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天気もいいしⅤ
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「さっきの話……」
遠慮がちにアデルが口を開いた。ジョージのことは、ソフィアを含め、知っているのジョージアと私の友人たち一握りのものたちだけだ。一時期噂話が出回っていたが、髪の色も目の色も黒いジョージは、ソフィアそっくりだと貫き通せば、父親が誰なのかはわからなくてもいいだろう。
ただ、年を重ねていけば、エールの面影も出てくるかもしれない。そのとき、どうするのか、まだ、考えていないが、成人を迎えるときに、ソフィアのことを伝えるつもりではあった。
その伝え方は、ジョージアに一任することにしている。ジョージアの子として、これからも生きていかなくてはいけないのだから。
私に対して、どんな感情をいだくことになるか、また、一緒に育っているアンジェラやネイトをどう思うのか。それは、そのときのジョージにしかわからない。それでも、私たち大人にしてあげられることは、寄り添うことだけだろう。
私以外の大人となるのだろうが。
「何かしら?」
「……ずっと、聞きたかったんです。あの噂話があったから。その……」
「それは、私たちと本人が知っていればいいことだわ。アデルが知ることではないはずよ。それに……いずれ、アンバーをジョージア様から贈られるはずだもの」
そういうと、納得したようなしていないような微妙な表情で、そうですねとアデルが呟いた。私は、そんなアデルの背中に手を置いて、ありがとうという。
「何故です?」
「気にかけてくれたのでしょ?子どもたち……ジョージのこと」
「……でも、それは、いずれアンナ様にとって辛いことになるのではありませんか?」
「ソフィアのことね。……そうかもしれない。でも、そのころには、私はいないかもしれないから」
少し前にでてアデルに笑いかけると、驚いた顔をしていた。そのあと酷く辛そうに顔を歪める。
「そんな顔しないで。まだ、未来は決まっているわけじゃないし、誰にもわからないでしょ?」
「でも、アンナ様は、自身が、その……」
ツカツカとアデルに近寄っていき、言葉を遮るために人差し指で口を塞いだ。それ以上は何も言えず、こちらを見下ろしている。
「それ以上は言わない。だって、不確定要素ばかりなのに、言葉にしてしまうと、本当になってしまいそうだわ。私以外の口からは、なるべく聞きたくない」
にっこり笑いかけると、コクンと頷いてくれる。それを確認して指を戻した。
「アデルにお願いがあるの。もし、未来で、ジョージが困っていたら、ほんの少しでいい。手を貸してあげてね?」
「……それは」
「レオもミアもいずれ、アンジェラの従者になるわ。形はどうあれ、幼いあの子たちとそういう約束をしたの。命の代償にね」
「……ダドリーの子でしたね?」
「うん、血筋はね?でも、あの子たちは、それを捨てて、新しい未来を自分で掴みに来た。だから、私は、手元に置いたの。必要だったっていうのもあるけど、あの二人がアンジェラの孤独な道を一番近くで歩いてくれるはずだから」
「ジョージ様やネイト様は……その」
「ネイトはいずれ、アンバー領の領主になるでしょう。そういう才能が備わっているもの。それと同時にアンバー公爵家の子として、瞳を持っているから。ジョージは、祖父にあたるダドリー男爵領を治めることになるかな。きちんとした爵位を得てね。ジョージア様が授ける爵位よ」
「コーコナ領をですか……そのとき、ジョージ様にお仕えすればいいですか?」
「それは、そのときなって決めて。無責任で悪いけど、アデルには、家族になりたい人もいるわけだし、その先に家族が増えることもあるから」
誰のことを言っているのか想像できるアデルは、あ……とか、えっと……とか口ごもってしまう。私は、リアンにも幸せになって欲しいとも思っているから、アデルの応援もしている。もちろん、先日から顔を出さなかったことにお咎めがないのもその応援の一環で、そのあたり、出来る領主としてもう少し、アデルも敬ってほしいものではあった。
「わかりました。そのときがくれば、どうするかは、アンナ様に相談させていただきます。未来なんて、わかりませんからね。振られることしか想像出来ていませんから」
「リアンは、アデルのこと、嫌いではないと思うよ?」
「好きというわけでもないでしょ?」
「そこは……アデルがなんとかしないといけないところだからね。年の差を気にしているみたいでもあるし……押しすぎず、引きすぎず、程よい感じで頑張ってとしか言えないわね?孤児院のほうも大変そうだし」
「確かに。里親に出した子もいますけど……、手のかかる子はいますから」
「その筆頭がアデルじゃなければいいね?」
「……酷いです!アンナ様」
ぐすんと泣きまねをするアデルをからかう。今日泊まる宿が近くなってきたので、荷馬車を先導していた私たちは各々に指示を出した。荷物番だけを残して、急速に入る。
私が泊まる宿に向かえば、そこにはジニーが待っていた。一人で自由に出回ることは許可されていないので、きっと、そばにディルの子猫がいるのだろう。
「アンナリーゼ様、お久しぶりです」
「ジニー、元気にしていた?」
「はい!おかげさまで」
「ところで、どうして、ここにジニーが?」
「兄がアンナリーゼ様と早々に話がしたいとかで……」
「……つい先日、あったばかりだけど」
「ですよね?私もあと1日くらい待てば?と言ったんですけどね?」
大きなため息とともに、こちらにどうぞと案内される部屋へ向かった。いったい何を話すことになるか……正直怖くて仕方がなかったが、逃げるわけにもいかないので、ジニーの後へと続くのであった。
遠慮がちにアデルが口を開いた。ジョージのことは、ソフィアを含め、知っているのジョージアと私の友人たち一握りのものたちだけだ。一時期噂話が出回っていたが、髪の色も目の色も黒いジョージは、ソフィアそっくりだと貫き通せば、父親が誰なのかはわからなくてもいいだろう。
ただ、年を重ねていけば、エールの面影も出てくるかもしれない。そのとき、どうするのか、まだ、考えていないが、成人を迎えるときに、ソフィアのことを伝えるつもりではあった。
その伝え方は、ジョージアに一任することにしている。ジョージアの子として、これからも生きていかなくてはいけないのだから。
私に対して、どんな感情をいだくことになるか、また、一緒に育っているアンジェラやネイトをどう思うのか。それは、そのときのジョージにしかわからない。それでも、私たち大人にしてあげられることは、寄り添うことだけだろう。
私以外の大人となるのだろうが。
「何かしら?」
「……ずっと、聞きたかったんです。あの噂話があったから。その……」
「それは、私たちと本人が知っていればいいことだわ。アデルが知ることではないはずよ。それに……いずれ、アンバーをジョージア様から贈られるはずだもの」
そういうと、納得したようなしていないような微妙な表情で、そうですねとアデルが呟いた。私は、そんなアデルの背中に手を置いて、ありがとうという。
「何故です?」
「気にかけてくれたのでしょ?子どもたち……ジョージのこと」
「……でも、それは、いずれアンナ様にとって辛いことになるのではありませんか?」
「ソフィアのことね。……そうかもしれない。でも、そのころには、私はいないかもしれないから」
少し前にでてアデルに笑いかけると、驚いた顔をしていた。そのあと酷く辛そうに顔を歪める。
「そんな顔しないで。まだ、未来は決まっているわけじゃないし、誰にもわからないでしょ?」
「でも、アンナ様は、自身が、その……」
ツカツカとアデルに近寄っていき、言葉を遮るために人差し指で口を塞いだ。それ以上は何も言えず、こちらを見下ろしている。
「それ以上は言わない。だって、不確定要素ばかりなのに、言葉にしてしまうと、本当になってしまいそうだわ。私以外の口からは、なるべく聞きたくない」
にっこり笑いかけると、コクンと頷いてくれる。それを確認して指を戻した。
「アデルにお願いがあるの。もし、未来で、ジョージが困っていたら、ほんの少しでいい。手を貸してあげてね?」
「……それは」
「レオもミアもいずれ、アンジェラの従者になるわ。形はどうあれ、幼いあの子たちとそういう約束をしたの。命の代償にね」
「……ダドリーの子でしたね?」
「うん、血筋はね?でも、あの子たちは、それを捨てて、新しい未来を自分で掴みに来た。だから、私は、手元に置いたの。必要だったっていうのもあるけど、あの二人がアンジェラの孤独な道を一番近くで歩いてくれるはずだから」
「ジョージ様やネイト様は……その」
「ネイトはいずれ、アンバー領の領主になるでしょう。そういう才能が備わっているもの。それと同時にアンバー公爵家の子として、瞳を持っているから。ジョージは、祖父にあたるダドリー男爵領を治めることになるかな。きちんとした爵位を得てね。ジョージア様が授ける爵位よ」
「コーコナ領をですか……そのとき、ジョージ様にお仕えすればいいですか?」
「それは、そのときなって決めて。無責任で悪いけど、アデルには、家族になりたい人もいるわけだし、その先に家族が増えることもあるから」
誰のことを言っているのか想像できるアデルは、あ……とか、えっと……とか口ごもってしまう。私は、リアンにも幸せになって欲しいとも思っているから、アデルの応援もしている。もちろん、先日から顔を出さなかったことにお咎めがないのもその応援の一環で、そのあたり、出来る領主としてもう少し、アデルも敬ってほしいものではあった。
「わかりました。そのときがくれば、どうするかは、アンナ様に相談させていただきます。未来なんて、わかりませんからね。振られることしか想像出来ていませんから」
「リアンは、アデルのこと、嫌いではないと思うよ?」
「好きというわけでもないでしょ?」
「そこは……アデルがなんとかしないといけないところだからね。年の差を気にしているみたいでもあるし……押しすぎず、引きすぎず、程よい感じで頑張ってとしか言えないわね?孤児院のほうも大変そうだし」
「確かに。里親に出した子もいますけど……、手のかかる子はいますから」
「その筆頭がアデルじゃなければいいね?」
「……酷いです!アンナ様」
ぐすんと泣きまねをするアデルをからかう。今日泊まる宿が近くなってきたので、荷馬車を先導していた私たちは各々に指示を出した。荷物番だけを残して、急速に入る。
私が泊まる宿に向かえば、そこにはジニーが待っていた。一人で自由に出回ることは許可されていないので、きっと、そばにディルの子猫がいるのだろう。
「アンナリーゼ様、お久しぶりです」
「ジニー、元気にしていた?」
「はい!おかげさまで」
「ところで、どうして、ここにジニーが?」
「兄がアンナリーゼ様と早々に話がしたいとかで……」
「……つい先日、あったばかりだけど」
「ですよね?私もあと1日くらい待てば?と言ったんですけどね?」
大きなため息とともに、こちらにどうぞと案内される部屋へ向かった。いったい何を話すことになるか……正直怖くて仕方がなかったが、逃げるわけにもいかないので、ジニーの後へと続くのであった。
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