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ちょっとそこまで
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「こんな時間から向かうの?」
ジョージアがでかけようとする私を止める。それもそうだろう。もう日は暮れているのだから。他のものたちも戸惑ったような表情をする。
「それもそうですね……出かけるのは明日にします。ついてきてくれる?ウィル」
「もちろんだけど、ずっと移動だったんだから、少し休んだ方がいいんじゃないか?ジョージア様もいることだし」
「そう思うんだけどね……少し、ヨハンと話をしたくて」
「込み入った話?」
「……うん、ちょっとね?」
微笑みかけると、何も言わなくなるのを知っているからか、私ってずるいな……と思った。心配してくれている友人たちにもジョージア様にも我儘を言っていることは重々わかっていた。
「そこまでいうなら、俺は何も言わないけどさ、ジョージア様にだけは、ちゃんと姫さんの考えていることは言った方がいい」
「わかったわ。ジョージア様、少し時間をとれますか?」
「アンナの願いならどれだけでも」
手を差し伸べると、その手をしっかり握ってくれ、私とジョージアは執務室を出た。セバスの話もあるので、今頃、執務室は賑わっていることだろうが、そんな喧騒から少しだけ距離を取りたくなった。
「部屋に向かう?」
「いえ、少し歩きませんか?」
「外をだよね?上着だけ、持ってこよう。外は少し冷えるから」
私たちは部屋に戻り羽織るものを持って外へ出た。満月には少し足りない月でも明るく道を照らす。
私は、足元の石畳の感触を確かめながら、ジョージアと並んで歩いた。
ジョージアからは、突然の出来事で何かあったのかと、心配するように横並び歩調を合わせて歩いてくれた。何も聞かず、ゆっくりした時間だけが過ぎて行く。
元々一人になりたかったのだ。大人しい私は不気味なようである。
「石畳の街道、見たとき、とても感動しました。ジョージア様が、こっちに戻ったときは、もう石畳の街道でしたか?」
「そうだね。公都からこっちへ来たとき、いきなり揺れが軽減されたことに驚いたよ。アンナが目指すものって、俺は漠然としていたからなぁ……」
変事をするかわりに微笑み、ギュっと握った手を握り返した。
「なんて言うか、珍しいね?」
「私がですか?」
「そう。さっきまでと少しだけ雰囲気が違う気がして」
そうですか?と言いながら、今度はジョージアの腕に絡んだ。べったりと甘えるようにする私。ジョージアが突然の私の行動に驚いたようで、こちらを見つめる目を細めた。
「ベンチがあるから、少し休みませんか?」
「仰せのままに、奥様」
「ふふっ、ジョージア様ったら!」
「なんだい?アンナが先に甘えてきたんだろ?」
「そうですけど……」
ベンチに腰掛け、空を仰ぎ見た。月が明るいので、瞬く星は霞んでしまっているけど、少しひんやりとしていることに季節の移り変わりを感じた。
「春に出発をしてから、もうすぐ、冬ですよ」
「もう、冬だと思うけど?風が冷たい」
「そうですか?確かにひんやりとはしますが……」
ジョージアにもたれかかる。好きにさせてくれているのは、とても嬉しい。
「何か悩み事でもあるの?」
不意に聞かれて悩んだ。話したい気もするし、話したくない気もしていた。人気のない場所で、一息入れたかったというのが本音ではあった。
「少し未来のことを考えていました」
「未来のこと?」
「えぇ、そうです。今回、エルドアはインゼロとの戦争を始めようとしていました。ローズディアも実のところ多くはないですけど、開戦派がいたときいて、肝が冷えました。私は、最悪の未来を掴むために、努力をしてきたつもりです。美しく成長したアンジェラが、いつの日かにくるクーデターや戦争に備えて来たつもりだったんです」
「それでも、アンナが考えていたよりずっと早い段階で、そんな話が出ているってことで落ち込んでいる?」
少し考える。戦争を起こしたくない、回避したい。友人や家族を守りたい、知らない誰かの悲しみを出来ることならなくなればいいと考えてはきた。どこか他人事のような気もしていたのだが、エルドアは危機に面していたし、ローズディアが巻き込まれそうになっていたのも事実だ。今回は回避できたが、次、何かあったら……と思うと、怖くなった。
「……落ち込んでいるのとは少し違います」
「ならば……」
「怖かったのです。実際、戦争が始まってしまうのではいかと。回避するたっめにあらゆる手段を考えてセバスともお互いに最悪の事態だけはと願いながら、円卓へ望んでいたので」
「うまくいったけど、アンナは怖かったんだね?」
コクンと頷くと、クスっと笑う声が聞こえて来た。どうして?と上を見ると、トロっとした蜂蜜色の瞳と目が合った。
「アンナは怖いものなしだと思っていたけど……怖いものもあるんだな」
「ジョージア様!」
「わかってる。最悪の事態なんてないにこしたことはないから。アンナが恐怖を感じたこともちゃんと伝わっているよ?」
優しく微笑んだあと、前髪をそっとあげられおでこにキスをされる。
「俺にとって、アンナがこうして無事に帰ってきてくれること以上にホッとしたことはないよ」
おかえりと囁くように言われ、胸がくるしくなる。いつもジョージアには迷惑ばかりかけているので、その言葉が胸に響いた。
ジョージアがでかけようとする私を止める。それもそうだろう。もう日は暮れているのだから。他のものたちも戸惑ったような表情をする。
「それもそうですね……出かけるのは明日にします。ついてきてくれる?ウィル」
「もちろんだけど、ずっと移動だったんだから、少し休んだ方がいいんじゃないか?ジョージア様もいることだし」
「そう思うんだけどね……少し、ヨハンと話をしたくて」
「込み入った話?」
「……うん、ちょっとね?」
微笑みかけると、何も言わなくなるのを知っているからか、私ってずるいな……と思った。心配してくれている友人たちにもジョージア様にも我儘を言っていることは重々わかっていた。
「そこまでいうなら、俺は何も言わないけどさ、ジョージア様にだけは、ちゃんと姫さんの考えていることは言った方がいい」
「わかったわ。ジョージア様、少し時間をとれますか?」
「アンナの願いならどれだけでも」
手を差し伸べると、その手をしっかり握ってくれ、私とジョージアは執務室を出た。セバスの話もあるので、今頃、執務室は賑わっていることだろうが、そんな喧騒から少しだけ距離を取りたくなった。
「部屋に向かう?」
「いえ、少し歩きませんか?」
「外をだよね?上着だけ、持ってこよう。外は少し冷えるから」
私たちは部屋に戻り羽織るものを持って外へ出た。満月には少し足りない月でも明るく道を照らす。
私は、足元の石畳の感触を確かめながら、ジョージアと並んで歩いた。
ジョージアからは、突然の出来事で何かあったのかと、心配するように横並び歩調を合わせて歩いてくれた。何も聞かず、ゆっくりした時間だけが過ぎて行く。
元々一人になりたかったのだ。大人しい私は不気味なようである。
「石畳の街道、見たとき、とても感動しました。ジョージア様が、こっちに戻ったときは、もう石畳の街道でしたか?」
「そうだね。公都からこっちへ来たとき、いきなり揺れが軽減されたことに驚いたよ。アンナが目指すものって、俺は漠然としていたからなぁ……」
変事をするかわりに微笑み、ギュっと握った手を握り返した。
「なんて言うか、珍しいね?」
「私がですか?」
「そう。さっきまでと少しだけ雰囲気が違う気がして」
そうですか?と言いながら、今度はジョージアの腕に絡んだ。べったりと甘えるようにする私。ジョージアが突然の私の行動に驚いたようで、こちらを見つめる目を細めた。
「ベンチがあるから、少し休みませんか?」
「仰せのままに、奥様」
「ふふっ、ジョージア様ったら!」
「なんだい?アンナが先に甘えてきたんだろ?」
「そうですけど……」
ベンチに腰掛け、空を仰ぎ見た。月が明るいので、瞬く星は霞んでしまっているけど、少しひんやりとしていることに季節の移り変わりを感じた。
「春に出発をしてから、もうすぐ、冬ですよ」
「もう、冬だと思うけど?風が冷たい」
「そうですか?確かにひんやりとはしますが……」
ジョージアにもたれかかる。好きにさせてくれているのは、とても嬉しい。
「何か悩み事でもあるの?」
不意に聞かれて悩んだ。話したい気もするし、話したくない気もしていた。人気のない場所で、一息入れたかったというのが本音ではあった。
「少し未来のことを考えていました」
「未来のこと?」
「えぇ、そうです。今回、エルドアはインゼロとの戦争を始めようとしていました。ローズディアも実のところ多くはないですけど、開戦派がいたときいて、肝が冷えました。私は、最悪の未来を掴むために、努力をしてきたつもりです。美しく成長したアンジェラが、いつの日かにくるクーデターや戦争に備えて来たつもりだったんです」
「それでも、アンナが考えていたよりずっと早い段階で、そんな話が出ているってことで落ち込んでいる?」
少し考える。戦争を起こしたくない、回避したい。友人や家族を守りたい、知らない誰かの悲しみを出来ることならなくなればいいと考えてはきた。どこか他人事のような気もしていたのだが、エルドアは危機に面していたし、ローズディアが巻き込まれそうになっていたのも事実だ。今回は回避できたが、次、何かあったら……と思うと、怖くなった。
「……落ち込んでいるのとは少し違います」
「ならば……」
「怖かったのです。実際、戦争が始まってしまうのではいかと。回避するたっめにあらゆる手段を考えてセバスともお互いに最悪の事態だけはと願いながら、円卓へ望んでいたので」
「うまくいったけど、アンナは怖かったんだね?」
コクンと頷くと、クスっと笑う声が聞こえて来た。どうして?と上を見ると、トロっとした蜂蜜色の瞳と目が合った。
「アンナは怖いものなしだと思っていたけど……怖いものもあるんだな」
「ジョージア様!」
「わかってる。最悪の事態なんてないにこしたことはないから。アンナが恐怖を感じたこともちゃんと伝わっているよ?」
優しく微笑んだあと、前髪をそっとあげられおでこにキスをされる。
「俺にとって、アンナがこうして無事に帰ってきてくれること以上にホッとしたことはないよ」
おかえりと囁くように言われ、胸がくるしくなる。いつもジョージアには迷惑ばかりかけているので、その言葉が胸に響いた。
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