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白薔薇の愛情表現Ⅲ
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「それにしても、レディアンナリーゼは、本当にたくさん咲いているのね?」
「そうですね。屋敷にも移植しますか?」
「いいの?」
「もちろんです。この花は、領地の屋敷でこそ、咲いてもらわないと」
「それなら、領地のあちこちで咲いているといいな……私の花だし」
そっと手に取る。名もなき白薔薇より一回りほど小さいが、ストロベリーピンクとアメジストのような紫色がとても綺麗だ。
「なるほど……領地全体にですか。それは、いいかもしれませんね?挿し木をすれば、すぐに根付きますし」
「……それって」
「あぁ、アンバー領の土でならってことです」
「ずっと気になっていたんだけど、何故アンバー領の土限定なの?」
「調べるまでは気付かなかったんですけどね?わずかにですが、この薔薇が成長するに必要な栄養素があるみたいです」
「それがないと、どうなるの?」
ふっと笑うヨハン。実験結果をすでに持っているのだろう。説明してくれるようで、少し小難しい表情をする。私は、先に言っておくことにした。
「難しい話をされてもわからないから、咲いたときのことを教えて」
「はいはい。そういうと思っていました」
呆れたような声を出してはいるが、私に理解できるよう考えてくれるのだろう。
「まず、第一に、万能解毒薬の材料としての能力を失います。白薔薇のほうは、大丈夫ですけどね?レディアンナリーゼは、そのように改良がしてあるので」
「わざわざ?」
「そう、わざわざです。これは、あなたの薔薇なのですから、他の領地で咲き誇っていてもらっては困るでしょ?」
「確かに。ジョージア様に叱られそうよ?」
そうでしょ?と苦笑いをするヨハン。ジョージアが私のことをひと時も手放していたくないと思っていることを知っているようだ。そんな想いとは裏腹に、領地だけでなく、いろいろと飛び回っているのだが。
「だからこその品種改良ですよ。この領地で咲く薔薇には、効能が付与されるようになっています。あと、花の色ですね」
「花の色?」
「えぇ、今、綺麗な色をしているでしょ?」
「そうね。私の髪色や瞳の色と遜色ないくらい、綺麗な色になっている」
「その色が、他の領地ではでないんです。アンバー領の土の成分だからこそ出る色なんですけどね?」
「でも、それっておかしくない?」
「あぁ、他の品種の薔薇のことを言っていますか?」
「そう。同じ薔薇なら……」
「同じではありませんよ。レディアンナリーゼは、特別な薔薇です。アンナリーゼ様の薔薇ですからね?他と同じにはしないでください」
ヨハンの言い方は、なんだか失礼なような気がするが、『特別な薔薇』と言われるので、そうなのかもしれないと思ってしまう。
「他の領地では、レディアンナリーゼは、色が変わります。単色になるのですよ」
「この綺麗な色ではなく?」
「えぇ、どちらかの色になります。ただの薔薇に変わるんです」
「……ただの。それでも、美しいと思うけど?」
「そうですね。でも、それは、もうレディアンナリーゼとは呼びません。他に名をつける必要がありますね?」
「そっか……。それは、それで、素敵な名をつけてほしいわ」
「まぁ、それは、他のものに任せますよ」
薔薇に顔を近づけると、甘いいい香りがする。ほわほわさせてくれるようなこの香りは、とても好きだ。
「これ、香水に出来るかしら?」
「できると思いますよ。香水にも香油にも、あとお薦めなのが、ポプリです」
「ポプリ?」
「えぇ、薔薇の花びらを乾燥させて香りを閉じ込める。目でも楽しめると、うちの女性助手たちのなかで、有名な話です。クローゼットに置いたり、箪笥に入れて服に香りを付けたり……とにかく、香りを楽しむそうですよ?香り袋も作っているものがいましたね?」
「……すごく詳しいのね?」
「まぁ、一応、この研究所で起こっていることは把握しておかないととは……」
「なるほどね」
ちゃんと、そういう業務もしているのかと感心している。研究だけでなく、助手たちのしていることにも目を配っているあたりはさすがのことだ。
「植樹のことは、また、おいおい」
「うん、レディアンナリーゼの使い道もいろいろあるみたいだから、教えてほしいわね」
「商売気出しすぎだろう?」
「……今は、ともかく、お金が必要なときでもあるから……売れるものがあるなら、売りたいわ。それも、領地の特産品となるようなものを」
「それなら、レディアンナリーゼはうってつけでしょう?」
「そうね。薔薇の宣伝も、商品の宣伝も私の名で動いているのだから……名を使う使用料でももらおうかしら?」
冗談で笑っていると、ヨハンも笑いだす。
「いつまでたっても、アンナリーゼ様はアンナリーゼ様でホッとしますね?」
「どういうこと?」
「おもしろいことばかりを言い出す。会うたびに何かしているし、面倒ごとも抱えやすい。それなのに、本人はとても楽しそうにしている。ずっと不思議で仕方がありません。どうして、そこまで、出来るのですか?」
ヨハンの答えに少し考えた。私は考える前に行動をしてしまう。それがきっとそう見えているのかもしれない。つまるところ、ヨハンの好奇心と然程変わらないもので、動いていると言えば、嘘くさい目で見られるのであった。
「そうですね。屋敷にも移植しますか?」
「いいの?」
「もちろんです。この花は、領地の屋敷でこそ、咲いてもらわないと」
「それなら、領地のあちこちで咲いているといいな……私の花だし」
そっと手に取る。名もなき白薔薇より一回りほど小さいが、ストロベリーピンクとアメジストのような紫色がとても綺麗だ。
「なるほど……領地全体にですか。それは、いいかもしれませんね?挿し木をすれば、すぐに根付きますし」
「……それって」
「あぁ、アンバー領の土でならってことです」
「ずっと気になっていたんだけど、何故アンバー領の土限定なの?」
「調べるまでは気付かなかったんですけどね?わずかにですが、この薔薇が成長するに必要な栄養素があるみたいです」
「それがないと、どうなるの?」
ふっと笑うヨハン。実験結果をすでに持っているのだろう。説明してくれるようで、少し小難しい表情をする。私は、先に言っておくことにした。
「難しい話をされてもわからないから、咲いたときのことを教えて」
「はいはい。そういうと思っていました」
呆れたような声を出してはいるが、私に理解できるよう考えてくれるのだろう。
「まず、第一に、万能解毒薬の材料としての能力を失います。白薔薇のほうは、大丈夫ですけどね?レディアンナリーゼは、そのように改良がしてあるので」
「わざわざ?」
「そう、わざわざです。これは、あなたの薔薇なのですから、他の領地で咲き誇っていてもらっては困るでしょ?」
「確かに。ジョージア様に叱られそうよ?」
そうでしょ?と苦笑いをするヨハン。ジョージアが私のことをひと時も手放していたくないと思っていることを知っているようだ。そんな想いとは裏腹に、領地だけでなく、いろいろと飛び回っているのだが。
「だからこその品種改良ですよ。この領地で咲く薔薇には、効能が付与されるようになっています。あと、花の色ですね」
「花の色?」
「えぇ、今、綺麗な色をしているでしょ?」
「そうね。私の髪色や瞳の色と遜色ないくらい、綺麗な色になっている」
「その色が、他の領地ではでないんです。アンバー領の土の成分だからこそ出る色なんですけどね?」
「でも、それっておかしくない?」
「あぁ、他の品種の薔薇のことを言っていますか?」
「そう。同じ薔薇なら……」
「同じではありませんよ。レディアンナリーゼは、特別な薔薇です。アンナリーゼ様の薔薇ですからね?他と同じにはしないでください」
ヨハンの言い方は、なんだか失礼なような気がするが、『特別な薔薇』と言われるので、そうなのかもしれないと思ってしまう。
「他の領地では、レディアンナリーゼは、色が変わります。単色になるのですよ」
「この綺麗な色ではなく?」
「えぇ、どちらかの色になります。ただの薔薇に変わるんです」
「……ただの。それでも、美しいと思うけど?」
「そうですね。でも、それは、もうレディアンナリーゼとは呼びません。他に名をつける必要がありますね?」
「そっか……。それは、それで、素敵な名をつけてほしいわ」
「まぁ、それは、他のものに任せますよ」
薔薇に顔を近づけると、甘いいい香りがする。ほわほわさせてくれるようなこの香りは、とても好きだ。
「これ、香水に出来るかしら?」
「できると思いますよ。香水にも香油にも、あとお薦めなのが、ポプリです」
「ポプリ?」
「えぇ、薔薇の花びらを乾燥させて香りを閉じ込める。目でも楽しめると、うちの女性助手たちのなかで、有名な話です。クローゼットに置いたり、箪笥に入れて服に香りを付けたり……とにかく、香りを楽しむそうですよ?香り袋も作っているものがいましたね?」
「……すごく詳しいのね?」
「まぁ、一応、この研究所で起こっていることは把握しておかないととは……」
「なるほどね」
ちゃんと、そういう業務もしているのかと感心している。研究だけでなく、助手たちのしていることにも目を配っているあたりはさすがのことだ。
「植樹のことは、また、おいおい」
「うん、レディアンナリーゼの使い道もいろいろあるみたいだから、教えてほしいわね」
「商売気出しすぎだろう?」
「……今は、ともかく、お金が必要なときでもあるから……売れるものがあるなら、売りたいわ。それも、領地の特産品となるようなものを」
「それなら、レディアンナリーゼはうってつけでしょう?」
「そうね。薔薇の宣伝も、商品の宣伝も私の名で動いているのだから……名を使う使用料でももらおうかしら?」
冗談で笑っていると、ヨハンも笑いだす。
「いつまでたっても、アンナリーゼ様はアンナリーゼ様でホッとしますね?」
「どういうこと?」
「おもしろいことばかりを言い出す。会うたびに何かしているし、面倒ごとも抱えやすい。それなのに、本人はとても楽しそうにしている。ずっと不思議で仕方がありません。どうして、そこまで、出来るのですか?」
ヨハンの答えに少し考えた。私は考える前に行動をしてしまう。それがきっとそう見えているのかもしれない。つまるところ、ヨハンの好奇心と然程変わらないもので、動いていると言えば、嘘くさい目で見られるのであった。
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