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小さな喜びの積み重ね
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「スプーンもお手の物ね?」
「上手に使えた!帰ってからジョーに自慢する!」
得意げにしているアンジェラだが、ジョージはもう使えたはずだ。フォークとナイフも子ども用のであれば、なんなく扱っている。
「ジョーはスプーンを持てなかったので?」
「ちょっと握り方がね?大人のスプーンだと少し重いし、まだ、上手には使えなかったの。ギュっと握っていたのよね」
「それじゃあ、大きな進歩ですね?とっても上手にできましたね?」
アデルに頭を撫でてもらうと、アンジェラは目を細めて喜ぶ。銀のサラサラとした髪は、アデルにわしゃわしゃされてくちゃくちゃだ。だんだん抗議したそうな目で、アデルに訴えかけているが気付かず、私のほうを向いている。
「アデルがなんでリアンに振り向てもらえないのか……わかった気がする」
「えっ?何でですか?」
「……ジョーを見て?思うところない?」
ぷくっと頬を膨らませているアンジェラを見て、慌てて頭から手を取った。くしゃくしゃになった長い髪が顔の前にかかり、不機嫌だ。
「こっちにいらっしゃい」
椅子から降りて、私の膝によじ登る。途中で助けて膝の上に乗せた。アデルにくしゃくしゃにされた髪を、小さなバックからくしを取り出し整えてやる。サラサラの髪が、元通りになって、ご機嫌も元通りになった。
「……ごめんなさい」
アデルがその様子を見て、アンジェラに謝った。しょぼっとしてしまったアデルを見て、私の膝から降りるアンジェラ。側に寄って、アンジェラの小さな手で、アデルの大きな手をトントンと叩いた。
「これからは、女の子の髪はむやみやたらと触らないように。ほら、ジョーも」
「ごめんね?」
「いいよ!」
仲直りとでもいうかのように、抱っこを所望するアンジェラ。いつもはそんなおねだりをするのはウィルにだけだが、どういう風の吹き回しか……女の子の気持ちは秋の空模様のようにわからない。少し困ったような表情をアデルは一瞬したが、すぐに両脇を支えて、膝の上に乗せた。その様子を見ていた店員がニコニコとやってくる。
「あら、いいわね?お父さんの膝の上」
ニコッと笑うアンジェラに店員の方が嬉しそうな表情をする。
「こんな可愛い子に笑ってもらったら、幸せな気持ちになるわ。お母さん、美人な娘を産んだもんだ!」
「ありがとう」
「それにしたって、お父さんは将来のことを考えたら、気が気じゃないねぇ?」
クスクス笑う店員にごもっともですとボソボソと呟く。ジョージアなら、ここで黙ってしまうか、嫁になんてやらないから大丈夫なんて言ってしまいそうで、二人の様子をみながら、私も笑ってしまった。
「名に笑っているんです?」
「親子に見えるなって」
「親子ですから!」
一頻り笑い、スープと暖炉で体が温まったので、お勘定を済ませ店を出る。外はやはり寒いが、スープを食べたおかげか、少しほっこりしていた。
「外は寒いですね」
「さっきほどではないけどね」
「ジョーは、歩く?それとも……?」
「歩く!」
私の手を握って、テクテクと歩き始める。領地を見て歩くには、体力も必要なので、できれば、疲れたというまでは、歩かせたいと思っていたので助かった。
「アンジェラ様ももう少ししたら、剣術を習うのですか?」
「そうね。そうなると思うわ。剣だけじゃなく、いろいろなものを扱えるようにとは考えてはいるの」
「あぁ、重量があるもの以外なら、アンナも使えますからね。一つ聞いても?」
なにかしら?と少し後ろを歩くアデルへ振り返る。許可が出たので、満を持して聞いてみるというような表情だ。
「どの武器が自身に1番あっていると思いますか?」
「片手剣かな?いつも持っているものが1番体に馴染んでいるし、使い勝手もいいわ。投げナイフも得意と言えば得意だけど……デリアがあまりにもすごいから、得意って言えなくなったわ」
「デリアさんのお手前は見たことがないからわかりませんが……アンナを凌ぐほどで?」
「えぇ、すごいわよ?ヒーナもナイフ使いだから、投げるのは得意よね」
「ヒーナさん、容赦ないですからね……たまに訓練場を荒らしていきますけど。ナタリー様が可愛らしく見えますよ」
「ナタリーもヒーナも警備隊の訓練場に通っているの?」
知らなかったと言えば、説明をしてくれる。アデルも訓練場に関しては、任されているうちの一人なので、状況を把握しているらしい。
「最近では、ウィル様が、お子様方を連れて訓練にこられますよ。ミア様もナイフの練習をされています」
「……そっか。ウィルが教え始めたか。護身用には必要よね?」
「……アンバー領に関わる女性たちは、とても逞しいですね。他の領地の婦人たちは、守られて当然と言うふうですけど……」
「そうね。護身術は身につけておいても邪魔にはならないから」
「確かに。どっちにしても、この領地のご婦人たちの憧れは、やはりアンナですから……護身術を習いたいという女性、増えてきていますよ」
「そうなの?」
「はい、個別で練習していますよ」
「それなら、いっそのこと、護身術教室を開いてもいいのかもしれないわね?」
思わぬところからの情報に驚きながらも、募集をしてもいいのではないかと思えてきた。講師はウィル、ヒーナ当たりがいいだろう。当て馬は……と、アデルのほうを見上げると、またよからぬことを考えていませんか?と少し歩く距離を置かれてしまった。
「上手に使えた!帰ってからジョーに自慢する!」
得意げにしているアンジェラだが、ジョージはもう使えたはずだ。フォークとナイフも子ども用のであれば、なんなく扱っている。
「ジョーはスプーンを持てなかったので?」
「ちょっと握り方がね?大人のスプーンだと少し重いし、まだ、上手には使えなかったの。ギュっと握っていたのよね」
「それじゃあ、大きな進歩ですね?とっても上手にできましたね?」
アデルに頭を撫でてもらうと、アンジェラは目を細めて喜ぶ。銀のサラサラとした髪は、アデルにわしゃわしゃされてくちゃくちゃだ。だんだん抗議したそうな目で、アデルに訴えかけているが気付かず、私のほうを向いている。
「アデルがなんでリアンに振り向てもらえないのか……わかった気がする」
「えっ?何でですか?」
「……ジョーを見て?思うところない?」
ぷくっと頬を膨らませているアンジェラを見て、慌てて頭から手を取った。くしゃくしゃになった長い髪が顔の前にかかり、不機嫌だ。
「こっちにいらっしゃい」
椅子から降りて、私の膝によじ登る。途中で助けて膝の上に乗せた。アデルにくしゃくしゃにされた髪を、小さなバックからくしを取り出し整えてやる。サラサラの髪が、元通りになって、ご機嫌も元通りになった。
「……ごめんなさい」
アデルがその様子を見て、アンジェラに謝った。しょぼっとしてしまったアデルを見て、私の膝から降りるアンジェラ。側に寄って、アンジェラの小さな手で、アデルの大きな手をトントンと叩いた。
「これからは、女の子の髪はむやみやたらと触らないように。ほら、ジョーも」
「ごめんね?」
「いいよ!」
仲直りとでもいうかのように、抱っこを所望するアンジェラ。いつもはそんなおねだりをするのはウィルにだけだが、どういう風の吹き回しか……女の子の気持ちは秋の空模様のようにわからない。少し困ったような表情をアデルは一瞬したが、すぐに両脇を支えて、膝の上に乗せた。その様子を見ていた店員がニコニコとやってくる。
「あら、いいわね?お父さんの膝の上」
ニコッと笑うアンジェラに店員の方が嬉しそうな表情をする。
「こんな可愛い子に笑ってもらったら、幸せな気持ちになるわ。お母さん、美人な娘を産んだもんだ!」
「ありがとう」
「それにしたって、お父さんは将来のことを考えたら、気が気じゃないねぇ?」
クスクス笑う店員にごもっともですとボソボソと呟く。ジョージアなら、ここで黙ってしまうか、嫁になんてやらないから大丈夫なんて言ってしまいそうで、二人の様子をみながら、私も笑ってしまった。
「名に笑っているんです?」
「親子に見えるなって」
「親子ですから!」
一頻り笑い、スープと暖炉で体が温まったので、お勘定を済ませ店を出る。外はやはり寒いが、スープを食べたおかげか、少しほっこりしていた。
「外は寒いですね」
「さっきほどではないけどね」
「ジョーは、歩く?それとも……?」
「歩く!」
私の手を握って、テクテクと歩き始める。領地を見て歩くには、体力も必要なので、できれば、疲れたというまでは、歩かせたいと思っていたので助かった。
「アンジェラ様ももう少ししたら、剣術を習うのですか?」
「そうね。そうなると思うわ。剣だけじゃなく、いろいろなものを扱えるようにとは考えてはいるの」
「あぁ、重量があるもの以外なら、アンナも使えますからね。一つ聞いても?」
なにかしら?と少し後ろを歩くアデルへ振り返る。許可が出たので、満を持して聞いてみるというような表情だ。
「どの武器が自身に1番あっていると思いますか?」
「片手剣かな?いつも持っているものが1番体に馴染んでいるし、使い勝手もいいわ。投げナイフも得意と言えば得意だけど……デリアがあまりにもすごいから、得意って言えなくなったわ」
「デリアさんのお手前は見たことがないからわかりませんが……アンナを凌ぐほどで?」
「えぇ、すごいわよ?ヒーナもナイフ使いだから、投げるのは得意よね」
「ヒーナさん、容赦ないですからね……たまに訓練場を荒らしていきますけど。ナタリー様が可愛らしく見えますよ」
「ナタリーもヒーナも警備隊の訓練場に通っているの?」
知らなかったと言えば、説明をしてくれる。アデルも訓練場に関しては、任されているうちの一人なので、状況を把握しているらしい。
「最近では、ウィル様が、お子様方を連れて訓練にこられますよ。ミア様もナイフの練習をされています」
「……そっか。ウィルが教え始めたか。護身用には必要よね?」
「……アンバー領に関わる女性たちは、とても逞しいですね。他の領地の婦人たちは、守られて当然と言うふうですけど……」
「そうね。護身術は身につけておいても邪魔にはならないから」
「確かに。どっちにしても、この領地のご婦人たちの憧れは、やはりアンナですから……護身術を習いたいという女性、増えてきていますよ」
「そうなの?」
「はい、個別で練習していますよ」
「それなら、いっそのこと、護身術教室を開いてもいいのかもしれないわね?」
思わぬところからの情報に驚きながらも、募集をしてもいいのではないかと思えてきた。講師はウィル、ヒーナ当たりがいいだろう。当て馬は……と、アデルのほうを見上げると、またよからぬことを考えていませんか?と少し歩く距離を置かれてしまった。
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