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接近禁止になったら困るな

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「……ご愁傷様」


 その一言をとても残念そうにいうので、パン粥を口に運んでもらいながら、ヨハンを睨んだ。アデルは苦笑いをして、最後の一口を私の口の中へ押し込む。


「おいしかったわ」
「……それはよかったです。でも、ジョージア様には内緒ですよ?その、なんて言いますか……」
「あーんってやつ?」


 コクコクと頷くアデルにわかったわと言うとホッとしたように見える。余程、ジョージアに睨まれることがやっかいなのだろう。私はふむふむと頷き、アデルに向かってにこぉーっと笑う。私を見て逃げようとしたので、慌てて手首を掴んで離さない。


「どこにいくの?」


 可愛らしく小首を傾げて見ると、今度はヨハンに助けを求めるように見ているが、ヨハンはきっと助けたりしないだろう。微妙に距離をとってどうぞ続けてというふうだ。


「……お椀を返してこようかと」
「そう?あとでいいわ。それより、」
「いえ、後だと片付きませんし!」


 逃げようとするアデルに、「ジョージア様に……」と聞えよがしに、ジョージアの名を言えば、固まってしまった。観念をしたようにこちらに向き直り、私と視線を合わせるように、屈んでくれた。


「……アンナ様にはかないません。何が言いたいのか、だいたいは想像がついていますが、どうぞ、おっしゃってください」
「そう?悪いわね?」


 ニコニコとしているとアデルの表情は曇っていく。これも私の引き抜きにあった代償だといえば、もう少し考えればよかったですとため息をついた。そうは言っても、アデルはきっと私の誘いを断ったりしなかっただろう。


「それで、アンナ様は、倒れたことを言わないで欲しいんですよね?」
「えぇ、そうね。ジョージア様にはとくに」
「でしょうね?アンナ様、ジョージア様に今回のことがバレたら、屋敷から出してもらえなくなるでしょうし、ヨハン教授とも接近禁止になるでしょうね?」
「そうしたら、困るでしょ?」


 アデルに向かって言ってみたけど、困った顔をするだけで何も言ってはくれない。ヨハンの方を向けば、何も困らないと言うふうだ。


「……毒に関することいがいの使途不明金の研究費、止めようかな?」


 ひとり言のように呟いたら、ヨハンがツカツカとこちらに寄ってきて、愛想よく笑ってくれる。普段から、こんな表情をしていれば、難しい人というレッテルは貼られなくて済むのに……と軽く睨んでおく。


「もちろん、お嬢さんと接近禁止になったら困るな。うん。こちらの研究もこの領地のためにあるものだし、研究費を削ることだけは……やめてくれ」
「私のいうことは、聞いてくれる?」
「何でも聞こう。ほら言ってみるといい」
「じゃあ、私の言うことは、全て聞いて」
「そりゃもちろん、わかっている。もちろんのことだ」
「……研究費、何に使っているの?」
「……」
「答えられないの?」


 研究者に研究費として出しているお金について、聞くことはご法度とされていた。私もたいして気にはしていなかったが、こんなときにしか聞けないので、追求してみることにした。
 大きなため息と共に、内ポケットから出てきた薬入れを見て、また、何かを作っていることはわかった。それが、何かまでは、わからないが、ヨハンのことだ。きっと、誰かの役にたつものに違いない。


「……新しい薬の開発とアンナリーゼ様が生きた証を作ろうかと。伝説は残ったとしても、誰かの心にそっと寄り添えるようなものがいいでしょ?」
「それは何?寄り添えるもの……?」


 ヨハンが考えているものがさすがにわからなかった。いつも突拍子もないヨハンには、私も驚かされることが多いのだ。
 少しお待ちをと部屋を出て行き、隣の部屋へ向かった。そこには、ジニーがいるらしく、呼びに行ったようだ。


「なんでしょうね?ヨハン教授の考えていることは、いつも難しくて……」
「薬の開発は、いつものことよね?ヨハン自身にも病原体が体の中にたくさん共存しているから、それを研究して薬を作っているのよ」
「あぁ、あのインゼロからの病のようなですか?」
「えぇ、そう。ジニーも側にいるから、実は、研究対象が増えたんじゃないかしら?」
「新しい薬や治療方法が出来上がっていくことは、嬉しいですね。病で救えない命を救えるようになる……それは、嬉しいことです」
「それでも、救えない命もまだまだあるわ。今は、各地からの受け入れの準備をしているところだけど、ヨハンの目指す医療が各地に広がるといいわね」


 アデルがうんと頷く。いつ誰が病気になるかわからない。そんな中、少しでも希望があるのなら……手を伸ばしたくなるのが人間だ。少しでも、治療を受けられるよう、また、ヨハンのような医師にそれそうおうの対価を払える仕組みを作ること、医療をきちんと受けられる環境にするのが急務だと私は思っている。その強力をしてくれているのだろう。安価で効果の高い薬を研究してくれているのだと感じていた。


「お待たせしました。たいしたことをしているわけではないんですけどね?完成予定のものを目で見て感じてもらった方がいいかと思って」


 ジニーを連れ立って部屋に入ってくる。その手に持っているのは一冊のスケッチブック。大きめのそれをジニーが持って私の側へきてスケッチブックを開いた。
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