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セバスたちの結婚式の構想Ⅴ
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私とウィルとナタリーは翌日から、アンバーのお屋敷へ集まっていた。セバスへのお祝い品として、リングピローを作ろうと考えたからだ。
ニコライに連絡をして、私たちの計画を話した。
「それは素敵ですね?貴族って、高級なものを贈りあうということはありますが、手作りのリングピローとは……考えましたね?」
「そうでしょ?私たちにできることでって考えた結果なんだけどね。刺繍やレース編みは私たちでするから、宝飾品を入れる箱だけ注文できるかしら?」
「わかりました、それは注文しておきますね。とびっきりのを」
「うん、お願い。それで、私たちが手分けしてすることを今からいうわね?」
ナタリーが先に出てきて、白いシルクの布を持ってくる。まずは、型紙を作って、大きさを決め、鋏を入れていく。
その隣で、じっと見つめていたウィルを見て、ニコライが疑問に思っていたことを聞いた。
「あのウィル様?」
「ん?俺?」
「はい。大変申し上げにくいのですが、ウィル様は一体何をされるのですか?」
図案をみながら、白い糸でレースを編み始めた私と鋏で迷いなく布地を切っているナタリーを見て苦笑いをしている。手近にあった白い糸と布の端を持ってニッコリ笑いかけるウィル。勘のいいニコライは、まさか……!という表情で目を見開いていた。
「ニコライならわかるだろ?俺もチクチクするんだよ」
「まさか、本当にウィル様がですか?」
「そのまさか。俺も一応、自分の制服の破れたところを縫ったり応急処置で縫ったりはしてるから……多少の裁縫はできる」
「でも、お祝い品ですよね?」
「祝い品だからこそ、ウィルが縫う必要があるんじゃない!ニコライ」
「そうなのですか?ナタリー様。なんといいますか、その……」
「縫物は女性の手仕事っていう感じかしら?」
決まりの悪そうな顔をして、はぁ……と曖昧に言葉を濁すニコライ。それに最初に反応して笑ったのは、他でもないウィルだった。
「なんでそう思う?母親がしてくれてたからか?」
「……えぇっと、そう言うものだっていう固定概念がありまして……」
「なるほどな。俺も、実のところ近衛に入るまでは、そう思ってた。あと、チクチクと縫うのは上手じゃなかったんだ。リアンに習ってからは、うまくできるようになったけど」
「リアンに教えてもらったの?」
ウィルの方をみながら、ひとつひとつ丁寧に編んでいくと器用だな……とウィルが呟いた。
私は、刺繍もレース編みも、いうほどうまくはない。それでも、図案通り、セバスの幸せを願いながら編むものは、とても綺麗なものだ。
「リアンは、よくレオのほつれた服を治したり、ミアのスカートの裾を直したりしてたから、教えてもらったんだ。すごいよな。魔法の手かと思うくらい、俺、ビックリしちゃった」
「リアンは侍女として、貴族女性が出来て当然のことをデリアから習っていたからね。元々、メイドだったからっていうのもあるかもしれないわね?」
「ダドリー男爵家のメイドで、ダドリー男爵の第三夫人か。それなら、わかる気がするな」
「だからと言って、ウィル様」
「ん?何?」
「裁縫が教えてもらったからと言って、出来るものではありませんよ?」
ニコライの方を見ているウィルは、ニコライはできないの?と聞いている。ニコライには、腰を据えてじっくり椅子に座っている時間が極端に短い。ハニーアンバー店が繁盛しているからこそではあるが、とてもじゃないけど、刺繍なんて無理難題だ。
苦笑いをして、できませんと答えるニコライに、人それぞれの得意分野があると慰めていた。確かに、私たちとリングピローを作るより、リングピローと指環を入れる宝石箱を注文することのほうが、ニコライにはあっているだろう。
「ウィル様って、なんでもできるんですね?羨ましい。ティアに言われて何度も挑戦してはみましたが、全然ダメで」
「いいと思うよ。俺だっていつもしているわけじゃないし、演習とかに出てて、仮にでもしておかないとってときだけだから。今回は友人セバスのためだから、ひと針ひと針、丁寧に縫ってみるつもりだけどな」
「ウィル様が縫うのですか?」
「そう。ナタリーが刺繍をして、俺が縫って形を整えるの。姫さんの編んだレースを飾りに、ナタリーが仕上げるって感じかな?」
「それは、楽しみですね!みなさんの手で出来たものを渡されるとなると、嬉しくて仕方がありませんね。本当に仲がよろしいですね」
私たち三人は頷きあった。貴族と一言で言っても、立場は全く異なる。そんな身分社会の中で、私たち四人は、とても仲がいいのだと実感している。上位になればなるほど、媚を売りたいものではあるが、そう言ったものを一切感じない。好きなことを言い合ったり、領地の話で白熱して怒鳴り合ったり……他の貴族ではありえない光景ではあるが、私たちの形は、とてもうまく機能しているようだ。友人として、友人の幸せを願う。そのために、手を動かし、チクチクとすることは、私たちの絆も深まるような気がした。
レースを編みながら、チラチラとウィルやナタリーの顔をみれば、二人ともがセバスも大切にしているということがわかって嬉しかった。
ニコライに連絡をして、私たちの計画を話した。
「それは素敵ですね?貴族って、高級なものを贈りあうということはありますが、手作りのリングピローとは……考えましたね?」
「そうでしょ?私たちにできることでって考えた結果なんだけどね。刺繍やレース編みは私たちでするから、宝飾品を入れる箱だけ注文できるかしら?」
「わかりました、それは注文しておきますね。とびっきりのを」
「うん、お願い。それで、私たちが手分けしてすることを今からいうわね?」
ナタリーが先に出てきて、白いシルクの布を持ってくる。まずは、型紙を作って、大きさを決め、鋏を入れていく。
その隣で、じっと見つめていたウィルを見て、ニコライが疑問に思っていたことを聞いた。
「あのウィル様?」
「ん?俺?」
「はい。大変申し上げにくいのですが、ウィル様は一体何をされるのですか?」
図案をみながら、白い糸でレースを編み始めた私と鋏で迷いなく布地を切っているナタリーを見て苦笑いをしている。手近にあった白い糸と布の端を持ってニッコリ笑いかけるウィル。勘のいいニコライは、まさか……!という表情で目を見開いていた。
「ニコライならわかるだろ?俺もチクチクするんだよ」
「まさか、本当にウィル様がですか?」
「そのまさか。俺も一応、自分の制服の破れたところを縫ったり応急処置で縫ったりはしてるから……多少の裁縫はできる」
「でも、お祝い品ですよね?」
「祝い品だからこそ、ウィルが縫う必要があるんじゃない!ニコライ」
「そうなのですか?ナタリー様。なんといいますか、その……」
「縫物は女性の手仕事っていう感じかしら?」
決まりの悪そうな顔をして、はぁ……と曖昧に言葉を濁すニコライ。それに最初に反応して笑ったのは、他でもないウィルだった。
「なんでそう思う?母親がしてくれてたからか?」
「……えぇっと、そう言うものだっていう固定概念がありまして……」
「なるほどな。俺も、実のところ近衛に入るまでは、そう思ってた。あと、チクチクと縫うのは上手じゃなかったんだ。リアンに習ってからは、うまくできるようになったけど」
「リアンに教えてもらったの?」
ウィルの方をみながら、ひとつひとつ丁寧に編んでいくと器用だな……とウィルが呟いた。
私は、刺繍もレース編みも、いうほどうまくはない。それでも、図案通り、セバスの幸せを願いながら編むものは、とても綺麗なものだ。
「リアンは、よくレオのほつれた服を治したり、ミアのスカートの裾を直したりしてたから、教えてもらったんだ。すごいよな。魔法の手かと思うくらい、俺、ビックリしちゃった」
「リアンは侍女として、貴族女性が出来て当然のことをデリアから習っていたからね。元々、メイドだったからっていうのもあるかもしれないわね?」
「ダドリー男爵家のメイドで、ダドリー男爵の第三夫人か。それなら、わかる気がするな」
「だからと言って、ウィル様」
「ん?何?」
「裁縫が教えてもらったからと言って、出来るものではありませんよ?」
ニコライの方を見ているウィルは、ニコライはできないの?と聞いている。ニコライには、腰を据えてじっくり椅子に座っている時間が極端に短い。ハニーアンバー店が繁盛しているからこそではあるが、とてもじゃないけど、刺繍なんて無理難題だ。
苦笑いをして、できませんと答えるニコライに、人それぞれの得意分野があると慰めていた。確かに、私たちとリングピローを作るより、リングピローと指環を入れる宝石箱を注文することのほうが、ニコライにはあっているだろう。
「ウィル様って、なんでもできるんですね?羨ましい。ティアに言われて何度も挑戦してはみましたが、全然ダメで」
「いいと思うよ。俺だっていつもしているわけじゃないし、演習とかに出てて、仮にでもしておかないとってときだけだから。今回は友人セバスのためだから、ひと針ひと針、丁寧に縫ってみるつもりだけどな」
「ウィル様が縫うのですか?」
「そう。ナタリーが刺繍をして、俺が縫って形を整えるの。姫さんの編んだレースを飾りに、ナタリーが仕上げるって感じかな?」
「それは、楽しみですね!みなさんの手で出来たものを渡されるとなると、嬉しくて仕方がありませんね。本当に仲がよろしいですね」
私たち三人は頷きあった。貴族と一言で言っても、立場は全く異なる。そんな身分社会の中で、私たち四人は、とても仲がいいのだと実感している。上位になればなるほど、媚を売りたいものではあるが、そう言ったものを一切感じない。好きなことを言い合ったり、領地の話で白熱して怒鳴り合ったり……他の貴族ではありえない光景ではあるが、私たちの形は、とてもうまく機能しているようだ。友人として、友人の幸せを願う。そのために、手を動かし、チクチクとすることは、私たちの絆も深まるような気がした。
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