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オリーブの畑予定地
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助手の作業着のような服を借りた。あちこちつぎはぎだらけでどろだらけではあるが、大事に使われているのか、着心地はよかった。
「そうやって、つぎはぎを着ていると誰も貴族だなんて思わないな?」
ウィルが大きく頷き、ヨハンが大笑いしている。私がつぎはぎを着て出歩いていることは知っていても、実際に見かけることは少ないので珍しいのだろう。
「まぁ、確かに。でも、汚しても叱られない服を着て出歩くのはわりとすきなんだけどね?」
「昔からそうだったもんな。よく夫人に襟首掴まれて叱られてたのは、見たことある」
「……お母様は少し厳しかったのよ。そうはいっても、力のない私が、平民に混ざって何事かをしていれば、まずいこともあるわよねって……って、今ならわかるわ」
「……今も変わってないように見えるけど?」
ウィルにからかわれるので睨んでいると、ジョージアが話に割り込んできた。
「ヨハン教授はアンナの小さいころ知っているので?」
「小さいころといっても、デビュタントより少し前くらいですよ?まぁ、今もあのころも全然変わりませんけどね。無茶も無っ鉄砲なところも興味本位なところも。あぁ、あと物怖じしないとか、誰とでもすぐに話しかけていくとか」
「それは、確かに今も変わらないな」
「俺が初めて見たときの姫さんって大人しそうな印象だったけどな」
「教室ででしょ?」
頷くウィルに苦笑いをした。あのときを思い出す。
地底湖の水辺を歩きながら、キラキラ光る水面を見て、何度着ても綺麗なところだなと考えていた。
「それはどうして?」
「ハリーに大人しくしておけってこんこんと何時間も言われたんです。私、これでも侯爵令嬢なので、両国間で変な噂が広まると困るからって」
「それは……成功していたの?」
「どう思います?私は、そこそこしていたと思いますけど」
「最初の2週間くらいは成功していたんじゃないかな?」
「確かに。あれだよね?」
「「イリア」嬢ね?」
ウィルと声が重なり笑いあう。当時のことを知っているのは同い年であるウィルだけだ。何があったのか気になるようで、続きをとジョージアは促した。
「当時というか、今もかなぁ?ヘンリー様のことを好きだったイリア嬢が姫さんに特別ご指導をしてたって話ですよ。姫さんがそれでへこたれるわけでなく、当のヘンリー様をぶん投げたりしてたから、余計に睨まれて……あの頃はあの頃で楽しかったな?」
「そうね。お茶会のときに背中にあっつい紅茶をぶん投げたりもしたし」
「伝説のお茶会だね。ヘンリー様がすごい勢いで怒ってお茶会から退席したとかなんとか」
「違うわよ。ハリーはイリアのところへ向かうように言って、ナタリーに処置してもらったの」
「しばらく休んだりしてたしな」
「そのときよね?エリザベスを掻っ攫ったのも」
「エリザベスを?サシャが口説いたんじゃ……」
違いますよ!とウィルがいうが、それ以上はというと、口をつぐんでくれる。秘密にしないといけないのだといえば、わかったと言ってくれる。きっと、帰ったあと、兄へ聞くのだろう。
「無駄話をしているうちに着いた。それで、どれくらいの規模にするつもりだ?」
「うーん、初年度はそれほど。うまくいくかもわからないし、オリーブの木が育つにも時間がかかるって聞いているの」
「確かに。三年くらいはみておいた方がいいな。温暖な気候が必要なら、もう少し先へ行こう」
ヨハンの後ろについて歩きながら、オリーブオイルを作る場所も必要なことを伝えると、もう少ししたら、ちょうどよさそうな場所があるという。
連れていってくれた場所は少し高台の場所で、下を見るように言われたので俯く。
「あの辺りは、嵐が来ても建物は持ちこたえられるはずだ。防風林を作っておけば、風も防げるし、工場を作るにはちょうどいいんじゃないか?まぁ、人が住むことを考えるなら、もう少し、土地を切り崩して広げないと難しいだろうけど」
「風があたりにくいって言うのはありがたいわね?海風は、きついから……」
「確かに。木材で家を建てると、痛みやすい」
「レンガとか石で作るかってことになるだろうけど……レンガは、高いしな」
「作れないのか?」
「なんでもほいほいと作れるものじゃないです!」
ヨハンにぶぅぶぅというと、材料さえあればなんとかなるだろ?とか言ってくる。確かにコンクリートを作ることは……と思った瞬間、ひらめいた。
「コンクリートで建物を作るってダメかしら?」
「ダメではないけど、夏場とか考えてみろ?」
「窓をつけたり……設計に工夫をすれば、出来なくはないわよね?コンクリートを作る技術なら、アンバーにあるのだから!」
うんうんと頷き、早速棟梁に相談だね!と言っていると、少し落ち着くように言われる。オリーブが育つにも時間がかかるのだから、優先順位からすると低いと指摘されれば、頷くしかない。
計画だけしておいて、来年の秋以降に考えることになった。
あとは、オリーブを植える畑になるような場所の選定だ。荷物をガチャガチャと出しながら、ヨハンがオリーブの植樹に適していそうな場所を探してくれるようだった。
「そうやって、つぎはぎを着ていると誰も貴族だなんて思わないな?」
ウィルが大きく頷き、ヨハンが大笑いしている。私がつぎはぎを着て出歩いていることは知っていても、実際に見かけることは少ないので珍しいのだろう。
「まぁ、確かに。でも、汚しても叱られない服を着て出歩くのはわりとすきなんだけどね?」
「昔からそうだったもんな。よく夫人に襟首掴まれて叱られてたのは、見たことある」
「……お母様は少し厳しかったのよ。そうはいっても、力のない私が、平民に混ざって何事かをしていれば、まずいこともあるわよねって……って、今ならわかるわ」
「……今も変わってないように見えるけど?」
ウィルにからかわれるので睨んでいると、ジョージアが話に割り込んできた。
「ヨハン教授はアンナの小さいころ知っているので?」
「小さいころといっても、デビュタントより少し前くらいですよ?まぁ、今もあのころも全然変わりませんけどね。無茶も無っ鉄砲なところも興味本位なところも。あぁ、あと物怖じしないとか、誰とでもすぐに話しかけていくとか」
「それは、確かに今も変わらないな」
「俺が初めて見たときの姫さんって大人しそうな印象だったけどな」
「教室ででしょ?」
頷くウィルに苦笑いをした。あのときを思い出す。
地底湖の水辺を歩きながら、キラキラ光る水面を見て、何度着ても綺麗なところだなと考えていた。
「それはどうして?」
「ハリーに大人しくしておけってこんこんと何時間も言われたんです。私、これでも侯爵令嬢なので、両国間で変な噂が広まると困るからって」
「それは……成功していたの?」
「どう思います?私は、そこそこしていたと思いますけど」
「最初の2週間くらいは成功していたんじゃないかな?」
「確かに。あれだよね?」
「「イリア」嬢ね?」
ウィルと声が重なり笑いあう。当時のことを知っているのは同い年であるウィルだけだ。何があったのか気になるようで、続きをとジョージアは促した。
「当時というか、今もかなぁ?ヘンリー様のことを好きだったイリア嬢が姫さんに特別ご指導をしてたって話ですよ。姫さんがそれでへこたれるわけでなく、当のヘンリー様をぶん投げたりしてたから、余計に睨まれて……あの頃はあの頃で楽しかったな?」
「そうね。お茶会のときに背中にあっつい紅茶をぶん投げたりもしたし」
「伝説のお茶会だね。ヘンリー様がすごい勢いで怒ってお茶会から退席したとかなんとか」
「違うわよ。ハリーはイリアのところへ向かうように言って、ナタリーに処置してもらったの」
「しばらく休んだりしてたしな」
「そのときよね?エリザベスを掻っ攫ったのも」
「エリザベスを?サシャが口説いたんじゃ……」
違いますよ!とウィルがいうが、それ以上はというと、口をつぐんでくれる。秘密にしないといけないのだといえば、わかったと言ってくれる。きっと、帰ったあと、兄へ聞くのだろう。
「無駄話をしているうちに着いた。それで、どれくらいの規模にするつもりだ?」
「うーん、初年度はそれほど。うまくいくかもわからないし、オリーブの木が育つにも時間がかかるって聞いているの」
「確かに。三年くらいはみておいた方がいいな。温暖な気候が必要なら、もう少し先へ行こう」
ヨハンの後ろについて歩きながら、オリーブオイルを作る場所も必要なことを伝えると、もう少ししたら、ちょうどよさそうな場所があるという。
連れていってくれた場所は少し高台の場所で、下を見るように言われたので俯く。
「あの辺りは、嵐が来ても建物は持ちこたえられるはずだ。防風林を作っておけば、風も防げるし、工場を作るにはちょうどいいんじゃないか?まぁ、人が住むことを考えるなら、もう少し、土地を切り崩して広げないと難しいだろうけど」
「風があたりにくいって言うのはありがたいわね?海風は、きついから……」
「確かに。木材で家を建てると、痛みやすい」
「レンガとか石で作るかってことになるだろうけど……レンガは、高いしな」
「作れないのか?」
「なんでもほいほいと作れるものじゃないです!」
ヨハンにぶぅぶぅというと、材料さえあればなんとかなるだろ?とか言ってくる。確かにコンクリートを作ることは……と思った瞬間、ひらめいた。
「コンクリートで建物を作るってダメかしら?」
「ダメではないけど、夏場とか考えてみろ?」
「窓をつけたり……設計に工夫をすれば、出来なくはないわよね?コンクリートを作る技術なら、アンバーにあるのだから!」
うんうんと頷き、早速棟梁に相談だね!と言っていると、少し落ち着くように言われる。オリーブが育つにも時間がかかるのだから、優先順位からすると低いと指摘されれば、頷くしかない。
計画だけしておいて、来年の秋以降に考えることになった。
あとは、オリーブを植える畑になるような場所の選定だ。荷物をガチャガチャと出しながら、ヨハンがオリーブの植樹に適していそうな場所を探してくれるようだった。
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