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新しい町
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アデルと一緒に広げた大きな紙は、ひとつの町の見取り図であった。オリーブ農園を中心に搾油工場が作られ、その周りに家が立ち並ぶ。道も整備されたものが予定されており、とても驚いた。
「これ……」
「アンナリーゼ様がこられない間に棟梁がざっと描いてくれた区画整理用のものです。これで決まりというわけではないので……」
「うん、わかってる。すごいわ。もう、こんなふうに町を作るのね?」
「ご希望があれば、改良するそうですし、そもそもお気に召さなければ、最初から変えるつもりです」
「そうなの?もったいないわ!」
見取り図を見ながら、ずっと考えていたことを口にする。まだ、誰にも言っていないのだけど、海の見える綺麗な場所でもあるこの場に、隠れた宿を作りたいという。
「隠れたですか?」
「そう。最初は貴族用にこっそり始めるのがいいと思うのよ。領地に入ってからも長閑だから、ゆっくり出来るんじゃないかって思っていてね?せっかく海の幸も山の幸も養豚もしていることだから、高級なお宿をね……したいなって」
「アンバー領を余すところなく味わえる高級宿ってことですか?」
「そう!それ!思いつきだって、また、みんなに叱られるかもしれないから、持ち帰りの案件になるだろうけど、見取り図は新しい町でしょ?もう少し行ったところにね?今日は、それより、こっちね!」
もう一度、見取り図を見ていく。よくできたそれは、動線までうまく考えられていて、オリーブを中心に町を作ってあることがわかりやすい。
「この道を石畳にするのね。それなら、地底湖のあたりも整備出来るかしら?あの階段状のところを馬車が通れるようにしないと、難しいのよね……いろいろと」
「確かに、荷物も運べませんしね。もし、将来的に貴族相手に高級宿を展開するなら、大き目の箱馬車が通れるのは必須ですし、重い荷馬車も通れないと難しいですね?」
「そうね……どのみち、新しい道が必要よね?」
「リアノに相談してはいかがですか?彼なら、そういったことも任せられるではないですか?」
「そっか、リアノに設計をしてもらえばいいわね?今って、どこにいるのかしらね?」
フレイゼンの学都から来ている十人の魔法使いたちは、それぞれの持ち場で活躍している。その中で土木工事を担当してくれている設計士でもある。
「今は、カノタと一緒に現場へ出ているはずですよ。今回も誘おうとしていたんですけど、カノタが進めている石の橋のことで、いろいろと見直しをしているそうなので、誘えなかったんですよ」
「そうなんだ?招集をかければ、すぐに来てくれそうね?」
「そうですね。どのみち、ここの開発をするには、土木工事で下地を作らないといけないですし、棟梁を含め、大工たちとも連携が必要です。とりあえず、農家の人や学生が中心に今回の伐採には参加してくれていますが、今後植樹に関しても、知識が……」
「植樹に関しては、ルーイがいるから大丈夫!あと、クレアが土の整備をしてくれるはず。ヨハンも何か言っていたから、こちらは問題なさそうね?」
「あとは、アルカも来てほしいですね?」
「水質調査ね?ここは海が近いから、飲める水か、植物を育てるのに適しているかという問題があるわ」
リリーが頷いたので、早速呼んでくれるだろう。アルカは基本的に領地を飛び回っている。水質調査だけでなく、災害が起きないよう、被害を少なくできるように山の水の貯水率なども調べてくれている。貯水率が少ないとか、極端に多いとなれば、植樹を提案してくれたり、災害を未然に防ぐために動き回ってくれていた。コーコナ領でのことがあって、アルカも気を付けてくれているらしい。
「あとは、そうね……また、ヨハンを引っ張り出してくるわ。良い実りは、良い土からだからね。クレアと話をしてくれると助かるし。ルーイがこの町で1番オリーブのことを知っている研究者だから、そこは、任せましょう」
「じゃあ、搾油工場の方はどうする?」
「ドールが工場の責任者になる予定ね。どういった道具がいるとか、建物の構造とかは、ドール中心に話合いをした方がいいわ。私たちじゃ、わからないことも多いから」
話を終えたところで、仮に住む簡易的な家が必要だと提案される。ここには、何もないのだ。ヨハンの研究所のほうへ行けば、多少なりと住む家はあるが、それほど多くはない。
「最初に町作りから始めないとダメかもしれないわね。でも、道がないから、家を建てる材料を運ぶだけで大変そう……」
「そこは、なんとかしますよ。貴族のアンナリーゼ様より、そういう知恵は、平民の方がありますからね。リアノさんが来てくれれば、そこの問題もすぐに解決出来ます」
「ノクトも参加するって聞いているから、しっかり使ってあげてね?」
「……ノクトさんもですか?あの人、何でも出来てしまうので、来てくれると、助かりますね?」
「そんなに重宝されているの?」
「ヘタな素人より、ノクトさんがいれば、十人分のしごとをこなしてくれますよ!」
リリーが笑うと、アデルも笑っている。私もリリーが言いたいことがわかるので、苦笑いをした。元常勝将軍も、アンバー領へ来たら、人好きなただのおじさんってことかと、なんとも平和な話だなと思えた。
「これ……」
「アンナリーゼ様がこられない間に棟梁がざっと描いてくれた区画整理用のものです。これで決まりというわけではないので……」
「うん、わかってる。すごいわ。もう、こんなふうに町を作るのね?」
「ご希望があれば、改良するそうですし、そもそもお気に召さなければ、最初から変えるつもりです」
「そうなの?もったいないわ!」
見取り図を見ながら、ずっと考えていたことを口にする。まだ、誰にも言っていないのだけど、海の見える綺麗な場所でもあるこの場に、隠れた宿を作りたいという。
「隠れたですか?」
「そう。最初は貴族用にこっそり始めるのがいいと思うのよ。領地に入ってからも長閑だから、ゆっくり出来るんじゃないかって思っていてね?せっかく海の幸も山の幸も養豚もしていることだから、高級なお宿をね……したいなって」
「アンバー領を余すところなく味わえる高級宿ってことですか?」
「そう!それ!思いつきだって、また、みんなに叱られるかもしれないから、持ち帰りの案件になるだろうけど、見取り図は新しい町でしょ?もう少し行ったところにね?今日は、それより、こっちね!」
もう一度、見取り図を見ていく。よくできたそれは、動線までうまく考えられていて、オリーブを中心に町を作ってあることがわかりやすい。
「この道を石畳にするのね。それなら、地底湖のあたりも整備出来るかしら?あの階段状のところを馬車が通れるようにしないと、難しいのよね……いろいろと」
「確かに、荷物も運べませんしね。もし、将来的に貴族相手に高級宿を展開するなら、大き目の箱馬車が通れるのは必須ですし、重い荷馬車も通れないと難しいですね?」
「そうね……どのみち、新しい道が必要よね?」
「リアノに相談してはいかがですか?彼なら、そういったことも任せられるではないですか?」
「そっか、リアノに設計をしてもらえばいいわね?今って、どこにいるのかしらね?」
フレイゼンの学都から来ている十人の魔法使いたちは、それぞれの持ち場で活躍している。その中で土木工事を担当してくれている設計士でもある。
「今は、カノタと一緒に現場へ出ているはずですよ。今回も誘おうとしていたんですけど、カノタが進めている石の橋のことで、いろいろと見直しをしているそうなので、誘えなかったんですよ」
「そうなんだ?招集をかければ、すぐに来てくれそうね?」
「そうですね。どのみち、ここの開発をするには、土木工事で下地を作らないといけないですし、棟梁を含め、大工たちとも連携が必要です。とりあえず、農家の人や学生が中心に今回の伐採には参加してくれていますが、今後植樹に関しても、知識が……」
「植樹に関しては、ルーイがいるから大丈夫!あと、クレアが土の整備をしてくれるはず。ヨハンも何か言っていたから、こちらは問題なさそうね?」
「あとは、アルカも来てほしいですね?」
「水質調査ね?ここは海が近いから、飲める水か、植物を育てるのに適しているかという問題があるわ」
リリーが頷いたので、早速呼んでくれるだろう。アルカは基本的に領地を飛び回っている。水質調査だけでなく、災害が起きないよう、被害を少なくできるように山の水の貯水率なども調べてくれている。貯水率が少ないとか、極端に多いとなれば、植樹を提案してくれたり、災害を未然に防ぐために動き回ってくれていた。コーコナ領でのことがあって、アルカも気を付けてくれているらしい。
「あとは、そうね……また、ヨハンを引っ張り出してくるわ。良い実りは、良い土からだからね。クレアと話をしてくれると助かるし。ルーイがこの町で1番オリーブのことを知っている研究者だから、そこは、任せましょう」
「じゃあ、搾油工場の方はどうする?」
「ドールが工場の責任者になる予定ね。どういった道具がいるとか、建物の構造とかは、ドール中心に話合いをした方がいいわ。私たちじゃ、わからないことも多いから」
話を終えたところで、仮に住む簡易的な家が必要だと提案される。ここには、何もないのだ。ヨハンの研究所のほうへ行けば、多少なりと住む家はあるが、それほど多くはない。
「最初に町作りから始めないとダメかもしれないわね。でも、道がないから、家を建てる材料を運ぶだけで大変そう……」
「そこは、なんとかしますよ。貴族のアンナリーゼ様より、そういう知恵は、平民の方がありますからね。リアノさんが来てくれれば、そこの問題もすぐに解決出来ます」
「ノクトも参加するって聞いているから、しっかり使ってあげてね?」
「……ノクトさんもですか?あの人、何でも出来てしまうので、来てくれると、助かりますね?」
「そんなに重宝されているの?」
「ヘタな素人より、ノクトさんがいれば、十人分のしごとをこなしてくれますよ!」
リリーが笑うと、アデルも笑っている。私もリリーが言いたいことがわかるので、苦笑いをした。元常勝将軍も、アンバー領へ来たら、人好きなただのおじさんってことかと、なんとも平和な話だなと思えた。
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