ハニーローズ ～ 『予知夢』から始まった未来変革 ～

復活した私は今日もどこかで叱られるⅡ

　バンッ！と勢いよく扉があき、私とビルとユービスは目を白黒させる。開いた扉の前で立っているのは仁王立ちをして睨んでいるナタリーと明らかに怒っている笑顔のリアンでその後ろにはジョージアがアンジェラを追いかけるようについてきている。その後ろからは青ざめたアデルとアデルに小言を言っているウィルとセバス、暢気に最後尾で大あくびをしているヨハンが続く。


「……」


　ヤバいやつだ……。

　明らかに前の女性陣二人の目が笑っていない。逃げようかとビルとユービスに視線を送ると、首を横にフルフルと振り、カタカタと震えながら後ずさっている。ナタリーとリアンの視界から消える算段をしているようで、あっさり見捨てられてしまう。

　ナタリーが一歩、執務室へ入った。後を追うようにリアンも入ってくる。


「えっと……その……」


　二人の怒りの前にうまい言い訳など出てくるはずもなく、口ごもってしまう。その間にも、私へと近く二人。ナタリーが後ろを振り返り、ジョージアに言い放つ。


「アデルとウィルを中に入れて、ジョージア様はその扉を閉めてください」


　有無を言わせないナタリーにジョージアがはいと返事をすると、ウィルとアデルが中に、ビルとユービスがドサクサにまぎれ外へ、アンジェラはジョージアにつまみだされてぱたりと扉がしまった。


「さぁ、アンナ様。もう、逃げ場はありませんよ？」


　微笑むリアンに口元を引きつらせる。1番最後にゆっくり来ていたヨハンが遅れて執務室へ入って来た。


「……逃げていたわけではないわよ？」
「アンナリーゼ様？」
「……はい。なんでしょう？ナタリー」
「何故、私たちが、ここに集まっているか……ご存じですよね？」
「……それは、その、私が、部屋に、いなかった、からで……」
「そうです。今朝がたまで、高熱を出していたかがた、どうして、執務室に来ているのですか？」


　ナタリーに静かに問いかけられると、次の言葉を発するのも怖いくらいだ。

　……まだ、デリアじゃないだけ、いいのだけど、それにしても二人とも怖い。

　私を心配してくれているのは十分わかっているし、寝室からいなくなっていれば驚くことだろう。屋敷中を探してくれていたのかもしれない。


「……少し、寄っただけよ？お花を摘みに行った帰りに……」
「本当ですか？私が寝室へ入ったとき、もうすでにベッドは冷たかったですし、アデルには毛布がかかっていましたよ？どれほどのお時間、ここにいたのでしょうね？」


　執務机の上にある書類や手紙をみれば、どれくらいの時間、ここで執務をしていたかバレてしまう。専属侍女のいない今、この部屋を管理しているのは、ナタリーだ。私の執務をする時間配分、ビルやユービスが執務室にいたことを考えても、バレてしまうだろう。


「……執務をするなとは申していません。領主として裁可をしないといけない案件もありますし、アンナリーゼ様が手がけている事業も多くあります。ですが、今朝がたまで公お熱を出して唸っていたいた人がすることではありません。アンナリーゼ様の高熱は、疲労からきているのですよ？もう少し、お休みを取っていただかないといけません！」
「……はい、すみません」
「反省していますというふうに肩を落としても無駄です。いいですか？お休みをするということも、執務をする上では、必要なのですよ？」


　ナタリーの強い物言いに、普段なら、ジョージアがあいだを取り持ってくれるのだが、今日は、全面的にナタリーの言い分が正しい。ジョージアがいたとしても、きっと、もっと体を大事にするようにと追随されることだろう。後ろでウィルが頷いているし、アデル顔色はさらに悪くなっている。


「わかりました。部屋に戻ります。ヨハンもいることだし、診療を受けるわ。ウィル！」
「何？セバスとイチアに言っておいて。1週間、お休みをいただきますと」
「了解で。ゆっくり休ん春に向けて力を蓄えておいて。麦の種まきもあるし、セバスの結婚式やお嬢の誕生日会がある。お茶会もするって聞いているし、公都に戻るまでにも、姫さんが外せない行事がたくさんあるからね」


　私は頷き、任せたと言うと、みんなそのつもりでここにいるからと笑った。


「ナタリーもリアンもそれくらいにしておいて。とにかく、姫さんをベッドへ連れ戻して」
「わかったわ、ウィル」
「世話の焼ける主人だけどさ、アデルも」
「……それは、わかっていますが、さすがに……今回は肝が冷えました」
「まぁ、姫さんはいつでもどこでも狙われているからねぇ？今回は、俺にも非があるから」「そんなことはないですよ？」
「熱が下がれば、活動するって言ってなかっただろう？本当、どこからその行動力が湧いてくるのかわからないけど……これからは、俺も気を付けるから。ちょっと、今日の朝はレオとミアの訓練に手間取ってたから、遅くなってしまったし」
「いえ、アンナ様の行動力を甘く見ていたからです。以後、このようなことがないようにいたします」
「罰とかそういうのは、ないから」
「ナタリー様」


　アデルの呼びかけに、振り返りコクと頷くナタリー。お咎めなしの言葉に安堵しているアデル。


「ウィルをはじめ護衛は、もう少し、アンナリーゼ様が突拍子もない行動をすることを肝に銘じておいてちょうだい。アンジェラ様もその帰来があるから、そこもね！」
「警備を見直しますか……」


　呟いたウィルにアデルが縋るようにしている。雰囲気はピリピリしていたものか少し和らいだが、私のしでかしたことで、心配をかけたことを、みなにもう一度謝った。