上 下
1,101 / 1,508

エルドアで手に入れたもの

しおりを挟む
「それで、アンナの小さな冒険は何が1番おもしろかったことかな?」


 ゆったり座っている向かいのソファで微笑んでいるはずのジョージアが少し怖い。全体での報告会は終わったし、定期的に手紙での報告はしたのだが、まだ、二人ではしていなかった。私はレナンテ以上のじゃじゃ馬ぶりに、ジョージアは手綱を離していてくれる。もちろん、必ず帰ってくると信頼の元ではあるが。


「そうですね……」


 うーんと、わざとらしく考えるふりをした。夜の私室に急用がない限り、誰かが近づくこともないため、静かな時間にジョージアのほうがしびれをきらしそうだった。
 私は立ち上がり、ヒーナが片付けてくれた宝石箱をとりにクローゼットへ向かう。持って帰って来たのは、真新しい宝石箱。ジョージアも初めて見るものだ。
 立派すぎるそれをジョージアは訝しんだ。


「さっき、ジョージア様が言っていた宝飾品です」
「えらく立派なものだね?まるで王族から贈られた品のようだ」
「そのように見えますか?値段もかなりしたので、宝石箱だけでも褒めてもらえると嬉しいです」


 煌びやかな宝石箱を机の上におき、ジョージアに見えるように開いていく。そのどれもこれもが立派な宝石で、どれも蝋燭の火に妖しく光っていた。
 1番上にあったネックレスを手にとるジョージア。トップにある宝石は大きく重みもあるそれをじっくり見ていた。


「綺麗な赤だ。でも、ルビーの赤とは色味が違う。たしか、俺が見たときは、こんな色ではなかったはずだが?」
「ジョージア様と再会したのは昼間でしたものね。太陽の下でしたから……」
「何か仕掛けがあるのかい?」
「ふふっ、この宝石を買った理由をお教えしますわ」


 コクンと頷くジョージア。宝石を贈ってくれることもあるが、これほど大きなものはない。この国の中でも、大きな宝石をつけるのは権力誇示のためにゴールド公爵から贈られているであろう公妃や成金の男爵夫人くらいだ。公妃の宝石と成金の男爵夫人とでは、宝石の価値自体が違うであろうが、目を引くものとしては同じである。
 それらに匹敵する今回の宝飾品にジョージアは驚いているのだろう。いつもは少し小ぶりのものを選ぶ傾向があるから。
 私の持っている宝飾品の中でも1、2を争うものであった。


「女には二面性があるとよく言われます。いわゆる表の顔と裏の顔というものですね」
「まぁ、二面性は女の人だけではないけどね。貴族なんて、いくつ顔を持っているのかわからないから」
「確かに」


 クスっと笑うと、ジョージアは気が付いたのかなるほどと頷いた。


「この宝石は、原理はわからないが、2つの顔を持つのか。蝋燭の光では赤い色を太陽の光を浴びると別の色に……」
「そうです。青くなります」
「確かに、アンナの好きそうな宝石だ。興味を引かないわけはないな。どこで見つけた?」
「エルドアの宝飾品店です。エレーナたちも利用するとかで、とても品揃えも品物もいいものが多かったですよ。まぁ、店の見せ方が、イマイチなっていませんでしたけど」
「貴族というより、商人だね?アンナは、どこまで行っても」
「そうですね。お店を経営しているので、他の店は気になるところです」
「それで?この宝石は手に入れられそうなの?」
「産地はエルドアの一部でしか手に入らず、入手は難しいかと。ただ、店主はクズ石だと言っていた原石はわけてもらえたので、ティアに渡してあります。何か新しい宝飾品を作ってくれるかと思います」


 明日、太陽の光を当てる約束をして、宝飾品をしまう。ホッとしたような表情のジョージアに私も頷いた。


「高かったんだよね?もちろん」
「値段は……言いたくないくらいです……私財で買ったので、そこはご心配なく」
「……アンナに宝飾品を贈るのは、俺の役目なんだけどね?領地を代表するわけなんだらか」
「そうですね……でも、これは、私の我儘で買ったものなので、私の私財で買わせてください。次の社交の季節には、ぜひ、アレキサンドライトを流行らせたいと思っています」
「いいね。この宝石綺麗だからだからね。いいと思うよ。あとは、オリーブだよね?アンナの関心ごとって」


 そうですよと笑うと、人まで連れてくるんだもんなと呆れている。ルーイとドールを見て、驚いたそうだ。


「相変わらず、人誑しだなぁ……向こうの王太子に口説かれたりしてない?」


 ジョージアの質問にはニッコリ笑って答えず、隣に移動して肩にもたれかかった。今回の騒動の裏にあったことを報告はしていたが、ノクトたちの前では言いづらいこともある。


「今回の件、だんだんとインゼロ帝国の内政が落ち着きつつあると感じました。ノクトの奥さんからの情報もあり、もう少し時間がかかるんじゃないかって思ってはいたんですけど……」
「戦争屋が動いているってことは、何よりだね。そこをどう潰しに行くかが今後の今後の国の課題になるだろうけど、ヒーナを見ているとなかなか難しいだろうね」
「そうですね。ノクトも商人としてこの国に出入りしていたくらいですからね」
「公も考えてはいるだろうけど、何枚も上手だろう。帝国は戦争をすることで成っている国と言っても過言ではないから。来年1年、アンナがこの地でいられる最後になるかもしれないな」
「……そんな寂しいこと、言わないでください。アンバーは私の大切な場所なのですから」


 覚悟を決める時期がきたことをジョージアも感じたらしい。アンバー領でのんびりとできる時間は、それほど残っていないのだろう。ローズディア公国を守るために、公都に留まり、公と共に民を守るための戦いが始まる日も近いのかもしれない。
 目下の宿敵であるゴールド公爵と対等以上に渡り合うために、遊び場を去る日も考えることになりそうだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...