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粉だらけの中でのケンカ
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屋敷についたにも関わらず、誰も迎えに出てきてくれない。寂しいなと思いながら、ヒーナが先行して屋敷へと入って行った。扉を開いた瞬間、アンジェラの怒っている声が聞こえてくる。他にもあちこちで人の声がしていたが、最後にジョージアの声が屋敷に響いた。普段大人しいジョージアが、これ程の声を荒げるのには、驚いた。
「……初めて聞いたかもしれないわ」
「ジョージア様は、静かに牽制はしてきたけど……これはこれは、なんとも」
「何があったのでしょう?」
「急いだほうがいいんじゃない?」
私はスカートの横を持って声のする方へ駆けていく。こんなとき、貴族婦人だなんて、気にする余裕もない。ナタリーも同じように、ウィルやセバスもあとに続く。ヒーナにダリアを任せて急いだ。
「どうかしましたか?ジョージア様」
声をかけた場所は、みなが集まる食堂。アンジェラとネイトが真っ白に粉だらけになっているだけではなく、ジョージは牛乳をジョージアの服には卵がぶつかったあとがあった。その周りをレオやミアがオロオロとしていた。
「アンナか」
疲れた声をしているジョージアが私の声を聞き振り返った。驚く私に苦笑いをし、惨状を説明しようとする。そのまえに、小さなものたちがさっと動く。真っ白な粉を頭からかぶっているアンジェラが私に抱きついたのだ。止めようとしたジョージアの手をすり抜けて、ドレスに向かってくる。
どういう状況なのかわからないが、私の元へきたアンジェラを抱きかかえるとジョージアが不満そうにこちらを見て来た。
「何があったのですか?」
粉のついた手で私をベタベタと触るので、ドレス中がアンジェラの手形だらけだ。
「アンジェラがクッキーを作りたいって言い出したからみなで作り始めたんだけど……ふざけ始めちゃって、このありさま」
「アンジェラがこんなことを?」
「……アン、悪くない」
「じゃあ、誰が悪いの?」
俯いたまま黙ってしまうアンジェラに叱るのではなく、優しく問うことにした。すると、私が今日、屋敷に帰ってくることを知っていたようで、ビックリさせたかったらしい。いつもおいしくクッキーを食べている私を思い出して、作りたいとジョージアにお願いしたらしい。
料理人にお願いして、準備や手順を聞きながら子どもたちをみんな集めて作り始めたところ、アンジェラとジョージとがケンカになったという。何に対してそうなったかというと、私に食べさせたいものがアンジェラとジョージで違ったのだそうだ。
「ジョーが悪いの!」
「……アンなの!」
珍しくジョージも反論しているので、私はアンジェラを降ろし、手をつないでジョージの前までいく。プイっと向こうをお互い向いてしまう二人。私のためにしたことで、二人がケンカになってしまったことは、とても悲しいことだ。私をビックリさせたかったのは、二人とも同じなはずなので。
「ママは、アンジェラとジョージがケンカをしていることが悲しいわ。二人とも仲のいい姉弟なのに、どうしてそんなふうにお互いを傷つけあっているの?」
眉尻を下げ、表情を作ると、見向きもしなかったお互いをチラリと見て私を見上げる。叱るより悪いことをしたのだとわかったのか、しくしくと涙を流し始める。そんな二人を両腕で抱きしめる。粉をいっぱい被ったアンジェラと牛乳をかぶって濡れているジョージは、私に抱きついてきた。
「俺じゃ止められないのに、さすがだな……」
ジョージアがため息をついていると、食堂へ慌てたリアンが飛び込んできた。収集のつかないこの場を何とかしてもらおうと、誰かが呼びに行っていたようだ。
「……これはまた、なんといいますか」
リアンの引きつった声がしているが、レオとミアもそちらに駆け寄ったらしい。小言を言われているのが聞こえ、ウィルとアデルが二人に助け船を出している。
「部屋は、粉だらけになっちゃったし……そうね、泣き虫さんたち!」
私の声に反応した二人はぐじゅぐじゅと鼻をならしながら、こちらを見てくるのでニッコリ笑ってやる。することはひとつしかない。
「アンジェラとジョージは、食堂のお掃除をすること!ママもパパも手伝うから、頑張ってしましょう。ナタリーとリアンはおいしいケーキと飲み物を用意してちょうだい。レオとミアはそちらを手伝って!ヒーナとエマは、ネイトを着替えさせてあげて。各自、動いて!夕飯までには、終わらせるわよ!」
パンパンと手を叩くと、それぞれが動き始める。メイドたちが私たちを手伝おうとするので、首を横にふる。私たちがしなければ意味がないのだからとお願いして、掃除道具だけを貸してもらうことになった。
私のしようとしていることにため息を漏らしながらも、ジョージアは手伝ってくれるようだ。
「公爵もメイドと同じ仕事をしているなんて、形無しだな」
「形なんてあってないようなものです。ここをこんなふうにしたのは、アンジェラとジョージなら、その責任はとるべきですし……二人に難しいことなら、私たちが手を差し伸べるべきでしょ?」
ほうきを手に取り、粉を掃いて一か所へ集めていく。ジョージアは机の上を拭くようにアンジェラとジョージにふきんを渡し、自身は雑巾を絞っている。その姿は、公爵だなんて、思えなかった。
「それにしても、アンナのドレスは真っ白だ!」
「ジョージア様こそ、卵があちこちについてますよ?」
お互いの様子を見て、おかしくなり、笑いあう。そんな私たちを見て、一生懸命に机を拭いていたアンジェラとジョージが私たちを見て首を傾げた。しだいに私たちの笑い声につられるように、やっと笑ったのであった。
「……初めて聞いたかもしれないわ」
「ジョージア様は、静かに牽制はしてきたけど……これはこれは、なんとも」
「何があったのでしょう?」
「急いだほうがいいんじゃない?」
私はスカートの横を持って声のする方へ駆けていく。こんなとき、貴族婦人だなんて、気にする余裕もない。ナタリーも同じように、ウィルやセバスもあとに続く。ヒーナにダリアを任せて急いだ。
「どうかしましたか?ジョージア様」
声をかけた場所は、みなが集まる食堂。アンジェラとネイトが真っ白に粉だらけになっているだけではなく、ジョージは牛乳をジョージアの服には卵がぶつかったあとがあった。その周りをレオやミアがオロオロとしていた。
「アンナか」
疲れた声をしているジョージアが私の声を聞き振り返った。驚く私に苦笑いをし、惨状を説明しようとする。そのまえに、小さなものたちがさっと動く。真っ白な粉を頭からかぶっているアンジェラが私に抱きついたのだ。止めようとしたジョージアの手をすり抜けて、ドレスに向かってくる。
どういう状況なのかわからないが、私の元へきたアンジェラを抱きかかえるとジョージアが不満そうにこちらを見て来た。
「何があったのですか?」
粉のついた手で私をベタベタと触るので、ドレス中がアンジェラの手形だらけだ。
「アンジェラがクッキーを作りたいって言い出したからみなで作り始めたんだけど……ふざけ始めちゃって、このありさま」
「アンジェラがこんなことを?」
「……アン、悪くない」
「じゃあ、誰が悪いの?」
俯いたまま黙ってしまうアンジェラに叱るのではなく、優しく問うことにした。すると、私が今日、屋敷に帰ってくることを知っていたようで、ビックリさせたかったらしい。いつもおいしくクッキーを食べている私を思い出して、作りたいとジョージアにお願いしたらしい。
料理人にお願いして、準備や手順を聞きながら子どもたちをみんな集めて作り始めたところ、アンジェラとジョージとがケンカになったという。何に対してそうなったかというと、私に食べさせたいものがアンジェラとジョージで違ったのだそうだ。
「ジョーが悪いの!」
「……アンなの!」
珍しくジョージも反論しているので、私はアンジェラを降ろし、手をつないでジョージの前までいく。プイっと向こうをお互い向いてしまう二人。私のためにしたことで、二人がケンカになってしまったことは、とても悲しいことだ。私をビックリさせたかったのは、二人とも同じなはずなので。
「ママは、アンジェラとジョージがケンカをしていることが悲しいわ。二人とも仲のいい姉弟なのに、どうしてそんなふうにお互いを傷つけあっているの?」
眉尻を下げ、表情を作ると、見向きもしなかったお互いをチラリと見て私を見上げる。叱るより悪いことをしたのだとわかったのか、しくしくと涙を流し始める。そんな二人を両腕で抱きしめる。粉をいっぱい被ったアンジェラと牛乳をかぶって濡れているジョージは、私に抱きついてきた。
「俺じゃ止められないのに、さすがだな……」
ジョージアがため息をついていると、食堂へ慌てたリアンが飛び込んできた。収集のつかないこの場を何とかしてもらおうと、誰かが呼びに行っていたようだ。
「……これはまた、なんといいますか」
リアンの引きつった声がしているが、レオとミアもそちらに駆け寄ったらしい。小言を言われているのが聞こえ、ウィルとアデルが二人に助け船を出している。
「部屋は、粉だらけになっちゃったし……そうね、泣き虫さんたち!」
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「アンジェラとジョージは、食堂のお掃除をすること!ママもパパも手伝うから、頑張ってしましょう。ナタリーとリアンはおいしいケーキと飲み物を用意してちょうだい。レオとミアはそちらを手伝って!ヒーナとエマは、ネイトを着替えさせてあげて。各自、動いて!夕飯までには、終わらせるわよ!」
パンパンと手を叩くと、それぞれが動き始める。メイドたちが私たちを手伝おうとするので、首を横にふる。私たちがしなければ意味がないのだからとお願いして、掃除道具だけを貸してもらうことになった。
私のしようとしていることにため息を漏らしながらも、ジョージアは手伝ってくれるようだ。
「公爵もメイドと同じ仕事をしているなんて、形無しだな」
「形なんてあってないようなものです。ここをこんなふうにしたのは、アンジェラとジョージなら、その責任はとるべきですし……二人に難しいことなら、私たちが手を差し伸べるべきでしょ?」
ほうきを手に取り、粉を掃いて一か所へ集めていく。ジョージアは机の上を拭くようにアンジェラとジョージにふきんを渡し、自身は雑巾を絞っている。その姿は、公爵だなんて、思えなかった。
「それにしても、アンナのドレスは真っ白だ!」
「ジョージア様こそ、卵があちこちについてますよ?」
お互いの様子を見て、おかしくなり、笑いあう。そんな私たちを見て、一生懸命に机を拭いていたアンジェラとジョージが私たちを見て首を傾げた。しだいに私たちの笑い声につられるように、やっと笑ったのであった。
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