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譲られた席

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 執務室に入ると、少し変わった部屋の様子に驚いているようだった。ルーイとドールが当たりを見渡している。そこの大机を指さすと、そちらに向かう。ジョージアが二人に席をすすめ、自身はその隣に座った。


「すみません、あの……こんな場所によかったのですか?」
「そこはジョージア様の席だけど、ご本人が譲ったのですから、いいと思いますよ」
「……ジョージア様って……あの」
「姫さんの自慢の旦那様。あぁ、その隣の方ね?」


 反対側からウィルがジョージアを紹介すると座りかけた二人が直立不動になった。そんな様子を見てクスクス笑うと、恐縮してしまった二人がジョージアにペコペコと頭を下げ始めた。


「いいんだ。今日は、君たちの話を聞くわけだから、アンナの側に。だいたい、この領地で爵位なんて気にしているものなんて、いないだろう……」


 大きなため息をつくジョージアにそうですねと相打ちをして、二人に座るように促した。私はもちろんいつもの場所に座っているので、見上げてニッコリ笑いかける。


「貴族は……その……」
「ドールの言いたいことはわかる。ここは、少し他の領地とは違うから、好きにしてもらって構わないさ」
「他の領地では、きちんとした方がいいわよ」
「聞いても?」


 疑問に思ったことがあったようで、ドールが私に尋ねてくる。何でもどうぞと答えると、おそるおそる口を開いた。


「公爵といえば、王族に次ぐ上位貴族なのに、どうしてですか?」


 私が答えようとして、ウィルに先に答えられた。


「俺たちが年若いというのもあるだろうし、領主が領主らしくふんぞり返っていないのが悪いんだよ。麦をまく季節になれば、いち早く飛び出して麦の種まきをしている領主なんて、この領地以外にいるか?」
「いません」
「だろう?近いうちに貴族と領民とのあいだに一定の距離を設ける日がくるだろうけど、今は、とにもかくにも、領地を盛り立てる、改革することを目標にしているから、溝がどうのとか言ってられないんだよ」


 納得したという表情の二人に、他では通用しないからと強調しておく。アンバーだから通じること……と、心に留めてくれたようだった。
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