ」
「近衛を選んだのは規模だけじゃないよね?」
もちろん!と言いながら、説明をしていく。何より、強い人と研鑽したかったとか、給料がいいとか、制服がかっこいいとか……少年が憧れるような内容の話で笑ってしまう。
「あぁ、姫さん!そこは笑うところじゃないね?俺は人生がかかってるんだから、必死なわけだし。姫さんに出会えたおかげで、今はこうしているけどなぁ……爵位も貰ったし」
「貴族には興味がなかった?」
「まぁ、貴族になると、融通も利くからっていうのはあるけど、近衛でいればそれほど、気にはならなかったよ。学園は貴族側に入れてもらえてたわけだし。俺の人生で1番の岐路はどこかって言ったら、この時期だと思う」
「学園?」
「そう。貴族として入れて本当によかったって。姫さんに辿り着けたことは、俺にとって1番の幸運だって本当に思っているんだ。ただ、なんとなく近衛になって、生活できるだけの金を稼いでって、あんまり目標みたいなものがなかったから。何より、背中を預けられる存在っていうのを一生涯で見つけられるなんて、思ってもみなかったから」
ウィルにとって、背中を預けられる存在は大切らしい。ずっと、そんな人がいれば……と思っていたらしい。同じくらい強いか、ウィル以上に強い人。その相手も信頼してくれていることも含めて、ずっと求めていたという。
「でも、実際の小競り合いになったら、私は戦場には出られないわよ?」
「……いの一番に飛び出して行ってそうだけど?」
少し考えてみれば、確かにと笑う。でも、実際は、出来ないのだ。私は何かあれば、アンバー領が戦場になるようなことがなければ、基本的に公の護衛になるはずだ。ウィルたち近衛が最前線へ向かうのに対して、私は後方支援に回されることだろう。
「セバスも後方支援になるんだろうな。俺は前線へ行くことになるだろうし」
「……私が生きているあいだは、大きな戦争なんてさせないわ。私にだって守りたいものがあるもの」
「それって、俺も含まれる?」
「もちろん!最前線に向かわないといけないウィルのことを1番案じているわ。だから、絶対ね!」
「姫さんってさ?アンバーに嫁いできた理由が確か戦争回避だったよね?」
「……そうだよ?戦争が起こる未来を変えたくて、嫁いだの。アンジェラが、最悪の事態を変える力があるって……」
「どこまで信じている?その未来」
ウィルのアイスブルーの瞳が私をジッと見てくる。以前、話したことがあるが、今の私はどう思っているのか……聞いてみたいという目であった。
私室に戻り、ヨハンの検診を受ければ、やはり、もう少し休養が必要だと言われた。これ見よがしにナタリーが睨んでくるが、愛ゆえにと思うととてもありがたい。
「お時間があるのが嫌なのですか?」
「……体を動かせないのが、嫌かな?子どもたちもここへ呼んだらダメ?」
「ダメではないですけど、あまり長くはダメです」
「話し相手が欲しいけど……みんな忙しいものね。大人しくしているわ」
部屋を出ていくナタリーを見送り、ウィルが部屋に入って来た。検診があったので、部屋から出ていてくれたのだ。
「何?姫さん、暇なの?」
「……暇なの。何かない?」
「まぁ、何もないなぁ?俺もだいたい姫さんにくっついて出かけてるから、話せる内容も限られるし……子守歌でも歌うか?」
「……やだ!寝たくないわ。そうだ。ウィルの小さいころの話を聞かせてよ?」
「いいけど、前話さなかったか?」
「いいでしょ?人の幼少期の話なんて、滅多にきけないし、貴族なんて、本当……」
「あぁ、はいはい。話すよ。前聞いたのがあっても、気にせず聞いてくれ」
「そうする!」
ベッドに座れば、ウィルが近くまで椅子を持ってきて腰掛ける。何から話すかなぁ?と考えているのだが、家族の話をしてくれるようだ。
「俺は、姫さんも知ってのとおり、サーラー子爵家の三男で上の兄とは年が離れている」
「そうだったわね?どれくらい?」
「うーん、どうだろ?結構だよ。一緒に育ってないから、実は兄のことは知らないことが多いんだ」
「そうなの?」
「そう。それに俺は、貴族として扱われることがない三男。予備と言えば予備だけど、何かしら身を立てるものを見つけないといけなかったから、そこらあたりは兄たちとは相いれないものがあったかな?」
「幼少期から体が大きくて、粗野だったって聞いていたけど」
「そうそう。ケンカばかりしてた。俺の聞いた話、どこかのおてんば娘もそう変わらない気がしたけど……」
私のこと?と睨むと、ケラケラと笑っている。私の話は、学園でも有名だった。王都で私のことを知らない人はいなかったし、貴族でももちろん有名だ。
「でも、姫さんと明らかに違うのは、政略結婚はしなくていいけど、食扶持確保だな。幸い、早い段階で、近衛になるって決めていたすんなり、この道を選べたけどさ」
「どれくらいには決めていたの?」
「デビュタントの前には、もう、決めてた。領地に残って警備隊に入ることも考えたけど、規模がなぁ……国と子爵領とでは違うだろ?」
「そうね?まだ、アンバー領の方が大きいわ!まぁ、大きいだけで、ウィルの育つまで何もなかった土地ではあるんだけど」
「そうそう、それ。サーラー子爵領って交通の要所って言われるくらい、あちこちに道が伸びているからさ、警備隊もそこそこ強いんだよ」
「強いの?」
「そう、まぁ、姫さん基準だと、全然だけどなぁ。おもしろい人材も多いと思うし、俺もそこで剣の扱いは習ったんだ」
「近衛を選んだのは規模だけじゃないよね?」
もちろん!と言いながら、説明をしていく。何より、強い人と研鑽したかったとか、給料がいいとか、制服がかっこいいとか……少年が憧れるような内容の話で笑ってしまう。
「あぁ、姫さん!そこは笑うところじゃないね?俺は人生がかかってるんだから、必死なわけだし。姫さんに出会えたおかげで、今はこうしているけどなぁ……爵位も貰ったし」
「貴族には興味がなかった?」
「まぁ、貴族になると、融通も利くからっていうのはあるけど、近衛でいればそれほど、気にはならなかったよ。学園は貴族側に入れてもらえてたわけだし。俺の人生で1番の岐路はどこかって言ったら、この時期だと思う」
「学園?」
「そう。貴族として入れて本当によかったって。姫さんに辿り着けたことは、俺にとって1番の幸運だって本当に思っているんだ。ただ、なんとなく近衛になって、生活できるだけの金を稼いでって、あんまり目標みたいなものがなかったから。何より、背中を預けられる存在っていうのを一生涯で見つけられるなんて、思ってもみなかったから」
ウィルにとって、背中を預けられる存在は大切らしい。ずっと、そんな人がいれば……と思っていたらしい。同じくらい強いか、ウィル以上に強い人。その相手も信頼してくれていることも含めて、ずっと求めていたという。
「でも、実際の小競り合いになったら、私は戦場には出られないわよ?」
「……いの一番に飛び出して行ってそうだけど?」
少し考えてみれば、確かにと笑う。でも、実際は、出来ないのだ。私は何かあれば、アンバー領が戦場になるようなことがなければ、基本的に公の護衛になるはずだ。ウィルたち近衛が最前線へ向かうのに対して、私は後方支援に回されることだろう。
「セバスも後方支援になるんだろうな。俺は前線へ行くことになるだろうし」
「……私が生きているあいだは、大きな戦争なんてさせないわ。私にだって守りたいものがあるもの」
「それって、俺も含まれる?」
「もちろん!最前線に向かわないといけないウィルのことを1番案じているわ。だから、絶対ね!」
「姫さんってさ?アンバーに嫁いできた理由が確か戦争回避だったよね?」
「……そうだよ?戦争が起こる未来を変えたくて、嫁いだの。アンジェラが、最悪の事態を変える力があるって……」
「どこまで信じている?その未来」
ウィルのアイスブルーの瞳が私をジッと見てくる。以前、話したことがあるが、今の私はどう思っているのか……聞いてみたいという目であった。
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