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レディアンナリーゼⅣ
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私の元に領地の情報はだいたい入ってくる。どこどこの子どもが生まれたとか、どおそこに珍しいものができるとか、新しい住人が増えるとか……ありとあらゆる情報が集まって来ていた。実際、領主として、必ずしも耳に入れておかなければならない情報でなくても、領民が私に聞いてほしいと手紙を送ってきたり、実際話に来たりする。全てに取り合うことは難しいと知っていても、慕われていることなんだと嬉しく思っていた。
だから、ヨハンに言われたように品種改良された薔薇を知らなかったことに驚いた。
「それにしても、どうやって、私たちの目から隠していたの?」
「まぁ、それは、報告をしなかっただけですけどね?」
「そう、それが出来たことがすごいなって。ここの研究所にも領民は出入りしているでしょ?」
「まぁ、一応は。でも、実際、薔薇を育てている場所は、誰にもわからない場所ですからね?」
ヨハンが先導して歩くので、私たちもそれについていく。ジニーは研究所までで別れているので、今は、ヨハンとアデルと私の三人。
私の歩く速さに合わせて、歩いてくれている。
「ごめんね?せっかちなヨハンにこんなにゆっくり歩かせて」
「そう思うなら、早く体調を万全にしてほしかったですけどね?」
「そうよね?あの蟲毒をのんで、ここまで酷いことになるなんて、ヨハンも想像していなかったのでしょ?」
「まぁ、そうなんですよね。実際、寝込むほどになるとは、想像もしていませんでしたからね」
ヨハンが苦笑いをしているのがわかる。こちらを見ずにいるのは、申し訳ないと思っているからかもしれない。
「あの、アンナ様は、いつもあんなことをされているのですか?」
「言わなかったっけ?」
「……聞いたような、聞いていないような」
「滅多に人前では飲まないから、知らなくて当然かもしれないわね?」
「それで、その……」
「10歳くらいからかなぁ?毒に耐性をつけるために、飲んでいるわ。もちろん、死なない程度に薄められているし、ちゃんと、対処ができる人がいるときにだけど。今回は、ヨハンがいたからね。すごく嬉しそうに持ってきたし」
「まぁ、あんな代物が手に入るなんて滅多にないですからね。だいたい、毒そのものというよりももっと違うものがさようすると思っていたんですけどね?」
さらっとヨハンが何でもないかのようにいうので、アデルも聞き流そうとしていた。でも、何かが違うと、思いとどまったらしい。
「あの、根本的にズレていますからね?アンナ様もヨハン教授も。普通、毒なんてあおりませんから」
「アンナリーゼ様に渡したのは、ほぼ水みたいなものだったんですけどね?」
「いやいや、ほぼ水とか……昏睡しないから!」
アデルの見事なツッコミで、そうかなぁ?と唸っているヨハン。そんなふうに考え込んでいるヨハンが珍しく、ヨハンでもそんなになることあるんだと見つめていると、こちらに気が付いたようだ。
「普通ですよね?間隔からすると、今回の蟲毒よりもっときつい毒を飲んでもらったことがあったんですけどね?」
「もっときつい毒ですか?何の毒ですか!仮にも、公爵ですし、侯爵令嬢だったのですよ?」
慌てるアデルにそうでしたと軽い調子のヨハン。対照的な二人をみて、笑うしかなかった。
「アンナ様もご自身の命なのですから、もう少しですね?」
「一口飲めば死ぬっていう毒でしょ?解毒薬と同時に飲んだ記憶があるわ」
「そうです、そうです」
「アンナ様!」
「大丈夫。今、生きているんだから。貴族は、毒殺なんて珍しいことではないわ。そのために、上位貴族になれば、一般的な毒の耐性をつけるくらいは、誰もがしているわよ?」
「……そうなんですか?」
「そうよ?ジョージア様も、何種類かの耐性はあるはずよ?命に関わることだから、それが何の毒かまでは教えてもらえないのだけどね。夫婦であっても、毒を盛られることがあるから、言わないのが普通ね」
「……上位貴族、怖い」
「近衛も、何個かは毒の耐性つけないの?」
逆にアデルに聞くと、やはりあるらしい。小競り合いへ向かう隊に選ばれたとき、毒での死亡者を減らすためらしいのだが、大きい規模の戦争まで発展しなければ、毒の脅威はないと言い切れるので、毒の耐性をつけるものがあまりいないらしい。
「アデルは受けた?」
「もちろんです。といっても、一種類だけなので、ないも等しいですけどね?」
「ヨハンに言えば、一般的なものは耐性を付けさせてくれるよ。万能解毒剤があるから、1日もかからないし」
耐性をつけておけば?と軽い気持ちで言ったら、少し考えたあとで、頷いていた。決まりねとヨハンにいうと、帰ったらさっそくと返事がくる。一般的な近衛の規模のものでいいといえば、多くても10種類だから10分もあれば終わると言っている。
そうこうしている内にすこしだけのぼっていく。ここはヨハンの研究所の一角ではあるが、こんな場所があったなんて知らなかった。
「この場所は、薬の材料となるものが多く栽培しているので、基本的に立ち入り禁止にしているので、知るものは少ないですよ」
ゆるい坂道の先、開けた場所へついた。そこは、地底湖から繋がっている海が見え、崖の下では、小さく作業をしている人が見える。
「あまり崖の方には近づかないでください。一応、落ちないように整備はされていますが、どうなるかわかりませんから」
手作りとわかる柵が崖の回りにある。その手前に風に揺れているものが今回の目的のもの。レディアンナリーゼだ。ストロベリーピンクと薄紫の花弁を付けた薔薇畑が目の前にヒロだったのである。
だから、ヨハンに言われたように品種改良された薔薇を知らなかったことに驚いた。
「それにしても、どうやって、私たちの目から隠していたの?」
「まぁ、それは、報告をしなかっただけですけどね?」
「そう、それが出来たことがすごいなって。ここの研究所にも領民は出入りしているでしょ?」
「まぁ、一応は。でも、実際、薔薇を育てている場所は、誰にもわからない場所ですからね?」
ヨハンが先導して歩くので、私たちもそれについていく。ジニーは研究所までで別れているので、今は、ヨハンとアデルと私の三人。
私の歩く速さに合わせて、歩いてくれている。
「ごめんね?せっかちなヨハンにこんなにゆっくり歩かせて」
「そう思うなら、早く体調を万全にしてほしかったですけどね?」
「そうよね?あの蟲毒をのんで、ここまで酷いことになるなんて、ヨハンも想像していなかったのでしょ?」
「まぁ、そうなんですよね。実際、寝込むほどになるとは、想像もしていませんでしたからね」
ヨハンが苦笑いをしているのがわかる。こちらを見ずにいるのは、申し訳ないと思っているからかもしれない。
「あの、アンナ様は、いつもあんなことをされているのですか?」
「言わなかったっけ?」
「……聞いたような、聞いていないような」
「滅多に人前では飲まないから、知らなくて当然かもしれないわね?」
「それで、その……」
「10歳くらいからかなぁ?毒に耐性をつけるために、飲んでいるわ。もちろん、死なない程度に薄められているし、ちゃんと、対処ができる人がいるときにだけど。今回は、ヨハンがいたからね。すごく嬉しそうに持ってきたし」
「まぁ、あんな代物が手に入るなんて滅多にないですからね。だいたい、毒そのものというよりももっと違うものがさようすると思っていたんですけどね?」
さらっとヨハンが何でもないかのようにいうので、アデルも聞き流そうとしていた。でも、何かが違うと、思いとどまったらしい。
「あの、根本的にズレていますからね?アンナ様もヨハン教授も。普通、毒なんてあおりませんから」
「アンナリーゼ様に渡したのは、ほぼ水みたいなものだったんですけどね?」
「いやいや、ほぼ水とか……昏睡しないから!」
アデルの見事なツッコミで、そうかなぁ?と唸っているヨハン。そんなふうに考え込んでいるヨハンが珍しく、ヨハンでもそんなになることあるんだと見つめていると、こちらに気が付いたようだ。
「普通ですよね?間隔からすると、今回の蟲毒よりもっときつい毒を飲んでもらったことがあったんですけどね?」
「もっときつい毒ですか?何の毒ですか!仮にも、公爵ですし、侯爵令嬢だったのですよ?」
慌てるアデルにそうでしたと軽い調子のヨハン。対照的な二人をみて、笑うしかなかった。
「アンナ様もご自身の命なのですから、もう少しですね?」
「一口飲めば死ぬっていう毒でしょ?解毒薬と同時に飲んだ記憶があるわ」
「そうです、そうです」
「アンナ様!」
「大丈夫。今、生きているんだから。貴族は、毒殺なんて珍しいことではないわ。そのために、上位貴族になれば、一般的な毒の耐性をつけるくらいは、誰もがしているわよ?」
「……そうなんですか?」
「そうよ?ジョージア様も、何種類かの耐性はあるはずよ?命に関わることだから、それが何の毒かまでは教えてもらえないのだけどね。夫婦であっても、毒を盛られることがあるから、言わないのが普通ね」
「……上位貴族、怖い」
「近衛も、何個かは毒の耐性つけないの?」
逆にアデルに聞くと、やはりあるらしい。小競り合いへ向かう隊に選ばれたとき、毒での死亡者を減らすためらしいのだが、大きい規模の戦争まで発展しなければ、毒の脅威はないと言い切れるので、毒の耐性をつけるものがあまりいないらしい。
「アデルは受けた?」
「もちろんです。といっても、一種類だけなので、ないも等しいですけどね?」
「ヨハンに言えば、一般的なものは耐性を付けさせてくれるよ。万能解毒剤があるから、1日もかからないし」
耐性をつけておけば?と軽い気持ちで言ったら、少し考えたあとで、頷いていた。決まりねとヨハンにいうと、帰ったらさっそくと返事がくる。一般的な近衛の規模のものでいいといえば、多くても10種類だから10分もあれば終わると言っている。
そうこうしている内にすこしだけのぼっていく。ここはヨハンの研究所の一角ではあるが、こんな場所があったなんて知らなかった。
「この場所は、薬の材料となるものが多く栽培しているので、基本的に立ち入り禁止にしているので、知るものは少ないですよ」
ゆるい坂道の先、開けた場所へついた。そこは、地底湖から繋がっている海が見え、崖の下では、小さく作業をしている人が見える。
「あまり崖の方には近づかないでください。一応、落ちないように整備はされていますが、どうなるかわかりませんから」
手作りとわかる柵が崖の回りにある。その手前に風に揺れているものが今回の目的のもの。レディアンナリーゼだ。ストロベリーピンクと薄紫の花弁を付けた薔薇畑が目の前にヒロだったのである。
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