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エルドアで手に入れたもの

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「それで、アンナの小さな冒険は何が1番おもしろかったことかな?」


 ゆったり座っている向かいのソファで微笑んでいるはずのジョージアが少し怖い。全体での報告会は終わったし、定期的に手紙での報告はしたのだが、まだ、二人ではしていなかった。私はレナンテ以上のじゃじゃ馬ぶりに、ジョージアは手綱を離していてくれる。もちろん、必ず帰ってくると信頼の元ではあるが。


「そうですね……」


 うーんと、わざとらしく考えるふりをした。夜の私室に急用がない限り、誰かが近づくこともないため、静かな時間にジョージアのほうがしびれをきらしそうだった。
 私は立ち上がり、ヒーナが片付けてくれた宝石箱をとりにクローゼットへ向かう。持って帰って来たのは、真新しい宝石箱。ジョージアも初めて見るものだ。
 立派すぎるそれをジョージアは訝しんだ。


「さっき、ジョージア様が言っていた宝飾品です」
「えらく立派なものだね?まるで王族から贈られた品のようだ」
「そのように見えますか?値段もかなりしたので、宝石箱だけでも褒めてもらえると嬉しいです」


 煌びやかな宝石箱を机の上におき、ジョージアに見えるように開いていく。そのどれもこれもが立派な宝石で、どれも蝋燭の火に妖しく光っていた。
 1番上にあったネックレスを手にとるジョージア。トップにある宝石は大きく重みもあるそれをじっくり見ていた。


「綺麗な赤だ。でも、ルビーの赤とは色味が違う。たしか、俺が見たときは、こんな色ではなかったはずだが?」
「ジョージア様と再会したのは昼間でしたものね。太陽の下でしたから……」
「何か仕掛けがあるのかい?」
「ふふっ、この宝石を買った理由をお教えしますわ」


 コクンと頷くジョージア。宝石を贈ってくれることもあるが、これほど大きなものはない。この国の中でも、大きな宝石をつけるのは権力誇示のためにゴールド公爵から贈られているであろう公妃や成金の男爵夫人くらいだ。公妃の宝石と成金の男爵夫人とでは、宝石の価値自体が違うであろうが、目を引くものとしては同じである。
 それらに匹敵する今回の宝飾品にジョージアは驚いているのだろう。いつもは少し小ぶりのものを選ぶ傾向があるから。
 私の持っている宝飾品の中でも1、2を争うものであった。


「女には二面性があるとよく言われます。いわゆる表の顔と裏の顔というものですね」
「まぁ、二面性は女の人だけではないけどね。貴族なんて、いくつ顔を持っているのかわからないから」
「確かに」


 クスっと笑うと、ジョージアは気が付いたのかなるほどと頷いた。


「この宝石は、原理はわからないが、2つの顔を持つのか。蝋燭の光では赤い色を太陽の光を浴びると別の色に……」
「そうです。青くなります」
「確かに、アンナの好きそうな宝石だ。興味を引かないわけはないな。どこで見つけた?」
「エルドアの宝飾品店です。エレーナたちも利用するとかで、とても品揃えも品物もいいものが多かったですよ。まぁ、店の見せ方が、イマイチなっていませんでしたけど」
「貴族というより、商人だね?アンナは、どこまで行っても」
「そうですね。お店を経営しているので、他の店は気になるところです」
「それで?この宝石は手に入れられそうなの?」
「産地はエルドアの一部でしか手に入らず、入手は難しいかと。ただ、店主はクズ石だと言っていた原石はわけてもらえたので、ティアに渡してあります。何か新しい宝飾品を作ってくれるかと思います」


 明日、太陽の光を当てる約束をして、宝飾品をしまう。ホッとしたような表情のジョージアに私も頷いた。


「高かったんだよね?もちろん」
「値段は……言いたくないくらいです……私財で買ったので、そこはご心配なく」
「……アンナに宝飾品を贈るのは、俺の役目なんだけどね?領地を代表するわけなんだらか」
「そうですね……でも、これは、私の我儘で買ったものなので、私の私財で買わせてください。次の社交の季節には、ぜひ、アレキサンドライトを流行らせたいと思っています」
「いいね。この宝石綺麗だからだからね。いいと思うよ。あとは、オリーブだよね?アンナの関心ごとって」


 そうですよと笑うと、人まで連れてくるんだもんなと呆れている。ルーイとドールを見て、驚いたそうだ。


「相変わらず、人誑しだなぁ……向こうの王太子に口説かれたりしてない?」


 ジョージアの質問にはニッコリ笑って答えず、隣に移動して肩にもたれかかった。今回の騒動の裏にあったことを報告はしていたが、ノクトたちの前では言いづらいこともある。


「今回の件、だんだんとインゼロ帝国の内政が落ち着きつつあると感じました。ノクトの奥さんからの情報もあり、もう少し時間がかかるんじゃないかって思ってはいたんですけど……」
「戦争屋が動いているってことは、何よりだね。そこをどう潰しに行くかが今後の今後の国の課題になるだろうけど、ヒーナを見ているとなかなか難しいだろうね」
「そうですね。ノクトも商人としてこの国に出入りしていたくらいですからね」
「公も考えてはいるだろうけど、何枚も上手だろう。帝国は戦争をすることで成っている国と言っても過言ではないから。来年1年、アンナがこの地でいられる最後になるかもしれないな」
「……そんな寂しいこと、言わないでください。アンバーは私の大切な場所なのですから」


 覚悟を決める時期がきたことをジョージアも感じたらしい。アンバー領でのんびりとできる時間は、それほど残っていないのだろう。ローズディア公国を守るために、公都に留まり、公と共に民を守るための戦いが始まる日も近いのかもしれない。
 目下の宿敵であるゴールド公爵と対等以上に渡り合うために、遊び場を去る日も考えることになりそうだ。
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