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オリーブオイルを作るにはと、研究員ルーイ
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オリーブの木から飛び降りてきた青年は、私たちを睨むように見てくる。ウィルより少し背丈も高く、ガタイもいい。ただ、剣を使っているというふうではなく、どちらからと言えば、農夫という感じではあった。
私たちの顔を一人一人見ていき、見知った顔を見つけたのだろう。表情が柔らかくなった。
「ダリア様ではないですか?」
「えぇ、久しぶりね?ルーイ」
「最近、忙しいのか、こっちにこられなかったようだから、心配してたんだ」
「ありがとう。私ね……諸事情で失脚することになったの。それで、最後の挨拶とお願いをしに来たのだけど、聞いてくれるかな?」
親し気に話す二人を見ていれば、長年の付き合いなのだろうことはわかった。貴族としての立場ではなく、自然に話すダリア。本来は、こんなふうに話すのかとみなが見ていた。
「あっ、そうだわ。紹介……」
「紹介より、諸事情ってなんだよ?失脚って!どういうことだ?」
「話すと長くなるし、国のことに関わるから、言えないわ。私の罪は、この国に悪い影響を及ぼすものだったの。だから、罰を受けた。それだけのことよ?」
ルーイのゴテゴテとした手を握り、精一杯の笑顔を見せた。そのダリアの笑顔は、胸をキュッとさせるには十分であった。あのとき、選択を間違えれば……ダリア自身がもっと苦しむことになるだろう。特に、この慕ってくれている青年は、このガタイだ。戦争が始まれば、前線で戦うことになっただろう。それを阻止出来ただけでも、ダリアにとってもよかったことなのではないだろうか?
そっと、ダリアの肩に手を置くと、振り返り頷いた。
「私は……この国に戦争をさせようとしたのよ」
「それは、この国の不作や物価高を領地を広げてなんとかするためだったはずだろ?」
「それすら、騙されていたのよ」
「なんだって?そんな奴、俺が、八つ裂きに!」
握っていた手をきつく握り直し、ダリアはルーイに真っすぐに向き合った。
「それは、私たちがすることではありません。ましてや、ルーイが血に手を染める必要はないの。あなたの手は、オリーブを守り育てることのために使うべきだわ!」
「……それは、ありがたいが。その、どうなったんだ?」
「私には、心強い友人がいるの。隣国ローズディア公国の公爵」
「もしかして、その公爵ってヤツのところに、政略結婚させられるとかいうんじゃないだろうな?」
睨むようにダリアを見ていたので、私が口を出そうとした。静かに首を横にふり、私の介入を拒む。
……ダリアは、自身で決着をつけたいのね。
「私が輿入れをするのは、トライド男爵のところよ。一平民となった私を受け入れてくれたうえに、重要な仕事を一緒にと言ってくれているわ」
「重要な仕事って、後継ぎとかそんなことなんじゃないのかよ?貴族って、そういう……」
「どんな偏見よ!とてもいい方よ?国を想い、国民を想い、最善を尽くせるよう、自身の知恵を余すところなく、誰かのために使ってくれるような……私とは反対の人」
「そんなヤツのところへ嫁になんて言ったら、ダリア様は……!」
「私とは反対の人って言っても、私の理想を具現化したような人って意味よ。結婚という形ではあるけど、これからは、側でトライド男爵を見て学びたい、支えたい、隣に並べるような女性になりたいわ。今は、まだ、後ろ指を指される私だけど」
今度こそ本心からの笑顔だった。セバスは、ただ、じっと、ダリアの言葉を胸に刻むように聞いていた。領民に寄り添えるようにと考えながら、つまずきながら、前を向いて歩き続けているセバスは、嬉しかったのではないだろうか。
「ダリア様!」
「いいのよ。この道が私の残された人生で1番いいものとなるの」
「それって、自分に言い聞かせてない?」
私がひょこっと顔を出すと、苦笑いをしているダリア。そんな私に戸惑うルーイ。
「いいえ。心の底から、そう思っています。セバスチャン・トライド様が考える未来に私も一緒に立ちたいと。アンナリーゼ様の目指す領地改革をこの目に胸に刻みたいと」
「それならよかった。急に決まった政略結婚だったからね。さっきの感じなら、大丈夫だと思うけど……何かあれば、私に遠慮なく言ってちょうだい!セバスを捻るくらい、なんてことはないから!」
「アンナリーゼ様!僕、そんな……」
「冗談よ!期待しているわ。セバスもダリアも。それと、そろそろ、紹介してくれるかしら?」
はいと返事をするダリアは、笑っている。その笑顔は、作られたものではないことを思えば、私たちは良好な関係を築けていけるだろう。
「こちら、この農場のお子さんで、名はルーイ」
「さっき言ってた放蕩息子って呼ばれているけど……の青年ね」
「はい。そうです。世間の評価は関係なく、このオリーブを育てるに関しては、他の農園よりずっと飛びぬけています」
「そうなの?」
「えぇ、だから、ここへ来たのです。必ず、作り手が必要となると思ったので」
話の読めないルーイは首を傾げている。さっきまで、ダリアの処遇を話していたはずなのに、いきなり、私が乱入したことで、ルーイが話題に上がっていたことを知ったようだった。
私たちの顔を一人一人見ていき、見知った顔を見つけたのだろう。表情が柔らかくなった。
「ダリア様ではないですか?」
「えぇ、久しぶりね?ルーイ」
「最近、忙しいのか、こっちにこられなかったようだから、心配してたんだ」
「ありがとう。私ね……諸事情で失脚することになったの。それで、最後の挨拶とお願いをしに来たのだけど、聞いてくれるかな?」
親し気に話す二人を見ていれば、長年の付き合いなのだろうことはわかった。貴族としての立場ではなく、自然に話すダリア。本来は、こんなふうに話すのかとみなが見ていた。
「あっ、そうだわ。紹介……」
「紹介より、諸事情ってなんだよ?失脚って!どういうことだ?」
「話すと長くなるし、国のことに関わるから、言えないわ。私の罪は、この国に悪い影響を及ぼすものだったの。だから、罰を受けた。それだけのことよ?」
ルーイのゴテゴテとした手を握り、精一杯の笑顔を見せた。そのダリアの笑顔は、胸をキュッとさせるには十分であった。あのとき、選択を間違えれば……ダリア自身がもっと苦しむことになるだろう。特に、この慕ってくれている青年は、このガタイだ。戦争が始まれば、前線で戦うことになっただろう。それを阻止出来ただけでも、ダリアにとってもよかったことなのではないだろうか?
そっと、ダリアの肩に手を置くと、振り返り頷いた。
「私は……この国に戦争をさせようとしたのよ」
「それは、この国の不作や物価高を領地を広げてなんとかするためだったはずだろ?」
「それすら、騙されていたのよ」
「なんだって?そんな奴、俺が、八つ裂きに!」
握っていた手をきつく握り直し、ダリアはルーイに真っすぐに向き合った。
「それは、私たちがすることではありません。ましてや、ルーイが血に手を染める必要はないの。あなたの手は、オリーブを守り育てることのために使うべきだわ!」
「……それは、ありがたいが。その、どうなったんだ?」
「私には、心強い友人がいるの。隣国ローズディア公国の公爵」
「もしかして、その公爵ってヤツのところに、政略結婚させられるとかいうんじゃないだろうな?」
睨むようにダリアを見ていたので、私が口を出そうとした。静かに首を横にふり、私の介入を拒む。
……ダリアは、自身で決着をつけたいのね。
「私が輿入れをするのは、トライド男爵のところよ。一平民となった私を受け入れてくれたうえに、重要な仕事を一緒にと言ってくれているわ」
「重要な仕事って、後継ぎとかそんなことなんじゃないのかよ?貴族って、そういう……」
「どんな偏見よ!とてもいい方よ?国を想い、国民を想い、最善を尽くせるよう、自身の知恵を余すところなく、誰かのために使ってくれるような……私とは反対の人」
「そんなヤツのところへ嫁になんて言ったら、ダリア様は……!」
「私とは反対の人って言っても、私の理想を具現化したような人って意味よ。結婚という形ではあるけど、これからは、側でトライド男爵を見て学びたい、支えたい、隣に並べるような女性になりたいわ。今は、まだ、後ろ指を指される私だけど」
今度こそ本心からの笑顔だった。セバスは、ただ、じっと、ダリアの言葉を胸に刻むように聞いていた。領民に寄り添えるようにと考えながら、つまずきながら、前を向いて歩き続けているセバスは、嬉しかったのではないだろうか。
「ダリア様!」
「いいのよ。この道が私の残された人生で1番いいものとなるの」
「それって、自分に言い聞かせてない?」
私がひょこっと顔を出すと、苦笑いをしているダリア。そんな私に戸惑うルーイ。
「いいえ。心の底から、そう思っています。セバスチャン・トライド様が考える未来に私も一緒に立ちたいと。アンナリーゼ様の目指す領地改革をこの目に胸に刻みたいと」
「それならよかった。急に決まった政略結婚だったからね。さっきの感じなら、大丈夫だと思うけど……何かあれば、私に遠慮なく言ってちょうだい!セバスを捻るくらい、なんてことはないから!」
「アンナリーゼ様!僕、そんな……」
「冗談よ!期待しているわ。セバスもダリアも。それと、そろそろ、紹介してくれるかしら?」
はいと返事をするダリアは、笑っている。その笑顔は、作られたものではないことを思えば、私たちは良好な関係を築けていけるだろう。
「こちら、この農場のお子さんで、名はルーイ」
「さっき言ってた放蕩息子って呼ばれているけど……の青年ね」
「はい。そうです。世間の評価は関係なく、このオリーブを育てるに関しては、他の農園よりずっと飛びぬけています」
「そうなの?」
「えぇ、だから、ここへ来たのです。必ず、作り手が必要となると思ったので」
話の読めないルーイは首を傾げている。さっきまで、ダリアの処遇を話していたはずなのに、いきなり、私が乱入したことで、ルーイが話題に上がっていたことを知ったようだった。
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