1,115 / 1,513
レディアンナリーゼⅣ
しおりを挟む
私の元に領地の情報はだいたい入ってくる。どこどこの子どもが生まれたとか、どおそこに珍しいものができるとか、新しい住人が増えるとか……ありとあらゆる情報が集まって来ていた。実際、領主として、必ずしも耳に入れておかなければならない情報でなくても、領民が私に聞いてほしいと手紙を送ってきたり、実際話に来たりする。全てに取り合うことは難しいと知っていても、慕われていることなんだと嬉しく思っていた。
だから、ヨハンに言われたように品種改良された薔薇を知らなかったことに驚いた。
「それにしても、どうやって、私たちの目から隠していたの?」
「まぁ、それは、報告をしなかっただけですけどね?」
「そう、それが出来たことがすごいなって。ここの研究所にも領民は出入りしているでしょ?」
「まぁ、一応は。でも、実際、薔薇を育てている場所は、誰にもわからない場所ですからね?」
ヨハンが先導して歩くので、私たちもそれについていく。ジニーは研究所までで別れているので、今は、ヨハンとアデルと私の三人。
私の歩く速さに合わせて、歩いてくれている。
「ごめんね?せっかちなヨハンにこんなにゆっくり歩かせて」
「そう思うなら、早く体調を万全にしてほしかったですけどね?」
「そうよね?あの蟲毒をのんで、ここまで酷いことになるなんて、ヨハンも想像していなかったのでしょ?」
「まぁ、そうなんですよね。実際、寝込むほどになるとは、想像もしていませんでしたからね」
ヨハンが苦笑いをしているのがわかる。こちらを見ずにいるのは、申し訳ないと思っているからかもしれない。
「あの、アンナ様は、いつもあんなことをされているのですか?」
「言わなかったっけ?」
「……聞いたような、聞いていないような」
「滅多に人前では飲まないから、知らなくて当然かもしれないわね?」
「それで、その……」
「10歳くらいからかなぁ?毒に耐性をつけるために、飲んでいるわ。もちろん、死なない程度に薄められているし、ちゃんと、対処ができる人がいるときにだけど。今回は、ヨハンがいたからね。すごく嬉しそうに持ってきたし」
「まぁ、あんな代物が手に入るなんて滅多にないですからね。だいたい、毒そのものというよりももっと違うものがさようすると思っていたんですけどね?」
さらっとヨハンが何でもないかのようにいうので、アデルも聞き流そうとしていた。でも、何かが違うと、思いとどまったらしい。
「あの、根本的にズレていますからね?アンナ様もヨハン教授も。普通、毒なんてあおりませんから」
「アンナリーゼ様に渡したのは、ほぼ水みたいなものだったんですけどね?」
「いやいや、ほぼ水とか……昏睡しないから!」
アデルの見事なツッコミで、そうかなぁ?と唸っているヨハン。そんなふうに考え込んでいるヨハンが珍しく、ヨハンでもそんなになることあるんだと見つめていると、こちらに気が付いたようだ。
「普通ですよね?間隔からすると、今回の蟲毒よりもっときつい毒を飲んでもらったことがあったんですけどね?」
「もっときつい毒ですか?何の毒ですか!仮にも、公爵ですし、侯爵令嬢だったのですよ?」
慌てるアデルにそうでしたと軽い調子のヨハン。対照的な二人をみて、笑うしかなかった。
「アンナ様もご自身の命なのですから、もう少しですね?」
「一口飲めば死ぬっていう毒でしょ?解毒薬と同時に飲んだ記憶があるわ」
「そうです、そうです」
「アンナ様!」
「大丈夫。今、生きているんだから。貴族は、毒殺なんて珍しいことではないわ。そのために、上位貴族になれば、一般的な毒の耐性をつけるくらいは、誰もがしているわよ?」
「……そうなんですか?」
「そうよ?ジョージア様も、何種類かの耐性はあるはずよ?命に関わることだから、それが何の毒かまでは教えてもらえないのだけどね。夫婦であっても、毒を盛られることがあるから、言わないのが普通ね」
「……上位貴族、怖い」
「近衛も、何個かは毒の耐性つけないの?」
逆にアデルに聞くと、やはりあるらしい。小競り合いへ向かう隊に選ばれたとき、毒での死亡者を減らすためらしいのだが、大きい規模の戦争まで発展しなければ、毒の脅威はないと言い切れるので、毒の耐性をつけるものがあまりいないらしい。
「アデルは受けた?」
「もちろんです。といっても、一種類だけなので、ないも等しいですけどね?」
「ヨハンに言えば、一般的なものは耐性を付けさせてくれるよ。万能解毒剤があるから、1日もかからないし」
耐性をつけておけば?と軽い気持ちで言ったら、少し考えたあとで、頷いていた。決まりねとヨハンにいうと、帰ったらさっそくと返事がくる。一般的な近衛の規模のものでいいといえば、多くても10種類だから10分もあれば終わると言っている。
そうこうしている内にすこしだけのぼっていく。ここはヨハンの研究所の一角ではあるが、こんな場所があったなんて知らなかった。
「この場所は、薬の材料となるものが多く栽培しているので、基本的に立ち入り禁止にしているので、知るものは少ないですよ」
ゆるい坂道の先、開けた場所へついた。そこは、地底湖から繋がっている海が見え、崖の下では、小さく作業をしている人が見える。
「あまり崖の方には近づかないでください。一応、落ちないように整備はされていますが、どうなるかわかりませんから」
手作りとわかる柵が崖の回りにある。その手前に風に揺れているものが今回の目的のもの。レディアンナリーゼだ。ストロベリーピンクと薄紫の花弁を付けた薔薇畑が目の前にヒロだったのである。
だから、ヨハンに言われたように品種改良された薔薇を知らなかったことに驚いた。
「それにしても、どうやって、私たちの目から隠していたの?」
「まぁ、それは、報告をしなかっただけですけどね?」
「そう、それが出来たことがすごいなって。ここの研究所にも領民は出入りしているでしょ?」
「まぁ、一応は。でも、実際、薔薇を育てている場所は、誰にもわからない場所ですからね?」
ヨハンが先導して歩くので、私たちもそれについていく。ジニーは研究所までで別れているので、今は、ヨハンとアデルと私の三人。
私の歩く速さに合わせて、歩いてくれている。
「ごめんね?せっかちなヨハンにこんなにゆっくり歩かせて」
「そう思うなら、早く体調を万全にしてほしかったですけどね?」
「そうよね?あの蟲毒をのんで、ここまで酷いことになるなんて、ヨハンも想像していなかったのでしょ?」
「まぁ、そうなんですよね。実際、寝込むほどになるとは、想像もしていませんでしたからね」
ヨハンが苦笑いをしているのがわかる。こちらを見ずにいるのは、申し訳ないと思っているからかもしれない。
「あの、アンナ様は、いつもあんなことをされているのですか?」
「言わなかったっけ?」
「……聞いたような、聞いていないような」
「滅多に人前では飲まないから、知らなくて当然かもしれないわね?」
「それで、その……」
「10歳くらいからかなぁ?毒に耐性をつけるために、飲んでいるわ。もちろん、死なない程度に薄められているし、ちゃんと、対処ができる人がいるときにだけど。今回は、ヨハンがいたからね。すごく嬉しそうに持ってきたし」
「まぁ、あんな代物が手に入るなんて滅多にないですからね。だいたい、毒そのものというよりももっと違うものがさようすると思っていたんですけどね?」
さらっとヨハンが何でもないかのようにいうので、アデルも聞き流そうとしていた。でも、何かが違うと、思いとどまったらしい。
「あの、根本的にズレていますからね?アンナ様もヨハン教授も。普通、毒なんてあおりませんから」
「アンナリーゼ様に渡したのは、ほぼ水みたいなものだったんですけどね?」
「いやいや、ほぼ水とか……昏睡しないから!」
アデルの見事なツッコミで、そうかなぁ?と唸っているヨハン。そんなふうに考え込んでいるヨハンが珍しく、ヨハンでもそんなになることあるんだと見つめていると、こちらに気が付いたようだ。
「普通ですよね?間隔からすると、今回の蟲毒よりもっときつい毒を飲んでもらったことがあったんですけどね?」
「もっときつい毒ですか?何の毒ですか!仮にも、公爵ですし、侯爵令嬢だったのですよ?」
慌てるアデルにそうでしたと軽い調子のヨハン。対照的な二人をみて、笑うしかなかった。
「アンナ様もご自身の命なのですから、もう少しですね?」
「一口飲めば死ぬっていう毒でしょ?解毒薬と同時に飲んだ記憶があるわ」
「そうです、そうです」
「アンナ様!」
「大丈夫。今、生きているんだから。貴族は、毒殺なんて珍しいことではないわ。そのために、上位貴族になれば、一般的な毒の耐性をつけるくらいは、誰もがしているわよ?」
「……そうなんですか?」
「そうよ?ジョージア様も、何種類かの耐性はあるはずよ?命に関わることだから、それが何の毒かまでは教えてもらえないのだけどね。夫婦であっても、毒を盛られることがあるから、言わないのが普通ね」
「……上位貴族、怖い」
「近衛も、何個かは毒の耐性つけないの?」
逆にアデルに聞くと、やはりあるらしい。小競り合いへ向かう隊に選ばれたとき、毒での死亡者を減らすためらしいのだが、大きい規模の戦争まで発展しなければ、毒の脅威はないと言い切れるので、毒の耐性をつけるものがあまりいないらしい。
「アデルは受けた?」
「もちろんです。といっても、一種類だけなので、ないも等しいですけどね?」
「ヨハンに言えば、一般的なものは耐性を付けさせてくれるよ。万能解毒剤があるから、1日もかからないし」
耐性をつけておけば?と軽い気持ちで言ったら、少し考えたあとで、頷いていた。決まりねとヨハンにいうと、帰ったらさっそくと返事がくる。一般的な近衛の規模のものでいいといえば、多くても10種類だから10分もあれば終わると言っている。
そうこうしている内にすこしだけのぼっていく。ここはヨハンの研究所の一角ではあるが、こんな場所があったなんて知らなかった。
「この場所は、薬の材料となるものが多く栽培しているので、基本的に立ち入り禁止にしているので、知るものは少ないですよ」
ゆるい坂道の先、開けた場所へついた。そこは、地底湖から繋がっている海が見え、崖の下では、小さく作業をしている人が見える。
「あまり崖の方には近づかないでください。一応、落ちないように整備はされていますが、どうなるかわかりませんから」
手作りとわかる柵が崖の回りにある。その手前に風に揺れているものが今回の目的のもの。レディアンナリーゼだ。ストロベリーピンクと薄紫の花弁を付けた薔薇畑が目の前にヒロだったのである。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる