上 下
1,084 / 1,480

領地の屋敷はあったかい

しおりを挟む
 笑いあっていると、片付きましたか?とリアンが食堂へ入って来た。結構な時間を使っていたはずなのに、一向に片付いて行かない食堂。リアンが苦笑いをしてバケツに入った雑巾を絞り出す。


「ごめんね?リアン」
「いいのですよ。このままだと夕飯に間に合いそうにありませんから……」


 テキパキと粉だらけの床を拭きとってくれる。掃き掃除をしたはずだが、リアンが拭いた場所はさらに綺麗になった。


「俺らは、掃除をしているうちにはいるのか?」


 ジョージアの言いたいことはわかるが、こんなふうに荒らした食堂を綺麗にしてもらうのは、気がとがめたのでバツとして私たちが掃除をしているのだが、そもそも、掃除をしたことがない公爵二人と子どもでは、綺麗にならない。
 リアンが、バケツに雑巾を洗いに向かったところで、アデルも入って来た。床を拭いているリアンを見て、アデルも雑巾や仲間を引き連れ戻って来た。


「手伝います。見た感じ、終わりそうにないですし」


 三人のメイドと一人の下男がバケツもひとつ持ってきて反対側から拭き始めた。
 私とジョージアはみなにごめんねと謝ると、私たちの仕事ですからと頼もしい返事をくれる。掃き掃除だけ、ジョージアと二人で終わらせ、子どもたちの方へ向かう。さっきまでケンカをしていたはずの二人は、一生懸命机を拭くことで、どうやら仲直りをしたらしい。メイドたちが机の足元まできたとき、褒めてくれることも嬉しいようで、ときおりニッコリ笑っていた。


「本当、あの子たちのおかげで、今、こうしているっていうのにね?」
「全くだよ。アンナのことになると、二人ともが張り切りだすから……」
「なんて返せばいいのかわからないですけど、嬉しいかな」
「……こんな状況でも?」
「考え物だけど、嬉しい。私、あの子たちに愛されているなって」
「アンジーやジョージだけじゃないけどね?」


 ちょっと拗ねたようなジョージアの頬にキスをする。帰ってきて早々、粉事件になったものだから、すっかり忘れていたのだ。
 ぶすっとしていたジョージアの口元も少し緩む。


「ジョージア様に折り入って相談したいことがあるんでした」
「なんだい?ここで聞けること?」
「人がいない方がいいですね。ちょっと、いろいろとありましたから」
「あぁ、エルドアでのことだね。驚かないからね?」


 何かしてきたのだろう?とは思っているらしいジョージアに微笑んでおく。手伝ってもらったおかげで、綺麗に食堂は片付いたので、夕飯までのあいだの時間がとれそうだ。


「みんな、手伝ってくれてありがとう。お礼といっては少ないのだけど……」


 ナタリーとリアンにお願いしておいたお菓子をそれぞれ持っていくように伝えると、嬉しそうに調理場へと向かった。
 未だ汚れた服を着ている私たち家族は、それぞれ着替えることになった。アンジェラとジョージの手を握り、私は子ども部屋へと歩き始める。その後ろをジョージアとリアンがついてくる。


「じゃあ、俺も着替えてくるから、執務室でいい?」
「えぇ、それで。たぶん、ウィルやセバスもいると思うから」


 子ども部屋へ子どもたちを連れていけば、中でヒーナが待っていてくれた。エマはクローゼットから服を取り出して着ているようだ。


「こちらは任せられますね?」


 リアンに言われ、ヒーナとエマが頷き、マリアが後ろでそわそわとしていた。


「マリアももう、働いているの?」
「まだまだ見習いですが、飲み込みが早いので、10歳ごろには、侍女に昇格するかもしれませんね」
「そうかもしれないわね」


 マリアが、エマの選んだ服を持ち、着替えを手伝っている姿を見ると、なんだかほっこりする。
 私の部屋に入れば、リアンがクローゼットへ向かい、豪奢なドレスではなく、質素な服を持ってきてくれた。領地にいるあいだの服ではあるが、とても楽なワンピースにサッと着替える。リアンに孤児院へ戻るように言えば、失礼しますと部屋を出ていく。
 そのまま、執務室へ向かうと、すでに集まっている。ジョージア、ウィル、セバス、ダリア、ノクト、イチアが指定の席に座っている。


「よぉ!アンナ、元気にしていたか?」
「もちろんよ!ノクト。南の領地では、手伝ってくれてありがとう」
「いいってことよ。俺も病にはかかっていたからな。それで、何かもらってきたのか?」
「そうね……その話はあとにしましょうか?」


 見慣れぬ女性の方に視線を送り、ノクトが首を傾げている。この領地改革の人数も少ない中、女性が静かに末席に座っていたら、気になるだろう。


「まずは、私とウィルの連携で、病は終息したと行ってもいいかなぁ?コーコナにも通達はしてきたから、大丈夫だと思うけど」
「向こうも何か始めたのでしょ?」
「そうなのよ……小さなアンバー領みたいなことをね」
「貧民街ですよね?」
「そう。ちょっと、そこに問題があったから、綺麗にしてきたわ」
「人身売買と麻薬でしたね」
「閉鎖された場所だったから、そういうのの巣窟になっていたから。コーコナのことは、ココナが中心に進めてくれているから、大丈夫だと信じましょ!」


 他に報告があるのよねと苦笑いをすれば、いつものことだろう?という表情を崩さないノクトと何を持ち込んできた?と身構えるイチア。
 情報を仕入れてはいたようだが、全部は拾いきれていないという話で、私は説明をすることになった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓
ファンタジー
主人公、間宮陸人(42歳)は、世界に絶望していた。 そこそこ順風満帆な人生を送っていたが、あるミスが原因で仕事に追い込まれ、そのミスが連鎖反応を引き起こし、最終的にはビルの屋上に立つことになった。 そして一歩を踏み出して身を投げる。 しかし、陸人に訪れたのは死ではなかった。 眩しい光が目の前に現れ、周囲には白い神殿のような建物があり、他にも多くの人々が突如としてその場に現れる。 しばらくすると、神を名乗る人物が現れ、彼に言い渡したのは、異世界への転移。 陸人はこれから始まる異世界ライフに不安を抱えつつも、ある意味での人生の再スタートと捉え、新たな一歩を踏み出す決意を固めた……はずだった…… この物語は、間宮陸人が幸か不幸か、異世界での新たな人生を満喫する物語である……はずです。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

魔法学園の空間魔導師

ΣiGMA
ファンタジー
空間魔法を持つ主人公・忍足御影はある日、一人の天使を拾うことに。 それにより彼の日常は騒がしいものとなってゆくのだった。

処理中です...